感謝の念に堪えません。
祐斗は自身のことを語った。
聖剣計画のこと。
自身が特別な存在になれると信じ込まされ、非人道的な実験に耐え続けたこと。
ずっと耐え続けた結果下された、処分の判定によって被験者全員を殺すために毒ガスが撒かれたこと。
血反吐を吐きながら神にすがり、それでも救いはなかったこと。
同志の協力で命からがら逃げだしたものの、限界がきて倒れたところを、イタリアを訪れていたリアスに拾われ今に至ること。
「同志たちの無念を晴らしたい。いや、同志たちの死を無駄にしたくない。僕は彼らの分まで生きて、エクスカリバーより強いと証明しなくてはならないんだ」
祐斗が語り終えると場が静まり返る。沈黙を破ったのは匙の嗚咽だった。
「うぅぅぅ……木場! 辛かったろう! きつかったろう! 畜生! この世には神も仏もないもんだ! 俺はなぁぁぁ! 今ものすごくお前に同情している! ああ、ひどい話さ! 教会にもその指導者にもお前が恨みを持つ気持ちもわかる! わかるぞ! 俺はイケメンのお前が正直いけ好かなかったが、そういうことなら話は別だ! 俺も協力する! ああ、やってやるさ! あえて会長のしごきを受けよう! それよりもまずは俺達でエクスカリバーの撃破だ! 俺も頑張るからさ! お前も頑張って生きろよ! んで、救ってくれたリアス先輩を絶対に裏切るな!」
匙は号泣しながら祐斗の手を握り、何度も頷きながら声をかける。
「よっし! いい機会だ! 俺の話も聞いてくれ! 共同戦線を張るんだから、俺のことも知ってほしい! 俺の目標はソーナ会長とできちゃった結婚することだ! でもな、できちゃった結婚って、俺みたいなもてない奴にはすげぇハードル高いんだぜ? できちゃう相手がそもそもいなくてさ……でも、俺はいつか会長とできちゃった結婚するんだ……」
匙は声をあげると自身の目標を語る。それを聞いて天魔は呆れた顔をしたが、一誠は涙をあふれさせた。
「匙、聞け! 俺の目標は部長の乳を揉み! そして吸うことだ!」
「……っ! 兵藤! お前わかっているのか? 上級悪魔、それもご主人様のお乳に触れるのが、どれほど大きな目標かを!」
一誠が涙ながらに匙に問いかけるのを聞き、匙は目から涙をあふれさせながら一誠に問いかける。
「匙、触れるんだよ。上級悪魔のおっぱいに、俺らのご主人様のおっぱいに俺らは触れられるんだよっ! 実際俺は部長のおっぱいを揉んだことがある」
「バカなッ! そんなことが可能なのか⁉ 嘘じゃないよな⁉」
「嘘じゃない。ご主人様のおっぱいは遠い。しかし、追いつけない距離じゃないんだ」
「というか、吸う⁉ ……俺が会長の乳をす、吸える……。吸うってことは、ち、乳首だよな? 吸う場所は乳首なんだよな?」
「バカ野郎! おっぱいで吸える場所って言ったら乳首以外ないだろうが! そうだよ! 乳首に吸い付くんだ! 匙! 俺たちは一人じゃダメな「兵士」かもしれない。だが、二人なら違う。二人なら戦える! 二人ならできる! 二人ならいつかできちゃった結婚できるかもしれない! 二人でご主人様とエッチしようぜ!」
「うん! うん!」
熱をもって語る一誠に匙が涙ながらに同意する。そんな二人に対するほかのメンバーの反応は冷ややかだった。
「……あはは」
「……やっぱり最低です」
「お前らなぁ……あほか!」
特に天魔の反応は大きく、手を取り合う二人の頭に風の礫をぶつけ、視線を合わせると、二人に話し出した。
「あのなぁ、イッセーはまぁ、いいよ。今更だし。だけどな、匙。できちゃった結婚なんて目標、立てるもんじゃぁねぇよ」
「何言ってんだよ! こんな素晴らしい目標ないだろ!」
天魔の言葉に詰まる匙に代わり、一誠が声をあげる。天魔はため息をつくと匙を見据えて言葉を紡ぐ。
「匙、会長は、ソーナ・シトリーは純血の上級悪魔だ。オカ研の部長、リアス・グレモリーにおけるライザー・フェニックスに相当する存在が、純血の悪魔の婚約者がいたと聞いている。すでに解消しているとはいえ、お前はその純血の悪魔以上の価値をシトリー家現当主に見せる必要がある。それはお前の努力次第だろう。だが、そもそもシトリー家現当主が婚前交渉はご法度みたいな考え方の悪魔だったらどうする? シトリー家の跡継ぎは、今は会長だけかもしれないが、資格なしと判断が下れば、遠縁から純血の悪魔を養子にもらって会長を追放し、新たな次期当主を据えるかもしれない。お前は愛した女を家族と引き裂くような真似をしたいのか?」
