〜ひろプリ×勇者であるシリーズ〜世界の壁を超えた出会い 作:やままん
ソラシド市に帰還した一行は、そこに待ち受けていたアデルと対峙。
彼の正体と、あの時の敗走から時間を止めた「自分達の時間」を進めるため、これまでの旅で培って来たものを全力でぶつけ、見事にアデルを撃退した。
ある日、樹は物思いに耽っていた。
それは、行方をくらました東郷と蒼葉の事。
蒼葉に密かな想いを募らせる樹は悩んでいたのだった…。
…私は、恋をしています。
ある日、突然転校して来た人…歳は一つ上…友奈さん達と同じ学年の人。いつも、屋上で烈火さんとサボってた人。大きな秘密を抱えてて、みんなに疑われていた人。
そして…私を励ましてくれた人。
頭が良くて、とても頼りになる人…でもどこか、危なっかしい人でもある。
何を考えているか、時々わからない時がある…でも、それでもあの人はいつだって「最適解」を見出していた。
でもあの人は…違う人を見ていた。
もう1人の東郷先輩。
過去に助けてもらった恩を返したくて、そのために時々無茶をする。
それが、好意でない事はわかる…だけど何故か、胸が苦しくなる。
私は、あの人の…蒼葉さんの事をあまり理解していなかった。
ただ、励ましてくれたこと…私の力を頼りにしてくれたあの時に、それが好意へと変わっただけのこと。
もっと、時間が欲しかった…知るための時間が欲しかった。
けどそれは、戦いの連続で叶わなかった。
もう一つの世界線へと飛ばされた時、あの人は私達を巻き込みたくないと自分達の世界の問題を話さなかった。
けど、それを聞いて私は…あの人の力になりたいとあの時、強く訴えた。
正直、あの時は私個人の気持ちが先行していた…だって、私はあの人の事が好きだから。
だから、役に立ちたかった…その背中に背負うものを一緒に背負いたかった。
この戦いが終われば…いや、時間を作って気持ちを伝えたかった。
けどそれは…叶わなかった。
どこに行ってしまったんだろう…東郷先輩と一緒に居なくなってしまった。
2人がとても心配だ…もしかしたら、別の世界に飛ばされてしまったのかもしれない。
でも私は…何も出来ない。
なんて無力なんだろう…あの人の為に、私はなんで何も出来ないのかな…。
いつもそんな事を……思っていた……。
………………………。
風「樹ッ!。」
樹「ふぇっ!?。お…お姉ちゃん!?。」
ソラシド市へとやって来た一同は、鷹夜の住む家に集まっていた。
何人かは、虹ヶ丘邸へと向かっていて。
突然の大声に驚く樹。
目の前には、手がつけられていない食事が広げられていた。
風「冷めるわよ、全く…。」
樹「ご…ごめんなさい…。」
烈火「ぼーっとしてたら全部食っちまうぞ?。」
頬張りながら、烈火はバクバクと食べていく。
鷹夜「人のを取ろうとしてんじゃねぇよ全く。気にすんな、このアホは俺が押さえつけとくから。」
樹「あ…いえ…。」
あげは「樹ちゃん、なんか最近元気ないけど…どうしたの?。」
樹「い…いえ!。戦い続きでしたから疲れちゃって…ごめんなさい、本当に何もありませんから!。」
そう言って、慌てて食べ始める樹。
だが、姉の風はそれが嘘だとすぐに見破っていたのだ。
流石に姉の目は欺けない…だが、風はその原因が何なのかは聞けなかった。
風(東郷と蒼葉が行方不明になってから、樹の様子がおかしい…もちろん、私達だって気持ちは同じだけど…なんだろう…こっちに来てから気持ちが沈んじゃってる。)
カーテンを開けて、聳え立つ禍々しい黒い大樹を見る風。
風(…あの大樹は「心の闇」に反応してるってアデルが言ってた…だとすれば、樹のあの状態は危険かもしれない…けど…それを聞いて本当にいいのかしら…?。)
