変態の双子の兄弟として   作:篠白 春夏秋冬

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 無聊を慰めるうちにチェックが終わったので投稿を。

 今回はちょっと長いです。


Life.EX1 使い魔の条件

「そういえば、天魔は木場と知り合いだったんだよな? なんかきっかけでもあったのか?」

 

 アーシアが加わり数日後のオカルト研究部の部室にて、表側の活動のため集まり、リアス達を待つ間のこと。

 

 ふと一誠が声をあげた。

 

「急にどうした? と、いうよりもだな。そんなこと聞いてる暇があったら、どうやったら契約が取れるようになるかを考えろよ」

 

 天魔が胡乱な目で顔を上げると一誠を嗜める。

 

 未だに契約達成数がゼロの一誠は言葉に詰まるが、めげることなく言葉を続ける。

 

「いいじゃねぇか。あんまり同じこと考えてても息が詰まるし息抜きがてらさ」

 

「そうだね。時間もあるし、話してもいいんじゃない?」

 

 賛同したのは祐斗。そのことに天魔は少し意外そうにすると、僅かに考えた後口を開いた。

 

「……はぁ、そうだな。少しぐらいならいいか」

 

 

 

 その日、駒王学園は浮ついた空気が充満していた。

 

 日付は2月14日。バレンタインデーである。

 

 最近になって女子校から共学へと変わった駒王学園は男女比が偏っており、女子生徒の比率が高い。そんな中に人気のでるような容姿の男子生徒がいるのだから、雰囲気も浮つこうというものだ。

 

「イッセーは「放課後まで入れるのを迷っていた子がいるかもしれない!今に見てやがれ!ここから逆転だ!」とか言って下駄箱を見に行っちまったし、どうしたもんかね……この数……」

 

 天魔は一人教室で黄昏れていた。机の上には大量の小包が入った紙袋が二つ置かれていた。紙袋の出どころは一誠であり、チョコレートの大量獲得を夢見て用意したものだった。

 

 用意した本人は未だに一つも受け取れておらず、受け取ったと思えば天魔宛のチョコレートの配達員扱いを受け、血涙を流した。現在は下駄箱の確認を終え、最後の望みをかけて通学路での受け取りのためにゆっくりとしたペースで下校を開始している。ちなみに、彼らの悪友二人も一誠と同様の行動をとっていた。

 

「ああ、よかった。まだいたんだ。さっき三馬鹿とはすれ違ったけど、あんたのことは知らないって言ってたからもう帰ったのかと思ったわ」

 

「あいつ等は嫉妬に狂って行っちまったよ」

 

「まぁ、これを見たらねぇ。あいつ等モテないから」

 

「自業自得ではあるがな」

 

 天魔に話しかけたのは桐生だった。

 

 甘い匂いを発する小包満載の紙袋をみて、先程すれ違った三人との差を思い浮かべ苦笑すると、手に持っていた小包をその上に乗せる。

 

「お前が寄越すとは思わなかったな」

 

「私からのじゃないわよ。今日に限って風邪をこじらせて学校に来れない知り合いがいてね。どうしてもって言うから預かってたのを忘れてたから持ってきたの」

 

「お前……まぁ、いいか。ちゃんと届いたし……」

 

 桐生の用件を聞き、天魔は額を抑えるも差出人にはこのことは届かないだろうと放っておくことにした。桐生は差出人の名前を告げるとさっさと帰っていく。

 

 天魔はそれを見送ると両手に紙袋を抱え、移動することにした。下駄箱に新たに投入されていた小包を回収し、開けた場所を目指して移動していると、天魔と同じような紙袋を抱えた少年とすれ違った。

 

(こいつは……確か、木場祐斗だっけ? 漫画研究部の連中がとても捗るから絡んでほしいとか言ってたっけ……まだ悪魔と関係を持つのはごめんだから、今はむしろ避けたい部類だが)

 

 お互いに手にした紙袋に視線を向けつつも、言葉を交わすことなくすれ違う。天魔はそのまま校舎裏へとたどり着くと、紙袋の中の検分を始めた。

 

