もう一方に集中していると校閲だけのこっちを忘れてしまいます。
それはそうと、UAが40,000を超えていました。
本当にありがとうございます。
今後ともよろしくお願い致します。
「今日で修行は終わりですね。皆さんお疲れ様でした」
天魔が達成感に満ちた表情で告げる前で、シトリー眷属は全員倒れていた。彼女たちの表情は疲労感にまみれており、どこか達成感よりも解放感を感じているように見える。
「明日はリアス様達とともに会場入りですし、しっかり休んでくださいね。では、解散!」
天魔の言葉を合図にヨロヨロと起き上がり、重い足取りで邸内へと向かっていった。
そして翌日の夕刻。パーティーを前に用意をするシトリー眷属をおいて、天魔は一足先にグレモリー家を訪れていた。
天魔はアザゼルとともに会場入りするつもりだったが、正装と呼べるようなものは制服以外に持っておらず、天魔の立場を鑑みると今回の場にはそぐわないという判断が下ったため、グレモリー家に衣装の調達を頼る事になったのだった。
そして、サーゼクス達と共に前乗りしていたアザゼルに置いていかれた。
事前に測っておいたサイズで問題ないことを確認し、使用人の補助をもらいつつ衣装を着込むと、時間の余った天魔は屋敷内をぶらついていた。
「やっぱり正装って動きづらいよなぁ。一応、護衛の名目できてるのに、動きづらい服装に護衛対象と別に会場入りってどうなんだろ?」
ぼやきながらうろつくこと暫く。そろそろ支度も終わる頃だろうから中庭へ移動すべきかと考えていると、近くの扉が開き、ドレス姿の―ギャスパーが現れた。
「お、ギャスパーか。やっぱりドレスなんだな」
「て、天魔先輩、お久しぶりですぅ」
「へぇ、大分成長したじゃねぇか」
部屋から出た直後に遭遇した声をかけられ驚いているものの、目を見て返事を返すギャスパーに天魔が感心していると、ふと思い出したように懐を漁ると細長い箱を取り出し、ギャスパーへと差し出した。
「ギャスパー、これを付けておけ」
「これは?」
ギャスパーが箱を開けると、中にはワインレッドに染まったアンダーリムのフレームの眼鏡が入っていた。
「お前専用の制御装置だ。精神面が安定してきているから暴走することはないとは思うが、今回はかなり人が多い場所に行くから、念の為にな」
天魔の言葉に納得したギャスパーはメガネを取り出しかける。
「うむ。似合うじゃないか。時間をかけた甲斐があったな」
「時間って、どれぐらいかけたんですか?」
「性能だけなら会談前には出来るはずだったんだけどな。俺の計画とデザインに凝ったおかげで渡すのは今になったし、予算は想定の三倍かかった。いい仕事をしたぜ」
天魔がやりきった顔をするのに対し、ギャスパーの表情がひきつる。
天魔が得意げに機能の説明を行っていると別の扉が開き、リアスたちが姿を表した。
こちらもギャスパー同様ドレス姿であり、それぞれに誂えた意匠を凝らしたその姿に天魔は目を奪われる。
「天魔さん……ど、どうでしょうか?」
「よく似合っているよ、アーシア。お姫様みたいだ」
「天魔もいつもと違ってドレスアップするのだな。馬子にも衣装というやつか」
「……ゼノヴィア、それは褒め言葉ではないからな?」
一応は敵側である天魔との遭遇に一瞬表情の固くなるものもいたが、アーシアの意を決した問いかけに天魔が笑顔で返し、アーシアの表情は華やいだ。一方でゼノヴィアの言葉に天魔の表情はなんともいえないものになるのだった。
「あれ? 天魔は制服じゃないのか?」
「俺は堕天使陣営だからな。お前らと混同される可能性は避けるべきらしいぜ。それより、匙はどうした?」
天魔がリアスたちとともに中庭へと出ると一誠と匙が待っていた。なぜか匙はうなだれており、天魔が原因を問うも匙は何も言わず、一誠も誤魔化した。
シトリー眷属が揃うもうなだれたままの匙を放置し、談笑することしばし、地響きとともに重い音が響き、それと同時に使用人の一人が天魔たちへと向かってきた。
「タンニーン様とそのご眷属の方々がいらっしゃいました」
その声に従い、全員で外へと向かうと、そこには十体ほどのドラゴンが待っていた。
一誠が一際存在感を放つドラゴンへ向かってかけていくのをリアスと天魔が追っていく。向かう先のドラゴンが一誠に気付くと話し始める。
「約束通り来たぞ、兵藤一誠」
「うん! ありがとう、おっさん!」
