〜ひろプリ×勇者であるシリーズ〜世界の壁を超えた出会い 作:やままん
…救えなかった、間に合わなかった、最後に心は帰ってきたが……。
……それでも………。
未だに戦闘音がこだまする中、蒼葉は樹をしっかりと抱き締めたままその場から動かない。風も大声をあげて泣き崩れる。もう1人の樹は、下を俯いたまま何も言わない。
当然、他のメンバーは知らない。樹の命がもうそこにはない事に。特級個体を倒したと言うのに、戦闘は終わらない。
もう、何もする気が起こらない。仲間達が危ないと言うのに、身体が全く動かない。傷のせいではなく、3人の精神は崩れ去ってしまっていた。
穏やかな表情で眠る樹は先ほどの狂気が抜けて普段の彼女に戻っている。それはまさしく、本当の彼女だ。
しかし、彼女はもう…ここには居ない。
その時、戦場で異変が起こる。
なんと、1発目の千景砲が発射されてしまったのだ。その軌跡の方向を見るに王都に向かって光が伸びていく。遠いこの場所からだと、着弾の音も聞こえない。しかし、放たれたと言う事は王都に届いているのだろう。
…また、命が消えていく。樹の次はソラとツバサ、そしてトーヤの故郷まで消滅させられる。
…これが、"無"の力。圧倒的に敵わない概念。バーテックスや闇の勢力とは比べ物にならないほどの脅威。そして、奴らには心が無い。それ故に、奪う事に関しては躊躇が無い。
そして、残りの千景砲が次々に発射される。
目に映るのは死と滅びの閃光。今日、この日……。
勇者とプリキュアは…"完全敗北"を喫した。
……………………………………。
…何もない、虚無の空間。
蒼葉と風、そしてもう1人の樹は気が付いたらそこに居た。
蒼葉の手の中には、命が尽きた樹が眠ったままだ。
他のみんなは…どこにも居ない。周りを見渡しても、ずっと暗闇が続いている。もしかしたら、自分達も…死んだのか。
そう思ってしまう。
風「…なんで…私達だけがここに……?。」
樹(if)「…わかんないよ…それにここ、どこ…?。」
蒼葉「どこだっていい……俺達は…負けたんだ…樹を助けられなかった…!。」
半ば、自暴自棄になる蒼葉。2人も、同じ気持ちだ。ここがどこだっていい。樹が死んだ事実は拭えないし、千景砲が全てを焼き尽くしていったことは覚えている。
そして、自分達がここに居て仲間達が居ないと言うことはみんなもまた……。
そう思っているのに不思議と涙は出ない、枯れるほど泣いたからだろう。もう何も感じない。
このまま瞳を閉じて、消えるのも悪くない…。
そう思っていたその時、一筋の光が3人を照らした。
その光の先にあるもの…3人は知っていた。
…「神樹」だ。
何故、ここに?。それに枯れたはずじゃ……。
そう思っていると、神樹の前に1人の女性が立っていた。
風「…あなた…は…?。」
「私の名前は"エルレイン"。やっと、お会い出来ましたね…"勇者"の方々…?。」
エルレインと名乗るその女性は、どこかエルに似た雰囲気を纏っていた。
その慈愛に満ちた表情は、どこか安心させるものを感じさせる。自暴自棄となっていたその精神は少しだけ、安らぎを覚えるほどに。
蒼葉「…俺達に…何の用で…?。」
エルレイン「…その少女。」
エルレインは蒼葉の腕の中で眠る樹を見る。
蒼葉は咄嗟に、樹を守るようにエルレインに睨みを利かせて。
蒼葉「樹をどうしようというんだ!?。もう…ほっといてくれないか…樹はもう…ッ…!。」
エルレイン「…絶望の未来を…"変えたい"ですか…?。」
蒼葉「……え……?。」
エルレイン「…スカイランドは貴方達の敗北によって、滅びを迎えました。今、これが現状です。」
3人の前に、千景砲が直撃したスカイランド王都が映し出される。
……何もない。まるで、初めからそこに何もなかったかのように、更地のように広大な大地が広がっていた。
風「…う…そ……ッ……。」