「神器「看破の目(サーラディ・リース)」、呪いや毒物を見抜く魔眼系神器。持たされた時は本当に必要なのかと思ったが、役に立つとは……役に立ってほしくはなかったな…」

 

 懐から出した眼鏡をかけ、小包を一つ取り出すとそれを様々な方向から眺め、脇に置く。それをいくつか繰り返していると、何者かが近づいてきた。天魔が顔を向けると見覚えのある黒猫を追いかけて祐斗が向かって来ていた。

 

「木場祐斗? あれ、お前何持ってきてんだ?」

 

「君の猫だったのか……えっと、兵藤天魔くんだっけ?」

 

「ああ、悪いな。家の猫が。ん?これって今日もらったやつか?」

 

「うん、そうだよ。その子に持っていかれてしまって追いかけてたんだ」

 

 黒猫は天魔の腕に収まると口に咥えていた小包を離した。それを確認した天魔が追いついてきた祐斗に詫びつつ質問をすると返ってきた肯定を聞き、渋い顔をした。

 

「どうかしたのかい?」

 

「これは捨てるべきだろうな。燃やすのが一番いいかもしれない」

 

「もらったものにそんなことをするのは気が引けるけど、なにか理由があるんだね?」

 

 天魔による突然の言葉に祐斗は驚愕するが、眼の前の少年が不誠実な冗談を言うような人物だと考えられず、理由を問いただした。

 

「与太話だと捉えて貰って構わないが、呪いのようなものを感じる。食ってしまえばなにかよくないことが起こりそうだ」

 

「呪い……」

 

「霊感っていうのか? こういうの。昔から変な気配がわかるんだ。神社の木が気になって見に行ったら藁人形が打ち付けられていたりとかな。こいつもそういったことがわかるから、気になって持ってきてしまったんだろう」

 

 天魔が自身の正体が悟られぬようにギリギリ異形側に踏み込んでいないと判断されるであろうラインを考え考えながら話していると、祐斗は少し考えると納得したように顔を上げた。

 

「なるほど、僕にはわからないけど、そういう人もいるんだね。ということは、そこに除けてあるのもそうなのかい?」

 

「ああ、後で対処する予定だ。こういうのは初めてだが、なんとかなるだろう。気になるものがあるなら俺がやっておくぞ」

 

「いや、遠慮しておくよ。知り合いに呪いに詳しい人がいるからその人に聞いてみることにするよ」

 

「そういえば、お前はオカルト研究部だったな。なら、これは返しとく。気をつけろよ。お前がいなくなったら困る。こういったものが俺に集中しちまうからな」

 

「アハハ、そうだね。気をつけるよ」

 

 祐斗は天魔から小包を受け取るとその場を離れていく。天魔はその後ろ姿を見送ると、検分を再開した。

 

「さて、続きだ。お前も手伝えよ、クロ」

 

 返事をする黒猫とともに検分を終え、家に帰る頃には日も暮れ始めていた。

 

 その四週間程後で、用意しなければならないものの多さと当日の人の波に天魔が悲鳴をあげることになるのは別の話である。

 

 

 

「とまぁ、そんな感じだったな」

 

「今思えば、あの子が使い魔だって気づくことができたかもしれなかったね」

 

「一応隠していたからな。そう簡単にバレるような隠蔽はしていないさ」

 

 話が終わり、雑談へと移行する。

 

 しばらく話したあたりで喉の渇きを感じ、新しく茶を淹れようと天魔が席を立ったタイミングでリアスたちが入ってきた。

 

「ごめんなさい。待たせてしまったかしら」

 

「お疲れ様です、部長。懐かしい話をしていたので、そう待っていた感じはしませんでしたよ」

 

「懐かしい話?」

 

 すでに三人が揃っており、ポットの中の紅茶が尽きていることからそれなりの時間を過ごしていたことに気づいたリアスが詫びるが、祐斗の言葉に不思議そうな顔をする。

 

「俺が木場と初めて接触した時の話ですよ」

 

「今年のバレンタインが初めてだったんです」

 

 疑問符を浮かべるリアスに天魔が答え、祐斗が補足すると、その時のことを思い出したようだった。

 

「あの日、突然祐斗がチョコレートを調べて欲しいと言い出したのは、天魔が関係していたのね」

 

