変態の双子の兄弟として   作:篠白 春夏秋冬

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Life.16 苛つく理由

 作戦完了直後を狙って襲撃してきたライザーの「女王」を朱乃に任せ、天魔たちは運動場に向かっていた。

 

「小猫ちゃん、足は大丈夫?」

 

「天魔先輩のおかげで痛みは少し引いてます。あと、近づかないでください」

 

「味方には使わないって」

 

 ジト目でにらみながら警戒する小猫に一誠は苦笑しながら否定するも、小猫の機嫌は直らなかった。

 

「さすがに俺じゃぁ戦闘に参加できるほどには治せない。リタイヤを宣言するのも一つの手だと思うが……」

 

「いえ、行きます。「戦車」ですから丈夫です。盾でも何でもいいので、連れて行ってください」

 

「……了解。まぁ、アーシアと合流出来れば戦線復帰はできるしな」

 

「すみません。我儘を」

 

「気にすんな。俺がもっと早く気付ければよかったんだし」

 

 天魔が小猫に撤退を勧めるも小猫は否と返す。申し訳なさそうにする小猫をなだめていると、アナウンスが響く。

 

『ライザー・フェニックス様の「兵士」三名、リタイヤ!』

 

「お、木場、うまくやったじゃぁねぇの」

 

 アナウンスからしばらく進むと天魔が止まり、茂みの方向へ声をかけると一誠も合わせて止まる。すると声をかけた先から祐斗が顔を出した。

 

「やぁ、気づいてたんだ。小猫ちゃんは?」

 

「こっちの作戦完了を狙って爆撃食らった。もうちょい早く俺が気付いていれば、まだ動けたかもしれねぇが……それより、ここの戦力は?」

 

 小猫のことを気にする祐斗に顛末を話すと小猫の恐縮した気配を感じ取り、現状把握に話を移す。

 

「「兵士」は上手く釣り出して一網打尽にできたけど他が動かなくてね。あそこを陣取っているのは「戦車」、「騎士」、「僧侶」が一人づつだよ」

 

「すごい厳重じゃねぇか」

 

「まぁ、ルートを一つ潰したからな。守る必要のある場所が少なくなれば、その分戦力を集中できるってもんだ」

 

 元の戦力が六人もいたことに一誠は驚愕するが、天魔はこともなげに告げる。それを聞き、一誠は渋い顔をした。

 

「お前らは冷静だな。こっちは経験不足過ぎてびくびくしてんのに」

 

「そうでもないよ、ほら」

 

 一誠の言葉に祐斗が自身の手を見せる。その手は震えていた。

 

「イッセー君は僕のことを経験豊富といってくれる。それは本当だ。でも、レーティングゲームに参加するのはこれが初めて。今回が特例といっても、本気であることには変わりない。いずれ、僕たちは否応なしに悪魔の競技に参加していく。これがそのファーストゲーム。油断も隙も見せられない。これは部長の眷属悪魔としてのすべてをぶつける勝負なんだよ。今後のすべてにもつながる重要なものだ。僕は歓喜と同様に恐怖も感じている。僕はこの手の震えを忘れたくない。この緊張も、この空気の張りつめも、すべて感じ取って僕の糧にする。一緒に強くなろう、イッセー君」

 

「んじゃ、女子が見てて興奮するようなコンビネーションでも見せてやるとしますか」

 

「ふふ、じゃあ僕が「攻め」でいいのかな?」

 

「バカ野郎、俺が「攻め」だ。って何言わすんだ」

 

「そういえば、勢力的にはまだだいぶ「天×木」が優勢だが、最近はお前らのが台頭してきたって聞いたな」

 

「ちょっと待て! あんの? マジであんのか⁉」

 

 祐斗の言葉に一誠が力強く返すが、天魔がつぶやくようにこぼした勢力図を詳しく聞き出そうと詰め寄り、真剣な雰囲気は吹き飛んだ。

 

「私はライザー様に仕える「騎士」カーラマイン! こそこそと腹の探り合いをするのはもう飽きた! リアス・グレモリーの「騎士」よ! いざ尋常に剣を交えようではないか!」

 

 一誠の問い詰めもライザーの眷属の声により止まる。突然名乗り始めた相手に一誠が驚いている間に祐斗が動き出した。

 