「お前たちが背に乗っている間、特殊な結界を発生させる。それで空中でも髪や衣装やらが乱れないだろう。女はそのへん大事だからな」
天魔が一誠のタンニーンに対する呼び方に驚愕していると、わずかに苦笑いしたリアスに肩を叩かれる。その衝撃にハッとすると、天魔は気を取り直してタンニーンに話しかけた。
「はじめましてだな、「魔龍聖」タンニーン。兵藤天魔だ。家の兄弟を鍛えてくれてありがとよ」
「礼には及ばん。魔王サーゼクスの依頼をこなしただけだ。しかし、お前が今代の白龍皇か……なるほど、強いな。兵藤一誠をもっと厳しく鍛えるべきだったか」
「あれより厳しくされたら死んじまうよ! ……ならないよな? その考えこむような顔は冗談だよな⁉」
普段と違い、オーラを開放しながら礼を述べる天魔に、タンニーンが感心したようにつぶやき、修行における反省点を述べると、一誠が恐れとともに叫ぶ。
タンニーンの言葉に天魔が考え込むのを見て、自身の未来を想像し、顔を青くする一誠だったが、救いの手は差し伸べられた。
「イッセーをからかうのもそれぐらいにしておきなさい。時間が押してしまうわ。それとタンニーン、シトリーのものもいるけれど大丈夫かしら?」
「無論だ。任せておけ」
リアスの言葉に天魔が考え込むのを止め、顔を上げるのを見て一誠はほっと息をついた。リアスの問にタンニーンは快諾し、ドラゴンに乗っての会場入りの準備を始めるのだった。
ドラゴンの背に乗ること小一時間。
パーティーの会場である建物へと到着した。
タンニーンが着陸態勢に入るタイミングで下から一斉に照らされたりと面食らうこともあったものの、無事に到着し、タンニーンたちは大型の悪魔用の待機場所へと去っていった。
彼らを見送ると天魔たちも二台のリムジンに乗せられ、移動していく。
一台目にはグレモリー眷属が、二台目には天魔とシトリー眷属が乗り込んだ。
この日の予定がお披露目という名目のお偉方の集まりであり、既に二次会以降の会場を押さえてあるはずと聞いた天魔によって、匙が空気イスをさせられつつ談笑していた。
「そういえば、さっきはイッセーと何を話してたんだ?」
「ああ、お前らには、勝つぞってさ、俺にも昇格する、必要のある目標、があるし、負けるわけに、はいかないから、な」
「匙、わかっていると思うが」
「わかってる、よ。変なことは、しないって」
「ならいいが……三分経過、一旦休憩だ」
天魔の声に従って匙が身体から力を抜き、シートにもたれる。
自身がシートにもたれている間にも天魔は空気イスを続けているのを見て、匙も空気イスを再開し、震えながらも耐え続けるのだった。
会場に到着する頃には匙は燃え尽きており、産まれたての子鹿の方がまだ
天魔は呆れながら仙術により、注視すれば動きが悪いとわかる程度に回復させ、おいていくことにした。
アザゼルの下に向かうと、既にほろ酔いのアザゼルに追い返され、深い溜め息をつく。見かねた使用人が案内を申し出、天魔もやけくそ気味にパーティーを楽しむことにした。
案内に従い会場に入ると、広いフロアに大勢の悪魔が集まり食事や談笑を楽しんでいた。リアスとともに一誠が連れ回されているのをみて、その立ちふるまいが存外様になっているように感じ、わずかに感心していると、人数に慄いたギャスパーがくっついてきた。
震えるギャスパーをあやしつつ、アーシアやゼノヴィアとともに食事に舌鼓を打っていると、あいさつ回りを終えた一誠が戻ってきた。
「あー、疲れた。部長のお母さんに鍛えてもらって良かったぜ」
「今後も似たようなことはあるだろうから定期的にレッスン受けたほうがいいだろうな。まぁ、ひとまずお疲れさん。ほれ、食っとけ」
「サンキュ」
大勢の上級悪魔へのあいさつ回りに気疲れした様子の一誠だったが、天魔がねぎらいとともに差し出した料理を口に運び、顔を綻ばせる。
そうして身内で談笑していると、ドレスを着た少女がゆっくりと近づいてきた。
天魔はその少女に見覚えのある様子だったが、一誠達は心当たりが浮かばず、思考を巡らせていると、少女が天魔へと話しかけた。
「お久しぶりですわね。兵藤天魔、いえ、白龍皇とお呼びするべきかしら?」
「久しぶりだな、レイヴェル・フェニックス。まぁ、好きに呼べばいいさ」
やや棘のある様子のレイヴェルに天魔が和やかに返すのを聞き、一誠とアーシアがそういえばという表情になる。
