〜ひろプリ×勇者であるシリーズ〜世界の壁を超えた出会い 作:やままん
増幅する"無"の力を行使する樹に敗北した2人。
その圧倒的な力は島一つすら簡単に吹き飛ばすほどの力だった。
消滅の力そのものである"無"の脅威を目の当たりにし、なす術もなく罪のない命が消えていくのを見ることしかできなかった。
だが、立ち止まらない。
彼女を救うための旅は再び行われる事に。
樹との激突は敗北という結果に終わった。
消滅の力たる"無"の力。
それはまさに、世界を終わらせる力そのものであった。
それを体感した2人は、その途轍もない力を前になす術もなくただただ、島が消し飛ばされたのを見るしか出来なかった。
……2日後。
違う浮島にて身体を休めていた2人は2日の療養を得てその傷を癒していた。
毎日考えるのはあの日の出来事…でも、立ち止まることは選択肢には無かった。だが、これからどうしていけばいいか……考える必要がある。
目を覚ました風は、いつもなら早朝から勝手に外に出ていたトーヤが珍しくバルコニーに居たのに驚いた。
天気はとてもいい、ただバルコニーから外の景色をずっと見つめていて。
風「珍しいわね?。てっきり、外に出て行ったのかと思ったわ。」
風に吹かれながら、静かに外を見つめるトーヤに声をかける風。
トーヤは振り向き、風に気付く。
トーヤ「…出ようと思っていたが、傷が開くとあれなのでな…今日の鍛錬は中止にする事にした。」
樹の攻撃から風を守り、背中に傷を負ったトーヤ。
まだその傷が完全に癒えておらず、痛みを感じたので無理はしないようにしたという。
風「そっか…ごめん。私を庇っての怪我…よね…?。」
トーヤ「気にするなと言っただろう。お前は気を使いすぎだ、俺に遠慮はいらん。自分がそうしたいと思ってついた傷だ。」
風「…でも…ううん、わかった。ありがとう、私を庇ってくれて。」
トーヤ「礼には及ばん、お前こそ大丈夫なのか?。変わり果てた妹を見て、だいぶ狼狽えていたようだが。」
風「そりゃあね。普段、あの子は人を傷つける事を嫌う人間よ?。それが、今や世界を滅ぼす勢いで力をつけてしまっている。おまけに、島一つを簡単に消してしまった…超えちゃいけない線を越えてしまったのよ?。そりゃ、姉として狼狽えてしまうわ。でも…どうにかしないといけない。これ以上、罪を重ねると正気に戻った時、きっと樹の心は壊れちゃうかもしれないし…。」
トーヤ「…そうだな、俺もそう思っていた。なんとしてでもあの凶行を止めねばならん。」
……風はこう思った。
樹と対峙していた時、彼が彼女に語っていた事。
これまで、過去という過去をあまり語らなかった彼が口にした事。
それがどうしても気になってしまっていた。
もう、放っておけない存在……彼を1人にすると、人らしい感情を無くしてしまうかもしれない。
そう思って。そして、聴く事にした。
……胸に秘めるその過去を。
風「…ねぇ、教えて。樹に語っていた事…そして、私にも語ってくれた事……あんた、樹に「俺のように1人になる」って言ってたけどそれって一体…どういう事なの?。」
その質問にトーヤは一瞬だけ考え込んだが、コクリと頷いた後に言葉を口にする。
トーヤ「…俺は…カゴの中の鳥のようなものだ。」
風「それって…どういう意味…?。」
トーヤ「世界を知らない人間だ。だからこうして、いろんな所に赴いて悩み続けている。自分の信じる剣はなんたるか…をな。」
そう言いながら、トーヤは意を決したように自身の過去を語り始める。
トーヤ「…物心ついた時から、俺には親がいなかった。聞いた話だと、俺は捨て子らしい。」
風「捨て子!?。そ…そんな…!!。」
トーヤ「別に驚くほどでもない。スカイランドもそう言った闇を抱えている。全部が全部、良い世界ではない。俺は親戚をたらい回しにされた挙句、最後に行き着いた場所はそれは酷かったとも言えるだろう。」
…………………………………。
……何故、こんなにも不幸な目に遭うのか…そんな事を毎日考えていた。
最後に行き着いた親戚の家は俺を除け者にしていた。王都に就職する息子がいた親戚だ。その浮島の中でも、少し格式が上だった。
部屋は与えられず、身寄りの無い俺が居ることが汚点だったのだろう。
では何故、引き取ったのか?。それは、裏取引とも言えることだった。
…そう、俺は前にいた家から売られたのだ。その見返りとして、息子が王都で働けるツテを得たという…スカイランドの辺境に住む者にとって、王都で働くということはそれだけでも大きな名声を得る。
