火人くん主役ですが、原作で話してないので口調や人格は捏造です
―僕が詐欺師って知ってて話してきたの、君が初めてだよ。そうだね、ちょうど暇だし…君も暇だからこんな酒場にいて、僕に話しかけてきたんだろ?
酔狂に語ろうか、僕が詐欺師になったきっかけの話。ありふれた話だけどさ、誰にも語らずしまってきたことだよ、君だけに特別だ。
といってもね、語るべきことがそんなにあるわけじゃないし、長くならなそうだから選んだとこはある。
僕はとても暑いとこで生まれたんだ。国内か国外かは君の想像に任せるけれど。暑いところは文化が発展しにくいってよく言うけど、僕のところも例外じゃなかった。田舎の、都会に搾り取られるだけの町。
そんな中でも親はよく僕を育ててくれたよ。親はとんでもなくいい人だった。強きを挫き、弱きを助く。そんな感じの慈愛に溢れた人たちだった。そりゃ貧しかったは貧しかったけれど、そん中でも人を助けようとしてたんだよ。息子の現状、知ってたら泣いてるかもねえ。
僕だって憧れたもんさ。中学校に入る頃、父が出稼ぎに行ってからはなおさらね。遠くで頑張る父も、幸せな家庭を保とうと頑張る母も、どっちも尊敬してた。
僕も幸せだったよ。物がそんなにあったわけじゃなかったけれど、それでも仲間や友達と秘密基地なんて作ってみたりさ。家に帰れば暖かい母と兄弟がいる。これ以上何を望むことがあるんだ?
富んでる国の不幸な子どもたちを見てると、心が痛むよ。富みすぎたが故の苦しさもあるんだろうってね。
だから金持ちから吸い取ってるのって?残念はずれ。僕は貧乏人からも騙し取ってるし、なんならそういうのは貧乏人のほうが引っかかりやすいんだ。
もう、わかりやすいものに当てはめて…当たってりゃいいけど、外れてたら傷つくのは相手なんだよ?
…まあそんなふうに幸せな子供時代を僕は過ごしたわけだ。おかしくなり始めたのは、高校入ってからかな。家が荒れるようになった。帰れば1つ2つ何かが壊れてる。母が修復してたけど。
違和感を感じるには十分だった。感じただけで、何もしなかったけど。
そんな折に、父が出稼ぎを終えて帰ってくるって聞いてさ。もう家族全員大喜び。パーティの準備だなんだって、前日から忙しかったよ。
料理の準備も手伝って、うん、楽しかったねえ。父が帰ってきて、料理食べながら話を聞いてさ。母は安心したみたいで、ずっと笑ってた。安心のあまりちょっと泣いてたな。「これで私がいなくても大丈夫ね」なんて、あんまりにも縁起の悪いこと言ってさ。でもいなくなるなんてことないって信じてた。
…その夜だね。ジュース飲みすぎて夜中起きてトイレに立って、父の部屋から光が漏れてて…起きてるのかなって、覗き込んだんだ。自分の見たものが信じられなかった。寝転ぶ父と、それをナイフで何回もぐさりぐさりってやってる黒い異形。
肉親の奇跡か、僕はわかったんだよ、それが…母だと。救急車を呼んだ。警察は呼ばなかった。冷静じゃなかったね。母は通報してる僕を見つけて、飛び込むように襲いかかって押し倒して。
…気づいたら病院にいた。父は死んだ、母も異形になって討伐されたということを聞かされて、狂いそうになったよ。
だってね、僕は母があんなことになるような悪人じゃないって知ってたんだよ。父を刺すような人ではなかった。それだけは言えるよ。
刺された部分が夜ごとに痛む中で、僕は必死に考えたんだ。母が何故ああなったか。色々な本を、兄弟に持ってきてもらって調べてね。
肉体に刻まれたソースコードで、人間は悪人になるかどうか決まっている、という考え方があるらしい、ということまでわかった。
それを見た瞬間、僕は悟ったよ。
母は悪役だったんだね。神様が書いた脚本の、悪役になるべく生まれてきたんだ。
宗教的な話じゃなくてさ…ほら、この国にもお天道様が見てるって考え方あるだろ?僕の言う神様は、お天道様みたいなもんだよ。
で、そのお天道様がヒーローとかヴィランとか全部決めてるっていうんなら。僕はそれに背きたい、そう思ったんだよ。
僕、民間のたっかいバグ検査とかよく受けてるけど、一回もひっかかったことないんだ。これはつまり、脚本上僕は悪役じゃないってこと。でも僕は悪人だろ?君が一番知ってるはずさ。
僕は運動が得意でない、でもそこそこの頭があったんだよ。だからこの道を選んだ。
親が知ったら泣くかなあ?
ねえ、泣いてくれると思う?
…あーあ、そんな悲しそうな顔しないでよね。詐欺師の言う事、なんで信じるかなぁ?本当かどうか、裏取りできるわけでもないでしょ。
せっかく「初めて」「君だけ」「特別」なんてわっかりやすいワード使ってやったのにさ。君騙されやすいから気をつけなよ。
ていうか言っただろ、酔狂だって。思いついた言葉並べただけさ。前言ったことと整合性取ることとか気にしなくていいから楽なんだよね。
母は会ってないけど、地元で元気にしてんじゃない?今日はこっちでさえ寒いから、あっちは雪が降ってるかもしれないね。
…それも嘘じゃないのって?知らないよ、信じたい方を信じればいいじゃん。今日は仕事じゃないんだから、選択肢は残しといてあげる。
別に詐欺師だとわかってて接触してきたのも君が初めてじゃないよ?情報屋の顧客で知ってるやつもいるし、被害者家族なんかも会ったことあるよ。
君はどっちかな?忍ばせたナイフは何のため?ああ答えなくていいよ、興味ないんだ。
今日はうちのボス機嫌悪くてさ、誰でもいいからぶん殴りたいんだって。話してる間にこの酒場に呼んどいたから…ああ、噂をすればなんとやら。
じゃあね、もう会わない方がいいかな。お互いさ。
ああ、悪役万歳!