DAなんてクソ喰らえ、と言ったリコリス   作:Lős

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「あなたが伊波 梓ちゃん? 私はミズキ(、、、)。短い期間かもしれないけど、これからあなたのルームメイトになるわ。よろしくね」

 

 その名前を聞いて、私の頭は一瞬、錯覚した。

 母がそこにいるのか。

 目の前の女性と、母の面影が重なって消える。

 

「ミヅ、キ……?」

「? そうよ? 私の名前は中原ミズキ」

 

 ああ、いや、違う。

 彼女は、伊南ミヅキではない。私の母親ではない。

 母は、もう逝ってしまったのだから。

 混同してはならない。

 

 ………ああ。

 

「―――それで伊波ちゃんは、さっきここに来たのよね。とりあえずここを案内して回るから、お姉さんに付いて来て」

 

 そう言って私に手を差し伸べる、中学生あたりの女の子。

 アッシュゴールドに染められたロングヘアと、ハシバミ色の瞳。

 眼鏡はまだ掛けていないようだが、この容姿で『中原ミズキ』という名前ならば間違いあるまい。

 彼女は『リコリコ』メインキャラクターの一人、『中原ミズキ』だろう。

 

 だから何だという話……でもないのか。

 彼女がここにいる、ということから得られる情報は、考えてみれば案外多いのかもしれない。

 が、それはさておき。

 

「よろしく、お願いします……ミズキさん」

 

 彼女の手を取ってぺこりと頭を下げれば、ミズキさんはちょっと驚いた様子だった。

 

「あら礼儀正しい。いいのよ、子供なんだからもっとフランクに接してくれて」

 

 大体、と余った手で私の頭を撫でながら、ミズキさんは続ける。

 

「ルームメイト相手に気を張っても疲れちゃうし続かないでしょうが」

 

 それもそうか、と思った私は頷いておく。

 にしても、まだ幼いと言ってもいい年頃でこの気質とは。『成熟した精神(ミズキ)』というのも伊達ではないらしい。

 

 そんな、失礼かもしれない感想を私は抱いた。

 

 

 

 

 

 

 ミズキさんの話によると、リコリス候補生だからと言って必ずしもリコリスを目指すわけではないらしい。

 本人の適性次第でDAの情報部員になったり、あるいは一介の候補生には名前も知ることができない謎の部隊に配属されたりすることもあるんだとか。

 

「―――ま、それでもやっぱり基本的にはリコリスを目指すことになるんだけどね。私みたいに、訓練を重ねても身体能力が足りてなかったりしたら情報部員コースよ、情報部員」

「……ミズキさんはリコリスになりたかったの?」

 

 彼女の声音に自虐の色が混ざっていることに気がついた私は、つい、訊いてしまった。

 だって彼女は、どちらかというと私側の人間、DAに反抗する側の人間だと思っていたから。

 原作でも、DAのことを “キモい組織” だと言っていたような気がする。

 そんな彼女が、DAに言われるがままリコリスを目指していたのだろうか。

 

 私の問い掛けに彼女は刹那、言葉に詰まったようだった。

 

「っ、そりゃ……まあ? 私だってDAに助けられてここにいるわけだし。訓練を受けてもDAの望むような成果を出せなかったのは、ちょっとねぇ……」

「そう、なんだ……」

 

 では、DAの情報部員として働くようになってから機関の汚点が目につくようになったのだろうか。

 何にせよ、今はまだ彼女とDAへの不信感を共有することはできないようである。

 

「……で最後、ここが候補生の寮ね。候補生はみんな、ここで寝起きしているわ。……特に見るものもないし、さっさと私たちの部屋に行っちゃいましょうか」

 

 そうしてミズキさんが立ち止まったのは、『S105』という札が打ち付けられた一室だった。

 スライド式のドアを開けば、シンプルな内装と家具が視界に映る。

 クリーム色の内壁と、本棚、箪笥。

 キャスター付のワーキングチェア、木机とその上にはデスクトップパソコン。

 それからカーテン付きの二段ベッド。

 あとは、ミズキさん個人の所有物らしい小物がいくつか。

 

