〜ひろプリ×勇者であるシリーズ〜世界の壁を超えた出会い   作:やままん

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前回のあらすじ。

樹の目撃情報を得た風とトーヤ。

わずかな情報ではあるが、それは大きな一歩だった。

そして、この戦いは苛烈を極める事に。

"無"の勇者。

彼女はそう呼ばれていた。


<第4部:崩壊編>
第123話 "無"の勇者・犬吠埼樹。


 

トーヤが得た樹の目撃情報。

街外れの少し開けた場所…そこに、彼女は居たという。

 

この街に訪れた時にトーヤは住民に樹の写真を配り、予め情報の網を張っていたのだ。

 

可能性は低い、でも張る価値はあった。

そう思い、仕掛けてみたその網に掛かったのだ。

 

スカイランドへ来てから、度々そう言った情報は得てはいたがタイミングが悪かったのか、その尻尾は全く掴めていなかった。

それが今日、ようやく実を結んだのだ。

 

特に風は、その意気込みが凄かった。

昨日、自身の葛藤を乗り越えたのだ。その先にある未来に進む為に、自分の我儘を通そうと決意した。

 

そして今、その場所で風は声を上げる。

 

風「樹ィイイイイイイッッ!!。どこにいるの、出て来なさいッッ!!。」

 

大声でそう叫ぶ風。

トーヤはいきなりの行動に流石に戸惑いの顔色を浮かべて。

 

トーヤ「おい、動物じゃあるまいしそんなので出てくるはずがないだろう?。」

 

 

風「でも、どうやって探せっていうの?。こうでもしないと出てこないと思って。」

 

 

トーヤ「…全く……。」

 

思考を巡らせながら、トーヤは何故かその"違和感"を感じていた。

 

たまたまその網に引っ掛かったのか?それにしても、何故ここに?。この街には風がいる…まさかとは思うが、彼女がいる事を知ってわざわざ尻尾を見せたとでも言うのか?。

 

これまで全く足取りが掴めなかったのに、何故このタイミングで目立つような事を?。

 

考えれば考えるほど、トーヤはその疑問が拭えなかった。

 

もしかするとこれは……"罠"では?。

 

そう感じた瞬間、トーヤはほんの少しだけ自分たちに向けられた「殺意」を感じ取った。

 

トーヤ「ッ…失礼するぞ…ッ!?。」

 

 

風「へ…?。ひゃあッ!?。」

 

風を抱えて横に飛んだトーヤ。その瞬間、まるで巨大な爪で引っ掻いたような傷跡が地面に走った。

 

状況が飲み込めない風。しかし、トーヤは確信を持った。

 

トーヤ「……どうやら、俺たちはここに誘い込まれたらしい。お前の妹に。」

 

 

風「…え…?。」

 

 

「おかしいな…完全に取ったと思ったのに。」

 

響く少女の声。木々の影からそっと出て来たのは樹だった。

 

風「樹ッッ!!。」

 

 

樹「久しぶり、お姉ちゃん?。こんなに遠い場所にまで追いかけて来るなんて…。」

 

紛れ間ない、大切な妹のその声。

だが…纏うものはいつもの彼女とは全く違う。

 

そしてそれは……獣のような獰猛な雰囲気。

 

風「…樹…聞かせて。なんでこんな事を…今、私達を殺そうとしたよね…?。」

 

 

樹「そうだよ?。でも、そこの勘の良い男の人に阻まれちゃった。気付かれない方が良かったんだけどな…何も知らないで死んだ方が、私に殺されたって気がしないからお姉ちゃんは心を痛める事なく眠ることが出来たんじゃないかって。でもその人に邪魔されちゃった…恨むならその人を恨んでね?。ここからは…正面から潰してあげるから。」

 

そう言って、ワイヤーをしならせる樹は殺気の塊を2人に向けて放つ。

 

トーヤ「…どうしても、姉が邪魔だとでも言うのか?。」

 

 

樹「貴方は関係ないですよね?。私はお姉ちゃんを倒す…お姉ちゃんに勝てば私は強くなれたと証明出来る。そして、今度こそ迎えに行くんだ…蒼葉さんを。」

 

 

風「ッ…蒼葉はそんなこと、望まないと思うけど…ッ!!。」

 

 

樹「…お姉ちゃんを倒せれば、それは東郷先輩にも勝てるって事。あの人はとても強い…園子さんと同じ世代の勇者だからあの人に勝つ為にはその次に強いお姉ちゃんを倒す。段階を踏ませてもらうんだよ、わかってくれるよね?。」

 

歪んだその考えに、風はついていけない。

それをみかねたトーヤが前に出る。

 

トーヤ「歪んでいるな、その強さとは一体なんだ?。お前は自分の強さの意味を理解していない。単純な力の強さは強さに在らず…勘違いも甚だしいぞ?。」

 

トーヤはキュアスラッシュに変身。剣をゆっくりと抜く。

 

スラッシュ「覚悟を持て、対話を実現するならまずは武力を突きつけて来る者と対峙しなければならない。お前が教えてやるんだ、彼女のその「思い込み」を。」

 

