〜ひろプリ×勇者であるシリーズ〜世界の壁を超えた出会い 作:やままん
誰もが抱くその儚い"願い"。
それは、無慈悲にも利用される形となりそして…"厄災"として、変化を遂げてしまった。
今、目の前にいるのは樹とは変わった別の存在…。
…少女の想いは…「喰われて」しまった……。
周辺の時が止まる。ましろが闇に堕ちた時に形成されたあの黒い大樹の影響により、ソラシド市と勇者世界の星が止まった時と同じ現象。
それが今、スカイランドで起きた。
全ての原因はその目の前にいる存在……樹が手に入れたあの異様な力の正体である"無"。
それは樹の生命力を媒体に具現化し、肉体を得て姿を現した。
その姿はまさに彼女そのもの…だが、見ればわかる…存在するだけで悪影響を及ぼすその異質な存在は"敵"であると。
そして、当の樹は意識を奪われてその場に倒れ込む。だが、光の蔦のようなものがDMと樹を繋ぎ合わせていた。そしてそれは…樹から生命力を供給する「ケーブル」のような役割を果たしている。
つまり…長引けば長引くほど樹の生命力は失われていく。そして、樹の魂がコアとなっている。
横たわる樹の魂は奪われ、その肉体は抜け殻の状態に…その体温はどんどん失われていく。
あまりの展開に、情報の処理が追いつかない…そんな中、もう1人の樹が怒声を上げた。
樹(if)「ボサッとすんなッッ!死にたいのかッッ!?。」
蒼葉「!!!。」
樹(if)「しっかりしなよ蒼葉ッ!お前、「私」を救うんだろッ!?。なら、前を見て現実を受け入れろッ!この世界の運命ともう1人の私の運命が掛かってるッ!手を止めてる暇なんて無いッッ!。」
その激励を受け、蒼葉はコクリと頷いて地面に捨てた銃を取る。そして、DMイツキに生命力を奪われ続ける樹に目を向けて。
蒼葉「…すみません…樹「さん」。お陰で気合いが入りました…俺は全ての元凶である"コイツ"を…殺します…!。」
その啖呵と共に、トリガーを引く蒼葉。それは、DMイツキの眉間を正確に撃ち抜いたが……。
DMイツキ「アハハハハハ…?♪。」
狂気的な笑みを浮かべ、その場所が一瞬にして再生する。だが、その一撃は風を奮い立たせた。
風「…蒼葉、もう1人の樹…私もアイツを…倒す…!。」
解けた満開の影響で、ゲージは殆ど残っていない…直撃は避けなければならない状況だ。だがそれでも、風の戦意は先ほど以上に高まっていた。
樹(if)「…やれるの、"お姉ちゃん"?。」
風「やるしかないのよ…私はアイツを許さない…アイツが樹の想いを踏み躙ったんだ!!。しっかりついてきなさい…あんた達ッ!。」
地面を蹴って先に仕掛ける風、2人も後に続く。
DMイツキ「アハハ…アハハハハハ?。」
風「あんたを生み出したのは確かに樹よ…でもね、それを餌にしてあんたは!。」
大剣の一撃が炸裂する。
風「あの子の純粋な心を弄んだッッ!それが一番腹立つのよッ!!。」
切り裂かれた箇所は瞬く間に再生。そして、反撃として手のひらから樹の得物であるワイヤーを放つ。
樹(if)「練度は私の方が上…ってね!!。」
もう1人の樹は数多の戦いを経て培ったその技術と身体能力の高さを生かし、DMイツキの放ったワイヤーを一振りで消し飛ばす。そして、その傍に居た蒼葉がトリガーを引いて銃からビームを放つ。
蒼葉「お前達"無"は必ず滅ぼすッ!人の願いや気持ちすらも食い物にし、個人の人生を踏み躙る貴様達は絶対にッッ!!そして…樹の願いが生んだ化け物である貴様はここで消すッ!アイツを…純粋な樹を元に戻す為にッ!。」
感情のままに戦う蒼葉。論理派である彼に合わないその戦い方。でも今日だけは、自分に合わないその戦い方を貫く。
何よりも、樹の想いの為に…そして、彼女を救う為に。
