「あいっかわらず、治安悪ぃなァ。ここはよ」
「ゲヘナだもの。この光景を当然でしょとは言いたくは無いけど、この言葉以上に説明に何か必要?」
「NOだな、本当にクソみてぇなとこだ」
「ここの生徒として否定したところだけど、それが出来ないのは心から残念。それで今日は何用かしら」
「なんだ? 用もなく来ちゃいけねぇのか俺は」
「……はぁ、用もなく貴方が態々足を運ぶことがないことを知っているから聞いてあげたんでしょう。訳もなく噛み付いてくるなら、そこらのネズミでも出来るわよ『猟犬』」
「ハッ、犬でもネズミでも構いやしねぇが。相変わらず減らず口が無くならねぇガキだなぁ? えぇ?」
「それは貴方にも言えることでしょう」
「「………………」」
互いに睨み合う黒と白の2人。
ここはゲヘナ学園。学園都市キヴォトスの中でも1、2を争うマンモス校のうちの一つである。
校風は「自由と混沌」それ故か、常に争い事が絶えることがない キヴォトス内でも随一治安が悪い学園である。
その治安改善の為、これ以上悪化させない為、日々動き回る【風紀委員】の委員長を務める『空崎ヒナ』がいま睨み合う白い方である。
そして黒い方はと言うと、身長185cmに余すことなく筋肉がついた見た目通りのゴリラオブゴリラ 【猟犬】こと『伏黒甚爾』だ。
互いの眼前にある光景よりもヒリついた空気を出しながらも尚 口を開かない2人。
それが決壊するのはそう遅くはなく、音のない2人の空間は互いの吹き出した笑い声で終わりを迎える。
「ふふふ。それで本当にどうしたの? 何か用があるんでしょう」
「ああ、まあな。お前には伝えといた方がいいと思ってな。詳しいことはウチの雇い主からの伝言に書いてある。読んどいといてくれ」
「とか言いながら説明が面倒だとか何とか言って、駄々を捏ねていただけでしょう」
「……どうだったか。覚えてねぇな」
「相変わらず嘘が下手。決まって嘘をつくとき貴方は目を逸らしてから、頭上を見上げてる。気を付けた方がいいわよ」
「どこまで見てんだよ……気持ちわりぃな。まあ今日の用事はそんだけだ」
「折角来たなら手伝ってもらってもいいんだけど?」
ヒナの『手伝う』とはまさに、目の前で起きてるゲヘナ生徒の小競り合いに関してだろう。
こうして甚爾と会話に時間を割いているが、別に彼女が現在暇な訳では無い。そも、風紀委員長に休日という名の救いは殆ど存在していない。
そんな彼女がこうして、甚爾との会話に時間を割くのはそれだけ、彼との会話の時間を何よりも大切にしているからなのか……。
それはヒナ自身にしか分からないことだった。
「……仕方ねぇ。あとで飯でも奢れ、それで今回の依頼金はチャラだ」
「珍しいわね貴方が金銭を要求しないのは」
「元より金には困ってねぇ。使い所がここにはありゃしねぇからな。馬に船、チャリも車もねぇ。挙句の果てにはパチもスロットもねぇ……毎日減らねぇ残高と睨めっこしながら飯食ってるだけの日々で飽き飽きする」
「にしては、口を開けば依頼金とうるさいじゃない」
「形式的なモンだ。こういうのは互いに条件を設定付けとかなきゃ後々面倒になんだよ。それに貰えるもんは貰っといて損はねぇしな」
「そう」
そこでふとヒナは思った。ギャンブルがないという話についてだ。このキヴォトスにおいてギャンブルが出来る場所が無いわけでは無い……ただ、何故それを彼が知らないのだろうと不思議に思ったのだが、直ぐに思い当たる。
きっと連邦生徒会長が教えていないだけなのだろう。知ればのめり込み仕事もしなければ、金を浪費するだけだからと。
だから敢えてその疑問と仮定を口に出すことはしないでおいた。
「何か言いたげだな」
「いえ、別に。ただこの後どこに行こうか悩んでただけよ」
「あぁそうかよ。さっさと片付けるぞ」
「言われなくても」
この日、2人の目の前で小競り合いをしていたゲヘナ生徒は自身達の運の悪さを嘆いた。
白と黒の嵐のような暴の化身に荒らされた生徒はその後、全治3週間程の大怪我を負い、【風紀委員長】と【猟犬】を前よりも恐れるようになったとか。
to be continued