〜ひろプリ×勇者であるシリーズ〜世界の壁を超えた出会い 作:やままん
各々の思いのまま、未曾有の事態に陥った王都を救った一同。
その本格的な侵攻を目の当たりにし、気を引き締めるのであった。
そして、しばらく行方が分からなかった東郷と蒼葉は友奈の口から勇者部に起きた出来事を改めて聞く事に。
〜スカイランド城・客間〜
ある程度は鷹夜から話を聞いてはいたが、改めて友奈から語られた事実。そして、実際に樹と対峙した3人から彼女の現在を知ってしまう。
友奈「…以上が、私達の世界から今に至るまでの出来事だよ。」
園子「ましろんとちーちゃんが戻ってきたんよ〜?そこは嬉しい出来事かな…?。」
明るく振る舞う園子。でもどこか、やっぱり哀しみの一面だけは残っている。
東郷「勇者部の廃部宣言に、2人の単独行動…そして、樹ちゃんが"無の力"に手を染めてしまった…そんな一大事に欠けてしまって本当にごめんなさい。そしてそのっち…無理だけはしないでね?。」
園子「うん、ありがとね〜?。」
烈火「ところで、2人はずっと一緒に居たんだよな?。どうだ、ちったぁ仲直り………。」
それを聞いた東郷が鬼の形相となり、烈火の質問を遮るように。
東郷「それは無いわ。断じて、絶対に…!!。」
烈火「あ…はい……その…すみません……。」
蒼葉「気にするな。俺と彼女はその距離感でいるのが1番いい。大丈夫だ、何も問題は無い。」
ましろ「え〜…そ…そうなの…?。」
蒼葉「ああ。それよりも、俺は犬吠埼の事が気掛かりだ。」
事の顛末を聞いた蒼葉の言葉に、沈黙が続く。そして、蒼葉と東郷は自分達の為に樹がそうなってしまった事に罪悪感を感じてしまう。
風が皆の元から去ったのもそうだ、元はといえば自分達の失踪が原因だ。一時の沈黙の後、蒼葉ば言葉を口にして。
蒼葉「東郷、俺達の失踪の件については完全に俺の責任だ。お前が気負う必要は無い。」
東郷「それはもう良いって……。」
蒼葉「いや、良くない。その結果、犬吠埼と先輩が去ってしまったんだ。頼む、俺に責任を持たせてくれ。お前は何も悪くない。」
蒼葉の真剣な眼差しに、いつもは反論する東郷は黙り込んでしまう。
蒼葉「…みんなもすまない。俺は…知らずのうちにみんなの絆に溝を深めてしまった。だからその責任を負う。」
東郷「責任って…貴方また1人で……!!。」
蒼葉「違う。だから…力を貸して欲しい。」
深々と頭を下げる蒼葉。全員はおろか、東郷は意外な顔をする。
蒼葉「俺は…お前達にたくさん秘密事を隠してきた。勿論、今も明かせない秘密はある。だけど…俺も勇者部の1人としてこの事態を何とかしたい。それは本当の気持ちだ、世界のことも大事だが今は…犬吠埼と先輩の為に尽力したい。だから、頼む…俺が責任を取る為に力を貸して欲しい。」
責任。
その意味はわからなかったが、それでも蒼葉の本音が聞けた事に東郷は少し、彼を認め始めた。
変わったんだな…そう思って、みんなの前で頭を下げる蒼葉を見捨てる事ができなかった。
東郷「わかりました。でもそれは私も同じよ、咲良君。」
蒼葉「お前……。」
東郷「…貴方と私の仲が悪い事がそもそもの原因…私も少し、大人げなかったわ。でも…やはり、私たちの距離感はその方がいい。そして、私は貴方が恩を感じている“あの人"とは違う。だから、重ねないで欲しい…私を1人の人間として、接して欲しい。あの人は「鷲尾須美」で私は「東郷美森」なのだから。」
それを聞いた蒼葉はコクリと頷く。
そしてその夜…旅の疲れを癒す為にほとんどが早くから就寝に就いていた。