「実際に呪いの類が見つかったときは驚ましたわね」

 

 得心がいったというようなリアスに朱乃も続き、それを見て天魔もほっとしたように息をついた。

 

 そんな様子の天魔にリアスが思い出したように声をかける。

 

「そういえば、初めてここに来たとき、イッセーに悪魔であることを示すために私達は翼を広げてみせたけど、天魔も同じようにすればよかったのではないかしら?」

 

 その言葉を聞き、天魔は僅かに体を硬直させた。そのまま少しの間を開けると、頬を掻きながら言葉を紡ぐ。

 

「その……なんと言いますか……実は俺、ないんです……」

 

「ない?」

 

「あの……翼が……」

 

 気まずそうにする天魔とその事態の大きさが掴めない一誠とアーシア以外の全員が驚愕した。いくら世代を重ねているとはいえ、悪魔としての力がある以上、翼を持っているのが通常であるからだ。

 

「俺の師匠……みたいな奴いわく、魔力はあるし、悪魔であることは確定らしいです。ただ、なぜ翼がないのかはわからないといわれました。なので、俺は悪魔の翼では飛べないんですよ」

 

 他の部員が驚愕から覚める前に、天魔は現在把握していることを話す。

 

 しばらく無言の時間が続いたが、驚愕から復帰すると気遣わしげな表情をし始めた部員をみて、慌てて天魔は言葉を続ける。

 

「ああ、別に、これが不便だったってことはないんです。たしかに悪魔としての飛行はできませんが、それが不幸とは思いません。ただ、移動の際にはご迷惑をおかけしますが……いや、そういえば、イッセーの方が迷惑かけてるな。飛べないうえに、転移も出来ないし」

 

「そこで俺を出すなよ! すみませんね! 才能無くて!」

 

 やや焦った口調の天魔だったが、話の途中で一誠に話を向け、それに乗って一誠が声をあげる。

 

 そのまま盛り上がりだした二人をみてリアス達は雰囲気を緩め、いつものように活動を始める。

 

 ただし、内容はいつもと違うものだった。

 

「今日は使い魔を入手しに行くわよ」

 

「使い魔……ですか?」

 

 リアスから告げられた言葉に一誠がぽかんとした様子で返した。

 

「そう、使い魔。天魔は持っているらしいけど、あなたとアーシアはまだもっていないでしょう?」

 

 そういうとリアスは手元に紅いコウモリを呼び出した。それに続いて朱乃が小鬼を、小猫が白猫を、祐斗が小鳥を呼び出し披露する。

 

 そんな中、何もしない天魔に何人かが視線を送ると、当人は肩をすくめる。

 

「今ちょっと仕事を頼んでまして、呼び出す訳には行かないんです。アーシアは見たことあるけど、黒猫ですよ。クロって呼んでます」

 

 アーシアは天魔の言葉で思い出したのか、はっとした表情をするのをみて、視線を送ったものも話題に出たことを思い出し、そういえばという顔をした。

 

「使い魔は悪魔にとって基本的なものよ。主の手伝いから情報伝達、追跡にも使えるわ。臨機応変に使えるからイッセーとアーシアも手に入れないといけないわね」

 

 リアスが一誠の頬をなでながら告げ、一誠がその感触にうっとりとしているうちに準備が整い、そのまま転移が開始された。

 

「というわけで、さっそくイッセーたちの使い魔をゲットしにいきましょうか」

 

 

 

 

 

 転移の光が収まるとそこは森の中だった。

 

「ここは悪魔が使役する使い魔となる魔物や精霊がたくさん住んでいる森なのよ。ここでイッセーとアーシアの使い魔を手に入れましょう」

 

 鬱蒼とした森は日の光が差さず、湿気のある空気が漂っており、何が出てもおかしくなさそうな雰囲気を放っていた。

 

「そこっ!!」

 

「ゲットだずぇぇぇ⁉」

 

 天魔が声を上げると同時に叫びながら飛び出したラフな格好をした青年が魔力の縄に捕まって逆さ吊りになり、台詞が上ずっていった。

 

