変態の双子の兄弟として   作:篠白 春夏秋冬

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Life.33 引きこもりの特訓

「うわぁぁぁぁぁん! 誰か助けてくださぁぁぁい!」

 

 ギャスパーの声が旧校舎近くの広場にこだまする。その声を目印にたどり着いた天魔と匙だったが、その光景にあっけにとられていた。

 

「あれ、訓練か? どう見ても吸血鬼狩りの最中なんだが」

 

「ゼノヴィア曰く「健全な精神は健全な肉体から」らしいぜ」

 

「にしても、もったいねぇな。あれで男とは」

 

 自身に滅びを与えんとする聖剣の波動を背に、泣きながら逃げるギャスパーを眺め、匙がぼやく。匙には移動中に天魔からギャスパーの容姿について聞かされていたので、一誠ほどのショックはなかったらしい。

 

「鍛えるのに相性のいい奴って匙のことだったのか」

 

「ああ、それはいいんだが……お目当ての聖魔剣使いはいないぜ、アザゼル」

 

「なんだよ、いねぇのか……」

 

 一誠が天魔に話しかけるも、天魔は気も漫ろに答えて視線を木陰に向けるとそこにいた人物の名を呼ぶ。気づけばそこにはアザゼルが立っていた。

 

「なっ! アザゼルって」

 

「ああ、こいつが堕天使の総督だ。ほら、構えんな。お前らじゃ勝てんよ」

 

 その名前を聞いた天魔以外がアザゼルに向かって構えるが、天魔は肩をすくめて彼らを止める。ひりついた雰囲気を壊したのはアザゼルだった。

 

「そもそも俺に戦う気はねぇよ。ここに来たのは聖魔剣使いを見たかったのと、天魔に用があっただけだ」

 

「はぁ? 俺に? 何の用だよ」

 

「なんの用だとぉ? ……てめぇが俺の酒持って行ったんだろうが!」

 

 怒鳴るアザゼルに天魔は耳を抑え、天魔以外があっけにとられる。天魔は不機嫌そうに話し始めた。

 

「お前が酒を取ってこいって言ったときに取ってきただけだぞ」

 

「俺のとこにもってこいって話だろうが! しかも、俺に十七年渡して三十年持っていきやがったな! 返せよ! お前まだ飲めねぇだろ!」

 

「昨日の晩にサーゼ様とジオティクス様に出したから残ってねぇよ」

 

「ふざけんな!」

 

 そのまま大事な酒を盗られたとアザゼルはしばらく騒いでいたが、天魔が割り込んだ。

 

「ここに長々といていいのか? まだここにいるのがばれるとまずいだろ?」

 

「チッ! お前マジで覚えとけよ!」

 

「お前にかけられた苦労に比べれば、微々たるもんだと思うがな」

 

 天魔の言葉にひとまず矛を収めたアザゼルはチンピラのような言葉を残して帰っていった。天魔は肩をすくめると訓練の開始を宣言するのだった。

 

 訓練の内容は単純である。内容は投げたバレーボールだけを止めるというもので、匙を連れてきたのは訓練中に匙の神器「黒い龍脈」を使ってギャスパーの神器から余分なエネルギーを吸い取り、出力を抑えることで、暴走を抑えるためだった。

 

 その際に、「黒い龍脈」が五大龍王「黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)」ヴリトラの力を有している神器であること。短時間であればラインを切り離して他者や別のものに接続できること。成長によってラインの数を増やせることを聞き、匙の目の色が変わっていた。

 

 一番早い方法として一誠の血を与えることも提案したが、ギャスパーが首を振って拒否していた。天魔のものでも強化はできるが、赤龍帝の力を増すという特性と同じ主を持つ眷属であるため、魔力の波長が近くなっていることがあり、一誠の血のほうがいいようだった。

 

 そうして訓練を開始したが、やはり視界の一部を止めるのは難しく、ボールを投げる手や、誰かのほうをふと向いた瞬間に相手を止めてしまうといった事故が起きた。そのたびにギャスパーが逃げ出し、連れ戻すのに時間がかかっていた。

 

 連れ戻すのは停止が効かない天魔の役割であり、今もまた逃げ出したギャスパーが頭を後ろ側にされ、小脇に抱えられていた。

 