戦火に見舞われた王都には、それを忘れさせるほどの綺麗な月明かりが夜を照らしていた。その中で、蒼葉は一つの陰に目が入る。
それは同じく、月明かりの下で物思いに耽るマジェスティだった。
マジェスティ「…アオバ。」
気付いたマジェスティは蒼葉に声を掛ける。変身状態にあるのは、自分と同じく考え事をしていたからだろう。
蒼葉「エル…何をしている?。」
マジェスティ「…自分に課せられた使命を感じていたの。ほら、そのままだと私はまだ赤ん坊だから…。」
使命。
一体、彼女はこの世界で何を知ったのだろう。本来ならまだ赤ん坊だ。それなのにとても重いものを背負わされていると感じる。だが、その瞳の輝きは本物だった。
同じく、使命によって勇者部に近付いた彼もその気持ちが分かるような気がした。そして彼女はその使命を抱えたまま今の樹と対峙したと言う。
蒼葉「…教えてくれ、犬吠埼に纏わり付いたその力は彼女を解放するのか?。」
その質問に、マジェスティは首を縦に振らない。そして、横にも振らない…わからないのだろう、その力は未知の力だ。だから誰にもわからない…その答えはきっと、"無"そのものであったアデルが知っていたのかもしれない。だがそれも今は…鷹夜が倒した事でその謎は自分達が解かなければならない。…聞いたところでアデルは答えもしないだろう、結果的に彼を倒したのは間違いなく、正しかった。
マジェスティ「今言えるのは、このまま行くと樹はアデルと同じ存在になってしまう。私は止められなかった…でもきっと、彼女を止められるのは貴方しか居ないと思う。」
蒼葉「俺が?何故だ…?。」
マジェスティ「それは…本人の口から聞くのが良いと思うよ。今言えるのは、彼女の今があるのは…貴方に関してだから。だよね、美森?。」
マジェスティは木陰に居た東郷にも目を向けた。
東郷「ごめんなさいね、盗み聞きするつもりはなかったの。でも、そうね…咲良君。樹ちゃんを止められるのは貴方が適任よ。その答えはわからないかもしれない…けど…………。」
「ならハッキリと言いましょうか?東郷先輩?。」
その声がしたと同時に、マジェスティが2人を抱えて飛び込んだ。その刹那、地面が抉り取られたように3本の傷が入り込む。
その眼前には、月明かりに照らされて勇者に変身した樹。両手からはワイヤーが伸びてくる。
東郷「樹ちゃんッ!!。」
樹「お久しぶりです、東郷に蒼葉さん。それに…エルちゃんはこの間ぶりだね。すごかったな…あの大きなDMを倒して王都を救ったなんて。」
マジェスティ「樹…2人は帰ってきたよ。だから今度は……。」
樹「まだ帰れない…私はまだまだ強くなれる。」
そう言うと、無の力が樹を取り囲んだ。何かおかしい……そう思って、マジェスティは冷静に見据える。
樹「蒼葉さん、迎えにきましたよ?。」
蒼葉「迎え…だと…?。」
樹「そうです。貴方は私が守ります。東郷先輩が今までこの人を守ってくれたんでしょ、ありがとうございます。でもこれからは私がお守りしますので。」
ニッコリと笑みを浮かべて歩み寄る樹。反射神経からか、身構えてしまう。
樹「…やっぱりそうなんだ…東郷先輩が居るからこの人はここを離れられない…ですよね、だって…蒼葉さんは向こう側の東郷先輩に恩を感じてる。重ねない訳がない…蒼葉さんにとっても、東郷先輩は大事な人なんですよね?。そう…私なんかが眼中にないくらいに…ッ!!。」
東郷に対する憎しみ。
それが露わになった樹は腕を振り上げて地面を抉りながらワイヤーが突き進んで来る。咄嗟に変身した東郷は銃撃でそのワイヤーの軌道をズラす。
続いて横薙ぎに振られたそれは完全に命を刈り取りに来ている。
