匙が一誠に奇襲を仕掛けていたころ。
立体駐車場に陣取る椿姫、翼紗、巴柄も接敵していた。
「ごきげんよう、木場祐斗くん、ゼノヴィアさん。ここへ来ることは分かっていました」
動きが読まれていたことに息を吐くと、祐斗が聖魔剣を創り出し、ゼノヴィアも剣を構える。
ゼノヴィアの構える剣はデュランダルではなく、ルールによる縛りに配慮していた。
『リアス・グレモリー様の「僧侶」一名、リタイヤ』
とそこにリタイヤの報告が届く。
「冷静ですね」
「ええ、こういうのに慣れておかないと身が保ちませんから」
「まったく、あいつは体の鍛えが足りないから。だが、かわいい後輩をやられたのでね。仇は討たせてもらうよ」
椿姫の言葉に祐斗は短く返し、ゼノヴィアは嘆息する。
しかし、両者とも殺気は鋭くなっており、言葉以上にその心情を物語っていた。
両陣営ともに武器を持つものが構え、一気に接近する。
金属音が響き、火花が散る。
ゼノヴィアと剣を交えた巴柄は目の前の剣に気づくと一歩下がる。
「聖剣……やはりアスカロンを」
「ッ! そうか、そっちには天魔がいたな」
ゼノヴィアが手にしていたのはアスカロンだった。
一誠の籠手から分離させ、修行期間に練習していたため、動揺を誘えるかと考えていたのだが、逆に僅かに目を見開く結果になった。
予測の原因に当たりをつけ、気を取り直すと巴柄に仕掛けていく。
「天魔がコーチしただけはあるな。だが、これはどうだ?」
防戦気味だが、オーラのかけらも受けぬように立ち回る巴柄に感心したようにすると、今度はゼノヴィアが一歩下がる。
デュランダルを取り出す時のように空間に穴を開けるのを見て、警戒する巴柄の前で、空いた穴から聖なるオーラが漂い、アスカロンを覆っていった。
「ッ! デュランダルを空間に閉じ込めたまま⁉ 聖なるオーラだけを!」
予想外のデュランダルの運用に、椿姫が驚愕に声を上げる。
目を丸くするシトリー眷属にゼノヴィアは得意げに語りだした。
「流石にここまでは読めなかったか。デュランダルのおもしろい使い道を提示されてね。修行でなんとか得られた。今の私には十分すぎる使い方だよ」
ゼノヴィアがアスカロンを構え、肉薄する。
金属音が響き、薄暗い駐車場が滾るオーラと火花で照らされる。
巴柄は上手くいなしていくが、少しづつ聖なるオーラに削られていく。
そして、横薙ぎの一撃を防ぎ、とうとう巴柄の足が止まった。
それを好機と見て、ゼノヴィアが上段からの切り下ろしで決めにかかる。
巴柄も刃を割り込ませたが、体勢は悪く、受けきれるようには見えない。
しかし、ゼノヴィアは巴柄の目に諦めの色が見えないのを感じて手に力を込め、防御ごと押し切ろうとした。
刃が交わり、火花を散らす。
「っ!」
ゼノヴィアの一撃は巴柄の刃の上を滑り、受け流された。
巴柄が手をひねると両者の武器の上下が入れ替わり、アスカロンの切っ先が床へと向かう。更に巴柄が上から刃を叩きつけ、轟音とともにアスカロンが深く埋まった。
埋まったアスカロンを気にしたゼノヴィアにすかさず翼紗が打ち込んだ。
一撃を受けたゼノヴィアがアスカロンを離さなかったため、デュランダルのオーラもあって切れ味の鋭い刃がするりと抜ける。
さらなる追撃をゼノヴィアが体勢を立て直して交わすと、「戦車」である翼紗の蹴りが車両数台をなぎ倒した。
「ゼノヴィア、チェンジだ!」
明らかにカウンターを決めるために狙いすましてアスカロンを床に叩きつけさせた巴柄の動きと、その隙を逃さず攻撃に移る翼紗にゼノヴィアでは苦戦すると祐斗は判断し、それに同意したゼノヴィアが互いの位置を入れ替える。
祐斗の剣戟の速度では巴柄はカウンターを決めきれず、ゼノヴィアは薙刀の間合いの内へ入り、椿姫を壁際へと追い詰めていく。
考え通りの展開に勝機を見出していた祐斗だったが、次の瞬間それは覆された。
「「
壁を背にした椿姫へ繰り出されたゼノヴィアの一撃が決まる寸前、両者の間に鏡が現れる。
完璧なタイミングで現れた鏡を前にゼノヴィアは攻撃を止めることは出来ず、そのままの勢いで鏡へと攻撃し、粉砕された鏡が衝撃波をゼノヴィアに返した。
「この鏡は破壊された時、衝撃を倍にして相手に返します。私はカウンター使いです。木場祐斗君、パワータイプのゼノヴィアさんを私にぶつけたのは失策です」
