変態の双子の兄弟として   作:篠白 春夏秋冬

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Life.46 MVP

 失血により、フラフラになりつつも、一誠が立ち上がった。

 

 リタイヤは間近なのは確定しているが、何をするのかわからない一誠にシトリー眷属が警戒をしていると、一誠は少しだけ下がり、両手をリアスへと向ける。

 

「リタイヤ前に……俺は俺の煩悩を果たしてから消えようと思う……」

 

 一誠の行動の意図が読めず、誰も動かない中、一誠の全身をオーラが包んでいく。

 

「高まれ、俺の欲望ッ! 煩悩解放ッ! 広がれ、俺の夢の世界ッ!」

 

 一誠の声に合わせ、謎の空間が広がり、洋服崩壊を知っている女性陣が身を守る様に動いたが、特に変化は起きなかった。

 

「あなたの声を聞かせてちょうだいなッ!」

 

 突然の問いかけにリアスは反応出来なかった。しかし、一誠は満足そうに何度も頷いていた。

 

「部長、今俺を心配してくれましたね? 変な事ばかりしていると体に障ると……」

 

「イッセー! ど、どうしてそれを……?」

 

 一誠の言葉が心中と同じだったのかリアスが驚愕するが、それには答えず、ソーナへと問いかける。

 

「貴方は今何を考えている?」

 

 ソーナはその言葉には答えず黙ったままなのだが、一誠は確信を持っているように話始める。

 

「ソーナ会長、今俺の新必殺技が心の声を聞けるものだと思いましたね? ふふふ、違う。当たっているけど違うんですよ。俺は聞きたかったんです。胸の内を! 否! おっぱいの声を! 新技、「乳語翻訳(パイリンガル)」ッッ! 俺の新技は女性限定でおっぱいの声が聞こえるんですッ! ……ハァハァ。質問すればおっぱいは偽りなく俺にだけ答えを教えてくれる! ……ハァハァ。相手の心が分かる最強の技なんですッ! うっ、血が足りねぇ……」

 

 一誠がポーズを取りながら堂々と宣言する。興奮と貧血でフラフラながら、実に満足そうな顔をしていた。

 

「ヘイ! そこの「僧侶」のお姉さんのおっぱい、どうなのさ!」

 

「いや、聞かないで!」

 

 憐耶が身の危険を感じ、胸元を隠すも効果の発動に特に不足はなかったのか、一誠は悔しそうな顔になる。

 

「なんだよ! 木場ばかりモテやがって! もう一人の「僧侶」のお姉さんのおっぱいはどうなんだい!」

 

「やめてください! キモイ!」

 

 桃は一誠に視線を向けられた瞬間にしゃがみ込み、少し間を開けて一誠が崩れ落ちた。

 

 ふと一誠が顔を上げると、全員が目元をひくつかせていた。

 

 それを見て、心底不思議そうに一誠が首を傾げるのを見て、ソーナの顔が引きつり、リアスが嘆息する。

 

「リアス……これはちょっと……」

 

「ゴメンなさい……」

 

「怖い技だと思うけれど、プライバシー侵害で、このままでは女性悪魔と戦えませんよ?」

 

「ええ、厳重注意しておくわ……」

 

 ソーナとリアスの会話に一誠はガバリと起き上がると叫ぶ。

 

「まるで俺が、本当のド変態じゃないか!」

 

「「「ド変態ですッ!!」」」

 

 一誠はその場の女性陣からの総ツッコミにがっくりと項垂れる。

 

「会長のおっぱいさん! 今の作戦はどういう感じか教えてくれ!」

 

 しばらく項垂れていた一誠だったが、気を取り直してソーナへと問いかける。

 

 ソーナは苦々しい顔をしていたが、現在の一誠は止められなかった。

 

「皆、会長のあの結界は……囮だ。結界の中に立体映像を出す「僧侶」二人の術なんだ……本物の会長は屋上だ! 映像に精神だけ映しているみたいだぜ……小猫ちゃんの索敵が屋上の会長を捉えないのもそのせい。でも、精神がこちらに来ているから、パイリンガルも効いて映像のおっぱいが話してくれたのかな……?」

 

 一誠はシトリー眷属の作戦を伝え終えると再び膝をつく。

 

 それを心配したアーシアが再び回復をするために駆け寄るが、そうはさせまいと椿姫が駆け寄り、警戒したアーシアがその場で足を止める。

 

 これ以上は近づけないと判断したアーシアがその場で祈り始め、アーシアを中心に緑色のオーラが広がった。

 