歯を食いしばりながら、東郷は後ろに飛んで避け続けるも樹は距離を詰めてくる。
狙いは東郷ただ1人。大切な仲間である樹を撃てないまま、徐々に追い込まれて。
東郷「やめて樹ちゃん!。私は…!。」
樹「貴女がいるから蒼葉さんは私を見てくれないッ!こんなにも強くなったのに…やっぱり、貴女がいるから…ッ!!。」
振るうその一撃に、東郷は覚悟を決める。
だが、1発の銃声がそれを遮った。
それは蒼葉だった。構えた銃から煙が立ち込める。動きを止めた樹は蒼葉を見て焦点が震える。
樹「…どうして…私を撃つんですか…蒼葉さん…。」
蒼葉「もうやめてくれ、犬吠埼…その線を越えてはならない…東郷を手にかけてしまえばお前は戻れなくなるッ!!。」
蒼葉の叫びに、樹は視線を伏せる。そして、身体を震わせながら地面に落ちるのは……涙だった。
樹「戻れなくなるって何ですか…どうして私を見てくれないんですか……なんで……なんで東郷先輩なんですかッ!!?。」
東郷「ち…違うのよ樹ちゃんッ!聞いて、私達はそうじゃないのッ!!。」
蒼葉「犬吠埼…俺がお前をここまで追い詰めてしまったのなら、その罰は受けよう。だが…俺がお前の元に行ったところでお前は満足出来るのか…?。」
樹「…それで良いんです…2人で生きていきましょうよ。私は強い…誰も逆らえないほどにまで力を手に入れました……もうあの頃には戻りたくない…何も守れなかった弱い私には戻りたくないんですッ!!。」
その瞬間、樹を取り巻く"無の力"が暴発し周辺の木々が消滅していく。
それを見たマジェスティが警笛を鳴らした。
マジェスティ「マズイ…"無の力"が暴走してる!?。樹ッ!!。」
樹「私は貴方の事が好きなんです、蒼葉さんッ!!。私に勇気をくれた貴方を…愛してるんですッッ!!。」
樹の告白。
それを聞いた蒼葉は瞳を閉じて、その想いを汲み取る。
ずっと抱いていたその想いの全てをぶつけた樹。しかし、感情が高まる程に危険な"無の力"が増幅していく。
それを見た蒼葉はこう思った。
ずっと、俺の事をそう思っててくれていたのか…俺はお前達の事を信用していなかったのに…秘密ばかり隠していたのに…東郷に言われた通り、自分の底を誰にも見せなかったのに。
なのに、そんな自分を彼女は愛してくれていた。
その想いはまさしく本物なのだろう、そしてこの時を迎える為に強くなろうとしたのか。
そう思うと、蒼葉は樹の淡い想いを踏み躙るわけにはいかないと思う。
そして…蒼葉が出した答えは…。
蒼葉「犬吠埼…ありがとう、こんな俺を愛してくれていたなんてな…素直に嬉しく思う。」
樹「だったら……ッ!!。」
蒼葉「でも聞いてくれ、俺はお前と行くわけにはいかない。」
樹「え……なんで………。」
蒼葉「俺には責任がある。お前をここまでさせた責任…勇者部の廃部…先輩の不在……その一つずつを解決していかなければならない。任務とはいえ、俺はお前達の事を利用していた。都合のいいように、自分達の世界と……"あの人"を安心させたかった為に。」
蒼葉の気持ちを、1番快く思ってなかった東郷は静かに聞く。
蒼葉「だが、わかった事がある。それは俺の勝手な思いだった…あの人は…須美さんは俺にもっと世界を見せたかったんだと。戦火に包まれ、人の闇が蔓延したあの世界の光景を見せたくなかったんだ…だから俺をお前達の世界に向かわせ、本来の景色を見せたかったんだ。それだけだった…あわよくば、俺をお前達の世界にずっと置いておくつもりだったんだろう。」
東郷「咲良君…。」