ゼノヴィアが困惑のまま地に伏すのに祐斗は歯噛みする。勝負を決めるため詰め寄る三人を剣を生成することで牽制し、ゼノヴィアを抱えて退避する。
「副会長、どうしますか?」
「あの先は袋小路ですが、追撃の瞬間にまっすぐ聖なるオーラをぶつけられるのは怖いですね。一度反射してみせたとはいえ、ゼノヴィアさんはリタイヤ間近でしょうし、破れかぶれの特攻に出る可能性も捨てきれませんし」
『ソーナ・シトリー様の「兵士」一名、リタイヤ』
祐斗達が退避した先が逃げ場がないことで罠の可能性を考え追撃を迷う椿姫だったが、敗退した仲間に報いるためにもゆっくりと距離を詰めていく。
歩いていく三人の前に祐斗が進み出た。
「覚悟は決めましたか?」
隠れていた祐斗が前に出てきたことで、破れかぶれの砲撃はないとふみ、ゆっくりと祐斗を包囲するように動いていく。
左右に広がる翼紗と巴柄が祐斗の背を視界に収める寸前、祐斗は神器を開放した。
「デュランダル・バースッ!」
祐斗の声に応え、聖魔剣が立体駐車場を埋め尽くさんと生えていく。数と速度を優先した結果、一本一本が宿す聖魔のオーラは少ないものの、そこに聖なるオーラが上乗せされる。
シトリー眷属からは視界に入らない祐斗の背中には空間の穴が出来ており、そこを通じてデュランダルのオーラが祐斗へと流れ込んでいたのだ。
『ソーナ・シトリー様の「戦車」一名、リタイヤ』
武器と速度で回避出来た椿姫と巴柄に対し、「戦車」の防御力を頼みにいくらかの切り傷を負う覚悟で受けた翼紗は聖なるオーラによってリタイヤへと追い込まれた。
聖魔剣によって祐斗のテリトリーと化した立体駐車場では分が悪いため、椿姫と巴柄は撤退する。
その少し後、アナウンスが響いた。
『リアス・グレモリー様の「騎士」一名、リタイヤ』
匙と一誠の戦いが始まって数分。
戦況は一誠へと傾いていた。
禁手の鎧が健在の一誠に対し、匙はボロボロ。
既に幾度となく壁へ叩きつけられ、床を舐めている。
ラインを束ねて盾にしようにも底上げされた一誠の力に対抗しきれず、新たにラインをつなごうにも、一誠の放つオーラがそれを許さない。現在接続されているのは最初に繋いだ匙と繋がらない一本だけだった。
他のラインと違い、どんなにオーラを放出しても切れないそのラインに不気味さを感じる一誠に匙が吠える。
「……勝つんだっ……今日、俺はお前を倒して……夢の第一歩を踏む……ッ!」
匙の気迫に一誠は腕のラインを意識から外し、匙へと向き直る。既に眼前へ迫り、腕を引く匙を見て、一誠も応戦する。
「兵藤ォォォォッ! ひとつ聞かせろォッ! どうなんだよ! 主様のおっぱいは柔らかいのか⁉ マシュマロみたいって噂は本当か⁉ 女の人の体は崩れないプリンの如くというのはマジなのか⁉ おっぱいを揉んだとき、どう思ったんだよ! ちくしょぉぉおおおおおおおおっ!」
匙が嫉妬に狂った目で拳を、足を振るう。近くのベンチをラインでつなぎ、一誠の眼前へと投げて目眩ましをすると、家具店から大型の家具を引き寄せ、振り回す。
序盤に夢について語った時以上の気迫に、見るもの達が目を伏せる中、その事を知る由もない匙は、一本だけラインの軌道を変え、一誠の放ったオーラを躱してタンスを叩きつける。
衝撃で体勢を崩した一誠へ乱打を浴びせながら、匙は涙を溢れさせた。
「俺だって揉みたい! 揉みたいんだよぉぉぉぉぉっ! 乳房すら見た事ないんだぞ! 乳首なんて一生拝めるか分からないんだ! それをお前は自由気ままに見やがってぇぇぇっ! でもな兵藤! 一番はおっぱいじゃない! 先生だ! 先生なんだよ! 俺は先生になるんだ! 先生になっちゃいけないのか⁉ なんで俺達は笑われなきゃいけない⁉ 俺達の夢は笑われるために掲げたわけじゃないんだ……ッ!」
「俺は笑わねぇよ! こんなに必死になってるお前を笑えるわけねぇだろうが!」
向かってくる匙を一誠は殴っていく。
両者とも匙の流す血に塗れながら、それでも匙は一誠へと向かっていった。
「今日ここで! 俺は! お前を超えていくッッ!」
その言葉とともに、匙の打撃に更に力がこもる。
一誠もそれに応じ殴りあった。
そうして殴り合うことしばし、匙からは消え入りそうな吐息が漏れるだけになっていた。
