〜ひろプリ×勇者であるシリーズ〜世界の壁を超えた出会い 作:やままん
かつて、勇者世界にて存在していた霊的攻撃兵装「千景砲」はスカイランドの奥地にある謎の古代遺跡郡に同型のものが存在していた。
樹は無の力を以って、千景砲を発射。まるで警告を行うかのように浮島の一つを消滅させた。
そして今、樹の元に辿り着いたのは風とトーヤだった……。
〜スカイランド・古代遺跡郡〜
歪んだ空、立ち込める暗雲。そして怪しげな稲光。
周辺の次元は歪み始め、そしてこの遺跡群は本来ならこの地には存在していないもの…勇者世界にあった霊的攻撃兵装「千景砲」と同型のものが起動し始める。
その方角はまさに王都を指していた。そう、第二射の準備が行われていたのだ。
"掃除"を始める。
樹はそう言って最早、自分の意思とは言い難い何かによって凶行へと走っていた。
王都が消えてしまえば間違いなくスカイランドは滅ぶ事となる。そして、王様達は何も知らない。そこに住まう人々も、いつもと同じ日常を送っている。
遠く離れたこの「忘れられた地」から脅威が迫っているなど誰が思うものなのか…そして、"その時"が迫りつつある。
だが、そこへ………。
「樹ィイイイイイイッッ!!。」
少女の声が響き渡る。
その声をよく知る樹は、ニヤリと笑みを浮かべては。
樹「いらっしゃい、やっぱり一番乗りはお姉ちゃん達だったかぁ……ようこそ、待ってたよ?。」
無邪気に笑う彼女の奥底には、とてつもない殺意が滲み出ていた。
隠し切れないほどに…いや、もう隠す理由などないのだろう。勇者装束を纏っては、攻撃態勢に移る。
だが、先手を放ったのは姉の風だった。30mはゆうに超える古城の外壁を飛び越え、大剣を強く握りしめて眼前に現れた。
そして、縦に力の限り振り抜いて硬い城壁ごと切り裂いて見せた。
樹「アハハ、そう簡単にはいかないか?。」
横に飛んだ樹は虚な目を向けて笑みを浮かべながら、その場に着地した風を見据える。そして、その傍にはキュアスラッシュが。
スラッシュ「やはり、お前の仕業だったか……あの砲撃は。」
樹「そうですよ、これは"お掃除"なのです。」
風「"お掃除"…ですって…?。」
樹「そう!。スカイランドは今からこの無の力をエネルギー源とする「千景砲」によって滅ぶの!。そして、何も無くなったこの場所に私は新しい世界を作り上げる!蒼葉さんと一緒に誰にも邪魔されずに静かに過ごせる世界へとね!?。どう、何もなかった私がここまでスゴい存在へと変われたの!。」
風「冗談じゃないわ、やめなさい樹!。あんた、もう人を何人も殺してるのよッ!?それだけは防ぎたかった…ただ、蒼葉への想いの為に闇の力に手を出しただけって思ってたけど、あんたは自分でも気付かないうちに"無"に侵されてるのよッ!?。あんたのその愛情はアイツらに利用されてるのを理解しなさいよッ!!。」
樹「何を言ってるの、この気持ちは間違いなく私のものだよ…そして、この力もね。もう私は神樹様の勇者じゃない…犬吠埼樹という、とても強い勇者なの。私の理想を邪魔するものは全部壊すの。そして、東郷先輩も…あの人さえ消えてしまえば蒼葉さんは誰にも気を使う事なく過ごせるんだ。」
風「東郷を殺させはしないわ…あの子は大事な仲間よ。私があんたを止めてみせる…そして、みんなの所に帰るのよッ!!。」
地面を踏み込んで急接近。何かに気付いたのか、飛び出しながら大剣を盾にする。すると、目にも見えないほどにまで細い無数のワイヤーが大剣にぶつかっては火花を散らす。
激しくぶつかり合いながら時折、樹の笑い声が聞こえる。
樹「ねぇお姉ちゃん!?今の私を認めてくれたらこんな悲しい戦いをしなずに済むと思うんだけどな!?。」
風「ッ…そう思うのならそんな得体の知れない力を手放しなさいよ!私は最初からあんたの事を認めてるのよッ!!。」
樹「嘘だッ!私、ずっと申し訳ないって思ってたんだよ!?お父さんもお母さんも死んじゃってからずっとお姉ちゃんが私を守ってくれてた!!。慣れないのにご飯をいつも作ってくれて、本当はまだまだ遊びばかりなのに私の事を思っていつも我慢してたよね!?それは、私が不甲斐なかったからなんだよね!?。」
風「違うわよッ!!そんなことを、一度だって思った事なんてないッ!!。」
樹「だったら…だったらどうして、強くなった私を認めてくれないのッ!!?。」
慟哭のような叫び、それは攻撃に現れている。攻撃力は明らかに風の大剣の方が勝るのに、束ねたワイヤーの重さに耐え切れずに風は地面に叩き付けられた。