悩む風。
作り笑いをしながら、話す樹を見て複雑な心境となる。
悩みは人の心の闇を育てる要因にもなる…だからこそ、樹の悩みをなんとかしなければならないと思う。
だが、そこに踏み込んでいい問題なのか?。そもそも、その悩みの深さを理解していない状態で聞いていい事なのか?。
いつもなら、聞ける状況にある…だが、こんな表情をする樹は初めて見た。
拒絶されたら…自分までどうかなりそうになる。
風は少し、臆病になっていたのだ。
風(こんな事じゃダメだ…姉として…家族として、樹の抱える悩みを理解してあげなきゃ…!。)
樹「お姉ちゃん?。」
風「なんでもないわ、さ…早く食べてしまいなさい?。」
…………………。
〜「劇場」〜
蓮「アデルの旦那がまさか、仮面を取るなんてな…。」
戻ってきたアデルを見て、全員は驚いていた。
何せ、仮面の下の顔は誰も見た事がない…そしてそれは、鷹夜と同じ顔だということ。
これも偽物だ。しかし、アデルは鷹夜の顔を維持する。
アデル「いやはや、驚きましたよ。皆さん、強くなってましたねェ。」
ナイアル「それが仮面を剥いだ理由か。」
アデル「いつまでも仮面のままだと流石に失礼でしょう?。まぁそれに…遅かれ早かれ私の「正体」については見破られていたでしょうから…もう1人の結城友奈さんにね。」
アリス「もう一つの世界線の元神…ね。あの子、勇者に変身しないのかしら?。そうなれば流石に疲れるのだけれど。」
アデル「彼女は「星神」としての役目が消えてからはその力さえ無くしましたよ。まぁ…超常的な感の鋭さは健在ですが…今の彼女は人に戻った身。ただ、我々の仕掛けについては色々と見破られそうですがねぇ…。」
ナイアル「闇の大樹がすくすくと育っている…後は、種を生み出せればこの世界の人間達の「心の闇」を解放させる事ができる。」
ソラシド市に聳え立つ漆黒の大樹の名前は「闇の大樹」。
人の心の闇を増幅させる「闇の種」を生み出す大樹…この大樹の生成にはまず、世界を闇に落とす必要がある…そこから生まれる人々の不安や畏怖がこの樹を作り出すのだ。
そして、そこから抽出される「闇の種」は人の心の闇を増幅させる。
そしてその闇が「闇の大樹」を育て上げ、星そのものを蝕むのだ。
ましろが「破滅の姫君」へと覚醒した際に発した「漆黒の蔦」はその大樹の一端。
それは、星の核に干渉して星そのものを止めてしまう。
だが、公転までは止まらない…星の生物は星が停止したことによりいつかは破滅を迎えてしまうが星そのものは死なない。
「劇団」が求めるものは「無」そのもの。
闇の大樹が成長した暁には、それが宇宙の理ですら蝕むものになる。
彼らの最終地点は…無限を司る宇宙の「無」。
それが意味するのは、宇宙が生み出す「可能性」の全てを殺すことになる。
そう…「劇団」は…「無」そのものだったのだ。
光も闇も…そして可能性も…。
「劇団」はその全てを「無」に変えようというのだ。
そんな時、アリスが口を開く。
アリス「少し、近道をしましょうか。」
アデル「ほう、近道…ですか。」
アリス「ええ、彼らがここに帰って来たのなら、障害になる。この計画の進行速度にも影響するでしょう。でも私、見たのよね…彼らの中にも特に「心の闇」を抱えてそうな子がいるのを。」
そう言って、一枚のカードを取り出したアリス。
そこに投影されたのは…樹だった。
アリス「この子、少しばかりだけど心に闇を抱えている。今度は私がいくわ。<スカウトマン>の仕事だからね…この一件は。」
そう言って、アリスは去っていく。