エルレイン「仕方のない事なのです…これも、世界の摂理…"無''は秩序そのものです。彼らが滅びを選択したのならば、その摂理に従って滅びを受け入れる必要もあります。だから、貴方達がその責任を負う必要は無い。よく、頑張ってくれました。でもそれは、この事実を受け入れた時の話…もう一度、問います。絶望の未来を…変えたいですか?。」
エルレインは樹の髪を撫でながら、そう問いかける。
風「…変えたい…変えたいわよッ!!。樹が死んで…世界が滅んで…こんな結末、認めたく無いッッ!!。」
蒼葉「俺も…変えたい……やっと、気付けたんだ……俺は誰かに愛されていた事に。そして、その愛をくれた奴が死んでしまった…なんで、樹が死ななければならないッ!?樹はただ、俺を好いてくれていただけなんだッ!やり方は間違ってても、その心と想いだけは最期まで貫いたんだッ!!。返してくれよ…樹を…返してくれよッッ!!。」
その決死な思いを聞いたエルレインは立ち上がり、樹の身体を抱える。
蒼葉「何をする気だ…樹をどうする気だ!?。」
エルレイン「その未来を変えたいと言うのならば、彼女の亡骸をいつまでも抱えるわけにはいかないでしょう?。だから…"預かります"。その未来が変えられなかった時、彼女は……眠るべき場所に眠るべきなのです。」
エルレインが神樹に向けて目を向ける。そして、樹を手放すと神樹に吸い込まれていくように光に包まれていく。
風「ああ…樹…樹…ッッ!!。」
エルレイン「絶望の未来を変える権利は貴方達3人にしかありません。彼女が"生きる"未来…そして、あなた方が"敗北"しない未来。可能性は生み出されました、その"枝葉"を渡します。」
神樹から"一本の枝葉"が現れてエルレインの手に収まる。そしてそれを蒼葉と風、そしてもう1人の樹に託した。
エルレイン「それは"可能性の枝葉"。あなた方をこの「絶望の未来」から一度だけ、元の時間軸に戻します。全ては樹さんが"無"に魂を奪われてしまってからこの未来が確定してしまっています。幸い、あなた方が居た場所には時間を超える門が存在していました、運が良かった…と言うべきなのでしょう。それがなければ、私はあなた方と出会う事が出来なかった。」
樹(if)「ちょっと待ってよ…元の時間軸に今の私達が戻れば、歴史は…!!。」
エルレイン「それを選んだのはあなた達です。良き方に傾くかどうかはあなた方次第。でも、私も思いますよ?。あなた方のこの"結末"は変えなければならない…と。」
エルレインは映し出された滅んだスカイランドを見る。
エルレイン「あなた方が居なければこの美しい世界だけでなく、生きとし生けるもの全てが"無"によって消滅してしまいます。先ほど言いましたが、これは自然の摂理そのもの…受け入れるしか無い事実でもあります。でも…否定するのも、私達の特権だと思いませんか?。抗う事も一つの可能性…私は、そう思うのです。」
蒼葉はその"枝葉"を握り締める。
蒼葉「…もう一度だけ…もう一度だけ、樹を救うチャンスがもらえるというのか…?。他のみんなを…この未来から救えるチャンスをもらえると言うのか…?。」
エルレイン「ええ。」
風「…樹が"生きている未来"…その未来を選択出来るチャンスがあるって言うの…?。」
エルレイン「ええ。」
樹(if)「…わかった気がする…私達の住む「可能性世界」が出来上がった事…全ては選択だったんだね…私達の「可能性」も、この世界の未来のお姉ちゃん達が選択した「世界線」だった…こっちの私が死んだ事実を覆すのもまた選択…なら、選ぼうじゃない…後の事なんてその後でいいでしょ、今は…こっちの私が「生きる」選択を選ぼう…!。」
3人の目に…"希望"が戻った。
樹が「死なない」未来……樹が「生きている」世界線……そして、その世界線は…自分達が歩むはずだった「未来」だと言う事。
なら、全てを覆してやる。この絶望の未来を…たった一度だけのチャンスを零さずに。そして…"無"に大打撃を与える為に。