「名乗られてしまったら、「騎士」として、剣士として隠れているわけにはいかないな」

 

「え~、出ていくのかよ」

 

 祐斗はふっと笑うと隠れている物陰から出ていく。天魔は文句を言いつつも狙撃のために用意した魔方陣を消し続いた。小猫は天魔に背負われていたためそのまま移動し、一人残された一誠はその場に残るわけにもいかず、慌ててついていった。

 

「僕はリアス・グレモリー様の眷属、「騎士」木場祐斗」

 

「俺は「兵士」兵藤一誠だ」

 

「「戦車」搭城小猫です」

 

「あ~、「僧侶」代理、兵藤天魔だ」

 

 名乗りを上げるグレモリー眷属に対し、あまり締まらない様子の天魔だったが、カーラマインは口の端を釣り上げる。

 

「リアス・グレモリーの眷属悪魔にお前たちのような戦士がいたことをうれしく思うぞ! 敵の前に正々堂々と出てくるなど正気の沙汰ではない! だが、私はお前たちのようなバカが大好きだ! さて、やるか」

 

「「騎士」同士の戦い──待ち望んでいたよ。個人的には尋常じゃない切り合いを演じたいものだね」

 

「よく言った! リアス・グレモリーの「騎士」よ!」

 

「騎士」同士ということもあって気が合うものなのか、「一対一の決闘」と言わんばかりに戦い始め、横入りは無粋とでも言いたげな雰囲気を振りまく二人に天魔たちは呆然とする。「騎士」同士の戦いを見つめるうちに相手方から声がかかる。

 

「暇そうだな」

 

「全く、頭の中まで剣剣剣で塗りつぶされたもの同士、泥臭くてかないませんわ。カーラマインったら、「兵士」を「犠牲」(サクリファイス)にする時も渋い顔をしていましたし、主である「王」の戦略がお嫌いなのかしら? しかも、せっかくかわいい子を見つけたと思ったら、そっちも剣馬鹿だなんてついてませんわ」

 

「一応、俺は狙撃しようとしてたんだけどな。あいつがすぐ出てったからついていっただけで」

 

「あら、そっちの子は戦いというものを少しは分かるようね」

 

「いや、何普通に会話してんだよ!」

 

 天魔が小猫を背から降ろし、結界を張りながら応対するのに一誠が突っ込む。

 

「さて、やろうか。そっちの仮面の人が「戦車」で、そっちのお嬢さんが「僧侶」だったな。魔力戦になったらイッセーに勝ち目はないから、「戦車」を相手にしてもらうことになるか……大丈夫か?」

 

「任せろ! ブーステッド・ギア、スタンバイ!」

 

「あら、私は戦いませんわよ。イザベラ、貴方が相手なさい」

 

「はい?」

 

 天魔が駒の特性を鑑みて組み合わせを提案するも、ライザーの「僧侶」は戦意を全く出さず、後ろに下がっていく。

 

「いいのか、これ? 思いっきり戦闘放棄してるが……」

 

「あ~彼女は気にしないでくれ。今回の試合もほとんど観戦に来ただけなんだ」

 

「なんのこっちゃ……」

 

「彼女は―いや、あの方はレイヴェル・フェニックス。ライザー様の妹君だよ。特別な方法でライザー様の眷属とされているが、実の妹君だ」

 

「んだ、そりゃ……何のために……」

 

「ライザー様曰く、「妹をハーレムに入れることは世間的にも意味がある。ほら、近親相姦っての? 憧れたり、羨ましがる奴は多いじゃん? まぁ、俺は妹萌えじゃないから形だけの眷属ってことで」だそうだ」

 

「は?」

 

 眷属であるにも関わらず、戦う気の見せないレイヴェルにあきれた様子を見せていた天魔だったが、事情を聴いて気配が一変する。周囲にプレッシャーをまき散らし、怒気を隠そうともしない。剣を交えていた祐斗とカーラマインさえも手を止め、天魔を見やる中、ゆっくりとプレッシャーをおさめていく。

 

「ふー……イッセー、イザベラさんの相手は任せる。今やるのはまずい」

 

「お、おう」

 