「天魔、止めなさい。彼は今回の協力者よ。ごめんなさい、ザトゥージさん。この子は警戒心が強くって」

 

「すみません、急に出て来たので」

 

「いやいや、警戒心ってのは大事だからな。気にすることはないさ」

 

 リアスに声を掛けられ、天魔は慌てて青年を下ろしていく。

 

 頭を下げる天魔に笑いながら応じると、落ちていた帽子の土を払い、深く被った。

 

「改めて、俺はマダラタウンのザトゥージ! 使い魔マスターを目指して修行中の悪魔だ!」

 

 一誠が胡散臭いものを見るような目で視線を送る中、リアスがザトゥージに使い魔の入手を目的とする二人を紹介する。

 

 使い魔のプロと紹介され、一誠がオススメを聞くと、ザトゥージはカタログらしきものの一ページを指し示した。

 

「俺のオススメはこれだね! 龍王の一角である『天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)』ティアマット! 伝説のドラゴンだぜ! 龍王唯一のメスでもある! いまだかつてこいつをゲットできた悪魔はいない! そりゃそうさ! 魔王並みに強いって話だからな!」

 

 そこには見開きいっぱいに迫力満点に描かれた一匹の獰猛そうな獣がおり、絵と説明を受けた一誠が絶叫する。

 

「これ、使い魔ってレベルじゃないじゃん! 大ボスだよ! ラスボスだって! しかも誰もゲットしてない⁉ オススメの意味わかってますか⁉ いきなりラストダンジョンに放り込まれた気分ですよ!」

 

「落ち着け、イッセー。ティアマットは個体名だ。誰かが使い魔にしていれば、使い魔にはできない。誰とも契約していない奴を勧めるのは理に適ってる……この場にいる全員が協力したとしてもお目にかかることさえ不可能ということに目をつぶれば、だけどな」

 

「ダメじゃん!」

 

 一誠の叫びに天魔がザトゥージのフォローをするが、最後の一言に一誠が吠える。そんな二人に反して他の部員には乗り気なものもいた。

 

「いいわね。伝説のドラゴン同士なら意気投合出来そうだわ。イッセー、私のかわいい下僕ならそれぐらいやってのけるのもアリね」

 

「無理ですよ、部長! 意気投合出来そうにない雰囲気がこの図鑑からでもめいっぱい伝わってくるんですけど」

 

「気の所為さ、イッセーくん。うん、いけるいける」

 

「うるせぇ、木場ァァァッ! てめえがハントしてこい、こんちくしょォォォ!」

 

「イッセー先輩がダメでも天魔先輩なら行けそうですね。天魔先輩もドラゴン系の神器ですし、名前もあってます」

 

「塔城さん? 人には出来ることと出来ないことがあって、これは後者だからね?」

 

 しどろもどろになりつつもティアマットの案を下げさせ、一誠が次の候補を要求すると、ザトゥージはヒュドラやケルベロスをあげ始めたが、それらは自分以上の力を持つ使い魔は手に余るとして却下された。

 

「注文の多い男子だ。じゃあ、何ならいいのさ」

 

「かわいい使い魔とかいないんスかね。女の子系とか」

 

 自分たちの提案を次々に却下され、不貞腐れるザトゥージに一誠が欲望を元にした使い魔の情報提供を求めると、ザトゥージは明らかに不機嫌になった。

 

 強さがどうこう、そのための交配がどうこうと語り始めるが、アーシアの「かわいい使い魔がいい」という一言に手のひらを返し、案内を始めた。

 

 

 

「いいかい、この泉には精霊が集まるんだ」

 

 ザトゥージの案内でたどり着いたのは神聖な様相を見せる泉だった。

 

 そのそばで気配を消して身を隠す彼らは声を潜めて会話をしていた。

 

「泉に精霊ってことは……ウンディーネか……」

 

「そう、この泉に住み着く水の精霊「ウンディーネ」はあまり人前に姿を表さないんだ。ウンディーネは清い心と美しい姿を併せ持つ乙女なんだよ」

 

「マジっすか! そういう娘を待ってたんですよ!」

 

