「さぁて、あいつは来てるかなっと」
「しかし、天魔が匙の連絡先を知ってるとは思わなかったぜ」
「「この前は険悪な感じになっちゃったんで、改めて親睦を深めておきたいんです」って会長に言って教えてもらった」
祐斗が去った翌日の昼頃、天魔と一誠は駅前へと向かっていた。一誠の提案を受けて天魔が匙を呼び出したのだった。
「お前そういうところあるよな」
「どっちにしても匙は呼び出すんだから、後々使える理由の方がいいだろ? そうすればまるっきり嘘って訳でもなくなるしな……ちょい待ち」
「ん?」
角を曲がった直後に天魔が一誠を呼び止め、振り返ると先ほど曲がった角に手を伸ばし、そこから小猫を引っ張り出した。
「男の集まりに尾行だなんて、悪い子だね。搭城さん」
「……二人が何か企んでいそうでしたので」
「まぁ、いいや。見られた以上は一緒に来てもらおうか」
ややばつの悪そうな表情をする小猫を連れ、一誠に合流すると、匙との待ち合わせ場所へと向かうのだった。
「で、なんで俺を呼び出したんだ」
駅前で匙と合流し喫茶店に入り、席に着いた第一声がこれだった。匙の顔は欺瞞に満ちており、隠そうともしていなかった。
「親睦を深めるためって言っただろ?」
「だったら、会長たちに内緒でなんて条件付けは要らないだろうが」
「あ~、実はな、聖剣エクスカリバーの破壊許可をイリナとゼノヴィアからもらおうと思ってな」
その言葉を聞き、匙が立ち上がると逃げようとする。しかし、それを察した小猫が服のすそをつかみ、逃亡はかなわなかった。
「嫌だぁぁぁ! 俺は帰るんだぁぁぁぁ!」
「私は協力します。祐斗先輩の件ですよね」
「兵藤! なんで俺なんだよ! お前らグレモリーの眷属の問題だろ⁉ 俺はシトリー眷属だ! 関係ねぇ!」
「煩いぞ、匙。ほかの客への迷惑を考えろ」
「そういうなよ、匙。俺の知ってる悪魔で協力してくれそうなやつがお前しかいなかったんだよ」
「ふざけんなぁぁぁ! 協力するわけねぇだろ! 殺される! 俺は会長に殺されるぅぅぅ!」
小猫の拘束に抵抗して匙は必死に逃げようとするが、「戦車」の膂力相手ではピクリとも動けず、せめてもの抵抗として行きたくないと口にし続ける。大声を諫める天魔だったが、この状況を察して結界は張っていたのだった。
「いいか! お前らんとこのリアス先輩は厳しいながらも優しいだろうがよ! 俺んとこの会長は厳しくて厳しいんだぞ!」
「そうか、厳しいほうが強くなれるぞ」
「搭城さんも木場が聖剣計画の被験者ってことは知ってるだろ? で、昨日イリナたちは最悪破壊してもかまわないって言ってたわけだ。確か、それぞれの聖剣の芯にあたる部分だけ回収できれば打ち直せるはずなんだよな。つまり、破壊して回収する場合、だれが破壊しても問題はないわけだ。そこで」
「祐斗先輩にエクスカリバーを破壊してもらって想いを果たしてもらおう、と?」
「
叫び続ける匙を放置し、天魔は小猫と計画について話し始める。
「木場はエクスカリバーを破壊して自分と仲間の恨みを晴らせる。イリナたちは堕天使からエクスカリバーを回収できる。利害は一致しているからな。あちらに提案を受け入れられる公算はある。が、問題は」
「他の部員には頼れませんね」
小猫の指摘に天魔がうなずく。リアスからすれば、眷属の過去が絡んでいるとはいえ、私情で天界側の事情に首を突っ込む行為を諫めなければならない。そのため、この場にいるメンバーと祐斗以外に話をするのは避ける必要があった。
「最悪、話し合いの時点で関係の悪化もあり得るからな。危なくなったら眷属とか関係ない俺に押し付けて搭城さんは逃げていいよ。あ、匙もな」
「今逃げさせろぉぉぉぉ! エクスカリバーの破壊なんて、会長にばれたら絶対に殺される! 最低でも拷問だ!」
「交渉が成立したらお前にも力を貸してほしいんだよ」
「うわぁぁぁ! 勝手な言い分だぁぁぁ! 死ぬ! 死んでしまう!」
