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球技大会当日。
クラス代表のテニスでリアスとソーナが戦い、魔力まで使った戦いによってラケット破損による引き分けによる決着した。
そこから休憩を挟んで部活動対抗戦の抽選が行われた。
部活動対抗の競技はドッヂボールとなり、リアスは身体スペックによる勝利を確信していた。
「兵藤一誠を狙え!」「奴を潰せ!」
「これ以上お姉さまを汚させないためにもここで殺して!」
「出てこなければやられなかったのに!」
「お前らふざけんなぁぁ!」
一誠は集中的に狙われていた。というより、一誠にしかボールが投げられなかった。
オカルト研究部のメンバーは美男美女である。学園内外問わずファンが多く、もしボールを当ててけがをさせるようなことがあればファンによる恨みを買うことになるのは明らかだった。
しかし、一誠は別だった。他のメンバーと違い、普段の素行から周囲の評価は低く、むしろ当てることを推奨するような雰囲気だった。
そのため、逃げ回る一誠を天魔と小猫が守り、反撃で敵を減らしていくのだが、逃げに撤し、守られる姿によって、余計に一誠に対するヘイトが溜まっていた。
「クソォ! 俺は恨まれてもいい! くたばれイケメン!」
そんな中、相手チームの一人の男子生徒が祐斗に対する嫉妬を糧に全力で投球する。普段の祐斗であれば簡単にかわせるはずのボールではあるのだが、正面を見ずにぼーっとしている祐斗は反応できない。
自分の顔がいい自覚のある天魔は狙われたのが一誠ではなく自分なのかと考えて行動が遅れ、小猫は天魔が邪魔になり祐斗の救援には行けなかった。
「何ぼーっとしてやがんだ!」
動いたのは一誠。普段の嫉妬を押し殺し、ボールと祐斗の間に体を割り込ませた。
「……あ、イッセー君?」
いまだに気の抜けた顔をしたままだが声に反応した祐斗は、状況の把握はできていないようで立ち尽くしていた。一誠が舌打ちし、捕球のために身構えたとき悲劇が起きた。
「──―っ!!!」
祐斗に投げられたボールはその高度を急に落とし、地面へと向かう。もし祐斗が反応せずとも直接あたりはしないコースとなり、何かに守られているかのようだった。しかし、そのボールは地面にあたる前に、割り込んだ一誠の股間に直撃するのだった。
「イッセー!!!! しっかりしろ! イッセー!」
「た、たま……が、……」
一誠が崩れ落ち横たわる。天魔が駆け寄り、抱き起すが、一誠は痛みによって上手く言葉を発せなかった。普段一誠に罵声を浴びせる男子生徒もあまりの状態に言葉を発せず、股間を寒くさせた。
「アーシア! こっちに来てくれ! イッセーを運ぶ!」
「は、はい!」
天魔が鬼気迫る様子でアーシアを呼ぶ。負傷した一誠を運ぶのに小猫ではなく力の弱いアーシアを呼ぶ天魔に疑問を抱いたのか、リアスが寄ってきた。
「どうかしたの? ボールが当たっただけでしょう?」
「部長…一誠のアレに直撃したようです」
「何てこと、こんなことで不能になったら困るわ!」
リアスの疑問に天魔が端的に返し、事態を理解したリアスが改めてアーシアに回復を指示すると、天魔が一誠に肩を貸して物陰へと運んでいく。
「イッセーの弔い合戦よ!」
リアスの気合の入った声が天魔たちの後ろから聞こえてきた。
「アーシア、イッセーの腰回りに回復をかけてやってくれ」
「患部に直接でなくていいのでしょうか?」
「ああ、これ以上辱めるようなことをする必要はない」
天魔は一誠を気遣い、回復の指示を出す。アーシアは疑問符を浮かべつつも天魔の指示に従い、神器の力を発動した。
「どうだ? イッセー」
「ああ、痛みが引いてきた……ありがとう、アーシア」
「いえ、無事でよかったです」