 眼の前の景観と精霊という単語からザトゥージの狙う存在を看破した天魔が苦々しい顔で呟くのを聞き、ザトゥージが補足すると一誠の雰囲気が明るくなる。先程あがった例に比べて異形でなく、様々な媒体で美しく描かれる存在であるため期待しているらしかった。

 

「ぶ、部長、使い魔なんですから、俺の好き勝手にしていいんですよね!」

 

「ええ、好き勝手になさい。あなたの使い魔なのだから」

 

 リアスの返答に一誠が相好を崩す。

 

 ハーレムを目指す彼にとって、リアスの言葉は妄想を爆発させるには十分だったらしい。

 

「あ~……イッセー、先に言っておきたいんだが、ウンディーネは」

 

「静かに! 泉が輝きだした。ウンディーネが姿を表すぞ」

 

 ウンディーネを使い魔とした後のことを夢想する一誠に天魔が言い難そうに声をかけるが、そのタイミングで泉が輝き、ザトゥージが注意する。

 

 一誠の表情が輝き、天魔は言っても無駄であることを察するとともに警戒をさせないように口を噤む。

 

 そして、輝く泉に、キラキラと輝く水色の髪と透明な羽衣を身にまとった

 

 

巨躯の存在が現れた。

 

 一誠をよく召喚(?)している漢女―ミルたんに引けを取らない肉体を持つその存在を見て一誠が絶句する。

 

 絶望的な表情を浮かべる一誠の肩に手をおくと天魔は静かに語りかける。

 

「あれが……ウンディーネだ……」

 

「いやいやいや、どう見てもあれは水浴びに来た修行中の格闘家だろ。ほら、あの腕周りとか、どう考えても人間の肉体を破壊するために鍛え込んだものだって。正拳突きだけで世界を取りそうだ。隙すら見つからない。猛者だよ、猛者」

 

 一誠は眼の前の現実を認めたくないのか言い募るが、天魔は一誠と目をあわせ、ゆっくりと首を振ると、子供に言い聞かせるように話し出す。

 

「ウンディーネも、縄張り争いが激化して入るらしくてな。もっぱら物理特化の鍛え方をしているらしい」

 

「そ、そんな……」

 

「しかし、強そうなウンディーネだ。あれはなかなかレア度が高いよ。ゲットをオススメしよう。打撃力の高い水の精霊も悪くない」

 

「悪いわ! なんだよ、全然癒し系じゃねぇじゃねぇか! 殺し系だよ! 打撃力の高い癒し系精霊なんていらないんだよ、俺は!」

 

 天魔の言葉に愕然とする一誠にザトゥージがウンディーネを勧めるが、美人な精霊を想像していた一誠は激昂した。

 

「だが、あれは女性型だよ? それもかなりの実力を持った」

 

「知りたくない事実でした!」

 

 認め難い現実に一誠が慟哭し、号泣する。しかし、アーシアにはウンディーネが純粋な存在に映るのか、肯定的だった。

 

 そんな彼らの前にもう一体のウンディーネが現れる。現れる瞬間は一縷の望みをかけた一誠だったが、現れたのは、やはり鍛え抜かれた肉体を持った個体であり、希望は打ち砕かれた。

 

 憧れていたファンタジーをぶち壊され、涙を溢す一誠を祐斗が慰めていると相対したウンディーネたちが殴り合いを始める。肉体を殴りつけたとは思えない音が響き、神聖な雰囲気だった泉は血に濡れた闘技場に様変わりする。

 

「縄張り争いだ。どちらも歴戦の猛者のようだね」

 

「縄張り争いって……もっと、ファンタジーな……精霊魔法とかないんですか?」

 

「所詮、腕力がものをいう」

 

「部長、帰っていいですか? 俺、そろそろ泣きますよ?」

 

 眼前のファンタジーの欠片もない精霊たちの戦いに肩を落とす一誠だったが、ザトゥージに断言されて本格的に帰りたくなったのかリアスへと向き直る。しかし、眼の前の光景に疑問を持たないリアスに却下された。

 

「ハハハ! 見ろ、少年! 勝った方が君の使い魔だ! ウンディーネの頂上決戦! 素敵なアドベンチャーだな!」

 