 先ほど無意味だった回復だが、何もせずにはいられなかったアーシアが後衛からやや突出した形になったことで椿姫が詰めより、祐斗が相対する。

 

 それに合わせて憐耶と桃が結界を解除してアーシアと一誠へと攻撃を仕掛け、朱乃がアーシアの前に出て守り、小猫が一誠を担いで退避した。

 

 アーシアを中心に三組が戦い、リアスが手薄になった自身を狙うであろう巴柄を警戒していると、吹き抜けの上から巴柄が襲撃した。

 

 奇襲ではあったものの警戒が功を奏し、リアスが回避に成功する。

 

 次の攻撃に備えるリアスだったが、巴柄はそのままリアスの横を通り過ぎ、祈りを続けるアーシアへと鞘を振り下ろした。

 

 無防備だったアーシアはそのまま気絶し光に包まれ、それと同時に一誠もリタイヤの光に包まれる。

 

『リアス・グレモリー様の「僧侶」一名、「兵士」一名、リタイヤ』

 

 赤龍帝の脱落が宣言された。

 

 

 

 一方、観覧席は唖然とした空気が漂っていた。

 

「……これが、赤龍帝か」

 

 一誠がリタイヤ寸前で立ち上がり、何を起こすのかと食い入るように見ていたところで頭の悪い新技である。

 

 エロに寛容なアザゼルにも理解に時間がかかる事態であったことから、他の面々の混乱も推して知るべしというものである。

 

 その主であるリアスもあまりのことに顔を赤くしているが、それよりも深刻な物がここにいた。

 

 天魔である。

 

 技の発動前の叫びに嫌な予感がしたのか目を細めていたのだが、技の説明が進むにつれゆっくりと体を折りたたみ、足の間に頭を入れると、変形させた神器の鎧と翼で外界を拒絶していた。

 

 耳をすませば僅かに呪詛のような言葉が聞こえてきており、まるで純白の鎧が黒く染まっているかのように見えた。

 

 実際の効果は恐ろしいものである。

 

 女性限定ではあるものの、この技の前に隠し立てなど出来はしない。

 

 その上、精神を投影するものなら立体映像相手でも使用可能である。

 

 使いようによっては女性相手なら無双状態になれるだろう。

 

 その事を差し引いても覆し切れない変態性が天魔の精神を追い詰めていた。

 

「ほっほっほっ、おもしろい一戦じゃな」

 

 すぐ後ろで丸くなっている天魔を知ってか知らずかオーディンが笑う。

 

 それを聞いてかゆっくりと天魔が起き上がり、会話へと耳を向ける。

 

「サーゼクス」

 

「はい」

 

「あのドラゴンの神器を持つ小僧じゃが」

 

「兵藤一誠君ですか? 赤龍帝の」

 

「いや、シトリー家の「兵士」のほうじゃよ」

 

 オーディンの言葉が意外だったのかサーゼクスとアザゼルが僅かに目を見開いた。

 

「いい悪魔じゃな。大切にするがいいぞ。ああいうのが強くなる。赤龍帝の小僧を倒した功績は大きいぞい。これだから悪魔どものレーティングゲーム観戦は楽しいわい。弱者が一戦の間に化ける。これぞ、真の試合というものじゃよ」

 

「そうでしょうそうでしょう! オーディンおじいちゃんったら話が分かるんだから☆」

 

 掛け値なしの賛辞にセラフォルーが誇らしげにオーディンへと話しかける。

 

 天魔もまた口の端を上げているのを見て、周囲の者もまた、匙への評価を変えていく。

 

 その様子を見ながら、アザゼルは心中でリアス達への檄を飛ばすのだった。

 

 

 

 一誠とアーシアがリタイヤとなり、残ったのはグレモリー側がリアス、朱乃、小猫、祐斗。シトリー側がソーナ、椿姫、憐耶、桃、巴柄。

 

 とうとう人数も逆転し、リアスの評価はどれほど下がるかわかったものではない。

 

 観覧席の上役の苦言さえ聞こえてきそうな状況だが、リアスは僅かに頭を振ると上を見上げた。

 

「小猫、気は感じる?」

 

「はい。先ほどは感じ取れませんでしたが、今は屋上に会長の気を感じます。さっきの結界は会長の姿をそこにあるように見せる為の虚偽と幻影、そして本人の気と位置を感じ取られないようにする特殊なデコイだと思います」

 

 リアスの言葉に小猫も応じる。その冷静な様子に祐斗も安心して、剣をシトリー眷属へと向ける。

 