泣き言を言い続ける匙に対して小猫ははっきりと告げる。
「私は逃げません」
「おら、匙。後輩の女の子がしっかりしてんのにいつまでも抵抗すんな」
「悪魔としては先輩だからいいじゃん!」
「よし、あいつらを探すか。そろそろ行くぞ」
「嫌だぁぁぁ!」
嫌がる匙を引きずり、支払いをして喫茶店を後にする。
そして、聖剣使い二人はあっさりと見つかるのだった。
「迷える子羊にお恵みを~」
「どうか、天の父に代わって私たちにお慈悲を~」
「なぁ、アレに声をかけるのか?」
二人はローブで顔を隠したまま街頭で祈りを捧げ続けていた。周囲の人間も奇異の目を向け通り過ぎていくだけである。人通りのあるところに来たことで、ひとまず静かになった匙も、明らかに引いていた。
遠目から話を聞く限り、どうやらイリナがどこぞから聖人の絵を買ってきたために路銀が尽きたらしい。ゼノヴィアが誰の絵か問うと迷いながら聖人の名を答えるイリナにあきれた声を出し、互いに顔を突き合わせると腹を鳴らしてへたり込んだ。
何とかして路銀を得ようとする二人が、異教徒なら脅しても主は許すのではだとか、神社の賽銭を奪おうかだとか言い出すのを聞き、本当にこいつらと協力していいのかと考え始める匙をよそに、天魔は神社への襲撃を防ぐために二人に近づいていくのだった。
「うまい! 日本の食事は美味いぞ!」
「うんうん! これが故郷の味なのよ!」
「ゼノヴィアはともかく、イリナはファミレスが故郷の味でいいのか?」
イリナとゼノヴィアは食事に誘うとほいほいついてきた。それでも到着までは何やらぶつぶつ言っていたが、食事を始めるとそんなことはどうでもよくなったらしい。ものすごい勢いで平らげていくのを見るに、余程腹を空かせていたようだった。
「ふぅー、落ち着いた。悪魔に施しを受けるとは、世も末だ」
「世の中関係ないだろ。お前らが勝手に転がり落ちただけじゃねぇか」
「ごちそうさまでした。ああ、主よ。この悪魔たちに慈悲を」
「「「うっ!」」」
「あ、ごめんなさい。つい十字を切っちゃったわ」
二人はひとまず落ち着くと、ゼノヴィアが世を儚み、イリナが十字を切る。影響を受けた悪魔たちが頭を押さえると、それを見たイリナが謝るが、さほど反省はしていなさそうだった。
「それで、私たちに接触した理由は?」
「エクスカリバーを破壊させてもらいたい」
場が落ち着いたのを見て、ゼノヴィアが問いかける。天魔が理由を端的に告げるとイリナは絶句し、ゼノヴィアは考え出した。
「ふむ、一本ぐらいなら任せてもいいだろう。破壊できるのならね。ただ、素性はしっかり隠してくれ。最低限こちらとの繋がりは悟られないようにな」
「ちょっと、ゼノヴィア。いいの? 私の昔馴染みとはいえ、悪魔よ?」
異を唱えるのはイリナ。とはいえ、その言葉も当然ではある。なにせ、宿敵の手を借りようといっているのだから。
「イリナ、正直言って私達だけでは三本回収とコカビエルとの戦闘は辛い」
「それはわかるわ。けれど!」
「最低でも私達は三本のエクスカリバーを破壊して逃げ帰ってくればいい。私達のエクスカリバーを奪われるぐらいなら、自らの手で壊せばいいだろう。で、奥の手を使ったとしても任務を終えて、無事帰れる確率は三割だ」
「それでも高い確率だと私達は覚悟を決めてこの国に来たはずよ」
「そうだな、上にも任務遂行して来いと送り出された。自己犠牲に等しい」
「それこそ、私達信徒の本懐じゃないの」
「気が変わったのさ。私の信仰は柔軟でね。いつでもベストなカタチで動き出す」
「あなたね! 前から思っていたけれど、信仰心が微妙におかしいわ!」
「否定はしないよ。だが、任務を遂行して無事帰る事こそが、本当の信仰だと信じる。生きて、これからも主の為に戦う、違う?」
「……違わないわ。でも」