「なんで、僕に構うんですかぁぁ。僕みたいなのにかまってのいいことなんてないですよぉ」

 

「たしかにな。お前は意気地なしだし、すぐ逃げる。こうして連れ戻すのは面倒極まるよ」

 

 天魔の容赦のない言葉にギャスパーの目に涙がたまる。しかし、ギャスパー本人がそれは事実であると認識しているため反論はせず小さな声を絞り出した。

 

「な、なら、もう放っておいてください……」

 

「だが断る」

 

 ギャスパーは蚊のなくような声に食い気味で返事をする天魔にわずかに目を見開く。少し沈黙の後、ギャスパーの表情が視界に入らない天魔は鼻を鳴らすと話しだした。

 

「お前が強くなりたくない、何もせず一人でいたいって考えだったらそうそうに放りだしていたさ。けど、お前はそうじゃないだろ?」

 

 天魔の言葉にギャスパーは答えない。その沈黙を受け、一つ息をつく。

 

「フェニックスにコカビエル、お前がの力があればもっと楽に済んでいたかもしれない。まぁ、たらればの話はいいのさ。お前はきっとその場に出てこれなかったことを後悔している。少なくとも俺はそう感じるから、こうして訓練に協力してるんだよ」

 

 そこまで話すと天魔はギャスパーをおろし、背を向けたまま歩いていく。ギャスパーもわずかに遅れ、それについていった。

 

 体育館につくまでギャスパーは沈黙を保っていた。

 

 天魔もまた何も言わず、歩き続ける。

 

 その後の訓練では、ギャスパーの逃亡する頻度は若干低くなった。

 

 途中でリアスが軽食をもって陣中見舞いに来て、休憩を兼ねて気合を入れると、夜まで訓練は続いたのだった。

 

 そしてその夜。

 

 アザゼルに呼び出され、酒の怨み言と小言を聞き流した天魔はギャスパーの様子を見るために旧校舎へ戻ってきた。

 

「お、祐斗、今帰りか?」

 

「うん。天魔君もギャスパー君の様子を見に?」

 

「まぁな、会話が成り立つかはわからんができることはしないとな」

 

 天魔が祐斗と合流し、ギャスパーの部屋の前に行くと、部屋の中で一誠とギャスパーが話していた。

 

「なんだ、案外打ち解けるの早かったな」

 

「さすがイッセー君。ギャスパー君とこんなに早く打ち解けるなんてね」

 

「お前らいいところに来たな。ちょっと話があるんだ」

 

 一誠が、ギャスパーと談笑しているのを見て感心する天魔と祐斗に真剣な顔をして話し始めた。

 

「お前たちを男と見込んで、オカ研男子での連携を考えた」

 

「聞こうじゃねぇか」

 

 いつになく真剣な一誠の声音に天魔の表情も真剣なものになる。祐斗が頷くのに合わせ、一誠が話しだした。

 

「まず俺がパワーをためる。それをギャスパーに譲渡して周囲の時を止める。そうすれば俺は停止した女の子を触り放題だ」

 

「また、エッチな妄想をしていたんだね」

 

「ってか、それだと俺らいらねぇだろ。巻き込むなよ」

 

 真剣な表情から放たれた阿呆な計画に祐斗と天魔の表情に呆れが差す。その様子にもめげず、一誠は真剣な顔のまま続けた。

 

「いや、ある。お前たちは禁手して俺を守れ。もしかしたらエッチなことをしている間に敵が襲ってくるかもしれない。これは大事な連携だ。俺が溜めて、ギャスパーが停めて、俺が相手を触り、お前たちが俺を守る。完璧な陣形だ」

 

「イッセー君。僕はイッセー君のためなら何でもするけど……一度真剣に今後のことを話そうよ。力の使い方がエッチすぎるよ。ドライグ、泣くよ?」

 

『木場はいいやつだなぁ』

 

 絶句する天魔より前に出て、祐斗が真剣な顔で一誠に告げるとドライグの涙声が響く。それに反応したのか天魔のほうからも声が上がる。

 

『赤いの……随分と苦労をしているようだな……』

 

『言ってくれるな……白いの』

 

 声の主はアルビオンであり、その言葉は哀れみに満ちていたが、ドライグはライバルからの憐憫にも弱弱しく返すことしかできなかった。

 