「副会長、ここは私が。カウンターを使うには木場君は相性が悪いですし」

 

 剣を構える祐斗の前に巴柄が進み出て刀を構えると、椿姫が譲り、「騎士」同士の戦いが決まる。

 

 互いにジリジリと間合いを計っていると、突如まばゆい電光が起こり始めた。

 

「……イッセー君に私の決意を見てもらおうとしたのに」

 

 電光の発生源は朱乃であった。

 

 フラフラとおぼつかない様子で前に出る朱乃は、濡れた瞳に冷たいものを乗せ、ただならぬ重圧を放っていた。

 

「……この嫌な力を彼の前で使う事で……乗り越えようとしたのに」

 

 朱乃がゆっくりと手を挙げると

 

「許さない」

 

 その表情は激情に彩られていた。

 

 一誠を失ったことと自身の決意を見せる場をなくしたことで行き場のなくなった感情が、その原因となったシトリー眷属へと怒りとなって向けられていた。

 

「消しますわ」

 

 シンプルな怒気を含んだ迫力のある一言とともに、朱乃から大出力の雷が憐耶と桃をまとめて薙ぎ払わんと放たれた。

 

「退避ッ!」

 

「「追憶の鏡」!」

 

 二人が回避するのを援護するように椿姫の神器が立ちふさがる。

 

 雷により打ち砕かれた鏡が衝撃を朱乃に返そうとするが、雷から分かれた光がそれを相殺した。

 

「あら、うまく逃げましたわね。雷を跳ね返そうとしたのでしょうけど、いまのは雷光。雷と光。反射しきるには光の分が足りませんでしたわね」

 

 朱乃の言葉に反応することは出来なかった。なにせ、既に朱乃は次の攻撃の準備に入っており、先程の攻撃速度を鑑みると、下手に会話に乗るわけにはいかなかった。

 

 怒りに我を忘れた朱乃の次の標的となったのは巴柄だった。

 

 視線を向けられた瞬間、身の危険を感じた巴柄は即座に駆け出し通路へ逃げ、雷光をなんとか躱すと、どさくさに紛れてソーナの方へと向かったリアスを追うように走る。

 

 主の邪魔をさせぬよう祐斗が追いつき、斬りかかるのを巴柄は冷静に受け流し、改めて向き直る。

 

 神速の斬撃に対応しきれず、切り傷を増やしていく巴柄だったが、そこに桃が追いついた。

 

 既のところで結界が間に合い、決定打を打てなくなった祐斗だったが、後ろへと下がり、左腕を宙に掲げると力のある言葉を紡ぎ出した。

 

「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、聖母マリア。我が声に耳を傾けてくれ!」

 

「なんですって⁉」

 

「そんなことが⁉」

 

 祐斗の行動の意図を察し、巴柄が駆け出すが、祐斗が開いた空間の穴からそれを掴みだすほうが早かった。

 

「聖なる刃に宿りしセイントの御名において、僕は解放する。デュランダル!」

 

 祐斗が手に持った聖剣の一撃が、巴柄の防御も、間に合った結界も含めて両断する。

 

 深刻なダメージを受けた巴柄と桃が驚愕しているのを前にゆうとは語る。

 

「ゼノヴィアの提案だよ。もし、自分が機能停止した場合、この剣がもったいないから、僕に使用の権利を譲る、と」

 

「そんな、木場君は聖剣の適正は」

 

「昔はなかったよ。それで地獄を見たけれど……今は違う。禁手のおかげでこうしてデュランダルも扱えるようだ」

 

 呆然とする桃ヘ答える祐斗の手の中で、デュランダルが静かにオーラを放っていた。ゼノヴィアのときとは違う荒々しさがないことに、巴柄が目を見開く。

 

「そんな……これは、ゼノヴィアさん以上に扱えている⁉」

 

「……ゼノヴィアは威力を求めるオーラの気質だから、デュランダルもそれに反応してしまったのかもしれない。けど、僕は威力よりも確実性を選ぶ。威力よりも能力だよ。それにしても、持ち主のいう事を聞かないじゃじゃ馬とは聞いていたけれど、本当みたいだ。僕が思う以上に切れてしまう……扱いはまだ難しいか」

 

 祐斗の振るった一撃はその余波だけで、桃の位置を通り過ぎるほどにその痕が残っていた。

 

 桃は回避に成功しており、大規模破壊が禁止されている試合である以上マイナス評価の可能性もあると祐斗は自嘲した。

 