『オカルト研究部の勝利です』
一誠がアーシアに礼を言う中、勝利を告げるアナウンスが聞こえてきた。
雨の中、乾いた音が響く。
リアスが祐斗の頬をたたいた音だった。
「少しは目が覚めたかしら?」
部活動対抗戦に関してはオカルト研究部の優勝に終わった。しかし、祐斗は終始ぼーっとしており、試合中にリアスが怒っても何の興味も示さなかった。今もはたかれたことについて無表情無言を貫いており、別人のようにしか見えなかった。
「もういいですか? 球技大会も終わりましたから、球技の練習をしなくてもいいでしょうし、夜の時間まで休ませてもらいます。少し疲れたので、普段の部活の時間は休ませてください。昼間はすみませんでした。どうにも調子が悪かったようです」
「お前、本当に大丈夫か?」
「君には関係ないよ」
祐斗は一方的にリアスに告げると踵を返し、その場を去ろうとする。その雰囲気に何かを感じたのか、天魔が呼び掛けた。
「そうか、お前と聖剣に何があったかは、俺には関係のない話だが……お前はもっと周りを見るべきだと思うぞ」
「周り……ね……そもそも利己的である悪魔に協調しろっていうのは酷な話じゃないか?」
「こういう時にだけ基本的な性質を持ち込むなよ……お前は何がしたいんだ」
「何がしたいか、か……僕が生きている理由はそんなところにはないからなぁ……」
天魔の声に足を止めて話していた祐斗が振り向き、目を合わせる。
「僕は聖剣エクスカリバーを破壊する。そのために僕は生きているんだ」
それだけ言うと再び背を向けて歩き出す。それを誰も呼び止めることはできなかった。
聖剣計画
教会にとって宿敵である悪魔やヴァンパイアといった魔なるものに対して、触れるだけでも滅びを与えうる絶対的な効力を持つ武器の一つである聖剣。
エクスカリバーを代表とするこれらを扱えるものは限られており、数十年に一人現れるかどうか。そのうえ、聖剣を扱える資質のあるものが、剣を扱う才能があるとも限らないため、使い手となれるものというのであれば、さらに少なくなるだろう。
そういった自然な成り行きに左右されず、次代の聖剣使いを育成することを目的としたのが聖剣計画である。
祐斗はその計画の被験体であり、失敗作だった。
同時期に育成されていた他の被験者も聖剣に適応できていなかったため、一斉に処分されるはずだったが、祐斗は何とか生き延び、瀕死の重態でありながら猛烈に復讐を誓っていた。
命を失う最中、リアスが現れ、悪魔の駒によって転生することでその命を長らえたのだという。
「私は、あの子に聖剣への恨みを忘れて生きてほしかった。聖剣などにこだわらず、悪魔らしく。でも、忘れられなかった。聖剣を。聖剣に関わったものを。教会のものたちを」
リアスは言葉を切り痛ましそうな顔をする。一誠とアーシアは何を言えばいいのかと言葉を失っていた。
「とにかく、しばらく様子を見るわ。今はぶり返した聖剣への恨みで頭がいっぱいでしょうし。普段のあの子に戻ってくれるといいんだけど」
「そういえば、ぶり返しの原因。これだと思うんです」
天魔はそういうとアルバムから引き抜いていた聖剣と天魔たちの写った写真をリアスに見せる。
「これが聖剣だってこと?」
「ええ、ある意味、こいつのおかげで今の俺があるといえますし」
「どういうこと?」
「この写真に写っているのは幼馴染ってやつなんですが、この子の家がクリスチャンでして。当時は俺の力が小さすぎて正体がばれてなかったんですが、こいつに触れたことで体がちょっとばかし浄化されまして。おかげでエクソシストに消されかけましたよ」
天魔の告白に全員が目を見開くいた。天魔の話にリアスとアーシアが痛ましそうな顔をし、一誠は何も知らなかったことに歯噛みする。そんな空気を誤魔化すように天魔はへらりと笑うと続ける。
