TSして悪役令嬢になったのでヒロインと王子と恋愛パワーで謀略する 作:馬場綾瀬
「アルベルカ!貴様の罪は明らかだ!いい加減罪を認めろ、見苦しいぞ!」
パーティー会場に響き渡る怒声。
戦勝記念日のこの日に、似つかわしく無い、一触即発の雰囲気が漂う。
「殿下っ、私はそのようなことはしておりません……!一体何故そのようなことを……」
本来であれば、このようにお祝いムードの場を乱す行為は顰蹙を買い、口を出す貴族が居ても可笑しくは無かっただろう。
だが、現実には誰もが一声さえ挙げること無く、全員が事態を注視するという異常事態が起こっていた。それも当然のことだろう。
――継承権第一位の皇太子と、大貴族の令嬢との争い。
――しかも、その令嬢は"あの"アルベルカである。
余りにも政治バランスに直結する争いである。迂闊に口を挟めば、大火傷をしかねない。
命知らずか、愚か者か、真の勇者か。そうでもなければ、口を挟める者は居ない筈だった。
だが、そこに口を挟む命知らずが居た!
「殿下……私怖いです……」
それは、可憐で庇護欲を掻き立てる容姿をした少女。
そして、数年前からアルベルカと違う意味の"問題児"として広く名を知られた少女ーー
マクレアル・アルツナイ男爵令嬢であった。
彼女は、皇太子の腕に縋り付き、震えながらアルベルカを見る。それは貴族から見れば、全力で煽り散らかしているようにしか見えなかった。
その胆力と、度を超えた愚かさに誰もが戦慄する。
「見よ!このように震えているではないか。立場の弱い者を虐げるなど、我が妻には相応しくない!アルベルカ・ハントローズ!貴様との婚約を破棄し、私はマクレアルと婚約する!」
『なにいっ!』『そんな……』『バカな!』
そして、決定的な一声が放たれる。これには、静寂を保っていた会場も、ざわめきに包まれて行く。
この皇太子の言葉は、あまりに多くの意味を内包していたからだ。
まず、単純にハントローズ伯爵家と帝室の関係が破綻するだろうと言うこと。
次に、皇太子が「伯爵家との関係を絶ち、男爵家と婚姻する」と、爵位を軽視する行いをしたこと。
最後に、皇太子が「婚姻破棄と同時に婚姻をしたら、その正当性に関わらず、マクレアルと婚約したいからイチャモンをつけた様にしか見えない」という、単純な帰結さえ理解出来ない程に、愚かであると言うこと。
この3つが明らかになってしまったのである。
会場が紛糾し、ますます三人の言い争いが激化する中、平穏を望む常識的な貴族は思う。
「勘弁してくれ……」と。
欲に塗れた大貴族は思う。
「担ぎやすい神輿が現れたな」と。
野心に満ちた下位貴族は思う。
「これはチャンスだ」と。
しかし、この中の誰もが気付けない。
この一連の流れが、三人によって仕組まれた物であるということを。
そして……
(よっしゃ!これで男なんぞと結婚しないで済むぜ!)
その令嬢とやらが、こんなことを考えていると。
▲▽▲▽▲▽▲
「ダメだ」
「えー」
どうも皆さんこんにちは。
俺…もとい私は、アルベルカ・ハントローズ。元気一杯の6歳だ。気付いたらこのロリっ子に乗り移っていた。恐らく転生という奴をしたらしい。
この世界に来てから早一週間。その間屋敷の中に居た俺は、完全に暇を持て余していた。
ナーロッパ世界、娯楽少なすぎ問題。
そこら辺に居たメイドを捕まえて、転生チートあるあるのリバーシもどきを作って一緒にやったりしたが、流石に一週間それだけでは飽きてしまった。
将棋や人生ゲームのような簡単に再現出来る物を作ればまだ暇は潰せそうだが、外に出ると言う単純な解決方法がある。
なので早速パッパ………名をスコット・ハントローズに可愛くお願いしてみたのだが、帰ってきたのは素気ない返事だった。娘が可愛くないのかな?
「今日は風が強い。黒嵐が来たら大変だ。また今度にしなさい」
とはいえ、パッパも別に理由無く断った訳では無いようだった。と言うか黒嵐って何?