「警戒してもしたりないっていうのが実際に起きるなんて……本当に嫌になるわ」

 

『ソーナ・シトリー様の「騎士」一名、リタイヤ』

 

 悔し紛れに言い残し、巴柄がリタイヤする。前衛を失い防御を貫かれる桃になすすべはなく、廊下に数本の剣閃を残してリタイヤした。

 

『ソーナ・シトリー様の「僧侶」一名、リタイヤ』

 

「何よりも赤龍帝だけの眷属と思われるのはイヤだよ」

 

 消えゆく桃にそう声をかけるとデュランダルをしまい込む。

 

「イッセー君が誓ったように僕も誓おう。我が主リアス・グレモリーを二度と泣かせない」

 

 屋上を目指す祐斗へと椿姫と憐耶のリタイヤのアナウンスが届く。

 

『ソーナ・シトリー様の「女王」一名、「僧侶」一名、リタイヤ』

 

 残るシトリー眷属は「王」であるソーナだけだった。

 

 

 

 デパートの屋上。

 

 ゲーム用の空間であるためか、空は白く、なにもない。

 

 リアス達四人が揃うのを見て、ソーナは苦笑していた。

 

「ソーナ、どうして屋上に?」

 

「最後まで「王」が生きる。それが「王」の役割。「王」が取られたら、ゲームは終わってしまうでしょう?」

 

「……そう、深くは聞かないわ」

 

「リアス、サジは赤龍帝に勝ちました。兵藤君にも貴方にも落ち度なんてない。あの子を舐めないで。必死なのは貴方達だけじゃありません」

 

「ええ、身をもって体感出来たわ。さあ、決着をつけましょう、ソーナ」

 

 ソーナとリアスは問答を終えると魔力をたぎらせ、一対一という雰囲気を作り始める。その様子に祐斗は語りかけた。

 

「危険を感じたら、即時に助けに入ります。わがままは聞きません」

 

 リアスは返事をしなかったが、否定もしない。

 

 自分の危険≒ゲームの敗北と理解しているためだ。

 

 その無言の肯定を受けると祐斗が一歩下がり、最後の戦いが始まった。

 

 ソーナのオーラがフィールド中の水を集め、彼女の支配下へと変える。

 

 そこにリアスがルールに配慮した小規模の魔力弾を無数に放つが、大質量の水がそれを防いだ。

 

「さて、リアス。私の水芸、とくと披露しましょうか」

 

 そういうとソーナの支配下にある水が蛇や獅子、鷹など様々な動物へと変じていく。

 

「望むところよ、ソーナ!」

 

 それに対し、リアスは圧縮を重ねた魔力を無数に展開し、水の獣たちに相対する。

 

 技術と力が真っ向から交錯した。

 

 

 

投了(リザイン)を確認。リアス・グレモリー様の勝利です』

 

 

 

 ゲームの終了に応じ、感想戦が始まった。

 

 リアスへの評価は厳しいものだった。

 

 特にギャスパーを開始早々に落とされたことと一誠をリタイヤに追い込まれたことが大きくマイナス評価となり、それに加えて建物への破壊の範囲が大きいことも加わった。

 

 対してソーナへの評価は良く、匙の戦いとアスカロンを受け流した巴柄の技量の高さに注目が集まっていた。

 

 最終的に匙へと所謂MVPのようなものを送ることに決まり、それを手渡すため匙の病室へサーゼクスが向かう。

 

 天魔もまたアザゼルに勧められ、匙の病室へ訪れていた。

 

「よう、頑張ったじゃねぇか」

 

「天魔……って、サーゼクス・ルシファー様⁉」

 

 ノックの後気楽そうに入ってきた天魔に続いたサーゼクスの姿に匙が緊張し、居住まいを正そうとする。

 

 病床のまま慌てる匙をサーゼクスが手で制した。

 

「ああ、楽にしてくれて構わない。こちらが押しかけているのだからね」

 

「それで、サーゼクス様。どのようなご要件でしょうか?」

 

 サーゼクスの言葉があっても緊張が表に出ている匙に代わり、ソーナが要件を尋ねると、サーゼクスは小箱を取り出した。

 

「これを彼に渡そうと思ってね。さぁ、受け取りなさい」

 

 サーゼクスの言葉に匙は箱を受け取る。

 

 恐る恐るといった様子で匙が箱を開けると、中には勲章が入っていた。

 

「あ、あの……これは?」

 

「これはレーティングゲームで優れた戦い、印象的な戦いを演じた者に贈られるものだ」

 

