変態の双子の兄弟として   作:篠白 春夏秋冬

20 / 71




第三章 月光校庭のエクスカリバー
Life.19 引き金が引かれた日


「で? そんなことがあったのに、お前は俺に動くなっていうのか?」

 

『お前の言うこともわかる。だがな、これはチャンスなんだ。あいつらに対抗するためには、俺たちも手を取り合う必要がある。それが少しでも早いほうがいいってのは分かるだろ?』

 

 端末での会話の声が部屋に響く。イラついた少年の声に対し、通話相手の声は落ち着いており、少年を説得していた。

 

「だから、お前の理想論を通すために大切なものを犠牲にする可能性を許容しろと?」

 

『もし失敗したら、俺の首でも何でもくれてやるよ』

 

「……ハァ、お前の首じゃぁ安すぎるな。いいか? 最大限協力はしてやる。だが、その基準は俺の基準だ。ことが終わったら覚えとけよ、マジで」

 

『ああ、悪いな』

 

 その言葉を最後に通話が切れ、少年は端末の画面を消す。

 

「さすがに今回は隠しきるのは無理そうだな」

 

 少年は体をほぐすと着替えを終え、部屋を出る。

 

 戦に飢えた古強者が迫っていた。

 

 

 

 朝。日課のトレーニングを終え、食卓に着く。天魔とリアスの合作の朝食が並んでいた。

 

「いや~、天魔はともかくリアスさんが和食まで上手だとは思わなかったよ」

 

「ありがとうございます、お父様。日本での暮らしが長いので一通り覚えましたの。しかし、天魔にはかないませんし、まだまだ精進の必要がありますわ」

 

「うぅ、私の方が作ったものよりおいしいだなんて……これではだめです」

 

「アーシアちゃん、気にしなくていいのよ。いろいろできちゃう天魔が悪いんだから。できないこと気にしてたら、私なんて何をすればいいか分からなくなっちゃうわ」

 

 父の言葉にリアスがやや悔しそうにすると、アーシアが落ち込み、母が慰める。団らんといっていい光景に天魔の頬が緩んだ。一誠はリアスが作ったと聞いて、勢いよくかきこんだ卵焼きでむせていた。

 

「そういえば、今日は旧校舎の清掃が入ってたと思いますけど、部活はどうするんです?」

 

「今日はこの家でするのよ。お母様にはご負担をかけてしまって申し訳ないのですけど」

 

 天魔がふと思い出したようにこの日の予定を尋ねると、むせる一誠の世話を焼いていたリアスが振り返り、予定を告げる。恐縮するリアスに、母は何も気にすることはないというように笑顔を向けた。

 

「そんなこと気にしなくていいのよ。二人に女の子の友達ができてうれしいわ」

 

 家にリアスとアーシアが住むことになったことで保護者としての心配が芽生えてきたのか、現状による安心に次いで、松田と元浜の性格を筆頭に、彼らをぼろくそに言い出す両親を眼の前に天魔は顔を引きつらせる。そして、リアスに対して母の浮かべた笑顔の理由を読み取れなかったことを少し後悔することになる。

 

 そして、その日の放課後。

 

「で、これが小学校の時のイッセーと天魔ね」

 

「あらあら、イッセー君が全裸で海に……天魔君は泣いてますのね」

 

「確か波で転んで鼻に海水が入っちゃったんだったかしら」

 

 最初こそ真面目に会議をしていたが、母の持ってきたアルバムによって崩壊した。いつか女子が遊びに来たら見せるという計画は以前に話していたが、一誠の性格と天魔の事情から、そんな計画が実現することになるとは考えておらず、二人揃ってすっかり忘れていたのだった。

 

「……先輩方の赤裸々な過去」

 

「小猫ちゃんも見ないでぇー!」

 

「? 天魔先輩の写真が減りましたね」

 

「ああ、そのころは確か、どこから聞いたのか「カメラが魂を吸い取る」って話を真に受けてカメラを向けられるたびに泣いてたのよねぇ」

 

 天魔の写った写真が減ったことに気付いた小猫が声をあげると、母がそれにこたえる。微笑ましそうにする小猫にいたたまれなくなったのか、天魔は小猫に身を寄せるとささやくように告げる。

 

「だいたいこのくらいの時に自分のことを知ってな。鍛錬のために参加しなかったイベントの思い出は、こんな感じで誤魔化してるんだよ」

 

「そ、そうなんですか」

 

 天魔に耳打ちされたことで、小猫はくすぐったそうに顔をそむける。頬もやや紅潮していたが、気づいたのはアーシアだけだった。

 