「お前ら! そんな憐憫に満ちた声を出すな! 木場と天魔みたいなイケメンは食い放題だろうがな! 俺は食べることすらままならないんだよ!」

 

「……君のことだから気付いたら気付いたでそっちにはまり込みそうだし、部長も甘やかすだろうから言うのはやめておくよ……覚えたては怖いというしね」

 

『あぁ、あの頃はひどかったな……』

 

「それは本当にすまんかった」

 

 一誠の嘆きに祐斗は明言を避け、アルビオンが嘆き始めた。天魔も謝る羽目になったが、一誠には幸か不幸か伝わらなかった。

 

「よし、男同士、肚を割って話そう。「第一回女子のこんなところがたまらなく好きだ選手権」! まずは俺からだな! 俺はまず女子のおっぱいと足を見るね! ほれ、天魔!」

 

「あ~、ももから腰に掛けてかね。そのあたりのラインは女性を表す象徴的な部分だと思うぞ。よし、祐斗、ヴラディ、次はどっちが行く?」

 

 天魔が祐斗とギャスパーに話を振ると、苦笑していたが嫌がることはなかった。ギャスパーは手が震えていたが、段ボールに入ることで落ち着き、天魔と一誠は吸血鬼のくせにそれでいいのかとあきれていた。

 

 その最中、視線を合わせるのが怖いと言うギャスパーに一誠が紙袋をかぶせ、かぶせられた本人はそれを大いに気に入ったようだが、とても変質者チックだったことは言うまでもない。

 

 

 

 そんな猥談から数日後の休日。

 

 天魔と一誠は呼び出しを受け、神社へと赴いていた。

 

「神社って入っていいのかね?」

 

「ここは問題ない場所だ。あまり来たい場所ではないがな」

 

「どういうことだ?」

 

「いらっしゃい」

 

 神社に入ることに疑問を抱く一誠に天魔が苦々しい顔で呟き、それを問いただそうとするとちょうど朱乃が出てきて遮られた。天魔が肩をすくめて進むのを見て、話を後にして神社へと足を踏み入れたのだった。

 

 朱乃の説明では、この神社は先代の神主がなくなって以来、無人であったものをリアスが特殊な約定を交わし、悪魔でも入れる状態にしており、朱乃はここに住んでいるらしい。

 

 案内に従って進んでいると、豪華なローブを着た端正な顔の青年が、頭の上に光の輪を浮かべて天魔たちを見ていた。

 

「初めまして、赤龍帝、兵藤一誠君。白龍皇、兵藤天魔君。私はミカエル。天使の長をしております」

 

 十二枚の金の翼を広げて握手を求めるミカエルに一誠は反応できなかった。

 

 

 

 朱乃の案内で本殿へとたどり着くと、ミカエルに相対する形で天魔と一誠が座り、朱乃は少し離れた場所に座った。

 

「実は、兵藤一誠君にあれを授けようと思いましてね」

 

 ミカエルが指示したほうに目を向けると一本の聖剣が浮いていた。それを見て天魔が目を見開いた。

 

「「アスカロン」! ゲオルギウスが持っていたという龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)の聖剣!」

 

「どらごん・すれいやー? なんだそれ」

 

「ゲームでもあるだろ。特定の種族相手にダメージが増える武器が。それのドラゴン版が実際にあるもんだと思え。しかも聖剣だからな。俺らにはさらにダメージ倍率ドン! ってわけだ」

 

 天魔が聖剣の正体を看破し驚くのに対し、一誠が聞き覚えのない単語に首をひねる。天魔が解説を加えたことで一誠は納得顔になる。話が纏まったことを見て、ミカエルが話を再開する。

 

「特殊儀礼を施しているので悪魔のあなたでもドラゴンの力があれば扱えるはずです。あなたが持つというよりは、ブーステッド・ギアに同化させるといった感じでしょうか」

 

「そんなことできるのか?」

 

『お前次第だ。神器は想いに応える。お前が望めばそうなるだろう』

 

「これも交渉の一手ということですか」

 

 ミカエルの言葉にどうするかと悩む一誠を置いて天魔がミカエルに問う。するとミカエルは微笑みながら答えた。

 