奴を討てば、樹が戻って来る。そしてそれが今、成せるチャンスがそこにある。
奴がどれほどにまで脅威なのか、そして今、スカイランドの時を止めた上にこの遺跡に眠っていた数々の千景砲が王都に照準を向けている。
この存在に、意思は無い…あるのは、この存在が狂わせた樹の思い描いた理想…「自分と蒼葉が静かに過ごせる世界」を創造するための"掃除"。
"無"は本能で世界を滅ぼす存在…きっと、この"特級個体"もその理想を"本能"とし、この世界を破壊する"無"としての行動を取っているのだろう。
しかしそんな事は今はどうでもいい、"世界"の事は仲間に託した…だから自分達は今、たった1人の人間を救うための戦いをする。
そう……ましろを救った時と同じように。
そして、蒼葉の<擬似勇者外装>の段階が一つ上のステージへと上がる。
銃は巨大なライフル銃へと変化。そして、その銃には鳥の翼のようなものがあしらわれていて。
それはまるで、白鳥の翼のようなものへと。
白鳥がもたらす象徴は「永遠の愛」。
蒼葉が気付いたその"愛"が形となり、擬似勇者外装のステージを1段階上げた。
蒼葉「…俺には特別な力なんて何もない。ハレワタール達のようなプリキュアとしての大いなる力も何もない…俺は恩人のために、"散華"を請け負ってこの身体のほとんどが機能していない…だけど、この気持ちと感情だけは失わなかった…だから俺は…それをただ1人に向けると決めた!。樹、俺はお前を……ッ!!。」
-愛している-
巨大な弓のようなエネルギーがライフル銃に灯り、トリガーを引く。
ー雲雀(ひばり)ッッ!ー
放たれたその一撃は、鳥のような形を灯ったエネルギーとなりDMイツキを貫く。
確実に貫いた。だが……。
DMイツキ「アハハハハハッッ…!!。」
その不快な笑みと共に、超再生。そして、本領を発揮する。
目を閉じて、澄んだ歌声を発する。一瞬、その声に魅了される。しかし……。
樹(if)「ぐああ…ッ…!?。」
蒼葉「ぐうう……な…何が起きた…!?。」
身体の各所に切り裂かれた跡が残る。そして、激痛が身体を襲う。
風「う…歌が…攻撃になってる…!?。」
ボタボタと落ちる血を見て、そのダメージの高さを実感する。そして、手のひらを広げて消滅のエネルギーを放つ。
樹(if)「こ…これ…詰んだんじゃ……ッ…!!。」
スラッシュ「うおおおおおッッ!。」
意識を取り戻したスラッシュが3人の前に立ち、剣から放たれる斬撃で抑え込む。だが、樹から受けた傷が深すぎてその場に血溜まりが出来る。
風「トーヤッッ!!。」
スラッシュ「お前達の「物語」を守るのが俺の剣だッ!!。言ったろう、迫り来る火の粉は俺が振り払うと!。」
風「でも…あんたが死んじゃう…その傷は…ッ!。」
スラッシュ「恐れるな、前へと進めッッ!。お前達のやろうとしている事は恐れを抱いては成し遂げられないッ!!。お前達はただひたすら、前を見続けろッ!脇道の荊棘はお前達の仲間が振り払ってくれているッ!信じろ、仲間達をッ!!。」
スカイ「ヒーローガールッッ!スカイ…インパクトッッ!!。」
同じく、意識を取り戻したスカイもその場に駆けつけてスラッシュの隣に立ち、拳圧でそのエネルギーに対抗する。
スカイ「ましろさんだって救えたんです!私たちに不可能なんて無いッ!!。私たちは"プリキュア"、その力の意味は人を守る事ですッ!!。そして今、この瞬間になるんですッ!貴方達が樹さんにとっての"ヒーロー(勇者)"にッッ!!。」
蒼葉「お前達……そうだ…ダメでも、何度だって…ッッ!。」
希望の灯火を失わない蒼葉は再び立ち上がる。
風「…そうね…私たちは"勇者"…それはプリキュアと同じで人を守るためにあるッ!。仲間の…妹の心を救えないようじゃ"勇者"は名乗れないわッ!。」