「小さい頃のイッセー小さい頃のイッセー小さい頃のイッセー小さい頃のイッセー……」

 

「あ、あの、部長? そんな見つめられると恥ずかしいんですけど」

 

「私、部長さんの気持ちわかります!」

 

「そう、アーシア、わかってくれるのね!」

 

「はい!」

 

 リアスは食い入るようにアルバムを見つめるのに、アーシアも同意する。天魔が苦笑していると、一誠は祐斗に食って掛かっていた。女子には楽しんでいるのを止めようとあまり強く出られないが、男子である祐斗に楽しまれるのは納得いかないらしい。

 

 祐斗はひらひらとイッセーの追撃をかわしながらページをめくる祐斗だったが、ふと、一つの写真に目を留める。

 

「イッセー君、これに見覚えは?」

 

「ん? なんだっけな、これ。ガキの頃過ぎて覚えてねぇや。天魔~」

 

「どうした?」

 

 祐斗の雰囲気の変化を感じながらも、指さされた写真に覚えがなかった一誠は天魔に声をかける。

 

「いや、木場がこいつが気になるっていうからさ。覚えてるか?」

 

 一誠の声に応じ、天魔もアルバムを覗き込むと指されている写真を見て表情を曇らせた。

 

「あ~、これはまた、懐かしいものが……」

 

「これになんかあるのか?」

 

「こいつは聖剣だよ。嫌な思い出だ」

 

 苦々しい顔をして天魔が告げる。天魔の変化に気を取られた一誠と自身のトラウマと向き合っていた天魔には祐斗の表情の変化には気づくことはできなかった。

 

 

 

 旧校舎付近の草間に金属音が響き、白球が宙を舞う。

 

「オーライオーライオーライ」

 

 一誠が後ずさり、手につけたグローブで捕球した。

 

「ナイスキャッチよ、イッセー」

 

 リアスが一誠に対し親指を立てほめるとボールをとり、次の打球の準備に入る。

 

 オカルト研究部のこの日の活動は野球の練習となっていた。近くに行われる球技大会では、クラス対抗戦や男女別競技に加え、部活動対抗戦が存在し、その対策としてめぼしい球技の練習をしていた。

 

 先ごろのライザー戦において、天魔がいなければ敗色濃厚であったことを気にしているのか、勝負ごとに貪欲になっているリアス主導で練習にあたっていた。

 

「当日の競技が野球だったら、四番は小猫ね。ピッチャーは天魔にお願いするわ」

 

「……了解です」

 

「目指すは完全試合だってな」

 

 練習の結果、動体視力によるミート力と「戦車」の膂力でホームランを量産できる小猫が四番バッターに、器用に変化球を投げ分けることができた天魔がピッチャーへと内定する。

 

 練習の内容がノックに移るが、やはり身体能力が高いためか苦戦せずに捕球ができる。あまり運動の得意でないアーシアがトンネルをしたりするものの、一人を除き問題なかった。

 

「次、祐斗! 行くわよ!」

 

「……」

 

「木場、何やってんだ? しっかりしろ」

 

「ああ、ごめん」

 

 問題なのは祐斗である。このところ日常生活の時点から考え込むことが多くなっており、「物思いにふける王子」などと呼ばれる事態となっている。

 

 今も、あらぬ方向を向いたまま、何やら考え込んでいた祐斗の頭にリアスの打ち上げたボールが当たりそうになっていたところで、天魔が祐斗の頭を押さえて捕球したところだった。

 

「祐斗、どうしたの? 最近ぼうっとしていて、貴方らしくないわよ?」

 

「すみません」

 

 祐斗はリアスの指摘に謝るがどこか機械的であり、気がそれていることは明らかだった。

 

 考え込むようになった前日に写真に写っていた聖剣を見たこと、ライザーとのレーティングゲームの最中に聖剣使いと戦ったという「騎士」から話を聞きだそうと殺気をたぎらせていたことを鑑みると祐斗と聖剣に何かしら因縁があるのは想像に難くなかった。

 

 天魔はため息をつくと手の中に収めていたボールをリアスへと投げるのだった。

 

 

 

 翌日の昼休み。

 

 昼休みにも球技大会のミーティングの予定があるため、部室へと向かうことにしていた。

 

 天魔はここ最近広がり始めていた「オカルト研究部の女子に卑猥なことをしている」とか、「祐斗と怪しい関係だ」とかいう噂の原因が自分たちだと話す松田と元浜を一誠が〆るのを見やりつつ食事を終えると、時間には多少余裕があるため、彼らを放ってアーシアのもとへと移動する。

 

「アーシア、食事は終わったか?」

 