エルレイン「行きなさい、希望達よ。この神の樹と私は見守っています…人として生きる選択を選んだあなた達の事と、そして…これから、光り輝く未来を手にする為に立ち向かっていく希望達であるあなた達の事…託しましたよ…世界を。」
蒼葉「ああ……ッッ!!。」
3人は枝葉の光に包まれ、消えていく。そして、エルレインは神樹の幹に腰を掛けた。
エルレイン「…プリキュアと勇者…世界は違えども、その本質は同じです。そう……。」
−「守りしもの」…人々と世界の未来を守る守護者だと言う事…-
………………………………………。
………3人は目を覚ます。身体はボロボロのままだ、だが不思議と意識はハッキリとしている。そして、身体の痛みも無い。
その場面はまさしく、樹が"特級個体"によって全てを奪われるあの瞬間…。
"絶望の未来"が確定してしまうあの瞬間だった。
樹「ああ…あああああああああッッ!!。」
叫びと共に"奴"が姿を現そうとしていた。蒼葉の腕の中には苦しむ樹。
蒼葉「ッ…この瞬間は…あの時と同じ…ッッ…!!。」
風「蒼葉ッッ!!。樹の中からアイツが現れるッ!!きっと、あの未来を変えるのは今しかないッッ!!。」
樹(if)「けど、どうするって言うのッ!?。失敗すればあの未来が"確定"するんでしょッッ!!。」
蒼葉(そうだ…今、この瞬間に「選択」しなければならない…樹が「生きている」世界線を…未来を……ッ!。)
徐々にその姿を現し始める"特級個体"。時間は残されていない中、蒼葉の頭の中はいつものように冷静だった。
蒼葉(奴が現れるのは確定している……それは事実だ、でなければ樹の身体の中には"奴"が居座ったままとなる………樹が死んだ「原因」…それは……!!。)
DMイツキが顕現し始める、そして蒼葉のその目線の先には…彼女と奴を繋ぐ"光の蔦"が。
蒼葉「そこだァアアアアアアアアッッ!!。」
蒼葉は「選択」した。
樹が死んだ世界線を否定する為に…樹が生きて、そして、この世界が滅ばない世界線を「選ぶ」為に。
全力の一撃。顕現したその瞬間を狙ってあの"蔦"を撃ち抜いた。
すると、DMイツキは顕現直後に見せた表情とは違う表情を見せた。
DMイツキ「!!!???!!?。」
蒼葉「先輩ッ!!受け取れェエエエエッッ!!。」
生命力を吸い上げるあの"蔦"の繋がりを断ち、気を失った樹を抱えて風に向けて彼女を投げた。
そして、大切な妹を…"生きている"妹をしっかりと受け止める。
風「生きてる……よかった…生きてる…ッッ!!これで…ッ!!。」
樹(if)「まだだッッ!「選択」をしただけで「確定」は出来てないッッ!!。アイツを倒してからこそ、"絶望の未来"は変えられるッッ!!。」
苦しむDMイツキは、半ば暴走のように暴れ始める。あの蔦を絶たれた今、コアとしていた樹の魂は奪えていない……あの時のような、無敵感はまるでない。
こうなれば、目の前にいるのはいつもと同じDM。特別強いだけのただの"化け物"だ。
樹は気を失っているだけで、生命力までは失っていない。でも、それでもあれほどの個体を育て上げ、自身の身体の中に潜ませていたせいもあり衰弱は免れなかった。だが、少なくとも彼女が"死ぬ原因"は取り除けたと言えよう。
風は樹を壁際に安置させ、剣を構える。そして、蒼葉はライフル銃を手に、もう1人の樹は両手に光のワイヤーを携える。
蒼葉「…今度こそ、救って見せる…お前を倒して全てを…救って見せるッッ!!。」
………………………………end。
樹が"死んだ"世界線は否定された…ここからはどう転ぶか全く分からない。
だが、スカイランドが滅ぶ未来も否定した今、あの未来を回避する為にもう一度戦う。
そして今度こそ…すべてを救って見せよう。
幸せを求め、手にする為に…その手に光り輝く「未来」を。
次回
第135話 祈りの歌〜勿忘草・「真実の愛」の章〜