〜ひろプリ×勇者であるシリーズ〜世界の壁を超えた出会い 作:やままん
友を送る為に。
東郷の迷いは消えた、その弾丸は友の魂の為に。
彼女はこの戦いでの一つの答えを導き出したのだった。
そして、その夜……風と樹の帰りを祝い、小さなパーティーが開かれたのであった……。
鷹夜「…よし、良い出来だ。」
ケーキの盛り付けを終えた鷹夜は満足そうな顔をする。当然、菓子作りが得意なましろと東郷も手伝ったがその殆どは彼が手掛けたもの。その出来栄えは普段の彼から想像が付かないほど丁寧なものだった。
チョコレートでコーティングされたケーキ…そして、他の料理はあげはが。風も当然、手伝うと言ったが主役にやらせるわけにはいかないと年長者のあげはが言い聞かせて諦めさせたのである。
そしてその場には園子も居た。洸が一命を取り留めたということもあって、彼女は少しばかりかその表情に明るさが戻りつつあった。でもまだ少しだけ陰りがある…きっと、銀の事だろう。全員はその事を理解しているので敢えてそれを話題に出す事はない…そして、銀の事は東郷が引き受けている。今の園子に必要なのは、心の安らぎだ。これは、園子を元気付ける為のパーティーでもある。元々、こう言ったイベント事が好きな彼女だ。ソラ達もまた、元気になってほしくて場を盛り上げる為に飾り付けだった派手にした。
……あれから、もう1人の樹も一同と行動を共にしている。勇者の力を私的に利用した事で神樹の残滓から"見放された"樹は、勇者としての能力を失ってしまっている。そんな彼女に、自分の力を譲渡したのだ。当然、自身は戦う力を失ってしまったがそれで構わないと思っている。
自分が"勇者"として戦った"あの日々"はもう終わりを告げている…自分の戦いはもうすでに終えているので今更、この力を必要とする事はない…そう思って、託した。もう1人の自分の道を正す為にもう一度だけ戦う為に誰にも言わずにスカイランドへとやってきた彼女は今度こそ、その"お役目"を終えたのだ。その表情は何処か、解放されたかのように清々しかった。
友奈(if)「…向こうに帰らなくていいの、樹ちゃん。」
友奈(if)は椅子に座って棒付きのキャンディを咥えている樹(if)に話しかける。その問いかけに天井を見つめながらため息を吐いた。
樹(if)「帰ってもどやされるだけだよ、帰りたくない。」
友奈(if)「無許可で異世界にやってきた事は確かに褒められた事じゃないよね。向こうは今どんな感じ?。」
その質問に、少し暗い表情をする樹(if)。
樹(if)「…殺伐としてるよ。高天原とヤマザクラ、そしてアルビオンは"神"が消えたあの世界の体制をどうにかする為に同盟関係にある。これは、後でソラ達にも言おうと思ってたけど……アンダーグ帝国が可能性世界で活発に行動をしてる…それはアイツらの皇帝「カイゼリン・アンダーグ」がやって来たからだ。そのせいで、可能性世界の三大勢力とアンダーグ帝国がバチバチに睨み合ってるんだよね…須美さんは新たな戦いの予兆って言ってたよ。」
それを聞いて、友奈(if)は深刻な顔をする。
友奈(if)「アンダーグ帝国…こっち側のソラちゃん達の敵…「向こう」には存在しなかった闇の勢力がなんで……。」
樹(if)「決まってんじゃん、あの世界は「こっち側」の可能性が色濃く出てるんだよ?。奪うつもりなんだ……可能性世界を。「こっち側」は"無"が大暴れしてるからね、この混乱に乗じて…ってやつじゃない?。」
奪う…アンダーグ帝国が?でも、何のために?。
その質問に対する樹(if)の答えは「わからない」だった。
樹(if)「アイツらの考えてる事なんて分かるわけないし…まぁ、あのカイゼリンって奴…相当な憎悪を抱えてる感じがする。あの憎悪は可能性世界に根付く闇を活性化させる要因にもなってるから看過出来ないんだよね…幸い、勇者システムの権限が返って来たから夏凛さんを初め、防人部隊が何とかしてくれると思うけど………まぁ今はその話を伏せとく事にするよ。何せ、今日は"祝い事"なんだしさ?。」