「アーシア、彼氏が呼んでるよ」

 

「かかかかかかか、彼氏ぃ⁉」

 

 天魔の呼びかけに三つ編みにメガネの女子、桐生が反応しアーシアをからかうと、アーシアの顔は一瞬で紅潮し、明らかに混乱し始めた。

 

「あれ? あんたらまだ付き合ってなかったの? だいたい一緒にいるし、毎晩合体しているのかと思ってたけど、まだなのか……ああ、そうだ。「裸の付き合い」を教えたのは私なんだけど。どう? 堪能した?」

 

「君がそういうこと教えてるだろうことはわかってたから、事前に回避しました」

 

「ちぇっ、付き合い悪いわね」

 

「あんまアーシアをいじめてやるなよ。お前と違って純粋なんだから」

 

 桐生はニヤつきながら告げるのを天魔にあっさりと突っぱねられると、ややむくれた顔をする。そんな桐生に天魔が笑っていると、袖が引かれた。

 

「? どうした、アーシア」

 

「えっと、あの、その、そろそろ部室に行った方がいいんじゃないかと……」

 

「それもそうか。おーい、イッセー、そろそろ行くぞー」

 

 袖を引かれそちらに意識を向けると、慌ててアーシアが話し出す。

 

 それを聞いた天魔が一誠に声をかけ、旧校舎から移動を始めた。

 

 

 

 部室に到着すると、すでに天魔たち以外のメンバーはそろっていた。ミーティングの前に来客があるというリアスの言葉に従い待っていると生徒会のメンバーがやってきた。

 

「生徒会長? なんでここに?」

 

「なんだ? リアス先輩、もしかして俺らのこと兵藤に話してないんですか? 同じ悪魔なのに気づかない方もおかしいけどさ」

 

 生徒会のメンバーがオカルト研究部の部室を訪れたことに不思議そうにする一誠に、生徒会の男子生徒が話しかける。いち早く動いたのは天魔だった。

 

「ほ~う? そんなことを言うってことは、もちろん俺が悪魔ってことは悪魔になってすぐにわかったんだよなぁ? さ~じく~ん」

 

 天魔は生徒会の生徒の間にするりと入り込み、一誠を嘲った男子生徒と肩をくむ。男子生徒はねっとりと告げる天魔の声に鳥肌を立てつつ、引きはがそうとしたが、がっちりとつかまれていて話せなかった。

 

「天魔、やめなさい。貴方の隠蔽を簡単に見抜けるわけがないでしょう」

 

「すみません」

 

「サジ、私たちは基本的に「表」の生活以外での接触は避けるようにしているので仕方がないでしょう。それに彼はまだ悪魔になって日が浅いのです。わからなくても仕方がありません」

 

 一誠が会話の中で自分たち以外にも学園内に悪魔が存在していたことを知り、驚愕していると、朱乃から紹介が入った。

 

「この学園の生徒会長・支取蒼那さまの真実のお名前はソーナ・シトリー様。グレモリー家同様に元七十二柱に名を連ねる上級悪魔シトリー家の次期当主様ですわ。この学校は経営などの実権はグレモリー家が握っていますが、「表」―日常生活については生徒会であるシトリー家に一任しているのです」

 

「会長と俺達シトリー眷属の悪魔が動ているから、日常生活において平和に過ごせてるってことは、覚えておく価値はあるんじゃないか? ちなみに俺は会長の「兵士」、二年の匙元士郎だ」

 

「おお、俺と同じ二年で「兵士」か!」

 

「俺としては、変態三人組の一人であるお前と同じ称号が付くとか、プライドが傷つくんだけどな」

 

 一誠は自分と近い存在に嬉しそうにするが、匙は渋い顔をする。

 

「な、なんだと⁉」

 

「こいつの言い方はともかく、プライド云々に関しては普段のお前の行動が原因だろ……」

 

「うぐっ」

 

 そんな匙に一誠は食って掛かろうとするが、横から天魔に刺され、沈黙した。一方、匙は沈黙した一誠に高圧的な態度を取り始める。

 

「お? やるか? こう見えて俺は駒四つを消費した「兵士」だ。悪魔になったばかりだが、同じ「兵士」と眷属悪魔ですらない兵藤達なんぞに負けるかよ」

 

「あ? 先に喧嘩売ったのはお前だろ? 買ってやるからさっさと来いよ」

 

「天魔、やめなさい。貴方がやるとシャレにならないわ」

 

「チッ」

 

「サジもです。貴方では兵藤一誠君にも勝てませんよ。彼は駒八つを消費した「兵士」です。それに兵藤天魔君はかなりの使い手。ライザー・フェニックスにとどめを刺した「兵士」とその立役者は伊達ではありません」

