DAなんてクソ喰らえ、と言ったリコリス   作:Lős

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 考えたことがないわけじゃなかった。

 もし、私一人だけで電波塔事件を解決しなければならないとしたら、どう動くべきか―――正にその事について。

 何らかの理由で千束が動けないときに、原作では千束が解決したはずの事件が起きたとしたら、それはきっと私のせいだから。

 電波塔事件だけではない。遥か先に起こるだろうクルミの逃亡劇の手助けも、サイレント・ジンによる急襲も、リコリス襲撃事件も、覚えている限り、全てのシミュレーションを行った。

 限りなく現実に近い仮想訓練は、私の特技の一つでもある。

 

 だから、今回だって。

 無事に電波塔を取り戻すことのできたシミュレーション通りに、私は動くだけだ。

 

『電波ジャックはラジアータの介入により止めさせた。後は好きに動け』

「了解」

 

 司令からのありがたい通信を聞き終えた私は、目下でアサルトライフルを『ぶっ放す』などと()かしたテロリスト共に向け、引き金を引いた。

 連続して響く銃声に合わせ、テロリストが一人二人、三人四人、と斃れて行く。

 

 私は千束ではない。

 “救世主” になりたいなどという思いとて、微塵もありはしない。

 私にとって彼らは、幸福を強姦する悪魔であり、憎むべき敵であり、生きていてはならない存在だった。

 私の日常が、満ち足りた幸せが、一瞬で地獄へと塗り替えられたあの日からずっと。

 特に先の放送で『愛を込めて地獄を贈る』、そう宣ったテロリスト共の首魁は、絶対に生かしておけない。

 自分が幸福を知らないからと言って、誰が他人の幸福を踏み躙って良いものか。

 平和ボケ、結構なことじゃないか。それを邪魔するお前らのような輩さえいなければ、これほど素晴らしいことはない。

 

「……、……」

 

 だから、死んで、地獄の底まで落ちてくれ。そのまま二度と、この世界に顔を出さないでくれ。

 そう思いながら、その場にいたテロリストを悉く撃ち殺した。

 

 ……次は、エレベーターホールか。

 情報部とラジアータが協働して割り出した情報と、それに合わせた過去のシミュレーションを思い出しながら、私は駆ける。

 

 私が悪人を殺すのは別に、千束の憧れを否定しているわけじゃない。

 千束は、その憧れを持っているからこそ私などより大勢の人々を救うことができるのだろう。

 私のように、『人を害する者の未来を奪う』ことで人を救うのではなく、『人を救う者の未来を守る』ことで人を救うのだ。

 そもそも、“敵を殺さず被害も増やさない” 。それが可能なだけの実力があってやっていることを、私が否定できる道理もない。

 ただ、私は千束のようには思えないというだけで。

 

 ホールに到達した。

 

 目に映るは赤。

 死体、死体、死体。何の罪もない人々が、無惨な亡骸を晒している。

 DAの救助が “奇跡的に” 間に合ったのはさっきの区画のみで、これから先に進めばきっと、同じような光景が繰り返されることになる。

 あのエントランス付近に限り、DAがリコリスを派遣した時点で、『デモンストレーション』用にまだ息のある拘束された人で溢れ返っていた、というだけの話。

 電波塔がジャックされてからあの放送が始まるまでの僅かな間隙を突いて、何とかあそこにいた民間人だけは救出した―――それが、人のいないエントランスが放送で流れた理由の真相である。

 決して、DAの避難誘導が間に合っていたからとか、そんな夢のような理由ではないのだ。

 

 ああ―――千束。

 私はやはり、千束みたいには考えられない。

 この光景を見せられてなお、他人の時間を奪いたくない、なんて。

 

「―――ッ!」

 

 死ね、と。

 

 明確な殺意を込めて、私はまた引き金を引いた。

 遠ければ胴体に、近ければ頭部に向かって、引いて、引いて、引き続けた。

 焚いたスモークの向こうに人影が見えたらそれは全て敵だ。

 突入したリコリスが私一人しかいないというのは、存外戦いやすかった。

 やがて、弾倉三つ分の弾を吐き終えた頃。

 周囲から生きた人の気配、立ち上る悪意は消えていた。

 

 死体の傍で生存確認を叫ぶトランシーバーを無視して、私は階段を上り始める。

 残るテロリストは制御室、それから展望台に少数精鋭で固まっているらしい。

 恐らく、原作の登場人物でもある『真島』もそのどちらかにいるだろう。

 

 今回の任務は、原作において千束がそうだったように、私一人に全てが委ねられた。

 というか、私の方から『そうさせて欲しい』と司令に申し出たのだ。それがあっさりと通ったことには、少し首を捻ったけど。

 だから最初の、エントランスでの救助を除けば裁量は私次第だ。

 司令からは “幹部、リーダー格は状況が許す限り生かして捕えろ” と言われているが、放送で戯言を垂れ流していたアレと真島に関しては生かしておくつもりはない。

 それにもし原作通りであるならば、電波塔を爆破する、その起爆装置を握っているのは真島である。

 なおさら見逃すわけにはいくまい。

 

「……」

 

 通過した階層から漂ってきた血と内臓の匂いに、私はますます思いを強めた。

 これまで平穏に生きてきた人々を、彼らはどれだけ殺めたというのか。

 

 そして、制御室のある階へと辿り着く。

 