樹(if)「…思い出すね、再世決戦の頃を…あの時はこんな気持ちで戦ってたな…今は現実を見過ぎて、捻くれちゃったけど…もう一度だけでもいい、今は"勇者"としてもう1人の私を助けるために戦うッ!さて、前のラウンドはあんたに軍配が上がったけどこのラウンドはもらうからねッッ!。」
再び、立ち上がった3人の闘志の炎は消えていないどころか、さらに燃え上がる。しかし、敵は無情にも強さの次元がまるで違う。それでも、魂を燃やして立ち向かい続ける。
DMイツキ「〜〜〜〜〜♪。」
再び"歌声"が聞こえて来る。その攻撃は回避不能…いや、回避の仕方がまるで分からない。だが、考えてる余地は無い。時間を掛ければ掛けるほど樹の命の炎はどんどん小さくなっていく。そして、それがわかるようにDMイツキはどんどん強くなっていく。時間との勝負…それが徐々に焦りを募らせて。
風「あああ…ッ…!?。」
蒼葉「先輩ッ!ぐわああ…ッッ…!。」
樹(if)「ぅう…ッ…流石に気合いだけじゃどうにもならないか…ッ…あの"歌"が厄介すぎるっての…。」
最早、満身創痍。ボロボロになりながらでも、何とか意識だけは保つようにしていた。スカイとスラッシュも先ほどの攻撃を受け切ったせいで力の大半が失われていて。
戦いは徐々に劣勢へと傾いていく。遺跡の外で千景砲を止めるべく戦う仲間達に目をやると、空間の穴を突き破って現れたDMが一同を追い詰めていた。圧倒的物量差、何人かは戦闘の継続が難しいほどに消耗している。
そして、当のDMイツキはその脅威的な再生力でダメージを与えてもどんどん再生する。
勝ち目がまるで無い…それどころか、死者が出てもおかしく無いほどにまでこの戦場は苛烈過ぎる。今までで一番、勝ち筋を見出せない混沌とした戦闘。しかし、精神はまだ…死んでいない。
蒼葉(…例え、全てが救えなかったとしてもお前だけは必ず救って見せる…樹…。)
弱々しく立ち上がる蒼葉。たった1人でDMイツキに立ち向かう。
蒼葉「…どうした…俺達はまだ…生きているぞ…ッ!!。」
ライフル銃を構え、何度も撃ちながら突撃する蒼葉。考えている暇はない。指が、足が、目が、耳が動いているうちなら何度だって攻撃は続けられる。しかし、DMイツキは不適な笑い声を上げながら、まるで楽しむかのように蒼葉を蹂躙する。
放たれたワイヤーの数々に身体を削られていく中、垂れ落ちる血が目に入り視界が悪化する。
風「蒼…葉……。」
蒼葉「手足がもげようが、お前を倒すッ!!。届け…届けェエエエエッッ!!。」
絶望中にある蜘蛛の糸ほどの希望。最初から狙いは…樹とDMイツキを繋いでいる「光の蔦」。そしてとうとう、放たれたビームが光の蔦を貫いた。
DMイツキ「!!??!?。」
蒼葉「この好機を逃すなァアアアアッッ!!。掴み取れェエエエエッッ!!。」
風「ああああああッッ!!満…開ッッ…!!。」
風は限界を超えた「満開」を発動。残っているゲージを全て消費した。そして、もう1人の樹も残る全ての力を結集させてワイヤーの強度を最大限にまで引き上げてDMイツキを拘束する。
限界をとうに超えたその拘束は身体をバラバラにしそうな勢いの負荷を掛け、もう1人の樹の身体が悲鳴を上げる。
樹(if)「ゲホッ…ガハッ…ッ…吐血したくらいでェエエエエ!!。」
蒼葉「おおおおおおおおッッ!!。雲雀ィイイッッッ!!。」
風(満開)「でやぁああああああッッ!!。」
巨大な鳥のエネルギーの中に入った風が大剣を突きつけたまま直撃。DMイツキの身体を突き刺して魂の咆哮を上げる。
風(満開)「樹を…返してもらうッッ!!。」
DMイツキは身体を崩壊させながら、背中から放たれたワイヤーで風の身体の所々を貫いていく。しかし、風は止まらない。大剣を押し込み、そして……。