「そ、それは……」
天魔の言葉に匙は答えられない。その場が沈黙で満たされると再び天魔が話し出す。
「いいか? お前に足りないのは
「ああ、俺、頑張るよ」
「まぁ、そもそも会長がお前に惚れるかどうかって話ではあるけどな」
「お、お前な!」
決意を新たにする匙に天魔が茶化し、匙が食って掛かる。そんな匙に天魔は現実を突きつけた。
「会長は自分より頭の悪い奴と結婚するつもりはないって言って、婚約者とチェスの十番勝負で戦ったらしい。勝ったら婚約解消、負けたら即結婚って条件でな。結果はボッコボッコにして相手のプライドを完膚なきまでに叩きのめしたってよ」
「マジかよ……」
「俺も匙の番号聞いたときに会長とチェスやったけど、ギリ勝ち越しぐらいの戦績だもんな。強いわ、あの人」
「……っ! ……くっ!」
「天魔君、最後の情報はいらなかったと思うよ」
「完全にとどめです」
「……ごめんなさい」
ソーナの婚約話から派生した天魔とソーナの戦績を聞き、匙が天魔をにらみつけながら涙を流す。自身の最大のライバル(暫定)に怨嗟の視線を送る匙に、祐斗と小猫の言葉で失言を察した天魔は謝るのだった。
それから数日。
天魔達は放課後に神父の服を着た状態で街を歩き、フリードが釣れるのを待っていた。完全に気を消せる天魔以外はゼノヴィアの持ってきた魔の気を打ち消す服を着て移動していたが、なかなか出会うことはなかった。
「なーんか最近うまくいってないみたいね。アーシアと寝るのがそんなに不満?」
「んなわけないだろ。最近はアーシアも少し慣れが出てきたのか顔赤くしながらだが甘え、むぐっ……ちっと探し物が見つからなくてな。早く見つけたいんだが」
「ふ~ん、ま、手が足りないってなったらいいなさいな」
「そうだな。もし必要そうなら助けてもらおうかね」
話しかけてきた桐生に対する天魔の回答はアーシアによって口をふさがれた。改めて答えると桐生は助力を申し出、天魔も頬を緩めて返す。そこでアーシアに袖を引かれ向き直る。
「探しものでしたら手伝いましょうか?」
「いや、あれが絡んでいる現状アーシアに出歩くのは避けてほしい。大丈夫。危ないことはしないよ」
アーシアが手伝いを申し出るも、聖剣がこの町にあることを理由に断った。不安そうにするアーシアを落ち着かせていると、桐生は移動していた。
「桐生? ……どうした、お前ら?」
気付けば桐生は一誠の近くに寄っていっており、一誠達は股間を押さえていた。不審に思い一誠達に近づくと桐生が得意気に語り出す。
「ふっ、私もそこのバカと同じ力があるということよ。まぁ、あんたはかなりのもんを持ってるみたいだし、ちゃんと慣らさないとアーシアは大変かもね」
「なんの話だ?」
「天魔、そいつは元浜のスリーサイズスカウターのようにあれのサイズを測れるらしい」
「セクハラだぞ、お前。アーシア、わからなくて大丈夫だ。気にすることはない」
一誠の言葉から桐生の言わんとしていることを理解し、天魔は非難の目を向ける。不思議そうにするアーシアをそっと桐生から遠ざけるのだった。
「それで、木場君以外は来るのよね?」
「……ああ、週末か。あいつも一回「来る」っていったんだ。なんとしても来させるさ」
桐生の言葉から、元々はなんの話をしていたを察した天魔は、祐斗も週末の約束に来させると断言する。一誠もその言葉に力強く同意し、その勢いにアーシアは首をかしげたのだった。
その日の放課後。
焦れた天魔により、天魔単体とそれ以外に分かれ、神父服でフリード捜索に当たっていた。
天魔の力量を知らない匙に加え、小猫と一誠も不安そうな顔をしていたが、祐斗が丸め込んで実行に至った。
「今日は……あたりだな」
「神父様にご加護あれってね!」
時間をみて、そろそろ戻らなければと考えていた天魔だったが、上からの奇襲をひらりとかわす。降ってきたのはやはりフリードだった。
「よぉ、フリード。久しぶりだな」
「おんやぁ、その声はテンマきゅんじゃあ、あ~りませんか。そんなコスプレまでして俺ちゃんを誘うなんて、いけない子だねぇ」
「普通に気持ち悪いな。お前」
「あぁん、ひどぅい! んじゃ、さっさと殺してイカせてあげるZE!」