 足音を消して制御室に近付き、静かにドアを開いた。

 その僅かな隙間から、コロコロ……、とピンを抜いた手榴弾を二つ、投げ入れる。

 閉めたドア越しに爆発音が響くと同時、低く姿勢を屈めたショルダータックルで室内へと入った。

 様々なものが飛び散った惨憺たる有様を気にすることなく、爆発位置から遠かっただろうエリアから順に、照準を合わせていく。

 

 動くものはなかった。

 一人一人の死亡確認をしている時間はない。

 ここは制圧完了したものと見做し、迅速に、最後の展望台へ向かうべきだ―――そう判断を下した私が、室内に背を向けた直後。

 後ろで、『ピー、ザザッ』と無線の通信音が響いた。

 

……襲撃者は、一人……例の……データにあった、ハーフの、ガキだ……―――」

 

 バッ、と。

 即座に振り返り、音の聴こえた方角へ発砲。

 しかし折り重なるように斃れた死体に弾を阻まれ、通信は通ってしまった。

 

「……ハッ、ざまぁ、みやが―――」

 

 ダァン!

 

 発言を許さず、苛立ち紛れにその最後の一人を撃ち抜く。

 テロリストの男は、口を笑みの形に歪めたまま事切れた。

 脚は中ほどで吹き飛び、両腕もズタボロで使い物にならなかっただろう男は、どうやら歯で無理やりに無線を操作したらしい。

 口元に無線が転がっていたという偶然と、男の獣じみた執念にしてやられたわけだ。

 

 伝えられてしまったものは仕方がない。

 これまで以上の警戒をする余地もないが、やるべきことをやるしかないだろう。

 次で最後だ。

 突入から僅かに10分程度。私はまた、階段を上り始めた。

 

「……」

 

 それにしても、と。

 

 男が、奇妙なことを言っていなかったか。

 『例のデータにあったハーフのガキ』。例のデータ、とは何だろうか。

 そう言えば、ミズキさんもデータがどうとか……。

 

「……」

 

 いや、と私は頭を切り替えた。

 私の情報がテロリストに漏れていることは間違いないが、この場においてはそれ以上の意味を持つ事実ではないはずだ。

 敵は私のことを知っていると、それさえ意識しておけば良い。

 

 さあ、もうすぐ展望階だ―――そう思った時、視界の隅で異物を捉えた。

 

 フラグ(破片手榴弾)―――私は咄嗟に、サッチェルバッグのエアクッションを起動。

 私の方へと放物線を描いて飛び込んできていたフラグは、ボン! と展開したエアクッションに弾かれると、そのまま空中で爆発した。

 

 クッション越しに爆風が私を襲う。

 爆風のみならず、フラグの本領である破片がおよそ全方位に飛散し、クッションではカバーしきれなかった足元をズタズタに切り裂いていった。

 しかし、フラグを弾き上げていたことが功を奏したのか、比較的傷は浅く、動けない程ではない。

 

 私はすぐさま階段を上り切ると、展望階の入り口に向けてスタングレネード(閃光手榴弾)を投擲した。

 閃光とともに音響を撒き散らすタイプの爆発物である。

 あわよくば、この階にいるはずの真島の耳が使い物にならなくなればいい、という意図だった。

 相次いで、これまで通りにスモークも投げ込む。

 目の眩みが回復してくる頃には煙が蔓延しているはずだ。

 

 あの覆面をしたリーダーと、真島だけは絶対にここで終わらせる。

 後の幹部は、状況次第だ。

 

 そう思考を固めた私は、展望台に進入した。

 すぐさま、視界に入ってきた幹部の胴体を撃ち抜く。真島でもリーダーでもなかった。

 計3発、防弾ベストを以ってしてなお貫通する衝撃に、その幹部は意識を失い頽れる。

 私は次、と照準をスライドさせ。

 

 

 そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あーあー、何も聞こえやがらねェ。それに今の一瞬でもう……一人やられてんのか? こいつァ確かに、どうしようもねぇわな―――」

 

 

 

 ―――こうでもしねぇとなぁ!!

 

 

 

 そんな、いつか(前世)に聞き覚えのある声が真横から響いて。

 どう、と吹き上がった悪意、殺意が私に降りかかった。

 何が―――。

 

 

「―――真島ッ!? 何を―――!?」

 

 

 覆面を被ったリーダーが、そんなふうに声を荒げ。

 

 

 テロリスト幹部の誰かは、真島を制止するかのように手を伸ばし。

 

 

 その真島は、諦めたような笑みを浮かべた。

 

 

 高く掲げた彼の手には、何か小さな装置が握られていて。

 

 

 だから私は、ひとまず真島から排除しようと銃口を向け。

 

 

 しかし私は間に合わないのだろうな、という奇妙な確信があった。

 

 

 私は、ここで死ぬのかもしれない、そう予感して。

 

 

 そんな私の視界の端に、チラと映った展望台からの景色は、青天井の空で。

 

 

 遠くで鳥が数羽、こちらのことなど知らぬとばかりに気持ち良さそうに飛んでいた。

 

 

 真島の命を奪おうと憎しみに溢れた私の心の中、そのほんの片隅で、“ああ、私もあのくらい気楽に生きられたらよかったのにな” なんて思って。

 

 

 私が引き金を引くと同時、カチリ、と真島の手元から音が響いて。

 

 

 次の瞬間、目に映っていたもの全てが爆ぜた。

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。
明日で本編完結となります。
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