私は高梨凛子、24歳。
看護学校で好成績を修めて、研修でこの病院に来たときに先生とそれなりに交流していたことが功を奏したのか、男性病棟に配属されることになった。
看護師や医師の中でも男性と触れ合える機会がある男性病棟への配属は、所謂エリート、勝ち組と言われるものであり、看護学校時代の同級生からはすごく羨ましがられる。
ただ、先輩たちから話を聞いてみると、男性のお世話ができることは嬉しい反面とても気を使うのでそれなりにしんどいらしい。
私は子供の頃から前向きな性格だったので、大体のことなら乗り越えられると意気込んでいたんだけど…
「ジロジロ見てんじゃねぇよ!通報するぞ!」
「なんで女に触れられなきゃなんねぇんだよ、勘弁してくれよ!」
「病室に入ってくるな、俺の周囲10m圏内に入ってくるな!」
老若問わず、男性からはこんな言葉をかけられることが多い。
ひどい時だと物を投げつけられて怪我をすることだってある。ただ、そんな時でも基本的には男性はやんわりと注意されるだけで病院を追い出されたり、ましてや逮捕されることはないのだ。
はぁ…とため息が漏れる。
運良く男性病棟に配属された時は喜んだものだが、いざ男性の相手をしているとどうしても疲れてしまう。暴言ならまだいい。でも、いつ物が飛んでくるかわからないため、そちらも警戒しておかなければならない。そういった気疲れが重くのしかかってくるのだ。
男性は数が少ないこともあって、入院する人は少ない。男性が来ない日だってあるくらいだ。
その時は通常の女性病棟の手伝いに回ることもあるが、こちらの方が気持ち的にすごく楽に感じた。
(女性病棟に異動させてもらおうかな…)
自分では前向きな性格をしていて、精神面では強いと思っていたが案外そんなことはなかったのかもしれない。異動するか、それがだめなら転職も考えていたのだが、私はここで人生で最も大きな転換を迎えることになる。
ある日、いつものように出勤すると病院が慌ただしいのだ。
どうやら男性が意識不明の重体らしい。詳しく話を聞くと、強漢に襲われた際に頭を強く打ったらしい。
犯人には嫌悪感を抱くが、今はとにかく患者のことだ。私は医療器具等を持ってその男性の病室を訪れた。そこでベッドに横たわっていたのは、今まで見たことがないほどの美少年だった。
(眠っている美少年…今なら何をしてもバレない…?いやいや!私は看護師!医療従事者!そんなことしたら性犯罪者じゃない!)
あまりの美少年ぶりに一瞬下心が芽生えてしまうが、そんなことをしてしまえばこの少年が意識不明に陥る原因となった犯罪者となんら変わりないクズになってしまう。
(でも…ほんとに綺麗な顔してるなぁ。もし…目が覚めたらお話できたらなー、なんて)
数日後、意外にも彼は早く目覚めた。
残念なことに彼は自分の名前すらわからないほど記憶を失っており、その境遇に同情するが、驚くべきはその優しさだった。
彼は女性に対して忌避感が全くといっていいほど無かったのだ。
精子検査の手伝いをお願いするなど前代未聞であり、逆に心配になるほどであった。
だがしかし。検査の手伝いができたことはとてつもない幸福なことであった。中で何をしていたかは割愛するが、今後一生オカズに困らないと確信したということは言っておこう。
しかもだ。彼は退院する前に連絡先を教えてくれたのだ。検査の手伝いだけでも幸福の極みだったのに、今後また会えるなんて思ってもみなかった。
「ふふっ」
事務仕事をしているとふと笑みが溢れてしまう。
ここに配属されてよかった、黎夏くんに出会えて良かった、そんな思いが溢れてくる。
もう男性病棟から異動したいという考えは消え失せていた。肩に重くのしかかっていた気疲れは黎夏くんとの出会いで全て過去のものとなった。
今は、次いつ黎夏くんと会えるのか。それだけに思いを馳せていた。
黎夏が眠ってる数日間のことも書こうと思ったら書けますけど、思いついたものがR18なのでカットです!