 シャワールームやトイレが別にあることは、先程の案内で把握済みである。

 

「……あ、そうだ。ルームメイトができたら、絶対聞こうと思ってたんだけど―――」

 

 私の手を引いて中まで招き入れてくれた後、振り向いたミズキさんが、楽しそうに笑って言った。

 

「――ベッドは、上と下どっちが良い?」

 

 

 

 

 

 ミズキさんのお言葉に甘えて、下のベッドを使わせてもらえることになったわけだけど、それはさておき。

 

 夕食までの間、しばらく時間が空いてしまった。

 ミズキさんは『訓練に戻るわね』と情報室へ行ったが、私はまだ何のカリキュラムにも組み込まれていない新入りである。

 どこの訓練場も使うことはできない。

 

 じゃあどうやって時間を潰すかということで、私は現状整理に努めることにした。

 早速とばかりに枕に頭を預け、ベッドに横たわる。

 なかなか悪くない寝心地だった。

 この下段のベッドはこれまでミズキさんが使っていたらしく、枕からは仄かに彼女の髪と同じ匂いがする。

 

「………」

 

 枕に顔を押し付け、考えるのはミズキさんのこと。

 というよりも、ミズキさんと出会ったことによって判明した現状についてだ。

 

 まず、ミズキさんは今、14歳とのことだった。

 原作時点での彼女の年齢は主人公の片割れである千束の10コ上、つまり27歳である。

 よって、原作開始まではあと13年程度、原作開始10年前に起きた大規模テロ、旧電波塔事件まではあと3年程度であると分かる。

 もちろん、私がこの世界に居ることでの影響が限りなく少なければ、という前提があるけど。

 ひとまずは、そういうことにして話を進めよう。

 

 次、原作通りならミズキさんはこの後DAの情報部員になり、恐らくはその過程でDAに見切りを付け、『喫茶リコリコ』開業とともにその従業員に転職。

 この時点で、ミズキさんは千束とそれなりに深い付き合いがあるはずである。原作の情報では、情報部員の頃からの付き合いだったらしいから。

 なら、私がこのままミズキさんに金魚のフンのようにくっついていれば、千束とも知り合いになれる可能性は高い。

 ……いや、それよりも自分で繋がりを持った方が早いか。

 

 現時点で千束が候補生になっているのかどうか、あとで調べてみよう。

 

 なぜって、今が旧電波塔事件の前だと言うのなら、やっておきたいことがあるからだ。

 それは、千束との関係を深めておくこと。

 

 私はぶっちゃけDAのことが大嫌いである。憎い、と言い換えても良い。

 それは私の父と母を見殺しにしたからだし、そのスタンスが全くもって受け入れられないからである。

 リコリスを――できるはずもないのに――完全に秘匿したつもりになって、それを疑った人間の犯罪は看過するような機関。

 控えめに言っても心象は最悪(クソ)である。何が機密機関か。

 

 しかし、私はその機関に所属してしまった。

 腐っても機密機関ゆえ、ここからの足抜けは容易ではないだろう。

 リコリスの実質的な引退年齢と思われる18歳を迎えても、その後は情報部員として吸収されるのが目に見えている。

 そこへ、分かりやすく用意されている抜け道が『喫茶リコリコ』への就職なのだ。

 

 『喫茶リコリコ』は一応、DAの支部という扱いだった。

 が、それはどこまでも建前であり、それは原作における千束のフリーダムっぷりからも明らか。

 まず殺しを厭うてクリーナー呼びまくりだし、保育園等の見回り含め地域振興が主な仕事になっていたし、なんなら本業はカフェの店員である。

 時折、DAからの依頼を受ける必要はあったみたいだけど、それを除けば―――DAに所属していながら、後ろ暗いところは(ほとんど)ないただのバイト熱心な女子高生の完成だ。

 

 つまり、今のうちから前もって千束と関係を深めておくことで、旧電波塔事件の直後に開業する『喫茶リコリコ』への就職が可能となり、私はこのクソもとい倫理的に最悪な機関と実質的におさらばできるわけである。

 

 これはもうリコリコに就職するしかない。

 

 私はそう、意志を固めた。

 

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