咄嗟の判断で大剣を盾にしたおかげで切り裂かれる事は無かったが、その衝撃で意識が一瞬だけ薄れる。その隙をついて、樹はもう片方の腕を振り翳して束ねたワイヤーを振り下ろすがそれを防いだのはスラッシュだ。
樹「また貴方ですか…ッ!!。」
スラッシュ「コイツは死なせん…!!。」
剣を振るい、風が体勢を立て直す時間を作るために樹に挑む。
樹「ずっとお姉ちゃんと一緒にいて、貴方には関係がないと言うのにどうして!?。」
スラッシュ「お前の事はうんざりするほど、コイツから聞いている!。だが、それだけお前のことを思っていると言う事だッ!コイツの行動は初めからお前のためにあるッ!!お前を取り戻すために、居場所すら捨てる事を出来るほどだッ!!。」
樹「綺麗事のように言わないでッ!!そんなことを聞いたって、私は揺るがないッ!。」
スラッシュ「わかっている、だから俺達はお前に打ち勝つしかない!そして、聞けッ!コイツの本当の思いをッ!!。」
スラッシュはさらに卓越した剣技で樹に迫る。だが、樹も負けじもワイヤーを巧みに操っては徐々にその肉体を切っていく。手数の多さから樹に勝敗が傾き始めた。
だが、スラッシュは倒れない。地面に自身の血が飛び散るも攻めの姿勢を崩さなかった。
スラッシュ(ッ…悔しいが、俺ではコイツに勝つことが出来な………ッ!!。やはり、声を届けるのは…!。)
風「おおおおおおおおッッ!。」
体の底から湧き上がるほどの声を上げて立ち上がった風。地面を蹴って樹に接近する。
樹「ッ…どこにそんな力が…ッ!?。」
魂を込めた一撃。振るった大剣を地面に叩きつけて巨大な衝撃波を放つ。
不意を突かれた樹は急いでワイヤーによる盾を形成するも、その衝撃はそれすらも貫く。そして、直撃。高くに打ち上げられた樹は血を吐きながら空を舞う。
風「ッ……!!。」
自らの手で妹を攻撃した風の手は震え始める。しかし、スラッシュがその手を掴み、力強い眼差しで風を見つめては。
スラッシュ「違う、俺達が戦っているのはお前の妹じゃない、お前の妹に取り巻いている"無"だ!。だから心を痛めるな!救うための戦いだ、殺しじゃない!。」
風「…ええ、ありがとう…落ち着いたわ…大丈夫、もう迷わない…!。」
再び構える風。打ち上げられた樹は地面に落ち、ゆっくりと立ち上がった。
樹「酷いよ、お姉ちゃん…今まで手を上げたことなんて無かったのに…。」
風「ごめんね樹、でもあんた…少し説教を入れてやらないといけなくなるほど悪くなったわ。これで少しは反省した?。」
樹「うん、したよ?とってもしたよ…あの時、やっぱり殺せば良かったってッッ!!。」
狂気とも言い難い攻撃性を露わにした樹は飛び出し、両手を全面に広げる。すると、消滅のエネルギーを込めた無数のワイヤーを放つ。
風「私も本気で行くわッ!。もうあんたを逃がさない、必ず連れて帰るんだからッッ!。「満開」ッッ!。」
「満開」を発動。その姿を変えて飛び交うワイヤーを悉く弾き飛ばしていく。
風(満開)「"無"の消滅の力に対抗出来てるッ!?行ける、これなら行けるッッ!!。」
樹「今の勇者の力は神樹様の残滓で何とか保ってる状況…時間と共に弱くなるはずなのに…やっぱりそうか…私には無かったその力…私が弱いから「意志の華」が咲かなかった…ッ!私だけ…私だけがその力を使うことが出来ないッ!だから…ッッ!。」
放たれたワイヤーの周りが歪み始める。
スラッシュ「なんだ、これは!?。」
樹「強くなるためならどんな力にだってッッ!!。」
強烈な耳鳴りが2人を襲う。直後、その放たれた一撃がスラッシュを切り裂いた。確実な深傷、その一撃はあまりにも強烈だった。
スラッシュ「ぐあああああ…ッッ…!?。」
風(満開)「トーヤァアアアア!!。」
樹「まずは1人ッ!!次は……ッ!。」
「もらったわ…!!。」
どこからともなく聞こえてきた女性の声。そして、放たれた2本の鞭。
それは樹の腕に直撃し、あり得ない方向に曲がってしまう。
風(満開)「なッ…今度は何ッ!?。」
視線の先、そこにはスラッシュによって動けなくなっていたアリスが立っていた。
アリス「…まさか、ソラシド市でスカウトを試みたあの時の小娘がこんな化け物になるなんて思いもしなかったわ…あんたを野放しにしたら、私達の障害になるのよッ!ここで死になさいなッ!!。」
鞭を硬直させてレイピアの形状となったその得物を手に、樹に迫る。
