〜ひろプリ×勇者であるシリーズ〜世界の壁を超えた出会い 作:やままん
仲間のために、そして心が壊れていくましろの為に新たな力を顕現させた鷹夜。
優しい奴を悲しませない為に…鷹夜のその拳はまた一段と、大きくなった。
スカイランドに来てから大きく回り道をしたが、一同は当初の目的へと戻る事に。
風と樹を連れ戻す…その目的へと。
「私は…貴方の事が好きなんですッッ!!。」
…………………………………。
…樹から想いを告げられた蒼葉。あれからずっと、考えていた。
彼女が手を出してはいけない禁忌に手を染めたのは、そもそも自分の事だった。想いを抱くのは誰だって自由だ、そこに間違いなど何もない。だけど、事故とはいえ行方を眩ましてしまった事から彼女は何も出来なかった事を悔いてしまったんだろう。その結果、彼女が下した決断は…"力"に頼る事だった。
再会した時、変わり果てたその姿に正直驚いた。自分の知る彼女はどこか消極的で自信がない姿、しかし姉に似たのかここぞという場面では芯が強い。
でも、あの時見た彼女はまるで取り憑かれたかのように湧き上がる力に喜びを感じる姿…全てを解決する手段を全て"力"で済ませられるという危険な思想…普段の彼女とは正反対の姿。
それはまるで、"破滅の姫君"として世界に混乱の渦を起こしていたあの時のましろを彷彿させるものだった。それもそうだろう、彼女の変貌の本質はましろの時と同じ心の闇を解き放つ「闇の種」によるもの。
あれは、アデルが創造したものだ。アデルもまた、"無の軍勢"の一部。
"無"が求めるのは、静寂なる宇宙。生命が生み出す歪みを根絶し、光と闇の概念を否定して何もない"無"を形成する。いわば、生きとし生けるものの"天敵"。
「劇団」の最終目標もその「静寂」だった。"無の軍勢"が一枚岩でないとしても、その本質はまるで同じだった。そこに、力を求めた樹が取り込まれてしまっている。
ましろもいずれはそうなってしまっていたのかもしれない、しかし彼女は心を取り戻した。違う点を考えれば、樹は自らがその力を欲した。それがあってか、自我を保ちつつその力に取り込まれていったのだ。
でも、当の本人も気が付いていない…自らがその力に手を染めた根本的な理由である「愛」は、いつしか"無"の特徴である"本能行動"へと書き換えられてしまっている。
つまり、彼女は自分に向けてくれている愛情を"無"によって利用されているのだ。
そんな事、到底許されるはずもない。人の純心に漬け込み、己が目的の為に利用することなど言語道断だ。しかし、彼女を救う手立てが未だに見出せない。それどころか、彼女の目的の中には東郷の殺害も入っている。それに加え、向こう側の須美に対してもその敵意を向けている。彼女が完全に変わり果てるまでの時間の予測もつかない。そのいくつかの懸念事項を併せ持っても、時間をかけられないのは明白だ。
樹の心を取り戻せる鍵は自分と姉の風だろう。エルの進言もあって、今自分に課せられた使命はまさしくそれだ。
そして今、当初の目的である2人の捜索に入ろうとしていた。
蒼葉「………よし。」
出発の準備を整えた蒼葉。使用していた部屋を綺麗に整理してゆっくりと立ち上がる。
あげは「準備、出来た?。」
部屋の確認を行うのはあげは。蒼葉が最後なのだろう、扉を開けて呼びかける。
蒼葉「ああ、今しがたな。それよりも、本当に乃木達をここに置いていくのか?。」
その質問に、あげはは少し沈んだ表情をして。
あげは「…うん。その決断を下したのは、東郷だよ。そのっちには時間が必要…それに、洸の事もある。置いていくといっても、少しの間席を外すだけだよ。目的を達成すれば、またここに戻る。それよりも早く、2人が立ち直ればあたし達の居場所をすぐに教える手筈も整えてるしね?。」
蒼葉「…そうか、わかった。少し、気がかりだったんでな。いつも騒がしいくらいの乃木が数日も物静かな事に。」
