〜ひろプリ×勇者であるシリーズ〜世界の壁を超えた出会い 作:やままん
揺れ動く千景。
しかし、狂気に満ちた人格が彼女を支配していた事実に気付く友奈と烈火。
狂気に呑まれた千景を救うべく、2人は最後の一撃に全てを賭ける。
たった1人の家族のため…哀しみから救うため…2人の思いが今、炸裂する…!。
烈火(酒呑童子)「姉貴…俺達は…この一撃に全てを賭ける…ッ!。」
満身創痍の友奈と烈火。
2人はこの世界に残った神樹の残滓を身に纏っていた。
友奈(満開)「これが通じなかったら…貴女の勝ちです、千景さん!。でも…ッ!。」
烈火(酒呑童子)「負けねェさッ!。怨嗟ごと断ち切って、この先にある未来に突き進むんだッ!。お前も一緒にッ!!。」
千景(七人御先)「そう…なら、私はあなた達が語り掛けてくるその陳腐な救済論を切り刻んであげるわ。」
狂気の力が膨張し、「七人御先」は全て本体である千景に結集。
比較にならないほどの力が溢れ出ては、手に持つ鎌が巨大化する。
千景(七人御先)「鏖殺してあげる…消えなさい…私を惑わす者達…ッ!!。」
これまでの恨み…300年募らせて来た怨みを乗せた一撃を繰り出す千景。
そこには、哀しみと怒り…そして、思い出が含まれたように感じる。
空間を揺るがすほどの威圧感…千景は全てを賭けてきた。
友奈(満開)「…負けちゃったら、死んじゃうね私達。」
烈火(酒呑童子)「流石にこれは塵になっちまうな…勝つか負けるか…それしかねェ。」
2人は手を繋ぐ。すると、烈火の大型メイスが激しく輝く。
烈火(酒呑童子)「ま…そんときゃそん時だ。ダメだったと諦めるしかねェ!。」
友奈(満開)「アハハ…死にたくないけど、千景さんの思いを受け止める為に今は命なんて気にしてられないよね?。勝とう…私と烈火君で千景さんを救うんだ…ッ!。」
烈火(酒呑童子)「ああッ!。行くぞ姉貴…いや…姉ちゃんッ!!。」
巨大化した大型メイスを友奈と烈火が手にする。
そして、千景もそれを打ち砕くべく先に仕掛けてくる。
千景(七人御先)「さようならッ!。これで私は…今度こそ「勇者」になれるッ!。」
烈火(酒呑童子)「この際、勇者がどうかなんてどうでもいいだろうがッ!。全部に愛されなくても、誰かが愛してくれりゃそれでいいじゃねェかッ!そして、愛してくれる奴はここにいるッ!お前の目の前にしっかりといるんだよッ!。」
友奈(満開)「自分も幸せであること…私が学んだ事です…そして今度はそれを…千景さんに教えてあげますッ!!。」
ー桜花雷霆ッッ!!ー
両者の最後の一撃が激突する。
その余波は四国中に巡り、停止した星に巨大な風が吹き荒れる。
その様子は下層にいる一同にも理解できた。
これが最後の一撃…千景の恨みが勝つか、2人の思いが勝つか…それしかない。
今まで感じたことのない負荷が友奈と烈火に襲い掛かる。
身体が砕けそうな負荷…身体の節々が悲鳴を上げる。
それは千景も同様で、血涙を流しながらも2人の一撃を押し返そうと力を込めてくる。
徐々に押し返されてくる…千景の抱く怨嗟の重さを実感できるほどに。
きっと、ここには千景の思いが全て結集されている…それほど重いものだ。300年という、途方もない時を経て育て上げられた怨嗟…その全てを込めた一撃はとても重たすぎて。
たった1人でこの力…負けそうになる…自分たちの攻撃を含めた千景の一撃が迫り来る。
