〜ひろプリ×勇者であるシリーズ〜世界の壁を超えた出会い 作:やままん
樹の居場所が明らかとなり、そこに向かう風とトーヤ。
そして、他のメンバーもまた彼女の行方を探す。
樹を巡るこの事件は……一同にとって苦しい結末となるのか、良き結末となるのか………。
目標は定まった。
妹の居場所を知っている。しかし、取り戻す算段がまるで立たなくて時間だけが過ぎていく。
色々と考えたが、姉の答えは最初かは一つしかなかった。
シンプルに、説得で取り戻す。
それが自分らしさであり、そして家族の絆を思い出させるためのたった一つの手段だった。
当然、理論がメチャクチャであってトーヤは開かない顔をしていたが、最後は家族の絆に賭けるしかないと思ったのか、その方法を渋々承諾した。
そして今、2人は樹の元へと向かっている。
トーヤ「…目的の場所はかなり離れている。あの状態だ、何か大きな一手を放つつもりなのだろう。」
風「だとしても、止めなければいけない。それが姉としての役目でもある…そして何より、たった1人の家族よ。諦めたくない。」
その並ならぬ決意を込めた瞳に、トーヤはもはや何も言わないことにした。それに…これは彼女にとって大きな意味を持つ分岐点となる。
その旅の理由がそこにある…たった1人の家族による大災害が引き起こされる前に。
仲間を置いてきてまで世界を超えてここまでやってきた風は、その旅路に終止符を打つ為に。そして…妹と一緒に大切な居場所へと帰るために。
これは「私闘」だ。だが、風にとっては世界の命運よりも重大な事だ。
そのためにここまでやってきた…。
そんな気を張り続ける風を見て、トーヤは声をかける。
トーヤ「思う存分、思いの丈をぶつけるといい。迫り来る火の粉は俺が振り払う。」
風「…ありがと?。」
微笑む風。その時、トーヤが突然顔色を変えた。
トーヤ「何者だ…!?。」
彼は変身アイテムを手にしていて、風は驚く。
その瞬間、スレイヤーによって斬り飛ばされた右腕を義手に変えた「劇団」のアリスが現れる。
アリスの姿を見た風は、胸の内に秘めていた怒りが込み上げてきて一目散に走り出す。
トーヤ「待てッッ!!。」
風「ッ…あんたが…お前が樹をあんな風にしたッッ!!。」
走りながら勇者システムを起動。変身を遂げた風は大剣を振り翳して斬りかかるも、アリスの右腕から鞭が放たれて剣に巻き付いた。
風「ッう…!!。」
アリス「酷いじゃない、いきなり飛びかかってくるなんて。」
風「黙れッ!お前が樹にあんな種を渡さなかったらあの子は…ッ!!。」
アリス「闇の種はきっかけよ。それを芽吹かせるのは己の心の闇の深さ…闇を抱えてなければ芽吹く事はない。あなたの妹も虹ヶ丘ましろもその心の中に闇を抱えていた…。前にも言ったはずよ、その闇を晴らせなかったのはあなた達の責任でもあると。」
風「…都合のいい事をッ…!!。」
大剣を拘束されたまま、強引に振り抜く。そのパワーは凄まじく、アリスごと上空に飛ばした。
アリス「なんてパワーなの…ッ…!?。」
地面に着地したアリスは左手にいつも使用している鞭をしならせる。
そして、トーヤもまたキュアスラッシュに変身。風の隣に立つ。
スラッシュ「貴様、何の用で俺たちの前に現れた?。」
アリス「何って…貴方達、あの子の元へと向かうんでしょう?忍んで着いていくつもりだったけど、鼻が効くのね貴方?。完璧だと思ったんだけど。」
風「樹に何の用があるのよ…あんたまさか…ッ!!。」
アリス「あら、何か勘付いたようね?。まぁ…うちらのトップが変わったからね、私も失態を重ねて後がないのよ。シャロと同じく、「処分勧告」を受けたのよ。まぁ仕方ないわ、右腕は無くすし犬吠埼樹のスカウトにも失敗…おまけに、あの子はとんでもない存在へと変貌しつつある…"アレ"はもう人間じゃないわ。自分の蒔いた種を回収するために私は犬吠埼樹を…「処分」するの。」
樹を「処分」。
その言葉を聞いた風の怒りは最高潮にまで跳ね上がる。