 サーゼクスがほほえみながら告げる言葉に、匙は顔を伏せると悔しげにシーツを掴む。

 

「お、俺は……兵藤に負けました……これを受け取っていい立場ではありません」

 

「確かに、君は敗北した。けど、結果的にイッセー君を、あの赤龍帝を倒した。私達は君の戦いを観戦室で興奮しながら見ていた。あの北欧のオーディンも、君に賛辞を贈った程なんだよ」

 

 そういうとサーゼクスは箱から勲章を取り出し、匙の胸へとつけると頭を撫でる。

 

「自分を卑下してはいけない。君だって、上を目指せる悪魔なんだ。私は将来有望な若手悪魔を見られてうれしい。もっと精進しなさい。私は期待しているよ。何年、何十年先になってもいい。レーティングゲームの先生を目指しなさい」

 

 サーゼクスの言葉を聞き、匙は無言で泣いていた。

 

 涙はとめどなく流れ、その顔をくしゃくしゃにするのを見て、ソーナも涙を溢れさせた。

 

「……サジ、あなたはたくさんの人々に勇姿を見せたのですよ。貴方は立派な戦いをしたのですから」

 

 その言葉に匙は胸の勲章を触り涙を拭うと、顔を上げ力強く頷いた。

 

「……はい……ありがとうございます!」

 

「まぁ、もし納得いかないと思う部分があるなら、目に留まる場所に飾っておくといい。いい証になるぞ。「傷」としてな。で、次は自分も納得できる形で受け取れるように努力する。出来ねぇってことはねぇよな?」

 

「……ッ! ああ、勿論だ!」

 

 天魔の挑発的な言葉に、匙は僅かに震えると口角を上げて返す。その応対に天魔は満足そうに頷くと、にっこりと笑う。

 

 その笑顔に匙は訓練を思い出してビクつき、それに文句をいう天魔とそれを諌めるソーナに見舞いに来た眷属達が加わり、病室は騒がしくなっていった。

 

 

 

 八月下旬。

 

 ゲームが終わっての数日は「乳語翻訳」を禁止され、一誠が落ち込んだり、改めて皆に黒歌を紹介したり、周囲を気にしない訓練メニューを聞いて実行されなかったことにグレモリー眷属が胸をなでおろしたりしていた。

 

 そうして、人間界へと戻る日を迎えていた。

 

「それでは、一誠君。また会える日を楽しみにしているよ。いつでも気兼ねなく帰ってきてくれて構わない。グレモリー家を君の家と思ってくれたまえ」

 

「ありがとうございます! で、でもちょっと恐れ多くて……」

 

「あら、そんなことはありませんわよ。一誠さん。人間界ではリアスのことをよろしくお願いしますわね。娘はちょっとわがままなところがあるから、心配で」

 

「お母様、何をおっしゃるのですか!」

 

「はい! お任せください!」

 

 一誠がリアスの家族と挨拶をかわし、ジオティクスが感極まったように涙する。

 

 その横で、天魔はミリキャスと話していた。

 

「よろしくおねがいしますね、天魔兄様!」

 

「ああ、家にある中からイチオシの奴を送っとくよ」

 

「はい、楽しみです!」

 

 関わった時間は短かったが、ミリキャスは一誠と天魔に懐いていた。

 

 魔王の息子ではなく、一個人として構っていたのが良かったのだろうというのが、父親であるサーゼクスの談である。

 

 ちなみに送るというのは天魔の持つ特撮の映像媒体の話だ。

 

 冥界にはその手の娯楽は無く、人間が今のミリキャスの年齢の時期に何をしているかを聞き、興味を持ったのだった。

 

 

 

 そうして、グレモリー家に別れを告げ、帰りの列車の中。

 

 修行漬けで課題の進んでいなかった面々が課題に追われていた。

 

 シトリー眷属へのトレーニングの合間に課題を終わらせていた天魔が問題に詰まった場合のヘルプをしながら本を読んでいると、小猫が寄って来た。

 

「姉様のこと、ありがとうございました」

 

「拾ったのは偶然だし、塔城さんに礼を言われるようなことはしてないさ。和解は出来たようで何よりだ」

 

 小猫の礼に天魔は肩をすくめて返し、窓際へと視線を向ける。

 

 そこでは地頭が悪いわけではないが、勉学とは無縁であった黒歌が端へ逃げ、呑気に茶をしばいていた。

 

