〜ひろプリ×勇者であるシリーズ〜世界の壁を超えた出会い 作:やままん
千景に思いが届かなかった園子とスレイヤー、スカイ、バタフライは戦闘不能に陥る。
残されたのは友奈と烈火。
戦いの中、各々の思いを吐きながらぶつかり合うも、その思いが交差してしまう。
だから、烈火はこうする事にした…
ーこっから先はただの姉弟喧嘩だッ!。世界のことは一旦そこに置いておくッ!!ー
高嶋友奈の「切り札」である「酒呑童子」を降霊させた烈火。
「満開」に近い力であるそれは、神々しさより…禍々しさが際立つ。
大型メイスを担ぎ、気迫を示すその姿をまさに「鬼」。
低い声色で、烈火は友奈に声をかける。
烈火(酒呑童子)「すまねェな友奈。少しの間だけでいい…コイツと喧嘩させてくれ。言っても聞かねェなら殴り合いしかねェだろ。これは…家族の問題だ。」
友奈「うん、わかった…。」
烈火(酒呑童子)「ちゃんと見守っててくれ?。大丈夫、俺ならやれる…。」
千景「その力、高嶋さんの…そう…貴方、それを使う意味をわかってる?。」
烈火(酒呑童子)「わかってるさ、こうまでしねェと全力でぶつかれねェ。いくぞ…姉貴ィイイイイイイッッ!。」
床を陥没させるほどの踏み込み。
その突進力は強化されており、両手で掴む大型メイスを全力で振るう。
受けることすら危険と判断した千景は咄嗟に回避。空を切るも、その余波で吹き飛ばされてしまう。
千景「ぐぅ…ッ!?。」
烈火(酒呑童子)「どこまで言ってもお前は俺の姉貴で俺はお前の弟だッ!。西暦時代で約束しただろうがッ!!。」
千景「そんな昔の話…ッ!!。」
烈火の猛攻撃を回避しながら、千景は鎌を横薙ぎに振るう。
だが烈火は、片手で刃を受け止めては千景の動きを制する。
烈火(酒呑童子)「あの日、諏訪で交わした握手…俺はそれを実現する…俺達はまた…家族に戻れるってッ!。」
千景「だから必要ないと…ッ!。」
体を反転させて回し蹴りで烈火の頬を蹴り抜く千景。
たまらず烈火は仰け反る。
千景「愛されないなら要らないのよッ!。私は自分しか信じない…今度こそ、愛されるためにッ!。」
烈火(酒呑童子)「家族だから愛してるに決まってんだろッ!!。俺は姉貴が必要なんだよッ!。来年は受験だ、このままじゃ高校にも行けねぇほどバカなんだッッ!だから教えてくれよッ!俺に勉強を教えてくれよッッ!。」
弟としての言葉を訴え続ける烈火。
その思いは最早、世界の事なんて眼中になかった。
目の前にいる「家族」とただ、家に帰りたい。
たったそれだけ…その思いで烈火はここに来た。
ここで意地を通さなければ、二度と帰って来ない…姉を愛しているからこそ、烈火は弟として向き合う。
千景「もうやめて…語りかけて来ないでッ!!。貴方の存在そのものがノイズなのよ…私は郡千景…菱咲焔華じゃない…貴方の本当の「姉」は…菱咲焔華よッ!。」
烈火(酒呑童子)「うるせぇ!俺の姉は菱咲焔華であり…郡千景でもあるッ!!。」
酒呑童子のパワーは凄まじく、また、元々防御性能が高い<擬似勇者外装>に加味されて防御性能も格段に強化されていた。
千景の斬撃を受けながらも、傷一つ負わずに烈火はひたすらに突っ込んで行く。
烈火(酒呑童子)「何百年前の人間だろうが、他所の世界から来た人間であろうが俺達が過ごした時間は本物だッ!。今でもずっと覚えてるッ!。ちっせぇ頃におやつの金落として泣いてた俺に、姉貴は自分の小遣いから出しておやつ買ってくれたよなッ!?。自分の分が買えなくても…俺が泣き止んだら笑ってくれたよなッ!?。ずっと覚えてるんだよッ!!。」
攻撃の手を緩めない烈火は語りかけながら千景を攻めていく。
過去の思い出を語りながら、そして何より…愛している「家族」の為に。
そしてそれは、千景の脳裏にもフラッシュバックされる。
千景(…そんな昔の事まで…私は忘れかけていたというのに…あの笑顔だって…作り笑いかもしれないのに…。)