「だからこそ、悪魔の力は借りない。代わりにドラゴンの力を借りる。上もドラゴンの力を借りるなとは言ってない。まさか、こんな極東の島国で赤龍帝と出会えるとは思わなかった。悪魔になっていたとはいえ、ドラゴンの力は健在と見ているよ。伝説の通りなら、その力を最大まで高めれば魔王並になれるんだろう? 魔王並の力ならエクスカリバーも楽々破壊できるだろうし、この出会いも主のお導きと見るべきだね」
「た、確かにドラゴンの力は借りるなとは言ってこなかったけど……屁理屈すぎるわよ! やっぱり、貴方の信仰心は変だわ!」
「変で結構。しかし、イリナ。彼らはキミの古い馴染みだろう? 信じてみようじゃないか。ドラゴンの力を」
そう言って会話を切るとゼノヴィアは一誠に視線を合わせる。もちろん回答は決まっていた。
「分かった。俺はドラゴンの力を貸す。なら、今回の俺のパートナーを呼んでもいいか?」
ゼノヴィアが首肯するのを見て、一誠は電話をかけ始めるのだった。
「……話は分かったよ。でも、エクスカリバー使いに破壊を承認されるなんて遺憾だね」
「随分な言いようだね。そちらが『はぐれ』だったら、問答無用で斬り捨てているところだ」
「おい、こら。にらみ合うんじゃない。目的は一致してるんだから協力するって話だったろうが」
祐斗は聖剣使いと話していると告げるとすぐに来た。ゼノヴィアとにらみ合うのを天魔が諫め、ひとまず矛を収める。
「やはり聖剣計画の件で恨みを持っているようだね。エクスカリバーと教会に」
「でもね、木場君? あの計画のおかげで聖剣使いの研究は飛躍的に進んだの。だからこそ、私やゼノヴィアのような聖剣に呼応できる使い手が生まれたのよ」
「だが、計画を失敗と断じて被験者を処分するのが許されると思っているのか?」
ゼノヴィアが祐斗の視線からその原因を察し、イリナが計画について多少擁護する。だが、祐斗の視線は鋭くなるばかりだった。
「その事件は教会側でも最大級の禁忌とされている。処分を決定した当時の責任者もは信仰に問題ありとして異端の烙印を押されて追放され、いまでは堕天使側の人間だよ」
「堕天使側の……その者の名は?」
イリナをにらみつける祐斗にゼノヴィアが声をかける。祐斗は興味を惹かれたのか視線を移した。
「バルパー・ガリレイ。「皆殺しの大司教」と呼ばれる男だ」
「堕天使を追えば……そのものにたどり着くのかな」
祐斗はわずかに考え込むようにすると顔をあげる。その瞳には決意が宿っているように見えた。
「そんな情報をもらったのなら、こちらも情報を出さないとね。先日エクスカリバーを持ったものに襲撃されたよ。その際に神父を一人殺害していた。おそらく、そちらの手のものだろうね。相手はフリード・セルゼン。聞き覚えは?」
祐斗の言葉に話を聞いていた者たちが目を見開く。天魔は不快そうな顔をしていた。フリードについて何も知らない匙が天魔に質問する。
「なぁ、兵藤。そのフリードってのは、教会の人間っぽいけどお前らも知ってんのか?」
「味方側の女だろうと気に入らなかったら顔を殴るようなクソ野郎で、悪魔と契約したことのある人間まで殺すようなイカれた不良はぐれ神父だ」
「フリード・セルゼン。元ヴァチカン法王庁直属のエクソシスト。十三歳にしてエクソシストになった天才。実際に悪魔や魔獣を討伐していく功績は大きかったわ」
「だが、兵藤天魔の言う例もあるように奴はやりすぎた。同胞すら手にかけることもあったからね。奴に信仰心なんてものは最初からなかった。あるのは化け物に対する敵意と殺意。そして、異常な戦闘執着。異端とされるのも時間の問題だった。しかし、そうか、フリードは奪った聖剣を使って私たちの同胞を手にかけていたのか。あの時処理班が始末できなかったつけを私たちが払うことになるとはな」
忌々しそうに告げるゼノヴィアに天魔は若干同情した。ゼノヴィアは紙を取り出して何事か書くと天魔たちの方に差し出した。
「ひとまず、エクスカリバー破壊の共同戦線といこう。何かあったらここに連絡をくれ」