 

「駒八つ⁉ しかも、フェニックスをこいつらがって……てっきり木場かリアス先輩が終わらせたのかと」

 

 匙の言葉に天魔が喧嘩腰になり、リアスがたしなめる。ソーナも匙をたしなめるとその内容に匙が驚愕した。

 

「ごめんなさい。兵藤一誠君、兵藤天魔君、アーシア・アルジェントさん。うちのサジは実績がないので焦りもあって、失礼な部分が多いのです。よろしければ新人悪魔同士、仲良くしてあげてください」

 

「いえ、こちらも性急が過ぎました。すみません」

 

「ごめんなさい。天魔は普段は冷静なんだけど、事情があって家族のこととなると気が短いの。あとで言って聞かせるから、この場は治めてもらえないかしら」

 

「あ、いや、俺も失礼なとこあったんで、リアス先輩に謝ってもらうようなことじゃないっすよ」

 

 天魔と匙は互いに主―厳密に言えば天魔は違うが―に謝らせてしまったことで冷静になり、ひとまず謝る。

 

「サジ」

 

「は、はい……よろしく」

 

 ソーナに促され、匙が渋々といった表情を隠さずに頭を下げる。その表情に天魔と一誠はややイラついたが、表には出さなかった。

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「ああ、アーシアさんなら大歓迎だよ!」

 

 屈託なく告げるアーシアに匙は笑顔を向けると、その手を取ろうとする。それを天魔が横からつかみ、無理やり自分との握手に持ち込んだ。

 

「俺のこともよろしくね! 匙君! 言っとくけどアーシアに手を出したらマジ殺すからね!」

 

「もちろん、俺もな? つーか、本人に確認もとらずにファーストネームで呼んでんじゃねぇよ。馴れ馴れしいな」

 

「うんうん、よろしくね! 兵藤君! 金髪美少女を独り占めだなんてやっぱり君も兵藤一誠の兄弟なんだね! 兵藤君もよろしく! 二人とも下校中に落雷に撃たれでもして死んでしまえ!」

 

「へぇ? そっちがその気なら」

 

「なっ、っぐぅ」

 

 あまりにも無理矢理な笑顔で一誠がわざとらしい明るさで割り込み、天魔が涼しい顔で毒を吐く。匙は仕返しと言わんばかりに天魔に握られた手に力を籠めるが、逆にしっかりと握り返され、悶絶した。

 

 それぞれの主が嘆息しながら互いの眷属に対する苦労をねぎらっていると、痛みに耐えかねて匙が力を緩め、それに合わせて天魔も力を抜く。

 

「俺のところはお前らのところよりも強いんだからな」

 

 天魔がハンカチを取り出し、手をぬぐうのを睨みながら匙が告げる。天魔はそれを鼻で笑うが、リアスから目配せを受けた小猫に後ろからはたかれた。

 

「私はこの学園を愛しています。生徒会の仕事もやりがいのあるものだと感じています。ですので、この学園の平和を乱すものはそれが人間であろうと悪魔であろうと許しません。それはリアスの眷属でもその協力者であっても、ましてや私の眷属であっても同様です」

 

 ソーナの言い分にさすがにやりすぎかと感じたのか、天魔はバツの悪そうな顔をした。

 

「お互いのルーキーの紹介はこれで十分でしょう。私たちはこれで失礼します。お昼休みの間に片付けたい書類もありますし」

 

「ソーナ・シトリー様。無礼な振る舞いをしたこと改めてお詫び申し上げます。これからもどうぞよろしくお願いします」

 

「「よろしくお願いします」」

 

「ええ、よろしくお願いします」

 

 ソーナが席を立ち、辞意を告げる。天魔がそれに合わせて謝罪と挨拶をし、一誠とアーシアがそれに続く。ソーナがそれに笑顔で返すと、リアスへと向き直った。

 

「球技大会が楽しみね」

 

「ええ、本当に」

 

 ソーナとリアスが言葉を交わし、ソーナたちが退出する。

 

「イッセー、天魔、アーシア。匙君と仲良くね? ほかの生徒会のメンバーともいずれ悪魔として接することもあるでしょうけど、同じ学び舎に通うものとして、喧嘩してはダメよ」

 

「はい!」

 

「できるだけ頑張ります」

 

「はい」

 

 リアスは天魔の返事が断言するようなものでないことに苦笑いを浮かべたが、ひとまず球技大会の話に移ることにした。

 

 

 

 

 

 




感想・お気に入りありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。