蒼葉「それをくれたのがお前達だった。そして俺は…お前の歌に勇気をもらった。ずっと1人でよかったと思っていたが、お前は俺によく声をかけてくれた。そしていつしか……その居場所を失いたくないとも思い始めた。全ては須美さんの策略だ、俺はまんまとその策に嵌り……お前達と絆を得てしまった。今なら分かる、あの人は俺を…"人"のままでいてほしかったんだと。」
蒼葉は樹に手を差し出す。
蒼葉「だから犬吠埼。戻ってこい、お前の気持ちに応えられるように俺は成長しなければならない。だから今は保留させてほしい…今の俺はお前に相応しくない。まだ…小さな人間だ。」
差し出した手はまだ頼りないが、それでも東郷は彼の成長を見て安堵の表情を浮かべる。そしてそれは…樹に応えようとする蒼葉の意志だった。
だが………。
樹「…まだ…足りませんか…そうですね…まだ、私が弱いから…貴方は振り向いてくれない。」
蒼葉「違うッ!!。違うんだ、お前の本当の強さは力じゃない、その「思いやり」と「芯の強さ」だッ!!。」
樹「…やっぱり、貴方の心の中には向こう側の東郷先輩が未だに根付いているんですね?。そして…同じ顔の東郷先輩が居るからずっと忘れられない。そうですよね…蒼葉さん?。」
蒼葉「…忘れるわけにはいかない。あの人は…俺の恩人だ。でもそれは…恩人でしかないッ!。大切な存在だが、それはお前が姉を思う気持ちと同じだッ!!。そして東郷とあの人は違うッ!!重ねたりはしない、俺は…「鷲尾須美」と「東郷美森」を2人の"人"として見ているッ!!。」
いつの間にか武器を捨て、身体全体で表す蒼葉。しかし、樹は冷静な判断や思考がうまく機能出来なくなっていた。
それは"無の力"の影響だ。感情も理性も全て"無"に蝕まれている…そして、樹が蒼葉を想う気持ちはいつの間にか「本能行動」の一環へと書き換えられてしまっていた。それが、冷静な判断が出来ない今の樹の症状だった。
当然、誰も知る由も無い…側から見れば、樹がおかしい言動ばかり述べていると思われてしまう。しかし…「本能行動」として書き換えられたその想いは欲のままに、そしてそれを邪魔する東郷を敵として見なす。
こうなれば、蒼葉を手に入れるまでは止まる事がない………そこまで"無"が侵攻してしまっていた。
その説得も虚しく、話を聞かない樹はこう捉えて。
樹「なら…もっと強くなって私が東郷先輩を殺します。それでも振り向いてくれないなら…今度は向こう側の東郷先輩の亡骸を持っていきますね?。だから蒼葉さん、待っててください…貴方に見合うような立派な人間になって帰ってきますから。そして、東郷先輩……私以外の人に殺されたら承知しませんから。では…。」
そう言って、去っていく樹。蒼葉は地面に拳を何度も打ち付ける。
蒼葉「クソ…クソ…クソォオオオオッッ!!。何で俺はいつも…肝心な時に誰も止める事が出来ないんだッ!!。あの時と何も変わらないじゃないか…あの人が「満開」で一つずつ大事なものを失っていくかもしれないと恐怖した時のように…ッ!!。」
東郷「咲良君……。」
血だらけとなっていた拳を強引に止めた東郷は首を横に振る。そして蒼葉は珍しく……。
張り裂けそうな声を出し、樹を止められなかった事に苦悩した。
………………………………end。
完全に“無"に取り込まれてしまった樹を止められなかった蒼葉。
その叫びは後悔と共に未だ小さな自分に対する苛立ちも含まれていた。
その翌日、事の顛末を聞いた一同。しかし、蒼葉は前に進む事を選択した。
そして……エルは導かれるようにあの遺跡に向かおうと一同に告げる。
次回
第117話 古代遺跡へ、エルの決意。