不意打ちをしてきたフリードを確認すると端末を操作し、脱いだ神父服とともに仕舞うと、聖剣と思しき剣を回避していく。
「前より早いな。これもエクスカリバーの効果ってやつか」
「YE~S! これが俺っちの持ってる「
「お前の辞書には守秘義務って言葉はないのか?」
天魔は軽口をたたきながらも攻撃をかわしていく。そして、待望の時が訪れた。
「うおっと、なんだよ、いきなり!」
「天魔君! 交代だ!」
「気ぃ付けろ。あいつ、エクスカリバーの力で前より早いぞ」
「もう知ってるよ!」
フリードの斬撃に祐斗が割り込み、剣を合わせる。天魔の忠告に雑に返事をすると、フリードというよりもエクスカリバーに対して剣を振るっていく。
「や、やっと追いついた……」
「おせーぞ。お前ら」
「すみません。遅くなりました」
「はぁ、はぁ、もう始まってんのか……」
「匙、お前もっと鍛えとけよ」
そこからやや遅れて一誠、小猫、匙が追い付く。息を切らす匙に天魔が忠告し、匙が呻くと一誠とともに神器を起動した。
「ブーステッド・ギア!」
『Boost!!』
「おんやぁ? イッセー君まで来たのかい? ドラゴンぱぅわーは上がったかい? 殺していい?」
「伸びろ! ラインよ!」
「うぜぇっす!」
一誠がたどり着いたことでフリードが反応し、ふざけた態度をとる。匙の起動した神器は手の甲にデフォルメされた蜥蜴の頭のようなものであり、その口からベロのようなものが射出された。
フリードは向かってくる触手を切り払おうとするが、触手はその剣をかわして右足へと張り付いた。フリードは張り付いた触手を切ろうと剣を振るも、実体がないかのようにすり抜けるだけだった。
「そのラインはちょっとやそっとじゃ切れないぜ! 木場! これでもうそいつは逃げられねぇ! 存分にやってやれ!」
「ありがたい!」
「「光喰剣」だけじゃねぇのかい! 複数の魔剣所持、もしかして「魔剣創造」ってやつでございますか? わーお、レア神器を持ってるなんて罪なお方だねぃ。だが、俺ちゃんの持ってるエクスカリバーにはそんじょそこらの魔剣くんでは相手になりませんぞ?」
匙が逃亡を封じたことに呼応し、祐斗が複数の魔剣を作りフリードに詰め寄る。祐斗の神器を誤解していたフリードは驚くが、エクスカリバーによって魔剣を砕いていった。
「木場! 譲渡するか⁉」
「まだやれるよ!」
一誠の提案を突っぱね、祐斗がさらに切り込んでいく。
「ハハハ! エクスカリバーを見る目が随分こわいねぇ! もしかして、憎悪でも持ってるの? 何があったか知らないけどさ! こいつで切られると悪魔は消滅確定ですぜぇ! 死んじゃうよ! 死んじゃうぜ! 死んじゃえよッ!」
しかし、フリードの聖剣によって祐斗の魔剣は次々に折られていき、追い詰められていった。そんな状況を見て、天魔が静かに声をあげる。
「イッセー砲用意。照準、木場祐斗」
「了解です」
「え? え?」
天魔の声に小猫が応じ一誠を持ち上げる。本人の困惑をよそに強化アイテムの準備が整った。
「発射ぁ!」
「イッセー先輩、祐斗先輩のこと頼みます」
「うおおおお! 小猫ちゃぁぁぁん!」
小猫が一誠を投げ、祐斗に向かって飛んでいく。一誠が内心で、あとで天魔のことを殴ろうと考えているうちに祐斗の姿が近づいていく。
「木場ぁぁぁ! 譲渡するからなぁぁぁ!」
「うわっ! イッセー君⁉」
『Transfer!!』
力の譲渡を受け、祐斗の体を覆う魔力が爆発的に上昇する。力を借りたことに苦々しい顔をする祐斗だったが、気持ちを切り替えるように頭を振ると、声をあげた。
「もらった以上は仕方ない。「魔剣創造」!」
「うっは! これは面白いサーカス芸だねぇ! この腐れ悪魔がぁぁ!」
祐斗の声に従って魔剣がそこかしこに生成される。それを引き抜いてフリードに詰め寄ると、剣を繰り出すが、エクスカリバーの力で加速したフリードには届かなかった。それどころかさらに加速したフリードによって生成した魔剣が次々と破壊されていき、手数がどんどん減っていった。
「だめか!」
「死・ね!」
「させるか!」
「めんどくせぇな! こいつ!」
魔剣がすべて破壊され隙を晒した祐斗にフリードが切りかかるが、匙が接続した触手を引っ張って妨害する。体制を崩したフリードだったが、すぐに別の異常に気付く。
「これは、クソッ! 俺の力を吸い取るのかよ!」
「確か、「