「ああ。こっちは……俺のでいいか。紙はっと」
「天魔君のならこの前おばさまに教えてもらったわ。イッセー君のもね」
「マジかよ! 母さん! 勝手なことを!」
「というより、一誠はまだしも、生まれつき悪魔の俺のアドレス入れてて大丈夫なのか?」
「ばれなければ問題ないだろう。消せとも言いづらかったしな」
「ちょっと、ゼノヴィア!」
かかれていたのは携帯のものらしき番号だった。天魔が自身のものをかこうとするとイリナがそれを押しとどめ、入手経緯を告げると一誠が驚く。天魔が首をひねる中ゼノヴィアがため息交じりにつぶやくとイリナが騒ぎ始めた。
「では、そういうことで。いつか食事の礼はするぞ、兵藤天魔」
「食事ありがとうね。天魔君。またおごってね。敵であってもこういう形なら主も許してくれるはずよ」
「ちょい待ち、これをもってけ」
「? まぁ、もらえるならもらっておこう、ではな」
席を立ち去ろうとするゼノヴィアとイリナを呼び止め、天魔が封筒を手渡す。不思議そうにしながらも封筒を受け取り、ゼノヴィアたちが立ち去るのを見送ると、一誠が声をかける。
「あれ、なんだったんだ?」
「ちょっとだけだが金だ。あいつ等まだ無一文だからな。またどっかで腹空かして、いざという時に力が出ませんじゃぁ困る」
天魔が緊張をほぐすように体を伸ばしていると、祐斗が話し始める。
「なんで、こんなことを?」
「ま、仲間だし、同じ主を持つ眷属だしな。お前に助けられたこともあったし、借りを返すってわけじゃないけど、今回はお前の力になろうと思ってな」
祐斗の言葉に応えたのは一誠だった。祐斗は一瞬言葉に詰まると再び話し始める。
「僕が下手に動けば部長に迷惑がかかるからっていうのもあるんだよね?」
「もちろん。あのまま暴走されたら部長が悲しむ。今回は俺の独断で部長に迷惑をかけることになるかもしれないけど、お前が「はぐれ」になるよりもましだろ? こうして教会側とも共同戦線を張れたわけだしさ」
一誠の言葉に祐斗は考え込むような顔をして黙り込む。何か言うべきかと天魔が考え始めるとそれより早く小猫が声をかける。
「……祐斗先輩。私は先輩がいなくなるのは……悲しいです。……お手伝いします……だから、いなくならないで……」
普段表情をあらわにしない小猫がさみしそうな表情で語るのを見て、一誠が驚く。あっけにとられる祐斗に真剣な顔をして天魔が話し始めた。
「この子にこんな顔をさせてまで、意地張る必要ないだろ? というか、ここの会計持つ俺の苦労も考えろよ」
真剣そうな前半に対し、後半に入り、へらりとして話す天魔に祐斗は毒気を抜かれたのかわずかに表情を崩した。
「そうだね。小猫ちゃんにこんなこと言われたら無茶をするわけにはいかないな。今回はみんなの好意に甘えさせてもらうよ。真の敵もわかったことだしね。でも、やるからには絶対にエクスカリバーを壊す」
「むしろ、壊してもらわないとこっちが困る。たとえお前がもう動けないって泣き言を言いだしても魔法で無理矢理動かしてやる」
「ははっ、それはおっかないな」
「よし! 俺達でエクスカリバー破壊団結成だ! 俺達でエクスカリバーとフリードの野郎をぶっ飛ばしてやろうぜ!」
祐斗の宣言に天魔が茶化し、一誠が声をあげる。小猫も微笑みその場がまとまりかけたところにオズオズと匙が手をあげた。
「えっと、俺も? つーか、俺、結構蚊帳の外なんだけど。いや、話の流れで木場とエクスカリバーの間でなんかあるのは分かるんだけどさ」
「あ」
その一言に、ここまで匙に対してろくな説明もしていなかったことを思い出し天魔が小さく声をあげる。
「少し、話そうか」
そんな様子の天魔にわずかに呆れたような表情をしながら、祐斗は自分の生い立ちについて話し始めた。
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