格式が上とはいえ、所詮は辺境の貴族。王都に住まう者にとっては取るに足らないともいえる…子息が王都で働くということは、自らも王都への移住が可能となる切符を手に入れられる可能性だってあるということ。
もちろん、そんな馬鹿げた制度なんてありはしないしそんな制度を王が認めるはずがない…支持するわけではないが、現国王は人格者とも言える。しかし、現実はそう甘くはない…少し前のそう言った風習が今でも根付いているという。
国王は平等派だが、貴族の面々は古い思想に囚われている。王都に住む者こそ最上…それ以下は平民も同然。だからこそ、辺境の貴族は王都の貴族とのパイプを得ようとする。そう…俺は自分達の私服を肥やすための餌とされた。後で聞いた話だが、俺の生まれも辺境の貴族だったらしい…しかし、子が多くなりすぎたのか、俺は不要な子として捨てられた。そこは最早、問題ではない。これまで歩んできた人生の中、扱いに関してはあまり感じなかった。当然、良い家系もあった。3番目に行き着いた場所だったか…そこは老夫婦の住まう家で俺を大切にしてくれた。そこに住んで4年…その老夫婦は老衰で亡くなってしまった。まだ子供の俺が、1人で生きていけるはずもなくそこから貴族のたらい回しだと言えるだろう。5番目に当たるその家系で俺はその取引により身を売られた事を知った。
……暗い、倉庫…明かりもなく、いつも蝋燭か夜空の灯りで過ごしていた毎日。その倉庫に一冊の本を見つけては何回も読み耽っていた。それしか、時間を潰せるものがなかったのだ。でもその本はとても面白く、そして……俺が「世界に憧れた」理由でもある。
その本は、300年前のスカイランドの王女「エルレイン」と呼ばれる王女の伝記であった。
優しさと慈愛に満ちた彼女は多種族との共存を目的とした国家を作り上げた…それが、現在のスカイランド王都でもある。それまでは互いに歩み寄ることがあまりなかった種族間の問題をたった1人で解決した彼女。その器はきっと、世界を知っていたからである。当時の世界を見て歩き、そしてその中で一つの答えを見つけたのだろう。悩み続けて、どれほどの時間を使ったのかはわからないがその思いを貫き、未来に影響を与えるほどの功績を残した。
……俺はカゴの中の鳥だ。
生まれてから一度も、世界を知ることなく15年の月日を過ごしてきた。木漏れ日と夜空を毎日見上げては、そのカゴの中からいつか飛び立ちたいと思っていた。他人に振り回されてきた人生、これほどつまらないものはないとも言えるだろう。俺はいつしか、全てを諦め掛けていた。
……だがその時、この街に化け物騒動が起こった。
アンダーグ帝国が怪物を引き連れてこの街に攻め込んできた。こんな辺境の地に重要なものなんて何もない…今になってわかってきた、きっと王都侵攻の中継地点として使うつもりだったのだろう。俺を引き取った夫婦は荷物をまとめて先に逃げ出した。その倉庫には鍵が掛けられており、出ることも出来なかった。外では怪物の足音がすぐ近くにまで聞こえてくる。ここも時間の問題だろう、でも…死ぬのも悪くはない。こんな人生なんだ、どうせカゴの中で一生を過ごすのならいっそ殺してくれた方がマシだ。ある意味ではこの侵攻は救いなのかもしれない、なら静かにそれを受け入れよう。
…本を手に、自分の人生に別れを告げようとした…だが、その時…俺の人生を変えた「あの人」がやってきた。
怪物によって崩されたその倉庫。そして、俺の目の前にいる1人の騎士。そう…師匠との出会いだった。
その剣はとても強く、そして…美しかった。
見たこともないその光景に俺は言葉を失っていた。その一閃は怪物を一撃で斬り伏せ、太陽の光が辺りを照らしていた。
リオン「……全てを諦めたような目をしているな。」
…見透かされていたのか、その目は俺の全てを理解していたように見える。
ー……始まってすらいない。俺が歩む人生はずっとこんなものなのだろう…だから、全てを諦めている。これからも…何も望むものもないー
それを聞いた師匠は少しだけ黙り込んでいた。でもすぐに、俺の言ったことを否定した。
リオン「運命は与えられるものでもあるが、受け入れるばかりが良い訳でもない。お前は考えていないだけだ、それこそが全て無駄だと勝手にそう思い込んで。始まってすらいないと…そう言ったな?。ならば、今からでも遅くはないと思うがな。その真っ白な運命に色を添えてみろ。それが良くとも悪くとも、転機になるには変わりはあるまい。」
ー転機?ー