初ゲームの相手であるライザーの妹というなかなかに忘れがたい肩書の少女をようやく思い出したことにわずかに苦笑すると、一瞬いい笑顔を浮かべると、唐突に悲壮感たっぷりな表情を作る。
「ライザーは……残念だったな……」
「まるで逝去したかのように振る舞わないでくださいな! お兄様は健康です! 壮健とはいえませんが……そもそも、貴方方が原因でしょう!」
天魔の表情と声音に、事情の知らぬゼノヴィアとギャスパーが憐れむような表情に変わるのをみて、レイヴェルが激昂する。
その剣幕にギャスパーが小さく悲鳴を上げて一誠の背へと隠れ、一誠たちが目を瞬かせるのをみて、天魔が笑い、レイヴェルは面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「悪かったって。敗戦と婚約破棄のショックで引きこもりだったっけ?」
「ええ、おっしゃるとおりですわ。ま、才能に頼って、調子に乗っていたところもありますから、いい勉強になったはずですわ」
「兄貴に対して手厳しいね。一応は眷属だろ?」
「今は違いますわ。お母様の未使用の駒とトレードしていただきましたの。お母様はゲームをしませんし、眷属になりたい方を見つけたらトレードしていただけるよう交渉していただけるので、実質フリーの「僧侶」ですわね」
「へぇ……良かったな」
天魔があっさりと兄を腐すレイヴェルに苦笑していると、現状の立場が明かされた。レイヴェルの環境に怒りを抱いていた天魔からすれば朗報であり、自然とレイヴェルに対する視線が優しいものになる。
レイヴェルはその視線にくすぐったそうにすると、視線を彷徨わせ、聞き馴染のない単語に首を傾げる一誠を視界に収め、これ幸いと話題を転換した。
「トレードをご存知ないという顔ですわね、赤龍帝。トレードとは、レーティングゲームのルールの一つです。「王」の同意のもと、眷属を交換できるのですわ。もっとも、同じ駒であることが条件ですけど」
「なるほどなぁ。ところで、その赤龍帝っていうの止めてくれよ。俺は兵藤一誠っていう名前あるし。お前同年代だろ? 普通でいいって。皆、「イッセー」って呼んでるぞ」
一誠は勉強になったと幾度か頷くと呼び方に対して苦情を言う。それを受けてレイヴェルはわずかに考えると口を開いた。
「では、イッセー様と呼んで差し上げてよ」
「いや、様とかいらないって」
「いいえ、これは重要なことですわ。それで……」
慣れない呼び方に困り顔になる一誠に対し、レイヴェルは呼び方を固定する。一誠が反論しなくなったのをみて、レイヴェルは天魔へと視線を移した。
しかし、目を合わせるでもなくちらちらと何かを伺う様子を見せるレイヴェルに天魔は苦笑すると肩を竦めた。
「好きに呼べって言ったしな。お前に任せる」
「で、では、天魔様と呼んで差し上げますわ。まぁ赤龍帝を本来の名で呼ぶのにそのライバルである貴方を名前で呼ばないのは不自然ですものね。ええこの呼び方は当然なのです」
天魔の肯定を機に天魔も「様」付けで呼ぶことを決め、レイヴェルは早口でまくしたてる。わずかにむくれるアーシアに対し、他の面々が不思議そうにする中、一人の女性が近づいてきた。
「レイヴェル。旦那様のご友人がお呼びだ」
「分かりましたわ。天魔様、今度、お会い出来たら、お茶でもいかがかしら? わ、わ、私でよろしければ、手製のケーキをご、ご、ご用意してあげてもよろしくてよ?」
近づいてきたのはライザーの「戦車」であるイザベラだった。レイヴェルはイザベラの言葉に頷くと、ところどころでつまりながらも実に洗練されたカーテシーをして去っていく。言葉の混乱具合に合わないきれいな所作に天魔が感心していると、イザベラが口を開いた。
「やぁ、久しぶりだな」
「イザベラだったな。レイヴェルの付き添いか?」
「そんなところ。あの子もあの子で我が主ライザー様と同じぐらい掴めない所があるものだから……婚約破棄を賭けた一戦以来、レイヴェルは君の話ばかりをしているよ。よほどあの校庭での戦いが印象的だったらしい。色々と話題にも事欠かなかったしね」
「まぁ、俺が注目されるのは当然だな」
イザベラは自分が天魔から名を覚えられていたのが意外だったのか、わずかに目を見開いたが、すぐに復帰した。
しかし、その後の天魔のドヤ顔にはあっけにとられ、苦笑いを浮かべる一誠を見るとわずかに頭を振り、気を取り直して続ける。
