崩れ落ちたフリードが血を流し、地面を血で染めていく。祐斗が聖魔剣を握り、感傷に浸る中、バルパーが震えながら話し始める。
「せ、聖魔剣だと……ありえない……反発しあう二つの要素が混じりあうなど、あるはずがないのだ」
「バルパー・ガリレイ。覚悟を決めてもらう」
祐斗は剣をバルパーに向けるが、バルパーの視界には映っておらず、思考の中に沈んでいく。
「……そうか、わかったぞ! 聖と魔それらをつかさどる存在のバランスが大きく崩れているとすれば……説明はつく! つまり、魔王だけでなく神も」
「バルパー。お前は優秀だったよ。そこに思考が至ったのも優れているが故だろうな。だが、俺はお前がいなくてもいいんだ。最初から一人でやれる」
核心の寸前まで話したところでバルパーの胸に光の槍が刺さり、絶命させる。それを放ったコカビエルは哄笑し始めた。
そして、ひとしきり笑うと椅子から立ち上がると地面へと降り立つ。
「限界まで赤龍帝の力をあげて譲渡しろ」
「私たちにチャンスを与えるというの⁉ふざけないで!」
「ふざけないで? ハハハ、ふざけているのはお前たちの方だ。俺を倒せると思っているのか?」
コカビエルが発した言葉にリアスが激高する。それをいなし、自信満々といった風に告げるとリアスは黙り込み、一誠に倍化を始めるように指示を出した。一誠が倍化をする間、隙を見て仕掛けようとするものもいたが、隙を見つけることができず、仕掛け切れなかった。
そうして数分すると、神器の宝玉が強く輝き、倍化の完了を告げる。
「で、誰に譲渡する?」
コカビエルがニヤつきながら告げると、リアスが一誠へと手を差し出した。
「イッセー!」
「はい!」
『Transfer!!』
二人が手を握り合い、力の譲渡が行われる。リアスの力が高まり、紅い魔力が吹き上がるのを見て、コカビエルは笑い出した。
「フハハハハハ! いいぞ! その魔力の波! 俺に伝わる魔力の波動は最上級悪魔のそれだ! もう少しで魔王クラスの魔力だぞ、リアス・グレモリー! お前も兄に負けず劣らずの才を持っているようだな!」
「消し飛べぇぇぇ!」
笑うコカビエルにリアスが魔力を打ち出す。先ほど一誠の強化を受けたとき以上の大きさの魔力の塊が迫る中、コカビエルは両手を突き出した。
「面白い! 面白いぞ! 魔王の妹! サーゼクスの妹!」
リアスの魔力を受け止めると雄たけびを上げ、オーラを漲らせる。徐々に勢いを殺され、滅びの魔力が消失する。着こんでいたローブや手に傷を作りつつも五体満足で耐えきったコカビエルに落雷が襲い掛かった。
「雷よ!」
「俺の邪魔をするか! バラキエルの娘よ!」
「私をあのものと一緒にするな!」
朱乃による雷を翼の羽ばたき一つでかき消し、笑う。コカビエルの言葉に激高した朱乃はさらに雷を浴びせるが何の痛痒も与えることはなかった。
「悪魔に堕ちるとはな! ハハハ! 愉快な眷属を持っているな! リアス・グレモリーよ! 赤龍帝、禁手に至った聖剣計画の成れの果て、バラキエルの娘、そしてそのガキ! お前も兄に負けず劣らずのゲテモノ好きのようだな!」
「兄を、我らが魔王への暴言は許さない! 何より、私の下僕への侮辱は万死に値するわ!」
「ならば滅ぼして見せろ! 魔王の妹! 「赤い龍」の飼主! 紅髪の滅殺姫よ! お前が対峙しているのは、お前たち悪魔にとっての長年の宿敵なのだぞ! これを好機と思わなければお前たちの程度が知れるというものだ!」
コカビエルの言葉にリアスが激高し、魔力を打ち出す。それを防ぎつつ、さらに挑発を繰り返すコカビエルへゼノヴィアが駆け出した。それを受けて祐斗も駆け出し、切りかかる。
「デュランダルか! 一度壊れたエクスカリバーと違い、その輝きは本物か! しかぁし!」
先に切りかかったゼノヴィアのデュランダルをコカビエルは光の剣で受け止めると、開いた手で波動を打ち出した。それにより浮いたゼノヴィアの腹に蹴りこむと、ガラスの割れるような音とともにゼノヴィアが吹き飛んだ。