「ドラゴン系の神器は初期状態はしょぼくても、成長したときの爆発力がほかの神器と段違いだから怖いもんだねぇ。全く忌々しいことこの上ない!」
「木場! 文句言ってられない! ここでこいつを倒せ! エクスカリバー問題は後でいいだろう! ほかにも奪われたエクスカリバーはあるんだからそっちに回そう! こいつヤバい! こいつを放置していたら会長にも害がありそうだ! 俺の神器で弱らせるから一気に叩け!」
フリードは匙の神器を切り離そうとするが、剣は触手をすり抜け、切断はかなわなかった。ここまでの会話からフリードの危険性を察した匙が叫び、フリードの排除を訴える。それを聞き、祐斗も魔剣を作り出した。
「確かにここで君を排除することには同意しよう。残り二本の使い手に期待しようか!」
「ハッ! ほかの使い手より俺の方が強いんだぜ? つまり、俺をここで袋叩きにすれば、満足な相手はいなくなるってことでござんすよ! いいんかい? 俺を殺したら満足な聖剣とのバトルはできなくなるぜい?」
フリードの言葉を聞き、祐斗の手が鈍る。それを嘘と断じることができない以上、ここでフリードを始末することをためらってしまったのだ。
「「魔剣創造」か。使い手の技量次第では無類の力を発揮する神器だ」
「バルパーのじいさんか」
「バルパー・ガリレイッ!」
「いかにも。私がバルパー・ガリレイだ」
祐斗がためらっていると、初老の男の声が響く。フリードがその男の名を呼ぶと祐斗から発される殺気が膨れ上がった。祐斗がバルパーをにらみつけながら名を叫ぶと鷹揚に頷き、肯定した。
「フリード、何をしている」
「爺さん! このわけのわからねぇトカゲくんのベロが邪魔で逃げられねぇのよ!」
「フン。聖剣の使い方がまだ十分ではないか。お前に渡した「因子」をもっと有効活用してくれたまえ。そのために私は研究をしてきたのだからね。体に流れる聖剣の因子をできるだけ聖剣に込めろ。そうすればおのずと切れ味は増す」
「へいへい! ……こうか! そらよ!」
バルパーの指示をもとにフリードが力を籠めると聖剣の輝きが増し、匙の神器が切断される。フリードが自由になったことで匙が歯噛みする。
「逃げさせてもらうぜ! 次あう時こそ、最高のバトルだ!」
「逃がさん!」
捨て台詞を吐き逃げようとするフリードに一誠たちの横を抜けてゼノヴィアが切りかかる。
「やっほ、天魔君、イッセー君」
「イリナ!」
「遅いぞ、お前ら」
共同戦線の相手の登場に一誠が嬉しそうにし、天魔は文句を言う。戦闘開始時点で連絡は送っていたにもかかわらず、結構な時間が経っていたので、文句の一つも言いたくなったのだ。
「フリード・セルゼン、バルパー・ガリレイ。反逆の徒よ。神の名の下に断罪してくれる!」
「俺の前で憎ったらしい神の名を出すんじゃねぇよ! このビッチが!」
向かってくるゼノヴィアに応戦し、聖剣同士で火花を散らすフリードだったが、大きく距離をとると、懐に手を突っ込んだ。
「バルパーのじいさん! 撤退だ! コカビエルの旦那に報告しに行くぜ!」
「いたし方あるまい」
「じゃあな! 教会と悪魔の連合どもが!」
取り出した球をたたきつけると閃光が広がり、視力を奪う。目が慣れるころにはフリードたちの姿はなかった。
「追うぞ、イリナ!」
「ええ!」
「僕も追わせてもらおう! 逃がすか、バルパー・ガリレイ!」
「おい、情報共有ぐらい……行っちまった。しかも、ばれたみたいだし……きちんと結界はりゃぁよかった」
敵が撤退したことにより臨戦態勢を解き、息を整える一誠達だったが、背後から聞こえてきた声に背筋を凍らせた。
「力の流れが不規則になっていると思ったら……」
「これは困ったものね」
一誠と匙が油の切れたブリキ人形のようにぎこちなくゆっくりと振り返ると険しい顔をしたリアスとプレッシャーを放つソーナが立っていた。
「イッセー。どういうこと? 説明してもらうわよ」
一誠が青ざめるのを横目に、天魔は小さくため息をつくのだった。
感想・お気に入りありがとうございます。
チェスの戦績から、会長ヘのフラグ立ても出来そうな気がしているので、アンケートを使ってみようと思います。御回答頂けるとありがたいです。
ソーナをヒロイン化する?
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