「……まぁ、それはいいか。して」
「ああ、事前にいくつか候補日をあげて連絡するように言ってくれ。なるべく早い日時で応じられるようにする」
「本当か? それはありがたい。レイヴェルも喜ぶだろう。さて、私はこれにて失礼する。良い宴を」
イザベラが全て言い切る前に天魔が回答を返し、その回答に頷くとイザベラも去っていった。何が何やらという表情の一誠だったが、天魔が美少女とのお茶会ということは理解したのか悔しがり始める。
「くそっ、木場はあっちで囲まれてるし、天魔はお茶の約束してるし、おのれイケメン!」
「今回はフェニックスのコネ目当てってのもあるけどな……っと、ちょっと外すわ」
「天魔さん、どうかしたんですか? もうすぐ魔王様の挨拶ですよ?」
「一応名目はアザゼルの護衛だからさ。会場内はちょっとな」
はばかることなく文句をいう一誠をなだめる天魔だったが、ふと顔を上げると外へ向かう。声を掛けるアーシアたちを納得させると、そのまま静かに会場をあとにした。
「そういえば、あいつ先生の護衛だったな」
「ここ数週間、完全に護衛対象から離れていたがな」
「まぁ、先生は堕天使の総督だし、他にも護衛はいたんだろうけど」
残された一誠たちは天魔の環境をネタに談笑していた。護衛失格の行動にアーシアが苦笑していると、一誠がふと視線を動かした。
「イッセーさん、どうかしましたか?」
「知り合いがいてさ。ちょっと挨拶してくる。魔王様の挨拶までには戻るから」
アーシアの疑問に端的に返し、わずかに駆け足で人の波へ潜っていく。残してきたメンバーから視線が切れるのを確認すると、脇目も振らずに駆け出した。
そのままエレベーターホールまで走り、一つのエレベーターが降りていくことを確認すると別のエレベーターに乗り、下に降りるためにボタンを押していく。扉が閉まる寸前で一人が飛び乗り、一誠が確認すると、乗ってきたのはリアスだった。
「部長!」
「どうしたの? 血相変えて」
「小猫ちゃんが何かを追うように飛び出して言ったのを見たんです」
「なるほど、それが気になったのね。わかったわ、私も行く」
「はい! けど、よく俺がエレベーターに乗るってわかりましたね」
小猫の様子に不安になっていたところで味方が増えたので、一誠は安心感を覚えていたが、ふとリアスが追ってきていたことに疑問に感じると、リアスはにっこりと笑った。
「私は常に貴方のことを見ているんだから」
リアスの言葉に一誠はわずかに顔を赤くするのだった。
エレベーターが一階にたどり着くと一誠とリアスは周囲の者たちに聞き込みをし、小猫らしき少女が外へと向かったことを知った。リアスが使い魔を放って行方を突き止めるまでの時間で小猫の様子について話していた。
「やはり小猫の様子はおかしいわね」
「はい、でも小猫ちゃんがそこまで追うものってなんでしょうか?」
一誠の言葉にリアスは深く考え込むような表情になる。一誠はリアスの応えを待ちつつもその表情から心当たりがあることを察してはいたが、その答えが話される前にリアスの使い魔が帰ってきた。
「見つけたようね。森? ホテル周辺の森にあの子は行ったのね?」
使い魔から告げられる小猫の行方に疑惑を深めつつも、森に入っていく。
人の手が入ってるとはいえ、鬱蒼とした森の中を走る最中、一誠が山ごもりの効果を体力面以外で実感していると、少し開けた場所で小猫と座り込んだ一人の女性を発見し、立ち止まる。
掻き分けられた草木の音で小猫も気づき振り返ると、追ってきていたのが一誠とリアスだと気づきバツの悪そうな顔になった。
「あ~らら、ずいぶんと人が増えちゃったわね」
「部長、イッセー先輩……」
小猫の前に座り込む女性はよく見れば傷だらけだった。女性の周囲は淡く発光しており、以前見たことのある一誠にはそれが仙術によるものだと気付くことができた。
「小猫ちゃん、その人って……」
「久しぶり……って言ってもわかんないわよね。初めましてね、赤龍帝。私は黒歌。白音ーこの子のお姉ちゃんよ」
黒歌の名乗りに一誠が勢いよく小猫へと向き直ると、小猫は小さく首肯する。目を丸くして自身を見つめる一誠に黒歌はウインクで返すのだった。
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