既に左腕は折れ、腫れ上がったまぶたが右目を覆い尽くしている。足はガクガクと震え、直立することもままならない。それでもなお、視線だけは一誠をまっすぐ捉えていた。
「来いよ、匙。来いよ! 匙ィィィィィッ! 終わりじゃないんだろう⁉こんなので終わりなんかにするつもりはないだろう⁉ 俺達バカに出来る事なんざ、突っ走る事ぐらいだもんな!」
一誠の叫びに応じるように、匙がゆっくりと一歩前に出る。
自身の優位は明らかなはずなのに、匙からのプレッシャーに僅かな畏怖を抱いた一誠は、それを断ち切るように、言葉を紡ぐ。
「匙、俺はお前を倒す」
歯を食いしばり決着をつけようとする一誠に匙は対応し、クロスカウンターの形になる。
互いの頬を捉えるも、踏ん張りの効かない匙の身体が浮き、壁へと叩きつけられる。
リタイヤの光に包まれ始めた匙だが、視界から外せば向かってくるのではと考え目の離せない一誠の視界にヒビが走る。
何が起きているのかと考える暇もなく、兜が砕け散った。
『ソーナ・シトリー様の「兵士」一名、リタイヤ』
匙のリタイヤが宣言され、僅かに気の緩んだ一誠が口の中に広がる鉄の味に気づき、それを吐き出す。
赤が多分に混じった唾が吐き出され、一誠が肩で大きく息をする。
初めて友人と呼べる存在を打倒したことで震える一誠を小猫が慰め、水分補給を済ませるとリアスの進攻の宣言を受けて行動を開始する。
匙のリタイヤ後も消えないラインとふらつく身体に違和感を覚えつつも、最終局面へと向かっていく。
ショッピングモールの中央。
円形にベンチが配置され、本来であれば買い物客が休む場となっている空間でシトリー眷属は結界を張っていた。
「会長。そろそろです」
「……そうですか……サジはよく頑張りましたね」
匙の残したラインとつながるものを確認した桃の報告にソーナは一つ頷き、深く息をする。
逸る気持ちを抑えるため、僅かに瞑目していると、全身に鎧を纏った一誠と小猫が姿を表した。
「ごきげんよう、兵藤一誠君、塔城小猫さん。なるほど、それが赤龍帝の姿ですか。凄まじいまでの波動を感じますね。誰もが危険視するのは当然です」
気持ちを表に出さぬよう、相手に冷静に聞こえるようソーナは意識して声を出す。
結界の中にいる桃へとラインが伸びていることに警戒し、踏み込まない一誠と見合っていると、椿姫が駐車場側から姿を表す。
それを追うように祐斗も到着し、次いでリアス達が姿を見せた。
「……ソーナ、大胆ね。中央にくるなんて」
「そういうあなたも「王」自ら移動しているではありませんか、リアス」
「ええ、どちらにしてももう
リアスの表情は苦々しいものだった。
警戒されている可能性の高い一誠を囮に祐斗とゼノヴィアを本命とした作戦を完全に読まれ、早々にギャスパーも落とされている。各所での戦闘は互角でも、策に於いて完全に上回られた事が悔しさを生んでいた。
「……イッセー?」
「あ、あれ…?」
残っているグレモリー眷属が全員そろい、相手の「王」も目の前にいる状況に気を引き締める一誠だったが、急激に視界が暗くなり膝をつく。
慌ててアーシアが駆け寄り神器を発動させるが、体調は一向に改善されなかった。それを見てリアスが「フェニックスの涙」を取り出すが、アーシアの回復が効かない事をみて、使用を辞める。
何が起きているのかわからないグレモリー眷属にソーナが説明を始めた。
「アーシアさんの神器でも『フェニックスの涙』でも効果はありませんよ。リアス、私はライザーとの一戦を収めた記録映像を観ました。その結果分かった事は、兵藤君は恐ろしいまでに戦いを諦めない子だという事です。仲間の為、自分の為、そして何よりもリアスの為に。ダメージなどでは倒しきれないかもしれない。何度打倒しても貴方は立ち上がる。私達にとって、貴方のその『根性』と呼ぶものが赤龍帝の力と相まって驚異的存在だった。そう、諦めず立ち上がり続ければ、貴方はいつか敵を倒せると信じ切っている。その心構えが赤龍帝の力に直結し、パワーを幾重にも増大させてきた。それが兵藤くんにとって何よりも武器となっていたのです。だからこそ、違う形で貴方を倒すしかなかったのです」
ソーナの言葉に応じ、桃が手に持っていたものをさらす。
それはラインとつながった、赤い色の液体を詰められたパックだった。