「ほう。割り込んだか、相変わらず器用だな。聖剣使いの娘。いくら武器が強くとも所詮は使い手しだいだ! お前ではまだまだ使いこなせんよ! 先代の使い手はそれはそれは常軌を逸するほどの強さだったぞ!」
ゼノヴィアが空中で体勢を立て直すと、再び切りかかり、それに合わせて祐斗も切り込む。
「コカビエル! 僕の聖魔剣であなたを滅ぼす! もう誰も失うわけにはいかないんだ!」
「ほう! 聖剣と聖魔剣の同時攻撃か! いいぞ! それぐらいでなければ俺は倒せん!」
即興とはいえ、なかなかのコンビネーションで切りかかるも、コカビエルは両手に生み出した光の剣で二人の攻撃を捌いていく。その合間を縫って、小猫が突撃した。
「そこ!」
「甘いわ!」
コカビエルは視認することもなく小猫の一撃を翼で受け止め、反撃する。鋭い刃物のようになった翼は固いものをこすり合わせるような不快な音を立てながら小猫を吹き飛ばした。
「小猫ちゃん!」
「よそ見は死ぬぞ!」
意識を逸らしたことで、想いの力が強度に反映される聖魔剣の強度が薄れ、剣にひびが入る。コカビエルの発した衝撃波に祐斗とゼノヴィアが吹き飛ばされ、地面を転がる。コカビエルの周囲に人がいなくなったところに魔法陣が展開され、火炎の渦が立ち上った。
「タイミングは申し分ないが、火力が足りんな」
コカビエルが翼を動かし、炎を消し去る。ローブが少し焦げ、露出した皮膚が少し赤くなっていたが、その程度だった。
「まだだ!」
「ハハハ! まだ来るか! いいぞ、来い!」
「聖魔剣よ!」
「こんなもので囲ったつもりか」
その隙に祐斗が再び駆け出すと、聖魔剣をコカビエルの周囲に展開するが、広げた翼によってあっさりと砕かれた。祐斗はさらに切りかかるが、コカビエルの右手の指二本で受け止められる。祐斗がもう一本作り出し振るうとコカビエルが今度は左手の指二本で受け止めた。
「こんなものか」
あざ笑うコカビエルに向けて、祐斗は口に剣を作り出し、首の動きで切りかかった。コカビエルが驚き、つまんでいた剣を祐斗とともに放り投げ、後退する。
祐斗の決死の攻撃はほほにわずかな傷をつけただけだった。
全力の攻撃でもその程度の傷にしかならないことに絶望的な顔をする面々を見回し、コカビエルは苦笑すると、余裕そうに話し出した。
「しかし、仕えるべき主をなくしてまで、お前たち神の信者と悪魔はよく戦う」
「……どういうこと?」
コカビエルの言葉にいぶかし気な表情で問うリアスに思わずといった具合に噴き出した。
「フハ、フハハハハハハハハ! そうだったな! そうだった! お前たち下々まであれの真相は知らせれていなかったな! なら、ついでだ。教えてやるよ。あの三つ巴の戦争で、魔王だけでなく神も死んだのさ!」
その声に天魔が苦々しい顔をし、アーシアとゼノヴィアが膝をついた。そのほかのものも唖然とし、何を言われたのか理解しきれていないような状況だった。
「知らないのは当然だ。神が死んだなどと、誰に言える? 人間は神がいなければ心の均衡と定めた法も機能しない不完全なものの集まりだぞ? 我ら堕天使、悪魔さえも下々のものに伝えることはできなかった。どこから神が死んだことが漏れるかわからんからな。三大勢力でも知っているのはトップとそれに近しい一部のものだけだ。先ほどバルパーは気づいたようだが。戦後に残されたのは、神を失った天使、魔王全員と上級悪魔の大半を失った悪魔、幹部以外のほとんどを失った堕天使。もはや疲弊状態どころではなかった。どの勢力も人間に頼らねば種の存続ができぬほどに落ちぶれたのさ。特に天使と堕天使は人間と交わらねば種を残せない。堕天使は天使が堕ちれば増えるが、純粋な天使は神を失った今では増えることはない。悪魔も純血は貴重だろう」
「……うそだ……うそだ……」
ゼノヴィアが剣を取り落とし、うなだれる。その表情は狼狽に包まれていた。