「なんだかわからないが、ひとまず私の相手は君のようだな、リアス・グレモリーの「兵士」。行くぞ!」

 

「うわっ!」

 

「うん。この程度はかわすか。少し見くびっていた。一段、いや、二段ほどギアをあげよう!」

 

 気を落ち着けつつも一誠にイザベラの相手を任せ、仙術による小猫の足の治療を再開する。そこにレイヴェルが話しかけてきた。

 

「貴方、何をそんなにイライラしていますの? こちらの事情など、貴方には関係ないでしょうに」

 

「別に、アンタのためじゃないさ。ただ、奴が俺の気に食わんタイプの考え無しだとわかって気が昂っただけだ」

 

「参考までに、何が気に入らないのかお教えいただいても?」

 

「あんま聞きたくないこと聞く羽目になるかもしれんぞ?」

 

「そこで濁されても気になるだけですわ」

 

 天魔の忠告を無視するようなレイヴェルの言葉にため息をつき、治療をいったん止めて頭をかくと、仕方ないというような空気を出しつつ答えることにした。

 

「あんたとライザーが兄妹であることは家名で察されるだろう。分家の可能性もあるが、その辺もちょっと調べればすぐにわかることだな。まぁ、そこらはいいか……で、そのうえで基本的に服従前提の眷属化。しかも、わざわざ特殊な方法で、という本来ならありえないというのがありありと分かる経歴だ。話題にならんはずがない。そもそも、近親相姦なんて一部の男が妄想するだけの幻想でとどめるべきことで、実際に起こせば、倫理観などがたって周囲の連中は否定的になるものだ。自分の価値観に酔って、話題にあげられる妹のことを何も考えてない。そこにイラついただけだ」

 

 天魔のイラつきからか、やや話がとっ散らかったっていたが、要するに、妹を近親相姦した女だと陰で笑われるような環境に置くようなバカであり、個人的に気に入らない人種だと知り、唾棄したくなるような気分になっただけである。

 

 そうこうしていると一誠の一撃によって大きな音が響くと共に、テニスコートが吹き飛ぶ。天魔は衝撃と土煙をレイヴェルごと包んで回避した。その威力に警戒を大きくしたカーラマインが叫ぶ。

 

「イザベラ! その「兵士」を倒せ! そいつは! そいつの神器は戦況を一変させるだけの力がある!」

 

「分かっている! この力とプロモーションが組み合わされば、我々の脅威となる!」

 

「残念、警戒を強めるのが遅かったな。潰したければ、最初からトップギアで叩くべきだった」

 

 カーラマインの叫びと魔力弾の威力を警戒し、イザベラが決めにかかる。しかし、強化が十分に終わった一誠の防御を崩すことはできず、カウンター気味の一撃を食らい吹き飛ばされた。

 

「なぜ目を逸らすのです? 戦闘中に敵から視線を外すのは悪手では?」

 

「いえ、さすがにこれは間違っていないかと」

 

 この後何が起きるのか予測した天魔が視線を逸らすのをレイヴェルが咎めるが、小猫がそれを擁護する。その行為にレイヴェルは疑問符を浮かべるが、その疑問はすぐに氷解することになる。

 

「よし! 弾けろ! 「洋服崩壊」!」

 

「な、なんだ、これは!」

 

「今だ! いけぇぇぇ!」

 

 一誠が指を鳴らすとともにイザベラの服がはじけ飛び、イザベラが仮面を残し全裸になった。レイヴェルの視線が氷点下へと落ち込み、天魔が目を逸らした理由を理解した。

 

『ライザー・フェニックス様の「戦車」一名、戦闘不能!』

 

「よっしゃぁぁぁ!」

 

「最低ですわ」

 

「……本当、最低な技です」

 

「戦果は、褒めてもいいレベルなんだがな……」

 

「なんというか、その、ひどい技だな」

 

「うちのイッセー君がスケベでごめんね」

 

 単騎で格上の「戦車」を撃破したことに雄たけびを上げる一誠だったが、周囲の視線は冷え切っていた。

 

「しかし、「魔剣創造」の所有者、魔剣使いか。私は特殊な剣の使い手と縁があるようだな」

 