そう言って、楽しむ一同を見る。友奈(if)も理解したのか「そうだね」とだけ返事を返してそれ以上は言及しなかった。
そして………。
友奈「風先輩ッ!樹ちゃんッッ!!。」
ーおかえりっっ!!ー。
そう言って、クラッカーを鳴らす。2人は感極まって涙目になるが、ここは喜ぶところと言わんばかりに堪える。
友奈「少し遅れたけど、これはましろちゃんの「おかえりなさい会」でもあるんだよ?。」
ましろ「え…私の……?。」
風「まぁ、あんたと入れ替わる形で私たちも抜けちゃったし…ほら、あんたも"主役"って事よ、ましろ?。」
戸惑うましろの腕を引っ張って抱き締める風。ましろはその暖かさに身を委ねるように御礼を言う。
あげは「………長かったね、全員が揃うこの瞬間までが。」
料理を置いて、思わず涙をボロボロと落とすあげは。
今まで泣かなかった彼女がこの光景を見て、これまでの思いが込み上げて来たのか堪えていた思いが爆発した。
風「……本当にごめんなさい、あげはさん。もしかしたら、貴女が一番辛かったのかもしれませんね…年長者だししっかりしなきゃってそう思って…。」
ましろ「あげはちゃん…。」
樹「私も…ごめんなさい。自分の身勝手でここまで迷惑を掛けて…それに……。」
烈火「おいおい、湿っぽいのは無しだって言ったろ?もういいんだよ、今日は誰も謝らない日ッ!今からそう決めるッッ!。」
この空気を崩す為に、敢えて声を上げる烈火。その様子に全員が"笑った"。
ソラ「あははは、なんですかその記念日は!。」
園子(さすがだね、れっかん…そうだ、私も…前を向かなくちゃね…!。)
園子「フーミン先輩、いっつん。勇者部…もう一回やり直そうね?。やっぱり、私は部長には向かないや。だって勇者部は…犬吠埼姉妹が率いてからこそ、だもんッ!。」
いつものような笑みを浮かべる園子。それを見て、東郷は少し安心した。
蒼葉「…お前のデリカシーの無さがここまで場を和ませるなんてな、烈火。」
烈火「うるせー"幸せもん"っ!。樹を泣かしたら承知しねェからな?。」
樹「なっ…れ、烈火さんッ!?。」
蒼葉「分かってる。俺が守ると決めたんだ、心配するな。」
そう言われて顔を赤らめた樹。蒼葉も少し照れ臭かったのか、互いに俯いた。
あげは「…はは、初々しくていいね?。うん、幸せはこうでなくっちゃッ!!。」
トーヤ(幸せ……か。)
並べられた料理に手を伸ばして食べるトーヤ。無表情ながらも、その様子を見ていた。
鷹夜「お前は…ソラシド市ぶりか。その…リオンさんの事は残念だったな…。」
トーヤ「…師匠は英霊になった。誇りある事だ、お前が気にする必要は無い。」
鷹夜「そっか、お前が先輩を支えてくれてたんだろ?。1人だったら折れてたかもしれねェ、ああ見えて先輩は…メンタルが弱ェからな。」
トーヤ「俺は何もしていない。今回のことはアイツが自分自身で掴んだ結末だ、俺はただ見届けただけ…学ばせて貰ったのは俺の方だ。」
ソラ「トーヤさんと言いましたね、これ……青の護衛隊時代にリオンさんが付けていた「勲章」らしいです。」
そう言って、トーヤに翼の形をした勲章を手渡すソラ。
ソラ「シャララ隊長ですら、その勲章は手にしていません。とても、偉大な方だったようです。私は彼の事はそこまで知りませんでしたから…でも、護衛隊にとっては今も「伝説」と言われています。これはあの人が護衛隊を辞める時に返還されたらしく、王様から貴方に渡して欲しいと頼まれたものです。リオンさんが最も目に掛けた一番弟子である貴方に…っと。」
ツバサ「僕たち"プニバード族"でもリオンさんの名声は何度も聞いたことがあります。あの人が村に来るたびに歓迎されていました、僕も小さい頃…勇気を貰いましたから。」
トーヤ「…群青の翼……そうか…師匠は流浪のついでにそこに居る者達に勇気を与えていたのだな…俺がそうであったように……礼を言う、ソラ・ハレワタールに夕凪ツバサ。これは、俺と師匠を繋ぎ止める"絆"なのかもしれない。お前達が師匠を覚えてくれているのなら…あの人の魂はまだ生きている事になる。それを教えてくれて…ありがとう。」