DMイツキ「嗚呼ァアアアア…アああaァアアアアッッ!!。」
全力を込めた魂の一撃が、最強の怪物を打ち倒した。古城は自分達がいたフロア以外が崩落。だが、外の戦闘は終わりを見せない。
だが、これで樹は……その場にいる3人は誰もがそう思った。だが…様子がおかしい。
ボロボロの身体のまま、蒼葉が樹の身体を抱き上げる。
…軽い…軽すぎる…まるで、空っぽのように…そして、樹は目を開けた。
樹「ぁ……お…ば…さん……?。」
蒼葉「樹ッ!?良かった…目を覚ましたんだな…大丈夫だ、もうお前を蝕んでいた"無"…は……。」
その"異常"に、蒼葉は言葉がどんどん小さくなっていく。そして…"最悪"の事態が脳裏を過った。
樹「…あは…は……ごめん…な…さい……せっかく……私の…恋が…実った…のに……。」
蒼葉「ダメだ…ダメだ樹ッッ!!。」
風「な…何があったの!?。」
駆けつけた風ともう1人の樹。蒼葉は2人の顔を見た瞬間、大粒の涙を流しながら絶望に満ちた表情をする。それを察した2人は血の気が引いていく。
樹(if)「…は…?嘘でしょ…何の冗談…?ちょっと…笑えないって…。」
風「樹ッ!?しっかりしなさい、ちゃんとお姉ちゃんの顔を見てッッ!ねぇ、樹ッッ!!。」
………長い期間、あれほど強力な"無"を宿していた樹の身体はもう…"死んでいた"のだ。
わずかに残ったその生命力も、DMイツキに全て持って行かれていた。
まるで、「満開」にあった「散華」のように…樹は「命」を持って行かれていた。
花が散るだけじゃ無い…完全に"枯れて"しまっていた。その茎の中身も全て。
そして、か細い声ともう殆ど視界が残っていないその瞳で風を見る。
樹「お姉…ちゃん……ごめん…ね……最後の…最後まで…我儘…言っちゃ……って………。」
風「嫌よ…嫌ッ!ダメよ樹ッ!お願いだから…お願いだからお姉ちゃんを1人にしないでッッ!逝かないで…逝かないで…ッッ!!。」
樹「…もう…1人の…わた……し……こん…なところにまで…私を…助けに…きて……くれて……。」
樹(if)「……残り少ない時間は2人のために割いたげて。私は…いい……。」
…何度も見てきたこの瞬間。もう1人の樹は冷たく言い放ち、背を向けるもその瞳からは…大粒の涙を落としていた。
蒼葉「ダメだ樹ッ!待ってろ…俺が今…なんとか…何とかして…クソ…クソォオオオオ……。」
抱き抱えながら、大粒の涙を流す蒼葉。そんな蒼葉を見ながら、虚な瞳で樹は力無く笑う。
樹「……よか…っ…た……無事…で……ちゃ…んと…東郷…せん…ぱいと…仲良く…して…くださ…い…ね………喧嘩は…ダメ…です……よ……。」
蒼葉「ううぅ…うう……すまない…すまない……もっと早くに……ッ!!。」
その時、樹は頭の中でこれまでの記憶を呼び起こしていた。
父親と母親が亡くなり、風と2人っきりになって不安な毎日を過ごしていた事。
風が全力を尽くして自分を支えてくれていた事。
勇者部に入り、「勇者」として辛い戦いを乗り越えてきた事。
夢を持った事。
ソラ達と出会えた事。
そして……恋をした事。
…その全てが、愛おしい記憶として蘇ってくる。走馬灯とはこう言う事なのかな…そんな思いが頭を過ぎる。
そして自分は今、大好きな姉と仲間達に見守られながら綺麗な砂浜の上で歌っている。その傍には…初めて恋をした蒼葉と手を繋いでいて。
…こんな未来が訪れれば良かったな……それはまさしく、最期の"願い"だった。
そして、涙を流し満足気な表情して、最後に…優しい微笑みを向けながら蒼葉の腕の中で…。
-ありがとう、大好きなお姉ちゃん…蒼葉さん…みんな…-
………………永遠に、その瞳を閉じた…。
…………………………end。
……次回。
第134話 歩めなかった"未来"。そして………。