風はコクリと頷く。そして、変身。得物の大剣を携えて樹を見る。

 

樹「抵抗するんだね、それを抜いたらもう引くことはできないよ。」

 

 

風「引く気もないのによく言うわね。それに、私は死ねない…あんたを連れてみんなの所に帰るんだよ!。」

 

 

樹「もう私はお姉ちゃんの後ろについて歩くだけの存在じゃないッ!!。」

 

飛びかかって来た樹は、巧みな指使いでワイヤーを操作。それは一本一本が目視しにくいほどの細さを誇ったワイヤー。

 

パワーファイターである風にとっては相性がかなり悪い。

 

だがそこに割って入ったのはスラッシュだった。

 

スラッシュ「お前達の間に入るつもりはないが、俺はコイツの我儘に付き合う。最後までな。」

 

剣を盾に、樹の放ったワイヤーを防ぐスラッシュ。金切音が辺りに響き渡る。

 

樹「だったらそこを退いてくださいッ!。私はお姉ちゃんさえ倒せればそれで良いのッ!!。」

 

 

スラッシュ「倒したところでどうなるッ!?力の誇示の仕方を間違っているぞッ!!。お前が今、手に掛けようとしているのは家族だぞッ!!。何を思って力を求めているかは知らんが、その手が血塗られたものになっても構わないのかッ!?。」

 

 

樹「構いませんよ?。蒼葉さんさえ手に入ればあとは何もいらない…誰にも関わるつもりもないし、私がこうして誰かを手に掛ける事も無くなる…そう…あの人さえ振り向いてくれたら私は誰も殺さずに済むのッ!!。」

 

見た目とは裏腹に、その力強い腕力によってスラッシュを弾き飛ばしたがすぐに体勢を立て直し、剣を突き立ててスラッシュは距離を詰める。

 

スラッシュ「…ならお前のその思いとやらはずっとそのままだな。」

 

 

樹「…何を…!?。」

 

 

スラッシュ「想い人を欲するあまりに、その歪んだ思想で手に入ると本当にそう思っているのか?。お前が正気に戻った時、残るものは絶望しかない。家族を失う悲しさを知らないわけがないだろう?。お前は本当に1人になるぞッ!!。俺のようにッッ!!。」

 

 

風(…1人になる?。トーヤ…あんたまさか……。)

 

 

樹「貴方と一緒にしないでくださいッ!!。」

 

放たれたワイヤーは束ねられ、巨大な一つの武器として振り翳される。

スラッシュはその質量から受け切れないと判断。横に飛んで回避する。

 

だが、そのワイヤーは突如として軌道を変えてスラッシュの懐を取る。

 

風「はああああッ!!。」

 

大剣を盾に、その攻撃を受け止める風。歯を食いしばりながら耐えるが、力負けして2人は吹き飛ばされた。

 

樹「…これが私の得た強さ…私の力…!!。」

 

 

風「いてて…大丈夫、トーヤ…?。」

 

 

スラッシュ「ああ…直撃よりかはマシだ。しかし…まるでこちらの話が通じない…どうなっている…?。」

 

ゆっくりと立ち上がった2人は樹を見据える。

 

 

風「あんな聞き分けの悪い子だったかしら…でも、わかった事がある……あの取り巻いてる力が樹をそうさせている…だったら、あれを取り除けば…!!。」

 

 

スラッシュ「勝算はあるのか?。」

 

 

風「無いに等しいけど…呼びかけても無理なら黙らせるしかない。力で樹を抑え込むしかない!!。」

 

立ち上がった風は大剣を構える。

 

樹「これだけの力の差があってもまだ立ち上がるんだ?。でもその方がいいな…強いお姉ちゃんを超えたいの。」

 

 

風「私を超えたからって得るものは何も無いわよ。それに、東郷を殺させはしない…私がここであんたに勝てば、それは崩れるってことよね?。こんなの初めてだけど…姉妹喧嘩っていうのはこう言うことなのかもしれない。樹、引っ叩いてでもあんたを正気に戻してあげるわ。」

 

互いに向き合う2人の姉妹。

 

そして……激突。

 

絡め手の戦法で攻め立てる樹だが、風は持ち前の馬力で気にすることなく突撃。精霊バリアを作動させながら確実に自分の距離へと持っていこうとする。

 

樹「ッ……!?。」

 

 

風「烈火じゃないけど、突っ込むのは得意なの…よッ!!。」

 

大剣の柄を立てて樹の懐を殴り付ける。

その威力は突進力と比例し、そこそこのダメージがある。

吹き飛ばされた樹はワイヤーを地面に突き刺し、空中で体勢を立て直した。そして、カウンターといわんばかりに視認しにくい角度から風を切り裂く。

 

風「ぐっ……!!。」

 

 

樹「…お返しだよ。これで、おあいこだね?。」

 

…悔しいが、今の樹と戦って勝てる見込みが無い。

殺意を込めたその一撃は容赦がない…特に、自分は樹を攻撃することに抵抗がある。

 

そこを狙っての猛攻。絶対にないその狡猾な一面に、やはり"無"によって狂わされている。

 