だが……。
樹「…ああ、あの時のお姉さんですか…そういえば、お礼を言わないといけないなって思ってたんだよね。」
曲がった両腕を無理矢理元に戻し、右手を天に掲げる。
アリス「お礼なんて……ッ…。」
自身の目の前には、残った一本の腕と義手が宙を舞っていた。痛みなんてまるで感じない…ポトリと静かな音を立てた直後。
アリス「ああああああああああッッッ!!!。」
意識が遠退くほどの激痛が襲う。そして、その目の前には悪魔のような表情を浮かべた樹が現れて。
樹「ありがとうございます、おかげでこんなに強くなれましたよ?その成果をちゃんと見せないと…ね?。」
風(満開)「ちょ…やめなさい樹ッ!!あんたも早く逃げなさい、殺されるわよッ!!。」
圧倒的な力を前に戦意を失ったアリスに声を掛ける風。だが…遅かった。
ニッコリと笑みを浮かべた樹の顔に鮮血が付く。指を一本、動かしただけだ。たったそれだけでアリスの首が……落ちた。
風(満開)「うぅ…ッ!?。ぐっ……!?。」
あまりにも凄惨なその光景に、吐き出しそうになる。
何とか耐えて荒れた呼吸を整えていると、今度は自分の目の前には樹がやって来た。
樹「最後の通告だよお姉ちゃん。私もね、何もお姉ちゃんを絶対に殺したいわけじゃないんだ?。ずっと守ってくれたんだもん…その感謝は忘れてない。だから、今の私を受け入れて?静かにここを去ってくれるのなら特別に見逃してあげる…お姉ちゃんだけはスカイランドの滅亡から逃してあげるよ。それに私、幸せになるから心配しないで?。」
優しくそう問いかけてくる樹。だが、風は身体を震わせる。
風(満開)「…私"だけ"?じゃあ…ここに来るかもしれない友奈達は?ソラ達は?この世界で生きている人達は?。あんたは…本当にそれでいいの?蒼葉と幸せに暮らしたいだけで…他の人の幸せを踏み躙るっていうの?あんたがやろうとしてる事は…私達の人生を滅茶苦茶にしたバーテックスと同じ事なのよ!?。それを……あぐっ!?。」
片膝を付く風。左の太腿にワイヤーが突き刺さり、貫通しては地面に縫い合わせるように固定されていた。
樹「質問は受け付けない、もう一度言うよ?。私の元から静かに消えて。あのプリキュアの人も連れて行ってもいいから、早く消えて。」
風(満開)「ッ…断るッッ!!あんたを失えば私は1人になる…お父さんとお母さんと約束したんだ…あんたが幸せになるまでは私が守っていくって!!。樹、大切な家族をこれ以上失ってたまるかッ!!お願いだから私の声を…聞いてよッッ!!。」
樹「…終了。やっぱり、認めてくれないんだね。もういいよ、せっかくのチャンスだったのに……私なりの孝行のつもりだったんだけどな、いいやもう。せめて一緒に旅して来たそこのプリキュアと一緒にあの世に送ってあげる。今までありがとう、大好き"だった"お姉ちゃん?。」
スラッシュ「ぐっ……や…めろ……ッ…!!。」
風(満開)「樹………。」
一筋の涙を流し、届かなかった思いに悔しさを募らせる風はその瞳を閉じる。そして……全てを諦めかけて妹に殺される覚悟を決めた。
だが、1発の銃声がそれを防いだ。
樹「…来てくれたんですね?貴方を待ってました。」
蒼葉「犬吠埼ィイイイイイイ!!。」
空を舞いながら、蒼葉は声を上げる。力の無い目で見つめる風、そこには……友奈達もいた。
友奈「風先輩、樹ちゃんッッ!!。」
夏凛「いちいち人騒がせなのよ、あんた達姉妹は!!。」
東郷「もうやめましょう、こんな悲しい争いは!。」
スカイ「ようやく会えましたね、樹さんに風さんッ!!。」
樹「やはり、他の皆さんも来ましたか。わかってましたよ、私と蒼葉さんの世界を作る事を邪魔しに来る事は!。」
勇者部、そしてプリキュア達に敵意を剥き出しにする樹。
そして、その一同の前に蒼葉が立つ。
蒼葉「お前を止めに来た、犬吠埼!。いや…樹ッ!!。」
樹「えへへ…初めて名前を呼んでくれましたね?嬉しいです。」
蒼葉「お前は俺を想い続けてくれた、だからその"答え"も一緒に持って来た!…そして、お前を迎えに来た。帰るぞ、俺達の"居場所"に!!。」
…………………………end。
風の決死の声は届かなかった。
そして、樹が更なる一線を越えようとしたその時、勇者部とプリキュア達が現れてその窮地を救う。
全ては蒼葉のために。
樹は彼を手に入れるための最終決戦を仕掛ける。
そして、それは他の者も同じだった。
帰ろう、俺達の"勇者部"に。
次回
第132話 祈りの歌。