烈火(酒呑童子)「父ちゃんと母ちゃんが仕事で全然帰ってこねェ時も…本当は学校の友達と遊びたかっただろうに…俺の相手をよくしてくれたよなッ!?。そのお陰で俺、何も寂しくなかったんだよッ!。姉貴がずっと側に居てくれたから何も寂しくなかったッ!!。」
その時、友奈は見た。
攻撃を繰り出しながら烈火が…泣いている事に。
涙を流しながら、ただ純粋な思いをぶつけている烈火に。
泣いた事なんて一度も見なかった…だがそれが今は…たった1人の家族を取り戻すだけのために流す涙。
そして…ただ純粋に「弟」として…。
千景「烈火…ッ!!。」
その時、千景の中の「黒いもの」が脳裏に語りかける。
ー油断しないで、これは…貴女を欺く為の演技よ?ー
千景(え…何…を…?。)
ー考えても見て?貴女が心を許す度に去っていった人達のこと…誰も認めてくれなかった…結局は、自分が助かりたいだけの為に利用していたこと…思い出しなさい…土居さんと伊予島さんが死んだあの日の事…自分達に危険が及んだ時に手のひらを返してきたあの連中のことー
千景(ぁ…そうだ…私の力に勝手に期待して…私を見てたんじゃない…あれは…自分が死にたくないから…。)
ーそう。あの弟と騙る奴も貴女の為と言いながら、結局は世界の為なのよ?。貴女が振り撒く怨嗟が止められれば、あの空の上の世界の闇も勢いを失う…これは、策なのよ?。騙されないで…貴女が本当に成したいことは何?。一時の感情に飲み込まれないで…せっかく、蘇ったのなら出来なかったことを目一杯やればいいわ。私は…貴女の「怨嗟」なのだからー
千景「フフ…フフフ…そうね…そうだったわ…私としたことが…。」
様子のおかしい千景に、烈火は攻撃の手を止めた。
手を出すことを止められていた友奈もその異常に駆けつける。
千景「ねェ烈火?。本当に私を愛してくれてるの?。」
烈火(酒呑童子)「当たり前だろッ!。家族じゃねェかッ!。」
千景「なら、私の目的に寄り添って?。この世界…いえ、全ての世界をこの手に収めるの。そして…私と言う存在が必要不可欠になる世界…怨嗟を受けて生きる私に感謝する世界にするの。ねェ…手伝って?。」
友奈(この様子…この間と同じだ…千景さんの中の「怨嗟」がおかしくしてる…!。)
烈火(酒呑童子)「ち…違う!。ダメだ姉貴ッ!。違うんだよ、そんなことしたらお前…ッ!。」
千景「…やっぱりね…嘘つき。」
その瞬間、烈火の身体がズタズタに切り裂かれた。
たまらず大型メイスを離す烈火。それと同時に、「酒呑童子」の膨大な力で悲鳴を上げた身体のダメージが一気に襲いくる。
烈火(酒呑童子)「がはぁ…ッ…くっ……じ…時間が…ッ…!!。」
友奈「ッ…千景さんッ!!。ダメェエエエエッッ!!。」
あの瞬間…そう、「怨嗟」が「狂気」に変わる瞬間。
人としての一線を超えてしまう瞬間…千景は…それに呑まれてしまった。
千景「やっぱり裏切るのよ…そう…だから要らない…烈火…少しだけ信じそうになったけどやっぱり貴方の声も私には…届かない。」
狂気が渦巻き、千景の<擬似勇者外装>も変貌を遂げる。
そう…かつての勇者の力を取り込んだ<完全勇者外装>へと進化して。
千景「来なさい… 「七人御先」。」
「切り札」を発現し、「七人御先」を降霊させて千景。
フードを被り、死装束のような衣装を纏った七人の分身体が2人を取り囲む。
千景(七人御先)「…結局は誰も愛してくれない…認めてくれない…讃えてくれない…誰も、私を見ない…昔のように…ゴミのような目で私を見ては…傷付ける…そう…私はもう…1人でいい。」
流す一筋の血涙。
その瞬間、分身体が友奈と烈火に襲いかかる。
たまらず、友奈は「満開」を発動。巨大化したアームユニットで分身達の攻撃を防ぐ。
友奈(満開)「千景さんが…「狂気」に呑まれちゃった…!。」
烈火(酒呑童子)「狂気だと…まさか姉貴…自分の中の狂気に支配されて…くっ…そうだったのか…そう言うことだったのか…じゃあ…姉貴の本心は…!。」
烈火は歯を食いしばり、力を込める。
その瞬間、6人の分身体が一斉に襲いかかって来て。
烈火(酒呑童子)「姉貴は…苦しんでる…自分の中の抑えられねェ狂気にいいように利用されて…くっ…もういいだろうが…これ以上、姉貴を苦しめるもんなんて何も…ッ!。」