千景(七人御先)「アッハハハハ!。私の勝ちねッ!?。所詮、あなた達ではこの恨みを受け切れることなんて出来ないのよッ!。これが300年も晴らせなかった私の恨みよ。思い知れ…この哀しみを…怒りを…ッ!!。」
さらに力を込めてくる千景。とてつもない狂気が辺りに蔓延する。
だが…。
ーダメだよ、ぐんちゃん。人を恨みたい気持ちはわかる…けど、それだと一番悲しいのは…貴女なんだよ、ぐんちゃん?ー
押し返されそうになる中、高嶋友奈が現れて2人に力を貸す。
すると、嘘のような力が溢れ出しては逆に押し返し始めた。
千景(七人御先)「高嶋さんッ!?。やっぱり貴女も…ッ!。」
ー違うよぐんちゃん?。300年後のこの世界では、ぐんちゃんを蔑む人なんて居ないんだよ?。こんな事をしてしまえば、誰かがぐんちゃんを恨んじゃう…私はね…今度こそ幸せになってほしいんだ?。ぐんちゃんに…ー
千景(七人御先)「幸せ…?。そんなものを求めたってどうせ…また溢れていくだけなのよッ!!。それならもう…恨みに塗れたまま生きる方が楽よ…幸せという呪縛が私を…!。」
烈火(酒呑童子)「それは違ェぞ姉ちゃんッ!!。諦めんなッ!。幸せなんてもんはよ、求めて手に入れるものじゃねェッ!。いつか必ず、全員が手にすることができるもんなんだよッ!!。」
友奈(満開)「そうッ!。もう一度、生き返ったならそのチャンスを与えてくれたんだッ!!。きっと、それは高嶋さんの思いだと思うッ!!。千景さんに幸せになってほしい…大切な友達がずっと泣いてたから…今度こそって…ッ!!。」
千景(七人御先)「そんな綺麗事ッ…!!。」
怨嗟の力が膨れ上がる。だが、友奈と烈火の一撃を捲り上げるには何の役にも立たなかった。
眼前に迫る2人の一撃…全てを出し尽くした千景は目を閉じて…。
…………………………。
暗い…何も聞こえない…ここはどこ…?。
…そうか…私は…負けたんだ……。
…結局、生き返ってもこうだった…私は…誰からも必要とされていない…私は、価値の無い人間…いくら、頑張ったって何も報われない…こんな事なら…生き返らなきゃ良かった…また、こんな思いをするくらいなら…あのまま死んでいた方がマシだった。
ー千景ー
…蒼い烏?。それにこの声は…乃木さん…?。
ー千景…そんな事を言わないでくれー
ねェ乃木さん…私、貴女みたいにはなれなかった。ちょっとだけ、真似事をしてみたの…大きな組織を束ねてみれば、貴女みたいになれるかもしれないって。けど…なれなかったわ。何故でしょうね…きっと…器が違うからかな…。
ーそんな事はない。私はお前達が居たから戦えた…世界を救って仲間も救う…たったそれだけだった。すまない…私の力不足でお前の名を後世に残せなかった…ー
ううん…貴女は頑張ってくれたわ。それだけでいいの、悪いのは私…そして、今回も…世界から必要とされていないのなら、このまま消えるわ。だから…みんな、もう私を忘れて。
ーダメだよぐんちゃんッ!。そんなこと言っちゃダメッ!ー
高嶋…さん?。ごめんなさい…私、貴女の気持ちを考えずに酷い事を言ってしまった…狂気に負けていたとはいえ、取り返しのつかない事をしてしまったわ…。
ー違うよぐんちゃん…まだ戻れる…貴女にはちゃんと肉体がある…紛れも無い、本物の肉体…だからここに来ちゃダメだよー
…貴女達の所にも行かないわ。世界が私を忘れるまで…違うところにいく。誰も居ない世界に…だから…。
ー相変わらず、千景は暗いなぁ?。そんなところに行ったって、何も楽しく無いのに…ー
ーそうですよ?。貴女は「生きている」。今度こそ…生きてください。私達の分まで…ー