生きる糧を、自身を支えてきたものを根底から覆されたのだからそれもおかしくはないのかもしれない。
ゼノヴィアからすれば敵の言葉ではあるが、自身が圧倒的に不利であり、嘘をついて敵に利があるような状況ではないことがコカビエルの言葉の信ぴょう性を高めていた。
「正直に言えば、もう大きな戦争は故意にでも起こさない限り、再び起きない。それだけどこの勢力も先の戦争で泣きを見た。お互い争いあう大元であった神と魔王が死んだ以上、戦争継続は無意味と破断しやがった。アザゼルの野郎も戦争で部下の大半をなくしちまった所為か次の戦争はないと宣言する始末だ! 耐えがたい! 耐えがたいんだよっ! 一度振り上げた拳をおさめるだと⁉ ふざけるな。ふざけるなッ! あのまま継続していれば俺たちが勝てたかもしれないのだ! それを奴は! 人間の神器所有者を招かねば生きていけぬ堕天使どもに何の価値がある⁉」
コカビエルは語るにつれて声に怒りがこもっていく。それを聞き、アーシアはへたり込んだまま震えていた。
「……主がいないのですか? 主は……死んでいる? では、私たちに与えられる愛は……」
「そうだ、神の守護、愛がなくて当然なんだよ。神はすでにいないんだからな。ミカエルはよくやっている。神の代わりをして人間と天使をまとめているのだからな。まぁ、神が使用していた「システム」が機能していれば、神への祈りもエクソシストもある程度は機能する。ただ、神がいたころと比べ、切られる信徒の数は格段に増えたがね。そこの小僧が聖魔剣なんてものを創り出したのも、神と魔王によって保たれていたバランスが崩れているからだ。本来なら、聖と魔は混ざり合わない。聖と魔のパワーバランスを司る神と魔王がいなくなれば様々なところで特異な現象も起こる」
天魔が呆然自失となったアーシアに寄り添い、背をさする。思わず駆け寄った一誠も声をかけるが、アーシアは返事をすることができなかった。
「俺は戦争を始める、これを機に! お前たちの首を土産に! 俺だけでもあの時の続きをしてやる! 我ら堕天使が最強なのだと、サーゼクスにも、ミカエルにも見せつけてやる!」
「ふざけるな」
拳を振り上げ、高らかに宣言するコカビエルに底冷えするような声が響く。
声を発したのは天魔だった。一誠にアーシアを任せ、立ち上がるとコカビエルをにらみつけた。
「戦争をしたいのはお前の勝手だ。そんなに戦いたいのなら、ミカエルにでも現ルシファーにでも一騎打ちを仕掛ければいい。誰も巻き込まない場所でな。俺たちの首を土産に戦争を起こす? お前たち堕天使が最強だと見せつける? ハッ、弱いやつを蹴散らして威張るような奴を誰が認めるかよ」
「いつもおれに消滅させられかけて泣いていたお前が、随分とデカい口をたたくものだな。いいだろう、今度こそ消滅させてやろうじゃないか」
天魔がオーラをたぎらせながら挑発すると、コカビエルも天魔をにらみつけた。すると、天魔は袖をまくり、腕を晒す。そこには腕に絡みつくように紋様が浮かび上がっていた。それがはじけると天魔が話し出す。
「今のは俺に負荷を与え続けるための術式だ。久しぶりに外したよ。お前の言う通り、あの時の俺は泣いてばかりだった。だが、ここ数年はお前も聖剣にかかりきりで俺の成長を知らねぇだろう? せっかくだ、見せてやるよ。俺の成長って奴を」
ちらりと一誠を見るとニヤリとわらって声をあげた。
「行くぜ、「アルビオン」」
『ああ、久方ぶりの戦闘だ。相手は堕天使の幹部、さび落としには丁度いい』
『アルビオンだと⁉』
「ど、どうしたドライグ⁉」
天魔の呼んだ名に反応し、天魔の内側から声が発される。その声に一誠の籠手から声が上がり、一誠が驚く。
そんな声を無視し、天魔が動いた。
肩幅に足を開き、両掌を腰の少し上にかざす。それと同時に天魔の背中に光輝く翼が現れる。
右腕を勢いよく左斜め上へと伸ばし、左手を右腰に当てていた。そのまま右腕を左から右へ、左手を右腰から左腰に平行に移動した。