 黒歌はサーゼクスの口添えもあってグレモリー家へ逗留が認められ、次いで、堕天使陣営の監視に加え、外出と外部との連絡を禁止の上で、兵藤家に身を置く事が許可され、こうして列車に同乗していた。

 

「そういえば、何しに来たんだ? あいつ」

 

 ここ数日の黒歌はもっぱら小猫との会話に時間を費やしており、はぐれとなった経緯も含めて語り合ったことで若干のわだかまりは残しつつも和解していた。

 

 そんな家族との交流に時間をかけた結果、本来の目的であるはずの情報提供は忘れ去られていた。

 

「先輩は最初から私の事情は知ってたんですよね?」

 

「ん? まぁね。言っておいたほうが良かった?」

 

「いえ、納得出来ない部分もありますけど、理解はしました」

 

「……そっか」

 

 天魔が本をしまい、シートにもたれると天井を仰ぐ。

 

 目を閉じてゆっくりと息を吐いていると、その膝に重みが加わった。

 

「塔城さん?」

 

「それです」

 

 膝に乗ってきたのは小猫だった。天魔が目的を問う呼びかけに対する返答の意味を考えていると、解答がもたらされた。

 

「私も名前がいいです」

 

「名前?」

 

「ギャー君もアーシア先輩も祐斗先輩も名前で呼んでます。年上の朱乃さんと部長の二人を除けば、名前で呼ばれてないのは私だけです」

 

「まぁ、確かに……じゃぁ、そうしようか。どっちがいい?」

 

 天魔が小猫の主張をあっさりと通し、内容を詰めようとすると、小猫は僅かに考える。

 

「……「小猫」がいいです。もう一つはちゃんと納得出来た後で考えます」

 

「……そうか、なら、小猫、これからよろしくな」

 

「はい」

 

 天魔がほほえみながら名前を呼ぶのに、小猫がくすぐったそうに返事をする。それを途中から見ていたアーシアがむくれ、一部始終を見ていた黒歌はニッコリと笑っていた。

 

 

 

 結局、アーシアの機嫌は治らぬまま人間界へと着き、ホームへと下りていく。天魔がどうやって機嫌を治そうかと考えながら荷物を下ろし、アーシアへと視線を送ると、見覚えのある男に詰め寄られていた。

 

「アーシア・アルジェント……やっと会えた」

 

「あ、あの……」

 

 明らかに困惑した様子のアーシアへ詰め寄る男に、天魔は苛つきながら、割って入り、睨めつける。

 

「アーシアに何の用だ? ディオドラ・アスタロト」

 

 天魔の言葉にグレモリー眷属はディオドラを思い出したのか、ここにいることを不思議そうにする。

 

 当のディオドラは天魔の存在はないかのようにアーシアへと語りかけた。

 

「……僕を忘れてしまったのかな。僕達はあの時出会ったはずだよ」

 

 そういうとディオドラは胸元を開き、見せる。

 

 露出狂である可能性を疑い、とっさにアーシアの目を隠した天魔だったが、そこに広がる傷跡をみて、手を下げると横へはける。

 

 アーシアは傷跡をみて目を見開いていた。

 

「その傷は、もしかして……」

 

「そう、あの時は顔を見せられなかったけど、僕はあのときの悪魔だ」

 

 ディオドラの言葉にグレモリー眷属がざわめく。ディオドラがアーシアの追放の原因となった悪魔だと思い至ったからだ。

 

「僕の名前はディオドラ・アスタロト。傷痕が残らない所まで治療してもらえる時間はあのときなかったけれど、僕は君の神器によって命を救われた」

 

 そういうとディオドラは跪き、アーシアの手を取りキスをする。

 

 それを見た一誠が飛び出しそうになるが、そんなことは気にせずディオドラは言い放つ。

 

「アーシア、僕は君を迎えに来た。会合の時、挨拶出来なくてゴメン。でも、僕と君の出会いは運命だったんだと思う。僕の妻になって欲しい。僕は君を愛しているんだ」

 

 ディオドラの求婚に天魔はなんともいえない顔になり、その頭上の黒歌が体をこわばらせる。

 

 夏が終わり、過ごしやすい秋が来る……ハズだった。




感想・評価・お気に入りありがとうございます。

アンケートへの御回答ありがとうございます。

想像以上の拮抗に正直判断に困っています。

クロスオーバーしないにしても話し方を似せる予定なのでバビロニアを視聴しはじめていますが、王様はあんまり喋らないのですね。

Life.43登場の「金髪の男」について

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  • クロスオーバーしない
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