迎え討つように、烈火はメイスを構える。
そして…。
烈火(酒呑童子)「何もねェだろうがッッ!!。真迅雷ッッ!。」
空間ごと砕く勢いの横薙ぎを放って分身体を砕く。
しかし、本体が無事な限りは何度だって再生する千景の「切り札」はとても強力で。
友奈(満開)「ッ…分身に邪魔をされて本人に近付けない…ッ!。」
千景(七人御先)「フフフ…全て消えてしまえばいい。」
不敵に笑う千景。
だが、千景の苦しみを理解した2人の進撃は止まらない。
友奈(満開)「貴女は千景さんじゃないッ!。千景さんを苦しませている原因は「貴女」だッ!。」
千景の中に潜む「狂気」が露わになった状態…そう、これこそが怨嗟の正体だった。
千景は知らなかったのだ、知らぬ間に自らが生み出していた狂気に支配されていっていることが。
だが、今の千景は狂気そのもの…人格が変わったように振る舞うその姿勢…。
そう、千景は完全に狂気に支配されてしまった。
だが、そうと決まればやる事は一つしかない。
千景を狂気から解放する事。
友奈と烈火はただひたすらに、その一点のみを見つめていた。
烈火(酒呑童子)「お前が姉貴を狂わせてるッ!。そう、300年前に姉貴は怨嗟を手放そうとしていたッ!。」
友奈(満開)「だけど、これまでの恨み…いや、「切り札」による副作用で精神状態が不安定になった…その中で千景さんはまた、過去のトラウマが掘り起こされてしまって怨みの部分が強く残っちゃったんだッ!。」
千景(七人御先)「御名答ね。そう、私はただの「怨み」の部分よ…でも、増幅する怨嗟が「狂気」へと変わり、私は怨嗟を振りまく権化へと変わってしまった。でも、それでいいわ…この怨み無くして天へと召されない…私に迷いは必要ない。だから…狂気の部分である「私」がこうして出てきたんじゃない?。」
烈火(酒呑童子)「ならお前をぶっ倒して姉貴を縛る枷をここで断ち切ってやるッ!!。」
全力で振るう大型メイスは、千景の「七人御先」を5体撃破。
しかし、すぐに分身体は元に戻る。
それに加えて手数の多い千景は烈火と友奈を少しずつ追い込んでいく。
次第に体力を失っていく中、狂気の千景は薄ら笑いを浮かべる。
千景(七人御先)「フフフ…さぁ、300年越しの怨みを晴らしましょう。そして私は今度こそ…必要とされる存在になる。その為にはまず、貴方達から始末しましょう。」
烈火(酒呑童子)「クソ…がはっ…!!。」
烈火は突然、大量の吐血をする。
友奈(満開)「烈火君ッ!!。」
千景(七人御先)「そろそろ時間が来たようね?。「切り札」は人体的に負荷が大きすぎる…それに貴方は「擬似勇者」よ。純正の勇者である私とは勝手が違うのよ。」
一斉に飛びかかる「七人御先」の千景。
しかし、友奈が飛び込んできてその身体で斬撃を受け切った。
友奈(満開)「っうう…ッ…!?。」
千景(七人御先)「無謀な事を…庇う意味もないでしょう。命の散る順番が早まるだけよ?。」
友奈(満開)「それでも…私は守るよ…。」
ボトボトと落ちる血に、友奈は気にせずに力強い眼差しを向ける。
友奈(満開)「みんなで生きて帰るんだ…貴女も一緒に!。だから…!。」
友奈の身体から、淡い光が溢れ出す。
友奈(満開)「全部守って見せるッ!!。私は勇者だから…ッ!!。」
その力に、千景は歯を食いしばる。
それは怨嗟とは真逆の力…光に満ちた力。
そして、限界を突破した烈火が血に塗れながらも立ち上がる。
烈火(酒呑童子)「…そうさ…その為にここに来た…だから、俺たちの全力を以て…ッ!。」
ーお前(貴女)を取り戻すッッ!ー
…………………end。
思い出の数々を語りかけながら千景と対峙する烈火。
揺れ動く千景…だが、自らが抱え込んでいる狂気に呑まれてしまった千景。
こうなれば、全力を以て狂気に討ち勝たなければならない。
千景を取り戻す為、友奈と烈火は限界を突破した一撃で立ち向かう…!。
次回
<第2部・怨嗟の勇者編 最終話>
第81話 郡千景は勇者であった・急。