蓮「じゃあ、お手並み拝見といきましょうかね…。」
………………………。
樹は1人で外に出ていた。
誰にも行き先を告げずに…少し考え事をしたいからだった。
考えていたのはやはり…東郷と蒼葉の事。
樹(私は…何が出来るのだろう……私は…私は…。)
そんな悩みを抱えたまま、高台から街を見下ろす樹の元に。
アリス「ハロー、犬吠埼樹ちゃん?。」
鞭を片手に、アリスが現れる。
樹「あ…貴女は…!!。」
端末を取り出し、他の仲間を呼ぼうとする樹。しかし…。
樹(何もできない私でも…この人くらいは…!。)
変身する樹。
意を決して、アリスに挑む。
アリス「フフフ、血の気が多いこと。」
薄ら笑いを浮かべながら、アリスは樹の放つワイヤーを鞭で迎撃。
似たような得物を持つ2人の攻防が繰り広げられる。
アリス「1人で大丈夫なの、貴女…。」
樹「ッ…私は…!。」
右手を払うと、横薙ぎに振られたワイヤーが地面を削りながらアリスに向かっていく。
だが、体を逸らすだけで避けたアリスはその態勢のまま鞭を放ち、樹の左腕を拘束。
そのまま勢いよく振り上げて樹を地面に叩きつけた。
樹「ああ…ッ…!。」
あまりの衝撃に、肺の中の空気が一気に出る。呼吸を整えようとするが、手前に引かれた鞭に導かれるようにアリスの眼前にまで引き摺り出される。
やはり、自分は何もできない…。
引き摺られながら、そんな思いで心が満たされてしまう。
それを看破していたアリスは、不敵な笑みを浮かべる。
アリス「貴女は結果を残せない。何故なら…無力だから。」
樹「ッ…!!。」
アリス「でも悲観する事はないわ。貴女の周りが異常なだけ…人なんてそんなものよ。無力な人間の方が多い。」
樹「そんな…こと…ッ!。」
アリス「他の勇者を見てごらんなさい。皆、個々でやり切れる事はやりきっている…その証拠に「意思の華」を咲かせているのでしょう?。」
意思の華…人としての力で手にした「満開」。
まだ、開花していないのは自分と園子…しかし、園子は自ずとそこに向かえるだろう。
しかし、自分はどうなのか?。
大切な人の行方すら探せない…そして、他の勇者のように力強く戦えない…それに加え、この世界に来てから自分たちの止まった時間を進めるためにアデルに挑んだソラ達のような意思の強さもない。
自分には何があるのか…いや…何もない…強い人達の後ろでサポートをしているだけにしか過ぎない…そして何よりも…大切な人が消えたことに、どうすればいいのかがわからないままずっと悩み続けている…動くことすら出来ない。
その答えすらも思い浮かばない…。
樹の心はだんだんと…闇色に染まってくる。
不思議と涙も出ない…ただただ、突きつけられた現実に脱力していくだけ。
アリスはその隙を逃さなかった。
アリス「見えたわ…貴女の「心の闇」!。」
取り出したのは…「闇の種」。
ましろに埋め込まれたものとは少し違うが、アリスの狙い通りに樹は闇に染まっていく。
そしてそれが、埋め込まれようとしたその時…。
風「私の妹に…何してくれてんのよぉおおおお!!。」
アリス「!!!。」
大剣を振り翳してやって来た風は、アリスの頭上にいた。
たまらず避けたアリス。刀身が叩きつけられたその場所は深く陥没していた。
だが、樹はまだアリスの手中にある。
風「バカッ!。なんで1人で戦ったのよッ!。」
樹「お姉…ちゃん…。」
アリス「あらあら…お姉さんはどうやら、貴女の心の溝を理解していないようね?。」
風「何を…ッ!?。」
アリス「この子はずっと悩んでいたのよ。自分の無力さに…。」
風「え……。」
知らなかった…。