そう言って、自分の服の胸部分にその勲章を付ける。そして、胸に手を当てて瞳を閉じる。それは黙祷のようで、そして…"誓い"を交わすように心の中でリオンを思う。
風(トーヤ…良かったね、本当に…。)
夏凛「ねェあんた…アイツの事、随分と気に入ってるようだけど……好きなの?。」
風「へ…は…はぁッ!?何言ってんの、そそそ…そんなわけッ!!。」
芽吹「確かに、あのストイックな姿勢は私も思うところがあるわ。今度、彼に手合わせしてもらおうかしら。」
夏凛「待ちなさい、それ私が先に思ってたんだけど?。英雄の剣技を使う奴と手合わせすればきっと今よりも強くなる…ッ!。」
風「ちょ…待ちなさいってのッ!。あんた達のような鍛錬バカの好きにはさせないんだからねッ!?。そんなことより、トーヤはもっと学ぶことがあるんだからっ!。」
夏凛「はいはい、必死な事で。」
風「んなぁああッ!?。」
千景(いいわね…こういうのも。)
昔なら、煩わしいと思っていたこの喧騒も今は心地よく感じる。千景はエルを膝に乗せながら鷹夜の作ったケーキを食べてそう思っていた。
千景「美味しッ!。何これ、本当に藍葉さんが作ったの…!?。」
鷹夜「どんだけ信用されてねェんだよ、俺は。」
烈火「似合わェからに決まってんだろ?。喧嘩に明け暮れた不良少年が女子力モリモリなスイーツ作れるなんて誰も思わねェだろ?。」
鷹夜「誰が不良少年だッ!。お前だけには言われたくねェよ、このサボり魔野郎っ!。」
烈火「それは褒め言葉なのさ、この勝負は俺の勝ちだな?鷹夜?。」
鷹夜「何の勝負だよ…全く……。」
烈火「まぁでも、「報われる」ってこう言う事なのかもなぁ。」
そう言いながら、ケーキを頬張る烈火。
烈火の言う通り、まさにそうだった……これまでの旅が「報われた」気がする。
全ての始まりはお互いの世界で起きた異変からだった…でもその全てに繋がっていたのは"無"という存在。
ましろの事にしても、樹の事にしてもその全てに対して裏で糸を引いていたのは"無"だ。
「劇団」を作り出したアデルもまたその"無"の一部だった。ここまで随分長かった…失ったものも多いだろう。だが、それと同じくらい"取り返せた"ものもある。
だからこそ、もう失うわけにはいかないし誰かが涙を流すこともさせてはいけない。こうして、笑い合える日常が欲しいから頑張れる…仲間達と一緒に駆け抜ける事が出来る。
自分達はまだまだ子供だ、大人のように割り切る事も出来ないし冷静にもなれない。だから、感情を優先して動いてしまうだろう。
でも、今はそれでいいのかもしれない……感情のままに動き続けて来たからこそ、今のような光景を取り戻せたのだ。
だからこそ、今度はそれを溢さないようにしなければならない…一度溢れたものを手探りで掬い上げた今、二度と手放さないように守らなければならない。
「おかえり」という言葉はとてもいい…だがそれは、悲しみの上に立つ「おかえり」ではなく、全員で生き残りそして…笑って迎えられる「おかえり」を意味する。
今までの「おかえり」は悲しみと苦悩の末に告げられた言葉だった……でも今度は…笑って迎えられる「おかえり」でありたい。
これからも困難が待ち受けている事だろう、そして大きな壁だって。
でも…それでも、全員で足並みを揃えて必ずその壁を乗り越えてみせる。誰1人として欠ける事もなく、誰1人として遅れる事もなく。繋いだ絆と共に。
そして、願う……笑い合えるこんな毎日が、続きますように……と…。
………………………………end。
長い時間を経て、希望達は集結した。
この小さな光が巨大な闇に立ち向かっていく…人々の祈りを乗せて。そして…自分達の未来のために。
その頃、ソラシド市では大きな混乱が起きていた。
銀率いる「シン・バーテックス」が出現、世界を壊すために本格的に動き出す。
対するのは残った雀達とシャララ。しかし、その圧倒的な物量差故に劣勢へと追い込まれる。雀は恐怖を押し殺し、命を賭けて大切な人の街を守るために立ち向かう。
そして、無情にも迫り来る死の瞬間…その時、異世界から1人の少女が姿を現す…。
次回
第139話 その名は"キュアシュプリーム"。