土居さん…伊予島さん…ごめんなさい…貴女達の事、悪く言われて私は…。
ーありがとな?。すっごく嬉しかったッ!。タマ達の事、守ってくれたんだろ?ー
ーあんなに怒ってくれた事はちゃんと見ていましたよ?。やっぱり、貴女はすごく優しい人です。こちらこそごめんなさい。私達のせいで貴女の精神をおかしくしてしまった…でも、それと同時に感謝してます。私とタマっち先輩の死を悲しんでくれて…それを罵倒する人に怒ってくれたー
ぁ……そんな……私は……。
ーやり方は間違っていたが、お前は球子と杏の名誉を守ったんだ。それがお前の優しさ…そこに気付いていないとでも思ったか?ー
………………………。
その時、世界が晴れて…300年越しに初代勇者達がそこに集まっていた。
若葉「千景、今度こそ手に入れて来い。お前自身の幸せを。」
友奈(高嶋)「そっ!。ぐんちゃんならきっと大丈夫ッ!だって、ぐんちゃんを思ってくれる人がちゃんといるんだもんッ!。」
球子「お前の道はあっちだ!。あの綺麗な道ッ!。」
杏「ほら、お迎えが来ましたよ?。」
視線の先、そこには幼少期の烈火が立っていた。
4人に背中を押された千景。振り向くと、笑顔を向けたまま4人は薄れていく。
千景「乃木さん…高嶋さん…土居さん…伊代島さんッ…!。」
若葉「さよならだ、千景。次に会うときはお前が天寿を全うした時。」
友奈(高嶋)「うんうん!。だから…「またね」!?。」
球子「いい土産話を聞かせてくれよッ!?。これからきっと、楽しい人生だからッ!。」
杏「貴女に幸あれ…。」
4人は今度こそ完全に消滅。残った友奈(高嶋)の魂も天に召された。
大切な仲間の別れに、千景は大粒の涙を落とす。
その時、小さな烈火が手を握ってくる。
烈火(幼少期)「帰ろ、姉ちゃん!。」
千景「あ………。」
戸惑いながらも、烈火に手を引かれて夕暮れの海岸を歩く2人。
夕陽に照らされながらも、千景は手を引かれながらも歩いていく。
烈火(幼少期)「なあ姉ちゃん、ほらこれッ!。」
ポケットから取り出したのは、一粒の飴玉。
それを千景に渡す烈火はニコッと笑う。
烈火(幼少期)「へへ、こないだのお返しッ!。おやつ買ってくれただろ、だから!。」
受け取った千景は、烈火に促されその飴玉を口に運ぶ。
その瞬間、ドッと感情が込み上げてきて泣き崩れてしまう。
千景「ああ…あああ!。烈火…ごめんなさい……ごめんね…ッ!。」
烈火(幼少期)「泣かないでくれよ姉ちゃん。俺、お礼をしただけだぞ?。」
ポンポンと、泣き崩れる千景の頭を撫でる烈火。
しばらく泣き続けた千景に、小さな烈火はずっとその場で頭を撫で続けていた。
そして……。
烈火(幼少期)「だいじょうぶか?。」
千景「…ええ、ごめんなさい。」
烈火(幼少期)「姉ちゃん、謝ってばっかだなぁ?。」
烈火は手を取って走るように先に進む。
それにつられ、千景も駆け足になる。
烈火(幼少期)「父ちゃんと母ちゃん。なかなか帰って来ないけど俺、寂しくないからッ!。だって、姉ちゃんがいるんだッ!だから、全然寂しくないッ!。」
千景「烈火…。」
烈火(幼少期)「姉ちゃんも俺を気にせずに遊べばいいよ!。」
千景「…ええ、わかったわ。」
烈火(幼少期)「あの歌を歌ってくれよ、俺…あれを聞くともっと元気になるんだッ!!。」
千景「…もう…仕方ないわね…。」
微笑を浮かべた千景は、とても透き通った声で歌を歌い始める。
それは、夕陽に照らされた海岸線に響き渡るくらいとても綺麗な歌声で。