そして、それによる樹の攻撃により風は膝を付く。

 

樹「…とったよ…ッ!。」

 

 

風「しまっ……ッ…!。」

 

背後に迫る死のワイヤー。

だがそこに、スラッシュが割って入ってその背中で受け止めた。

 

スラッシュ「ぐぅううう…ッ!?。」

 

 

風「トーヤ…ッ!!。」

 

 

樹「…あーあ…また邪魔をして……。」

 

その場に滴り落ちる血。傷はかなり深かった。

 

風は駆け寄り、苦痛な表情を浮かべるスラッシュの肩に手を回す。

 

風「ごめんッ!私のせいで…ッ!!。」

 

 

スラッシュ「…構わ…ん……お前のその気持ち…分からなくもない…。」

 

 

風「…何を…!?。」

 

 

スラッシュ「肉親と対峙するのはどの強敵よりも辛い…どれほどの覚悟を持ったとしても、本気で戦うことは難しいだろう…冷徹にならない限りはな……。」

 

ゆっくりと立ち上がり、剣を手に取るスラッシュ。

 

スラッシュ「だが、救うと決めたのならその壁に当たらなければならない。それを選んだのならお前は…目の前にいる妹と本気でぶつかるしかない……俺はその手伝いしか出来んが…声を届けることができるのは今、この場でお前しかいないのだ…!。」

 

 

樹「…随分と語りますけど、そんなに死にたいのならお姉ちゃんと一緒に葬ってあげる。その方がいいでしょ、ずっと一緒に旅してきたのなら最期も一緒の方がいいよね…!?。」

 

 

風「樹、あんた……ッ!!。」

 

 

スラッシュ「…お前に殺せはしない。姉であるコイツをな。」

 

剣の切先を向け、ゆっくりと歩く。

 

スラッシュ「その思い出が邪魔をするだろう。その殺意は偽物だ、笑ってはいるがお前……。」

 

その言葉に、樹の顔を見る風。

 

そう……どこか、苦悶に満ちていた。

 

スラッシュ「心の奥底では苦しんでいる。俺にはそうとしか思えないな…姉に助けを求めているように。」

 

 

樹「…うるさいな。」

 

不意に放たれたその一撃。

スラッシュは剣を盾にして受けるがその力強さに後退する。

 

樹「やっぱり、ここでちゃんと消さないと……じゃないと私は強くなれたとは言えないよね。貴方も邪魔、お姉ちゃんと一緒にここで死んでよ?。」

 

 

風「いい加減に……しなさいッッ!!。」

 

樹に向かっていった風は右手を振り翳し……強烈な平手打ちを放った。

 

樹「!!!。」

 

 

風「あんたと戦う事が辛くないわけないじゃないッッ!!。悲しいわよ、あんたに命を狙われてるのッ!。でも、本当にそれでいいのあんたは!?。そんなことしたって、蒼葉が振り向くはずがないでしょッ!!。」

 

怒りと共に風は…樹の両肩に手を置いて身体を震わせる。

 

泣いていた。

 

ただただ、辛くて。

 

風「…帰ろうよ、樹!。もうこれ以上…悪魔に魂を売らないでよッッ!!。」

 

心の中からの叫び。

 

しかし…それはもはや届かない。

 

もう彼女の心は…精神は……"無"に支配されている。

 

その瞬間、樹の中から何かが飛び出すかのようにあたりに衝撃波が走る。

 

吹き飛ばされる2人……何が起きたか分からない。

そして、恐る恐る見ると……樹が宙に浮いていた。

 

樹「…もういい……全部潰れちゃえばいい…そうすればきっと…あの人は。」

 

明らかに様子がおかしい…スラッシュはそこから放たれるものを感じたのか、風の手を掴んで走り出す。

 

風「ちょ…トーヤ!?。待ってよ、樹が…ッ!!。」

 

 

スラッシュ「今は退くぞッ!。これはマズイ、ここにいると俺達までも消えてしまうッッ!!。」

 

そう言った直後、樹の背中から翼のようなものが発現。そして、頭上に輪が現れてはその力を解放。

 

そして………

 

……………………………。

 

風「………島が一つ…。」

 

今さっきまでそこにいた島は"消滅"。

樹の姿もそこにはなくおそらくは去ったのであろう、その爪痕のみを残して消えていた。

 

スラッシュ「………また、救えなかったな。」

 

そう言って、剣を握り締めるスラッシュ。

無慈悲に奪われたこの島の命達…一瞬だった。まるで、切り取られたかのようにその場には虚無が漂っていて。

 

風「…………ッ…樹……ッッ!!。」

 

……敗北。まさにそれだった。

 

そして、姉は目の前で変わり果てた妹を見てただただ…。

 

絶望してしまった。

 

 

………………………end。




変わり果てた樹の力。

それはまさに消滅…島一つすら簡単に消し飛ばした彼女の力は世界にとっての脅威となってしまう。

この戦いの最中で自分の事を少しだけ語り出したトーヤ。

そして、彼女は知る…トーヤの過去を。

次回
第124話 世界に憧れた少年。
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