それが何なのか理解しきれない様子のグレモリー眷属へソーナの説明が続く。
「これは兵藤君の血です。貴方は人間がベースとなっている転生悪魔。人間は体に通う血液の半分を失えば致死量です。知っているでしょう? レーティングゲームのルール。ゲーム中、眷属悪魔が戦闘不能状態になると、強制的に医療ルームへ転送されます」
それを聞き、祐斗が手元に短剣を創り出し、投擲によってラインを切断する。
切れたラインから床に血が撒き散らされるのをみて、一誠は現状を実感し、より意識が遠くなった気がした。
「手遅れです。もう、貴方は医療ルームに転送されるだけの血を失いました」
「ソーナ。あなたはッ!」
ソーナの冷淡な声にリアスが声を荒げる。その表情は焦りに包まれており、「王」の表情は対照的なものになっていた。
「そう、サジは神器を用いて、兵藤君の血を少しずつ少しずつ吸い取っていたのです。危険な状態となる寸前まで。対象のエネルギーを吸い取るのが本来の能力である神器で血液を吸い続けるには、相当な修行と緻密なコントロールがいりました。しかし、サジはそれを完遂させたのです」
一誠と小猫は匙が最後まで立ち向かって来た真意を理解し、歯噛みする。特に小猫の表情は険しく、引いてしまった事を後悔しているのが見て取れた。
唇を噛む小猫の頭をなでて一誠が謝意を伝えると、小猫は僅かに顔を伏せた。
「兵藤一誠君。貴方はリタイヤに近いでしょう。これから攻撃も一度か二度しか出来ないはずです。理由は失血。貴方の鎧は堅牢。貴方の攻撃力は強大。けれど、倒し方は探せばいくらでもあります。貴方を物理的に倒せなくてもゲームのルールが貴方を戦闘不能とみなします」
一誠は立ち上がることも出来ず、何も言い返せない。
「リアス、あなたはこの戦いに何を賭けるつもりでしたか? 私は全てを賭けるつもりでした。私の夢はとても難しいものです。ひとつひとつ壁を崩していかなければ、解決の道が切り開けません。ですので今回は少なくとも、貴女のプライドと評価は崩させてもらいます」
ソーナの言葉にリアスは苦虫を噛み潰したような顔になる。
事前評価ではリアスの圧倒的優位と見られており、勝利は確実とさえ言われていた。だがしかし、蓋を開ければ駒の半数近くを失うのが確定的となり、戦術面が拙く、「王」としての資質を疑われかねない状況になっていた。
そんな中、ソーナは一誠に視線を合わせる。
「サジは。彼はずっと貴方を超えると言っていました。サジにとっては貴方は同期の『兵士』であり、友人であり、超えたい目標だったのです。でも、貴方には伝説のドラゴンが宿っている。ただそれだけで、彼は貴方に劣等感を持っていました。私達はそんなものがなくとも戦えると、あの子に伝えたかったのです。そして、それはサジに伝わりました。ラインはサジが敗れても消えませんでした。それほどの強烈な念が籠っていたという事です。もうすぐこの戦場から消え行く貴方に言いましょう。上ばかりを目指していたあなたのように、サジは貴方を倒す事を目標に走っていたのです。夢を持ち、懸命に生きる「兵士」はあなただけじゃない! 貴方を倒したのは匙元士郎です!」
鎧の中で一誠が目を見開く。匙が最後まで向かってきたのが、仲間を信じて戦った結果だと知り、その結果、匙の独力で自身を倒せる状況になっている事に、心の中で称賛を送る。
一誠が震えながら立ち上がろうとするのを、天魔は観覧席で見ていた。
「ここまではお前のプラン通りか?」
各所の戦闘を移すモニターへ視線を注いでいた天魔にアザゼルが語りかける。その言葉に何人かが天魔へと視線を送り、回答を求めるのに、天魔は視線を動かさずに答える。
「読み通りかという意味なら、大筋は。正直、元士朗が正面から向かっていったうえで、あそこまで粘れるとは思わなかったし、巴柄が生き残っているのも想定以上だ。それと、俺はあくまでグレモリー眷属の訓練による強化の方向性について口出ししただけで、作戦に関しては本人達が決めたことだ。何でもかんでも「
「なるほどな。そりゃ失礼した」
天魔の言葉にアザゼルは肩をすくめ、モニターへと視線を戻す。
視線の先では一誠がようやく立ち上がったところだった。
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