………………………………。
ゆっくりと、眉を開く千景。
いつの間にか晴れていたのか、止んだ雨の後は綺麗な夕陽が照らされていた。
この世界の時間は止まっている…にも関わらず、雨が降り夕陽が登る。
きっとこれは、神樹の残滓が見せている幻なのかもしれない…未だに朦朧とする意識の中、千景はそう思う。
視界に映るのは、倒れている自分の隣に胡座をかいて空を見る烈火。
あの夢から目を覚ました千景は、か細い声で彼の名を呼ぶ。
千景「…烈火…?。」
烈火「よう、姉ちゃん。」
「酒呑童子」の影響で、烈火の左耳の聴覚と右手の視力は失ってしまっていた。それでも、烈火は気にする事なく千景に目を向ける。
千景「…夢を…見ていたわ。昔、夕陽に照らされた海岸で2人で家に帰ってた時の夢…。」
烈火「…ああ…あの歌を歌ってくれた時の。」
千景「覚えてるのね…やっぱり。」
烈火「俺も同じ夢を見てたさ。やっぱり、俺らの絆ってそこだと思ったさ。」
一息ついて、烈火は再び言葉を発する。
烈火「…俺ら、また家族に戻れるかな?。」
千景「…わからないわ。けど…戻れるように、私は…生きていきたいと思う。」
その答えに、烈火は静かに涙を落とす。
やっと、通じたその思い…長かった、本当に長かった。やっと本当の意味で…家族に戻れた。
千景「…私も…託されたから、みんなに。だから…みんなの分まで生きてみようと思う。誰にも見られなくてもいい…だって、貴方達が私を見てくれてるんだもの。それでいいのよ…だから…生きるわ。生きて生きて…幸せを手にして見せる。」
千景「だから烈火…これからも私を…姉として見ていてほしい。いいかしら?。」
烈火「はっ…最初っからそうしてるっての。姉ちゃん?。」
瞳に光を取り戻した千景のその笑みはとても美しくて、儚さがありながらも前を向いた表情へと変わっていた。
2人の邪魔をしないよう、友奈は遠目からその様子を見て笑みを浮かべる。そして……。
アグニ「…なぁんだ、俺が来なくてもちゃんと終わったじゃねェか。がんばったな…お前ら…。」
駆けつけたアグニは階段の隅でその様子を見届けて、小さな声でそう告げた。
初代勇者・郡千景は現代に蘇り、「菱咲焔華」として再び生を受けた。
300年もの長い間、抱えた怨嗟は前を向いた彼女の意思により消滅し、そして郡千景は現代で生きる選択を選んだのだ。
郡千景は勇者であった…300年前、自分が死んだ時に若葉が世に訴えてくれたこと。
今は本当の勇者ではないのかもしれない…それでも、彼女は必要とされている。
千景(…乃木さん、高嶋さん、土居さん、伊予島さん。私、生きて見せるわ。罪を償いながらも、生きて見せる。だから、見守っていて?。もう私は…大丈夫だから……。)
ー私に愛をくれてありがとう。必要としてくれてありがとう。私は…貴女たちに取って価値のある存在で良かったわ。だから…ちゃんと前を向いていく。安心して…私、郡千景は…今度こそ「勇者」になるー
…………………end。
遂に千景に思いが届いた。
しかし、彼女のした事は世界にとっては罪深きもの…それでも、千景はちゃんと罪と向き合いながら生きていく事を決めた。
本当の家族に戻れた事…それは何よりも代え難い事実。
すれ違った2人の姉弟は今度こそ、向き合い生きていく。
そして、舞台は次に移る。
今度は「ソラシド市」で起きている異変…一同の戦いはまだ終わらない。
次回
<第3部・天空の絆編>
第82話 激動のソラシド市。