「それまでは人間として生きていたこともあったからか、アーシアみたく庇ってくれる人もいて、最終的には生き残ることができたんですよ…まぁ、過去の話です」
「…そう、聖剣が本物であることは確かみたいね。前任の悪魔が消滅させられたというのも何か関係があるのかしら」
「さぁ? そこまでは分からないです」
天魔の話をもとに、考察を始めるリアスだったが、しばらく考えこむと思考を打ち切った。
「もう寝ましょう。あれこれ考えても祐斗の機嫌が戻るわけでもないし」
「ちょっ、部長、なんで服を脱いでいるんですか⁉」
そういうと、リアスが服を脱ぎだすのを見て、一誠が声をあげる。天魔はアーシアの手を引くと扉へと向かっていく。
「なんでって、私は服を着ていたら眠れないのは知っているでしょう?」
「いや、それは知ってますけど。なぜ今脱ぐんですか⁉」
「ここで寝るからに決まって──―」
扉を閉め、内部の声をシャットアウトした。天魔は一誠の叫ぶ声が外に聞こえないように結界を張り、あくびをすると眠そうにしながらも呆れたように声をこぼす。
「ふぅ、全く、あいつは夜だってことを忘れてやしないか?」
「天魔さん」
「んぅ?」
軽くストレッチをしながら眠るために部屋に戻ろうとする天魔にアーシアが声をかける。
「あ、あの一緒に寝ませんか?」
「……アーシア、男ってのはな、獣なんだ。欲に忠実な空腹の肉食獣みたいなものなんだ。そういうことを言うものじゃない」
「天魔さんは嫌がる人を襲ったりしませんよね?」
「当たり前だろ」
アーシアの問いを天魔は即答する。天魔の目は僅かに眠た気に細められていた。
「なら、私が嫌がったらやめてくれますよね?」
「ああ、もちろんだ」
やはり即答し、安心させるように笑顔を向ける。アーシアは手を合わせてわずかに顔を伏せていた。
「でしたら、私が一緒に眠っても間違いがおきたりしませんよね?」
「たしかになぁ」
アーシアの表情はうかがい知れないものの、天魔の回答は肯定だった。天魔の表情は僅かに緩んでおり、眠気を抑えきれていなかった。
「それなら、私が一緒に寝てもかまいませんよね?」
「そうだな……あれ?」
アーシアの問いを肯定した天魔はふと疑問を抱く、誘導されたことに気付き、目を見開き慌て始めた。
「ちょ、ちょっと待て、いまのは―
『私が一緒に寝てもかまいませんよね?』
『そうだな』
「げ、げげ、言質は取りました」
短い電子音とともに先ほどの会話が再生される。開いたアーシアの手の中にはレコーダーがあった。顔をあげたアーシアの顔は紅潮し、緊張から声は震えていた。
天魔も普段ならこんな誘導にかかることはないのだが、眠気と会話の相手がアーシアであることで油断があった。
完ぺきにはめられたことを理解した天魔は頭をかくと、一つ息を吐いて目線を逸らしながら言葉を紡ぐ。
「ふぅ、わかった。俺の負けだ。枕を持ってきな」
「は、はい!」
天魔の言葉にアーシアは嬉しそうな顔をすると部屋に向かっていく。
「吹き込んだのは桐生か? いや、部長って可能性もあるな……穴で姫島先輩。大穴で搭城さんか」
天魔は現実逃避気味に脳内でオッズを組み始めるのだった。
そして翌日。
一誠がドラゴンの力を散らすために旧校舎に向かった昼休み。
天魔はアーシアたちと談笑していた。
「そういえば、兵藤。とうとうベッドインだったらしいわね? どう? 満喫した? あんたが眠い時に誘導かける作戦は上手くいったみたいね」
「やっぱりお前かよ! ……ご丁寧にレコーダーまで用意させやがって」
ふと思い出したように桐生が天魔に顔を寄せ、アーシアに気を遣ったのか小声で告げる。思わず立ち上がり声を荒げる天魔という珍しい光景にクラスの注目が集まるが、すぐに座り会話を再開したことでゆっくりと注目が薄れていく。