あげは「…顔には出ないけど、心配してくれてたんだね?。大丈夫だと思う、あの子はあたし達よりもずっと強い。それに、洸も必ず目を覚ますよ。アイツは死ねない理由がある、あの子を残す事なんて自分が許さないだろうしね。」
蒼葉「そうだな……。」
蒼葉は自身の手を見る。
蒼葉(…みんな、それぞれの思惑があって生きているんだ…俺も、やるべき事がある…犬吠埼…お前を必ず救ってみせる。)
…………………………。
烈火「これで全員か?。」
あげはに連れられ、やって来た蒼葉を見る烈火。
蒼葉「すまない、待たせてしまったな。」
友奈「ううん、大丈夫。」
鷹夜「園子達には悪ぃが、当初の目的を果たそうぜ?。樹と先輩を探すためにここに来たんだからな。」
ソラ「そうですね、随分と回り道をしたような気がしますが…おかげでマジェスティクルニクルンも手に入れる事ができました。悪いことばかりじゃない、私達は確実に前へと進めていますよね。」
ツバサ「その通りです。ところで、気になる情報を得たんですが…数日前、辺境の浮島一つが消滅したらしいんです。」
ましろ「消滅?。」
ツバサ「はい。突然、巨大な力が放たれたと同時に。残念ながら、その浮島にいた人達も巻き込まれてしまいました。」
夏凛「それってまさか、"無の軍勢"!?。」
ツバサ「わかりません…でも、わかる事が一つ。犠牲者が出ているんです。ならば、僕たちが動かないわけにはいきませんよね?。"無の軍勢"か「劇団」…もしくはアンダーグ帝国。誰かが確実に悪意を持ってやった事です。」
鷹夜「だな?。よし、ならその方角に向けて出発だ。」
千景(……私の予感が当たっているなら、その3つの勢力ではないのかもしれない…"無の軍勢"なら物量で攻めてくる…そして、アンダーグ帝国はそんな辺鄙な場所を攻めるメリットが無い…「劇団」の線も薄いのかもしれない…個々の戦闘力は高いけど、そんな超常的な力を扱えらなんて思えない…だとしたら、残るは一つしかない…"無"の力を得た樹さん……願わくば、私のこの予想が外れてて欲しいのだけれど…。)
烈火「どうした姉ちゃん、深刻な顔をして。」
千景「……いえ、何でもないわ。なんとしても、2人を連れ戻そうと思っただけよ?。」
芽吹「それじゃ、行きましょうか?。その消滅した浮島付近に行けば何か分かるかもしれない。」
出発する一同。東郷は園子が居る部屋に目を向ける。
東郷(そのっち……少しだけ待っててね、2人を連れてすぐに戻るから…。)
……………………………。
風「出来たわよ、トーヤ。」
その頃、樹を追い続ける2人は別の浮島へと辿り着いていた。
彼女の目撃情報を元に、あれから転々としながら少しずつ情報をかき集める。
分かったことは一つ、彼女に引き寄せられて"無の軍勢"があちこちに現れているということ。
それは甚大な被害にも及ぶ、既に現れたDMやシン・バーテックスによって5つの浮島が壊滅的な被害を受けた。
彼らは本能で襲いかかってくる怪物。故に、常識など全くと言っていいほど通用しない。
今度ばかりは樹に原因がある、そう考えている風は1日でも早く、妹を連れ戻したいという気持ちでたくさんだった。
そして昼時の今、風は腕を振るって料理を振る舞う。
トーヤ「……なんだ、これは?。」
風「何って…肉じゃがよ。食べたこと無い?。」
トーヤ「そうだな、見たこともない。それにしても、よくこの世界の食材で調理が出来るな。地球と違うはずなのに。」
風「何故か、スカイランドの食材は地球のものに似たり寄ったりなのよね。名前もどことなく似てるし…ヤーキターイだっけ?あれ、殆どたい焼きじゃない。」
トーヤ「たい焼きなど聞いたこともない。名前も似ているとはな、不思議なものだ。」
風「まぁ、それよりも早く食べてよ。冷めちゃったら美味しくないわ。」
トーヤはまじまじと、肉じゃがを見る。
風「な…何よ…変なものは入れていないわよ?。」
トーヤ「…本当に食えるのだろうな?。」
風「んなッッ!?。失礼なッ!ちゃんとした料理よッ!ほら、つべこべ言わずにさっさと食べるッ!。」