「ええ、私は今度の会談は三大勢力が手を取り合う大きな機会だと思っているのです。すでに知っているそうなので話しますが、我らが創造主である神は先の戦争でお亡くなりになりました。敵対していた旧魔王は戦死。堕天使の幹部たちは沈黙し、アザゼルも建前上は戦争を起こしたくないと口にしています。これは無駄な争いをなくすチャンスなのですよ。このまま小規模の争いを続けていれば、いずれ三大勢力は滅ぶ。そうでなくとも他の勢力が攻めてくるかもしれない。その聖剣は天界側からの悪魔へのプレゼントです。悪魔側からも聖魔剣を何本かいただきましたし、こちらとしてもありがたい限りなのです。それで、堕天使側への贈り物の話ですが……」

 

「ええ、俺が交渉しろとアザゼルからは申し付けられています」

 

 ミカエルの言葉を引き継ぐように話した天魔に驚く一誠だったが、堕天使側との交渉は後にしてまずはアスカロンの受け渡しに話を戻した。

 

「それで、なぜイッセーにアスカロンを?」

 

「願掛けというやつですよ。以前一度だけ三大勢力が手を取り合ったことがありました。戦場を乱しに乱した赤い龍と白い龍を倒したときです。その時のようにもう一度手を取り合えるようにとね」

 

 ミカエルの邪気のない言葉に一誠も信用したようだが、自身に特効のものと聞いて手が出せないままの一誠に朱乃が話しかける。

 

「その剣はこの神社で最終調整をしました。魔王様、アザゼル様、ミカエル様の各陣営の術式を使用していますから、悪魔でもドラゴンの力があれば触れるはずですわ」

 

「……はぁ、ほれ、俺は何でもないだろ? お前も大丈夫だ」

 

 朱乃の言葉を聞いても恐る恐るという風にアスカロンへ近寄る一誠を追い抜き、天魔は刃の部分を持つと、一誠に持ち手を差し出す。そこに何の変化もないことを見て一誠も安心して受け取ると神器を出し、意識を集中し始めた。

 

 赤い波動と聖なる波動がゆっくりと同調していき、光り輝くと、アスカロンとブーステッド・ギアが合体した。

 

「ま、マジで合体しやがった」

 

「と、時間ですね。兵頭天魔君、申し訳ありませんが、お話は後日ということで」

 

「はい、また」

 

 自身の籠手から剣が生えるさまに驚く一誠を見て満足そうにするミカエルはふと時計を見て辞意を告げる。天魔に一つ謝ると光に身を包んで消えていった。

 

 

 

 その日の夜。

 

 旧校舎の一室にて、天魔と一誠は対面して座っていた。

 

「朱乃さんのこと、知ってたんだよな?」

 

「ああ、バラキエルは堕天使幹部の中でも一番の堅物だからな。よく悩んでる姿は見かけたよ」

 

「なら、なんで」

 

 問い詰めようとする一誠を手で制して天魔は言葉を続ける。

 

「コカビエルに言われただけであの激昂具合なのは見ただろ。あの人のバラキエルへの恨みは相当なもんなんだ。あの人からみて無関係の俺がおいそれと口を出すことじゃねぇよ。ましてや俺は堕天使側だしな……それ以上に、あれは俺の所為なんだ」

 

 顔を伏せ、後悔をにじませる天魔に一誠は聞き逃した言葉もあったが、それ以上言葉を紡ぐことはできなかった。

 

 

 

 

 

「計画は順調なのか?」

 

『もちろんさ。ここで失敗してしまってはここまで準備したことが台無しだからね』

 

「すまないな、お前たちに危ない役を押し付ける形になって」

 

『今更な話だね。それに、これは私たちが望んでやっているんだ。謝られたら立つ瀬がないさ』

 

「……そうだな。連中の動きは?」

 

『予測通りだね。旧校舎のヴァンパイアが持つ神器を利用するつもりのようだ』

 

「正面から挑むでもなく奇策奇襲に頼って民衆の心を掴めるとは思えんがね」

 

『それがわからないから、彼らは負けたのだろう』

 

「違いない、では、また」

 

『ああ、当日に会おう』

 

 




感想・評価・お気に入りありがとうございます。

UAも30,000を突破しました。ありがたいかぎりです。

尻に目が行く奴に宿っていくのか、尻に目が行く奴が引き寄せるのか…

それはさておき、来年もよろしくお願いします。
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