「レコーダー? 何それ知らないわよ?」
「ハァ? お前以外に誰が」
「あ、あの、えっと、天魔さんと交渉したいって言ったら、小猫ちゃんが……」
「嘘やん」
レコーダーという言葉に不思議そうにする桐生へ詰め寄る天魔にアーシアが提案者を告げる。まさかの大穴に天魔が似非関西弁になると桐生が笑いだす。
「アハハハハハ! 後輩にもはめられるなんて可哀想ね!」
「煩いぞ、桐生。そっかぁ、搭城さんかぁ」
うなだれる天魔とおろおろしながら励まそうとするアーシア、笑う桐生となかなか混沌とした状況が続いた。
そして放課後。
表側の部活の時間が過ぎ、帰宅していたが、そこにリアスの姿はなかった。
どうやら、ドラゴンの力を散らすための儀式の際に、今回の担当であった朱乃に一誠がデレデレしているところをリアスに見られ、へそを曲げられたようだった。
ちなみに、天魔も仙術によってドラゴンの力を散らすための儀式をすることができる。ただ、リアスと朱乃が儀式を行っているほうが一誠の視覚的にも喜ばしいため、覚悟を見せた一誠に対する褒美のような意味で参加していなかった。
「部長さん、何かあったんでしょうか?」
「アーシアは気にしなくていいよ。イッセーが、っ!」
「どうした、天魔?」
不安そうにするアーシアに天魔がフォローを入れていると、突然険しい顔になる。一誠が質問すると、天魔は絞り出すように声を出した。
「エクソシストだ……家にいる」
その言葉で一誠とアーシアの顔が青ざめる。思い出すのは以前相対したフリードの姿。彼のように悪魔の周囲の人間さえ殺害するような異常者であった場合を考え、血の気が引いていく。
「アーシア、運ぶぞ。イッセー、走れ!」
「はい!」
「おう!」
天魔の声に二人も応答する。天魔は二人を置いて先行することも考えたが、家にいるエクソシストに周囲を警戒する仲間がいる場合を考え、同行させることにした。
そして、すぐさまアーシアを横抱きにして走り出した。一誠がついてきていることを確かめつつ兵藤家の前に着くと、アーシアを下ろしてドアを開け放った。
「それでね、これがイッセーの小学校の頃の写真なの。こっちなんてね―」
家の中から母が談笑する声が聞こえ、天魔の肩から力が抜ける。それを見てアーシアと一誠も体から力を抜いた。
リビングに向かい、顔を見せると十字架を胸に下げた栗毛の女性と青い髪に緑色のメッシュを入れた女性が母と談笑していた。
「あら、帰ってきたのね。なにかあったの? 血相変えちゃって」
「ただいま。いや、なんでもないよ。それと、久しぶり、だな」
「うん、そうだね、久しぶり。まだ、言ってなかったんだね」
天魔は帰宅の挨拶もそこそこに栗毛の女性に懐かしそうに、さりとて苦しそうに声をかける。栗毛の女性も懐かしみつつも寂しそうにしながら言葉を交わした。
「なんだ、天魔、知り合いか?」
「あ? イッセー、お前気づいてなかったのか? ほらこいつだよ」
栗毛の女性に対する天魔の言葉に不思議そうにする一誠に、懐から取り出した例の写真を見せる。
「この前の写真だな。これがどうしたんだ?」
「ここに写ってるだろ。紫藤イリナ。この時は髪が短いからわかりにくいかもしれないけど、女の子だよ」
「えっ」
天魔の言葉にばっと顔をあげ、イリナの方を見る。
「男の子と間違えちゃってたんだ。まぁ、あの時はやんちゃだったものね。久しぶり。しばらく会わない間にいろいろあったみたいだね。こんな再開になるなんて、本当になにがあるかわからないものだわ」
イリナは言外に正体に気付いていることを告げつつ、苦笑いを浮かべた。
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