「ほう、直突きか。なかなかレアな技を放つな」

 

「何がアドベンチャーだ! 俺はごめんだぞ!」

 

「名前はディーネちゃんでいいのでしょうか?」

 

「アーシアの使い魔には守備力のある奴がいいと思う。ディーネちゃんだと物理特化で守備範囲が少なそうだから止めた方がいいな」

 

 ザトゥージと提案に一誠が噛み付くもアーシアが受け入れる姿勢を見せる。しかし、天魔が却下し、ひとまず移動するのだった。

 

 

 

 ウンディーネを諦め、次のターゲットとしてザトゥージが勧めて来たのはドラゴンだった。

 

蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)……蒼い雷撃を操る龍がこの森にいるのか……」

 

「ああ、しかも、子供だ。成長すると相当強力なドラゴンになるが、今ならゲット出来るかもしれない」

 

「ドラゴンかぁ……でも、女の子系も捨てがたいよなぁ…ん?」

 

 めずらしいドラゴンということで、自身の欲望とのせめぎ合いに悩む一誠だったが、ふと視界に映った蒼色に視線を向けた。

 

「あれじゃないか? ドラゴン」

 

「本当だ⁉ こんなに早く見つかるとは!」

 

「キャッ!」

 

 噂していたドラゴンがあっさり見つかったことに驚いていると後ろからアーシアの悲鳴があがる。何事かと後ろを向くと、アーシアが粘液状の何かに襲われていた。

 

「スライムか。アーシア、動くな。怪我しないように焼くから」

 

「は、はい」

 

「こいつ、毒とかないよな? アーシアに何かあったりとか……」

 

 粘液の正体を看破した天魔が処理しようと魔法陣を浮かべるのを見て一誠が生態について質問する。不安そうな一誠を安心させるように天魔が回答する。

 

「大丈夫だ。こいつに毒はない。繊維を好んで溶かして食べるからさっさと、何すんだ、イッセー!」

 

「うるせぇ! こいつは殺させねぇぞ!」

 

 天魔の回答を聞き、一誠は機敏な動きで天魔にしがみつくと視界を塞いだ。

 

 天魔は視界を塞がれ、アーシアを怪我させてしまう可能性を考慮して魔法の発動を止める。揉み合っているうちに事態は悪化していく。

 

「い、いやぁぁぁ」

 

 どこからか触手が現れ、アーシアに絡みついていく。そして被害は他の部員にも及び、リアスに朱乃、小猫がスライムに纏わりつかれ、触手に捉えられた。

 

「こ、こいつは⁉」

 

「名前は特に無い触手だな。女性の分泌物を食べるためにスライムと組んで獲物を襲うんだ。生命に害は無いんだがね」

 

「なん……だと……」

 

 触手の生態を聞き、目を見開いた一誠はしばし間を開けるとリアスに宣言した。

 

「部長、俺、このスライムと触手を使い魔にします! 服を溶かす! 女性の分泌物を食べる! 俺の求めていた人材です!」

 

 一誠の目は輝いていた。自身の欲望に役に立つ存在を逃したくないようだ。そんな一誠にリアスは呆れ顔で対応する。

 

「あのね、イッセー。悪魔にとって、使い魔は重要なものなのよ? ちゃんと考えなさい」

 

「わかりました……やはり、使い魔にします!」

 

 思考時間、僅か三秒足らず。再びの宣言にリアスたちがスライムと触手を処理しながら説得を諦めると、一誠はアーシアに抱きついて抵抗を示した。

 

「どきなさい、イッセー。こういう役に立ちそうにない生き物は焼くの。邪魔だわ」

 

「いやだい! いやだい! 俺はこのスライムと触手を使い魔にするんだい! こいつらは俺の求めていた奴らなんです! こいつらを使って俺は羽ばたきたい! 上を目指していきたい! スラ太郎! 触手丸! 俺が守ってやるからな!」

 

 一誠は頑なに抵抗を示す。周囲の呆れ顔も構わず、必須の抵抗に天魔が進み出る。

 

「一誠、そこをどけ。……いや、そのままでいい。一緒に焼いてやる! 煩悩とともに燃えつきろ!」

 