「へぇ、以前にも魔剣使いと戦ったことが?」

 

 仕切りなおすようなカーラマインの言葉に乗るように祐斗が軽い口調で返す。だが、カーラマインの次のセリフに気配が一変する。

 

「いや、聖剣使いだ」

 

「その聖剣使いについて訊かせてもらおうか」

 

 突如敵意をむき出しにし、殺気を垂れ流す祐斗に一誠が体をこわばらせ、天魔のそばまで寄ってくる。しかし、その殺気を受けてカーラマインも殺気を漲らせ、応戦する構えになる。

 

「ほう、あの剣士は貴様と縁があるのか。だが、剣士同士、言葉で応じるのは無粋! 剣にて応じよう」

 

「……そうかい。口がきけるなら、瀕死でも問題ないか」

 

「木場~、瀕死だと転送されるぞ~」

 

 気を押さえすぎたのか緩い感じになった天魔だったが、複数の気配にすっと表情を引き締めた。

 

「眷属の残りが全員こっちに来たのか……」

 

 天魔が顔を向けるのにつられ、一誠と小猫も顔を向けると、そこには四人の女性がこちらに向かってきていた。

 

「フーン。イザベラ姉さんはやられちゃったんだ。ま、いっか、そんなことより、ライザー様がね、そっちのお姫様と一騎打ちするんですって、ほら」

 

 ライザーの眷属の一人が指し示す方向を見ると、ライザーとリアスが空中で睨みあっているのが見えた。絶句する天魔たちにアーシアから通信が入る。

 

『天魔さん! 聞こえますか?』

 

「ああ、聞こえてる。部長のことか?」

 

『はい。今、私と部長さんは新校舎の屋上にいるんです。相手のライザーさんに一騎打ちの申し出を受けまして、部長さんが応じたんです! おかげで誰にも邪魔されることなく新校舎にこれたんですけど……』

 

 ライザーとリアスが一騎打ちとなった理由をアーシアから聞き、天魔が上を眺めていると、レイヴェルが話しかける。

 

「お兄様ったら、リアス様が思っていた以上に善戦するものだから高揚したのかしらね。普通に戦えば私たちの勝利ですもの、情けをかけたのでしょう。このままでは対峙する前に終わってしまいますものね」

 

「いや、対峙まではいけるだろ。そっちの眷属悪魔ではうちの「王」は止まらんよ。あんたが身を挺して阻むならまだしも」

 

「そうかもしれませんが、不死身相手には勝てませんわ」

 

「だが、フェニックスにも弱点はある!」

 

「精神が参ってしまうまで倒し続けるのかしら、それとも神クラスの力で一撃必殺? 貴方たち、本気でこのゲームに勝とうと思っているのかしら」

 

「思ってるに決まってんだろ。勝ちを目指さない奴なんているかよ」

 

「貴方たちが思っている以上に、不死身というのはどうしようもないことなんですのよ」

 

 レイヴェルの言葉に逐一反論する天魔たちにイラついたように表情を崩し、指を鳴らすと天魔たちをライザーの眷属が取り囲む。

 

「イッセー、道は開けてやる。部長の方に行け。ライザー本人は俺を焼き尽くしたいだろうが、負けるつもりもないだろうからな。時間稼ぎをしろってのは酷なことだとは思うが、頼むぞ。木場はここから動かないだろうしな」

 

「ああ、任せろ」

 

「行かせると思いますの?」

 

「押し通させてもらう!」

 

 敵を前に策を話す天魔にあざけるような表情で問うレイヴェルだったが、断言する天魔にわずかにひるむ。その瞬間、魔法が発動し、一誠の進路の邪魔になるライザーの眷属が突風で吹き飛んだ。

 

 一誠が走る障害にならないよう、熱の残る炎や滑ったりと邪魔になる氷ではなく、風を起こしただけなので、リタイアまでは追い込めなかったが、一誠が囲みを抜けるには十分だった。

 

「さて、こうなった以上、悪いがあまり時間をかけてはいられん。さっさと決めさせてもらうぞ」

 

「いいでしょう、あなたのリタイアの宣言で、あの「兵士」の表情を凍り付かせてくれましょう」

 

 ゲームは最終局面へと向かっていく。

 

 

 




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