全ての元凶は彼女だ、樹の抱えた闇に付け込んであんな姿へと変えた。変わったのは樹自身かもしれない、しかしそれでもその"きっかけ"を作ったのは紛れない、アリスだ。
まさに怨敵。宿命の敵とも言えるアリスを前に冷静にいられるはずもない。
直後、風は全力で走り出す。その目は怒りと憎しみに満ちていて、完全に我を忘れていた。
振り翳された一撃は地面を激しく抉る。アリスは後ろに飛んで回避したが、立っていた位置が粉々に粉砕。その破壊力は凄まじかった。
風「何が「処分」よッ!!人の妹を…家族を滅茶苦茶にしといてッ!。」
アリス「守れなかったのはあんたの弱さでしょ!?それに、その闇にも気付かなかったのも!!。家族などと言いながらも結局は止める事も出来ていないッ!。あんな化け物を育てたのもあんたの責任じゃなくてッ!?。」
放たれた鞭に打たれた風は地面に叩きつけられる。額から血を流しながらも、声を上げて立ち上がった。
そしてその目には…涙が溢れていて。
風「分かってるわよッ!!。あんたなんかに言われなくても分かってるッ!樹を止められなかったのは私よ…けど、あの子の純真を利用したのはあんたよッ!!。好きな人を助けたいけど、何も出来なかったあの子の苦しみを利用したのはお前達「劇団」だッ!!。私は…世界を救う前にお前達を潰してやるッッ!!。」
怒りと憎しみを乗せたその剣戟は衰える事なく、そして速度を上げていく。
その前にアリスの連撃が風を傷つけるが、それでも止まらない。
辺りの地面が赤く染まりながらも、目に血が入って視界が悪くなっても関係無い。目の前の怨敵を潰すためなら…鬼にでもなれる。
風の執念はアリスを苛立たせる。
アリス「めんどくさいのよ、あんたッ!!。」
風「黙れェエエエエッッ!!。」
ズタボロになりながらも距離を詰めた風はとうとう、その距離を取った。そして、アリスの胸ぐらを掴んでは地面に叩きつけた。
アリス「がは……ッ!!?。」
風「取ったァアアアアッッ!!。」
脳を揺らされたアリスは立て直すことができず、風は大剣の切先を首目掛けて突きつける。
しかし…金切音と共にそれは叶わなかった。
風「…え…なんで……。」
その一撃を防いだのは…スラッシュだった。
自分の剣で塞いだが、その重さを相殺出来ずに右手の甲が貫かれていた。
痛みで顔を歪ませるも、気にすることなく風の目を見る。
スラッシュ「ッ…冷静になれ……感情のままに動いてはコイツの思う壺だぞ…ッ!!。」
瞬間。地面に転がっていたアリスの姿が土人形に変わって砕けた。
「あらあら…気付かれちゃったわね。」
スラッシュ「…最初から狙いはお前だった、俺達の前に現れたのは…偽物だ。」
背後からまるで剣のように伸びてきた鞭を弾き、風の前に立つようにスラッシュは剣を向ける。
そこには、本物のアリスが立っていて薄ら笑いを浮かべていた。
アリス「本当に鼻が効くのね…誤算だったわ、最初から気付いていたわけ…か。」
スラッシュ「…わざわざ目の前に現れるなんておかしいと思った。そして、貴様はコイツを揺さぶって心の隙を作ろうとしていた…あわよくば、コイツも妹のようにするつもりだったのだろう?これも奴の…ナイアルの「脚本」か?。」
アリス「フフ、流石ね…そう。妹を失い、そして仲間達の元を去ったこの子の心には隙がありすぎる。そして、知らない間に闇を育てていたようね…ナイアルの「脚本」は悪趣味だけど、人が狂っていく様はそれなりに甘美なものよ?。世界がどうなろうと、彼は見た事もない光景を見ることが目的のようでね…それこそ、自分が死んでも構わないくらいに。」
風は力が抜けたのか、大剣を地面に落とす。
風「ごめん…なさい…私…私…ッ…!!。」
スラッシュ「構わん、お前の精神状態が不安定な事は知っている。だが、今はコイツに構っている場合じゃない。言っただろう、迫り来る火の粉は俺が振り払うと。」
剣を構えたスラッシュは集中力を高める。その気迫は凄まじく、リオンにも迫る勢いで。