「やめろぉぉぉ! やめてくれぇぇぇ!」

 

 珍しく名前で呼び、怒りを纏った天魔の宣言に一誠は泣きながらより強くアーシアにしがみつき、精一杯の抵抗を示す。

 

 天魔が待機させていた魔法を放とうとしたその時、蒼色が視界に映る。

 

「アババババババッ!」

 

 先程の蒼雷龍の幼体が雷撃を繰り出し、一誠たちを焼いていく。蒼色のスパークが収まると、無傷のアーシアと黒焦げの一誠とスライム、触手が転がった。

 

「なんて、アー()アはぶじなん()?」

 

「蒼雷龍の雷撃は外敵と認定した相手以外には影響を及ぼさないんだ。その娘さんは敵ではないと感じたんだろう」

 

 強烈な雷撃に呂律の回らなくなった一誠の疑問にザトゥージが答える。よく見るとザトゥージと祐斗も程度の差はあれど焦げており、外敵認定を受けたらしい。

 

 回復した一誠ははっと気づくと周囲を見回し、絶望の声を上げる。

 

「スラ太郎ぉぉぉ! 触手丸ぅぅぅ! うわああああぁぁぁ!」

 

「アーシアを襲うスライムと触手を消し去ったようね。この子、オスかしら? ドラゴンのオスは他種族のメスも好むと聞くわ」

 

「てめえぇぇぇ! よくもスラ太郎と触手丸をぉぉぉ! 俺の最高の仲間をぉぉぉ!」

 

「やめんか!」

 

「ぐああああぁぁぁ!」

 

 怒りを元に蒼雷龍へ殴りかかろうとした一誠に天魔の魔法陣から炎が発される。再び全身をこんがりと焼かれた一誠が転がり、停止する。

 

 アーシアが彼女に懐いた様子の蒼雷龍を使い魔にしたいと言い出した。周囲からの視線に最も敵意を向けていた一誠が涙目で応じ、アーシアの使い魔が決定した。

 

 

 

「……ア、アーシア・アルジェントの名において命ず! な、汝、我が使い魔として、契約に応じよ!」

 

 アーシアの声に応じ、契約の儀式が進んでいく。本来なら悪魔に降らないとされる蒼雷龍が契約に応じるのをザトゥージが珍しそうにする中、契約は完了した。それを契機に蒼雷龍がアーシアにじゃれていく。

 

「うふふ、くすぐったいです。テスラくん」

 

「テスラ?」

 

 蒼雷龍が呼びかけられた名前らしきものに疑問を抱き、天魔が呟くと、アーシアが恥ずかしそうに答える。

 

「雷撃を放つ子ですし、天魔さんからも一文字頂きたいと……ダメ、でしたか……?」

 

「いや、かまわんよ」

 

「よろしくな、テスラぁぁぁ!」

 

 おずおずと答えるアーシアに快諾する天魔の横から一誠がテスラに触ろうとすると雷撃が一誠を襲う。

 

「言い忘れていたけど、ドラゴンのオスは他種族のオスが大嫌いだ」

 

 再び黒焦げになったザトゥージが補足する。祐斗も焦げており、見境なしらしい。

 

「全く、回復するのはアーシアなんだぞ。迷惑をかけるんじゃない」

 

 無傷の天魔がアーシアからテスラを抱き上げる。言い聞かせるように話す天魔にテスラがか細くなき、反省の意を示した。

 

「なんで天魔は無事なんだよ」

 

「初撃から防いでたから。それに、レベルが違うドラゴン系神器持ちだからな。敵対はすべきじゃないと本能的に察知してるんだろ」

 

「俺、赤龍帝なんだけど」

 

「お前はまだ弱いからな」

 

 雷撃を受けない天魔に不満そうにする一誠だったが、真正面から撃沈させられる。

 

「……俺、やっぱりスラ太郎と触手丸がよかったです……」

 

 そんな一誠のつぶやきでこの日の活動は締めくくられた。

 

 




 蒼雷龍の名前は変更しました。

 一巻の内容がああなったうえで「ラッセー」は不自然に感じますので。

 名前は単純に「て」から始まる電気関連の名前で考えた結果です。
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