東郷と蒼葉が消えたあの日から、ずっとそんなことを考えていたなんて…。
否定したい…けど、掛けてあげる言葉が何も出ない。
そんな風を見て、アリスは続ける。
アリス「それに気付いてあげられない…貴女は大切な妹を守るだけであって、隣に立たそうとはしない…そんな思いが逆にこの子を傷付けていた…そしてそれは周りもそう。自分達に任せてこの子は後方に控えているだけでいい…華を持たせてあげなかったのは貴女達の責任よ。それに…想い人を助けたいのに自分に出来ることが全然わからないでいる。」
風「樹…あんたまさか…蒼葉を…!?。」
そっか…蒼葉が好きだから…それを助けるためにずっと悩んでいたんだ…。
いつもなら、こういうことに敏感なのに…なんで気付いてあげられなかったのか…それにずっと苦しんで…無理に笑って…でも、心の中ではずっと泣いていたんだ…。
そう思った風が、樹に手を伸ばそうとしたその時…樹は自分の意思でアリスの持つ「闇の種」を。
手にした。
アリス「…あらあら、自分でその選択肢を取るの?。」
樹「…私は無力で…誰かに頼りっぱなしで…そんな自分が嫌い。」
風「…やめなさい樹…その種を離しなさい…樹ッ!!。」
樹「お姉ちゃん…ずっと私を守ってくれてたけど…ちゃんと自分の足で立たないといけないよね…強くなりたいんだ…好きな人を助け出せるくらいに…。」
風「ダメよ樹ッ!!。それは違う…そんな力を求めちゃいけないッ!。」
樹「…一度、頑張ってみるよ。安心して、東郷先輩と蒼葉さんを必ず見つけてみせるから…私の手で。だから…邪魔しないで。」
手に持った「闇の種」が激しく輝く。
そしてそれを自分の胸に…埋め込んだ。
風「樹ィイイイイイイッ!!。」
心の中で膨れ続けていた闇が解放。
樹の瞳の色が赤く染まる。
凄まじい闇の瘴気が辺りに響き渡り、風はたまらず吹き飛ばされる。
樹「…すごい…すごいよこの力…ましろさんの気持ちがわかる気がする…これが…「変わる」ということなんだ…!。」
…自らの自責の念に押し潰された樹は心の中で想う人を救い出したい一心で…闇に手を出してしまった。
アリス「…素晴らしい心の闇ね?。どう、私達と来る?。」
差し伸ばされた手。
樹はその手を…払い除けた。
アリス「…あら……何をするの…?。」
樹「私は誰にも頼らない…「劇団」にも…そして…ソラさん達にも…お姉ちゃん達にも…!。」
風「待って…樹…!。」
樹「ちょっとの間だけ留守にするから…ちゃんと探してくるから待っててね、お姉ちゃん?。アハハハ…!。」
無邪気に笑いながら樹はその場から立ち去る。
アリス「…スカウト失敗…かな…いや…これはこれで逆にアリかも…戦力は削げた上に…犬吠埼風。貴女の心も折れてしまってるんじゃないかしら…アディオス、また会いましょ。」
続いてアリスも撤退。
その場に立ち尽くした風は全身の力が抜けたかのように崩れ落ちる。
そして、大粒の涙が地面に落ちては頭の中が真っ白となった。
風「ああ…ああああああ…ッ…!。」
樹ィイイイイイイッッ…!。
その場にこだましたのは妹を失った姉の…
悲痛な叫びだった…。
……………………………end。
自らの無力さに追い詰められていた樹は、そんな自分から駆け出すために闇に手を染めてしまった。
妹のその心の闇に気付かなかった風は、ただただ悲しみ…泣くことしかできなかった。
こんな精神状態じゃ、とても戦える状況じゃない…。
勇者達の精神的支柱が崩れた今、一同の余裕も無くなっていく。
そんな中、リオンの弟子であるトーヤがプリキュアと勇者に接触して来て…。
次回
第88話 ぶつかり合う思い。