「禁手!!」
叫ぶとともに右手を左手に重ね、体を開くと、体が光に包まれ、光が収まると全身を鎧に包まれていた。
その鎧は一誠がフェニックス戦でみせた、「赤龍帝の鎧」によく似ていた。体の各所に宝玉が埋め込まれ、背中には八枚の光翼が生えていた。
「ク〇ガじゃねぇか!」
『いや、こいつはアルビオンだ!』
「だから誰だよ! アルビオンって!」
一誠が天魔のとった動作に反応し、ドライグが反論する。そこに一誠が叫び、まるでコントのようになっていた。
「ほう? 使えるようになっていたのか、「
「俺ごときが、なんだって?」
コカビエルが話す途中で天魔の姿がぶれ、他のものが気付くころには天魔はコカビエルの背後に移動していた。周囲には黒い羽根が散っていき、その手には翼が握られていた。
「まるで鴉の羽根だな。薄汚い色だ。アザゼルの羽根はもっと薄暗く、常闇のようだったぞ?」
「き、貴様! 俺の羽根を!」
「どうせ堕ちた証だ。地の下の世界に堕ちたものには羽なんて必要ないだろう? それよりも、そんなにのんびりしていていいのか?」
『Divide!!』
音声が鳴ると同時にコカビエルの纏うオーラが大きく減少する。
「「白龍皇の光翼」の能力の一つ。触れた相手の能力を十秒ごとに半減させ、その力を所有者の糧にする。あまり時間はないぞ? 早く俺を倒さないと人間にすら勝てなくなってしまうぜ?」
「クソ!」
コカビエルは天魔に向かっていくが、のらりくらりとかわされていき、その間にも幾度となく能力が発動する。
『Divide!!』
「おのれ!」
コカビエルが光の剣と槍を繰り出すが、腕の一振りで破壊される。
『Divide!!』
「クソ!」
コカビエルが幾本もの光の槍を投げるが、戦闘開始時のような威力はなく、鎧を貫くことはなかった。
そうこうしているうちに何度目かの能力発動がおきる。
『Divide!!』
「もはや、中級堕天使ですら捕らえられるレベルだ、十分だな」
拳を叩き込みコカビエルの体をくの字に曲げる。コカビエルが吐しゃ物をまき散らしながら数歩後ずさると呻くように声を出す。
「……ば、バカな……この、俺が……」
「なんだ、ありきたりなセリフを吐くんだな? この後どうつなげるつもりだ? 「こんなはずでは」とでもいうつもりか? 悪いが、このまま送り返させてもらうぞ。アザゼルからも多少手荒でいいといわれているしな」
「貴様……アザゼルだと⁉ アザゼルゥぅぅ! 俺はぁぁぁ!」
天魔の拳がコカビエルの顔面にめり込み、吹き飛ばす。仰向けになり気絶するコカビエルに天魔が語り掛けた。
「もう聞こえちゃぁいないだろうが、一応言っておく、お前の敗因はたった一つだぜ、コカビエル。たった一つのシンプルな理由だ。てめぇは俺を怒らせた」
コカビエルの近くにフリードを引きずってくると魔方陣を展開する。それが堕天使のものであることに気付き、驚いたような顔をするリアスたちをよそに転送を完了すると、神器をしまって振り返った。
「さて、帰りましょうか」
「ちょっと待てぇぇぇ! 説明しろよ! いろいろと!」
「やっぱり駄目か。まぁ、ここで話すのもなんですし、どこか落ち着ける場所に行きましょうか」
一誠の叫びに頬をかくとひとまず移動を提案する。その後シトリー眷属も合流し、会議室へと向かうのだった
感想・お気に入りありがとうございます。
流れにやや無理矢理な部分は感じていますが、天魔君の正体は白龍皇でした。
天(龍)+(悪)魔で天魔だったり、「オリジナル神器」のタグ追加を遅らせたり、一応伏線らしきものは張ってました。
ソーナをヒロイン化する?
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する
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しない