スラッシュ「それに、俺もコイツらが気に食わん。「劇団」によって狂わされたのはお前だけじゃない、俺もだ。ナイアルは師匠を殺した、無論それを許すつもりはない。そして奴は必ず…俺がこの手で仕留める。それを成した時、そしてお前の結末を見届けた時…俺の「色」が決まるのかもしれない。」
アリス「アッハハハハ!勇ましいわね、あんたがあの狂人を越えれるとは思わないのだけれどッ!?。」
スラッシュ「黙れ、貴様達にコイツの未来を塗りつぶす事は許されない。お前のような小物に用はない、邪魔をするな…。」
その言葉に苛立ったアリスは目の色を変えてスラッシュに攻撃を仕掛けてくる。
アリス「言ったわね、ならその小物にあんたは今から殺されるのよッ!!。あんたを殺した後はそいつを闇に染めてやるわッ!!。その方が妹と同じで嬉しいでしょッ!?。」
スラッシュ「喚くな……たった1人の家族のために全てを投げうってここまで来たコイツは紛れもなく強い。押しつぶされそうになる心を何とか踏ん張って持ち堪えるだけでもすごいというのに…それでも、コイツは揺るがない。情けなく泣き喚いても絶対に歩を止めない…貴様達がコイツの「物語」に介入する権利など……無いッ!!。」
踏み込んだスラッシュは剣を鞘に収めたまま飛び出してきたアリスとすれ違う。
その瞬間、目にも止まらぬ速さで剣が抜かれていて白刃が光り輝く。
………………………。
…夜、寝静まった頃にお前はたまに起きて外を見ながら口ずさんでいたな。とても澄んだ声で、どこか寂しそうで…知ってはいたが俺は何も聞かない。それはきっと…妹との絆なのだろう。
お前は妹の事をよく話していたな、うんざりするくらいに…だが、どこか楽しそうだったから真剣に聞いていた。そして、妹の夢を応援したいと…歌が好きだと言っていたな、お前が夜にたまに口ずさんでいたのはきっと、妹の歌なのだろう。
その絆の色はどんなものなのかわからない、だが俺が手に出来なかった「色」なのだろう。
なら、"家族"という存在から疎まれ続け、絆の意味を知らない俺ができる事は…その「色」を守る事だ。師匠が俺にしてくれたように…俺のこの剣の"意味"は……。
ー誰かの「物語」を守るためにあるー
………………………。
スラッシュ「…プリキュア・ストーリーズ・ガーディアン…ッ!!。」
とてつもない速さのその一閃は刀身が赤く染まる事はない。
アリスは力無く、ストンとそのまま地面に倒れる。
何が起きたか全く分からない、斬られたはずなのに傷が無い。だが、身体に全く力が入らない。だが、受けたダメージは感じ取れる。間違いなく斬られた、彼女は思考が追いつかない。
アリス「…な…にを…した…の……!?。」
スラッシュ「殺す価値もない…とだけ伝えておく。それに俺は…奴のような人を殺めるだけの剣にだけはなりたくない。それだけだ。」
座り込む風の前まで歩き、スラッシュはその手を取って立ち上がらせる。
アリス「まち…なさい…ッ!!。まだ勝負は……ッ!!。」
スラッシュ「邪魔をするな、ここから先は貴様達が立ち入っていい場所じゃない。これ以上、この姉妹の"歌"を穢すな。」
動けないアリスを尻目に、その場を後にするスラッシュと風。
風「…トーヤ…あんた……。」
スラッシュ「気を引き締めろ、ここからはお前自身の「物語」にケリをつけなければならない時だ。小物に構うな。妹がお前を待っている、そしてぶつけてこい…全ての思いを。」
風「…ええ…分かったわ…!!。」
2人は目指す、樹の元へと。
そしてこの「物語」は…………………。
……………………………end。
誰かの「物語」を守るためにある。
自分の剣の"意味"を見つけたトーヤによって、アリスは一瞬で無力化される。
そして迫り来る結末の時。
"無"の勇者と成り果てた樹はもうすでに人の域を超えていた。
そして、高らかに宣言する。
愛する人と静かに過ごせる"静寂"を。
次回
第130話 ホウカイノウタ。