「私はちょっと忙しいんだ。すまないが、後で遊んであげるから今はお母さんの所に行ってなさい」
「はーい」
謎の存在、黒嵐とやらに付いて知りたかったが、そう言われてしまっては仕方無い。前世では忙しい時に兄弟に邪魔されると腹立たしかったからな。
俺は、自分がされたら嫌なことはしない男なのだ。
お母さんの所に行ってこいと言われたが、母親の所に行って暇だと言うと、マナーの勉強等をさせられるだろう。
別に母のことが嫌いな訳では無いが、正直面倒だ。
ここは、さっき言ったメイドの所にでも行こうかな。
▲▽▲▽▲▽▲
「メア!」
「きゃっ、アルベルカ様。急に飛び付いたら危ないですよ〜!」
お、居た居た。サラサラとした茶髪は特徴的だから、遠目からでも分かる。
このメイドはメア。一週間に丁度良い所に居たから遊び相手になって貰っている可愛らしい娘だ。14歳らしい。
中身が大の大人なのに抱きついてしまったが、これは体が変わった影響か情緒が幼くなったからであって、やましい目的は無いぞ。本当だ。
「またリバーシをします?それとも、ご本でも読みましょうか?」
「うーん、そうだなー」
リバーシも良いのだが……あっ、そうだ。黒嵐とやらについて気になっていたんだった。メアは平民のメイドだし、外に出る機会は多いハズ。まさか知らない事はあるまい。
「そうだ、黒嵐って何なのか教えて」
「黒嵐について知りたい、ですか?」
メアは目を白黒させて驚いたように此方を見てくる。そんなに可笑しい質問なのか?この世界の常識が分からないので、変に思われて無ければ良いのだが。
「ああ、そう言えばここら辺は黒嵐が少なかったんですね……えっと…」
「少ない?」
「順を追って説明しますね。土が乾燥してるのと湿っているのだと、乾燥してた方が風に飛ばされやすいのは分かりますか?」
「うん、分かるよ」
メアは俺の精神年齢を知らないから言葉を選んでいるようだった。追々、俺が年齢にしては知能レベルが高いことを知って貰う必要があるだろう。
「それで、土が風で舞い上がって黒い霧みたいになるのが黒嵐なんですが………あっ」
だが、説明している途中でメアが何かに気づいたように外を見る。
「丁度、黒嵐が来ていますよ。お体失礼しますね」
言われるままに抱き抱えられ外を見る。
遠い向こうの方に何かがあるような……目を凝らす。何やら黒い津波のような物が…
「うわっ!」
凄まじい勢いで迫ってくる!
屋敷の近くの村の農民も、慌てて家の中に入っていくのが見える。
その大迫力に、思わず驚いてしまう。そして遂に、屋敷までもが黒嵐の中に入る。途端に窓の外が暗くなり、マトモに外が見えることは無くなった。
「これが、黒嵐です」
黒嵐…………。霧の様に視界が奪われ、更に粒子が肺に入ると言うだけでも、その脅威が伝わって来る。通りで、親父が外に出るのを止める訳だ。
「どの位続きますかね。実家は大丈夫かなぁ」
「大丈夫って?何か害があるの?」
「畑と作物がダメになっちゃうんですよ。私の家は農民なので、黒嵐が来ると大変なんですよね…」
そうなのか。
先程見た農村も領主の館の近くなのに、何処となく寂れている様子だったし、思った以上に事態は深刻なのかもな。
「はあ……」
いつもは明るいメアも、憂鬱そうにしている。
やはり、実家が心配なのだろう。
…何とかしてあげたいな。
まだこの世界に来て一週間だったが、一番仲が良いのはメアだ。
そんな彼女が沈んでいるのは、あまり気分が良くない。
それに、幾ら身分が違うとは言え、普通の一般人が被害に遭うのも止めれる物なら止めたい。今世は貴族という身分があるのだし、何か出来ることは無いだろうか?
取り敢えず、調べるだけでもしてみるか。
「ちょっと、図書室に行ってくるね」
そしてこれが、この世界の私の始まりとなった。