風に促されるがまま、トーヤは肉じゃがを恐る恐る口にする。
そして……。
トーヤ「…美味い。」
風「でしょッ?。これ、地球でも私達の住む場所では家庭料理でもあるの。ほら、あんたこういうのは殆ど食べた事がないんでしょ?だから…。」
トーヤ「…確かに無いな。老夫婦の家に住んでいた時を除いて食事はいつも、質素な穀物類だった。それで生きられるのだからそれほど気にしてはいなかったが…そうか、これが家庭の味というやつか。」
そう言って、トーヤは次々と口にしていく。その様子を見て、風は少し嬉しくなる。
そして……。
トーヤ「…食い終わったぞ。」
風「お粗末さま。こういう時は、「ご馳走様」って言うのよ?。」
トーヤ「食い終わったのに何か言わなければいけないのか?面倒だな…。」
風「面倒がらないの、全く…私はいいけど、他の人にはちゃんと言うのよ?作ってくれた人への感謝を伝える言葉なんだから。」
トーヤ「感謝…そうか……ならば、「ご馳走様」。」
素直に聞き入れて早速、口に出したトーヤに風は鳩が豆鉄砲を食ったよう顔をした。
トーヤ「なんだ、お前がそう言えと言ったのだろう?何を驚いている?。」
風「いや…なんか、妙に素直だなって…いつもなら「そうか」とか、「わかった」って言ってそこで終わりなのに…。」
トーヤ「…本当に美味しかった。それに…暖かさを感じた。」
風「トーヤ……。」
トーヤ「だから、それに報いなければいけないと思った。すまん、理由などこのようなものしか思いつかない。」
風「ううん…いい…それで十分よ?。」
ほんの少しだけでもいい、人らしさを出し始めたトーヤに少し嬉しくなる。
トーヤ「そうか……思い出した、お前に一つ渡しておく情報がある。」
風「情報…?。」
トーヤ「ああ、お前の妹のことだ。」
風はその事を聞き、箸を置く。
風「まさか、樹が見つかったの…!?。」
トーヤ「見つかったというより、現れた…と言った方が正しいか。」
トーヤは言葉を続ける。
トーヤ「お前の妹は、ここからかなり離れた位置にある古代文明の跡地である古城に現れた。そこはスカイランドでも謎に満ち溢れた場所でな…一説によれば大昔に今と同じ形で一度、世界が繋がった出来た古城だとか…彼女はそこに現れた。まるで、この世界に災いをもたらそうとするかのように。」
風「ッ…樹…ッッ!!。」
風は飛び出そうとする。だが、トーヤが言葉を続けた。
トーヤ「飛び出してどうする、闇雲に動いても救えるものも救えなくなるぞ。」
風「でも、樹がこれ以上罪を重ねる前に…!。」
トーヤ「冷静になれ。前にも言ったが、鍵になるのはお前だ。完全に取り込まれた今、考えなければ取り返しのつかない事になりかねない。」
風「ッ…わかったわ…ごめん、取り乱した。」
トーヤ「それでいい、気持ちだけではどうにもならないところまで来ている…しかし、猶予も無い。今度ばかりは世界の命運もかかっている上にお前の妹を起点に"無の勢力"が勢い立つ可能性だってある。」
風「…ええ…わかってるわ…。」
トーヤ「俺は全力でお前の道を切り開く事を約束する。だからお前は…妹の解放を必ず成し遂げろ。その手に何を取り戻したいのかしっかりと考えろ。それが、救う手立てになるはずだ。」
風(私が何を取り戻したいって?。そんなの、決まってる…!。)
握りこぶしを作り、ギュッと力を込める。
風(家族を…大切なたった1人の家族を取り戻したい…!!。)
その頃、蒼葉も旅を始めながら空を見上げて。
………………。
蒼葉(取り戻さなければならない…必ず…。)
………………。
「「あの歌声を、もう一度ッッ!!。」」
……………………end。
樹を取り戻す為に行動を始めた一同。そして、トーヤと風。
それぞれの目的は同じ、あの歌声を取り戻す事。
視点は風とトーヤに移る。
彼女達は樹が現れたとされるその古城を目指していく。しかしその道中、「劇団」のアリスが現れて。
次回
第129話 カガヤキノウタ。