リオン「ああ、そうだ。白という事は何にでもなるという事だ。だから初めてみろ、そして…世界を見るといい。きっと、わかることがあるはずだ。ではな、達者で生きろよ?。」
…去ろうとする師匠を俺は…引き止めた。
こんな事はしたことがない…でも何故か…俺は初めて人に「ついて行きたい」と思った。
…この人についていけばきっと…世界を知ることができるかも知れない。
ー…俺を…連れて行ってはくれませんか?ー
リオン「…何?。何故、そう思った?私はしがない騎士だ。着いてきても得るものは少ないと思うがな。」
ー…それでも、それが俺の「転機」になるのなら…貴方について行きたい。そして、見てみたい…貴方が見ているその「世界」を…!ー
リオン「……名を何と言う…?。」
ー…俺に名前なんてありません。一度だけ、優しい老夫婦が名付けてくれましたが…それももう忘れてしまいましたー
リオン「………ならば、こうしよう。お前はこれから「トーヤ・タイフーン」と名乗るといい。」
ー…トーヤ・タイフーン…?ー
リオン「ああ。風の赴くままに世界を見て渡る…トーヤというのはかつて、私が目指した数百年前の騎士の名前だ。そこに、風の姓を付け替えたもの…どうだ?。」
トーヤ「…はいッ!。俺はこれから…トーヤ・タイフーンとしてこの真っ白な運命に色を付けたいと思いますッ!!。」
………………………………。
トーヤ「……それが、俺の過去だ。お前について回るのもお前が見る「世界」を見てみたいのが本音だ。俺は家族の愛なんて知らない。だが、家族と敵対することの悲しさは何となくわかる。5番目の「親」には興味関心すらなかったが…どことなく悲しい気持ちにはなった。きっとそれはお互いに「敵対意識」を持っていたのかも知れない…だからこそ、その先にある現実は俺がよく知っているんだ。」
トーヤは続ける。
トーヤ「師匠が死んだ今、俺は自分で人生の色を見つけなければならない。迷いはないが、悩みはある。剣を握るようになってからは特にな。いろんな経験を得て、俺の色は少しずつ染まってきている…虹ヶ丘ましろの決意を聞き、そしてお前という「転機」にも出会えた。家族を取り戻したいと願い、全てを捨ててまでその道を選んだお前という「色」…俺が歩んできた人生の中で最も手に入れられなかった「家族」という「色」を持っているお前の覚悟…それを理解出来れば俺の「色」は完成するかも知れない…。」
風「…じゃあ…もしその「色」を完成させた時、あんたはどうするの…?。」
風のその問いに、トーヤは少し儚い顔をした。そして…問いに答えずに少しだけ笑みを浮かべた。
何となく風は理解した。だからこそ…ここで言わなければならない。
風「あんたはッ!!また1人になるつもりなんでしょうッ!?。私が樹を取り戻し、「家族」という「色」を見たその時にあんたは…去るつもりなんでしょうッ!?。」
大粒の涙を流しながら、風はトーヤを抱きしめた。
風「ダメよッ!!。その「色」を以てあんた自身の「色」を完成させたとしてももう1人になっちゃいけないッ!!。もう十分に1人でやってきたんでしょうッ!?リオンさんも死んで、あんたがこれ以上何も失うものなんてあっちゃいけないのッ!!。その「色」を完成させてもあんたの「物語」は終わらないわよッ!!。」
トーヤ「俺の…「物語」?。」
風「そうよッ!!。「色」を見つけたのなら今度はその「色」を使って「物語」を考えればいいじゃないッ!!。そこがゴールじゃないの…何よりも、私がそう思ってる…行かないで欲しい…行ってしまったらもう会えない気がする……それが怖くて必死に引き留めてるのよッ!!。あんたの人生はこれから明るくなるのッ!!。勝手にゴールを決めないでよ……もっと、人生に貪欲になりなさいよッ!!。そしていつか…ちゃんと「感情」を取り戻してよッ!!。」
泣き声になりながらも必死にトーヤに訴えかける風。
そしてトーヤは……こう言った。
トーヤ「………承知した…風。」
風「!!!。」
これまで、ずっと名前を呼んで来なかった彼がその訴えに応えたかのように。
…初めて、名前を呼んでくれた。
…………………………end。
真っ白な自分の「色」を見つけ、そして風が訴えたその先の「物語」を見つける。
トーヤの「世界を知るための旅」はもっと続くことになるだろう。でも、それでいいのかも知れない…。
悩み続ける。
それが、今のトーヤにとって最も大切なことだから。
そして、場所はスカイランド王都に移る。
"無の軍勢"の本格的な対峙……鷹夜はこの戦いの「始まり」を振り返る。
次回
第125話 仁義と優しさと。