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Life.47 仲間が増える日
「お前……何でこんな大事なことを黙ってたんだ……!」
「ご、ごめんって……でも、あの子の事を優先していいって言ったじゃない……」
「だが、いう時間はあっただろ。そもそも、それが役割のはずだ」
歯噛みする男に詰め寄られた女がうめき声と同時に苦い顔になる。
「まぁ、先に知ってたら知ってたで大事になりそうだけどな」
「あの様子じゃねぇ。手加減なしにぶっ飛ばしかねないし」
もう一人の男の言葉に女が乗り、今度は最初に詰め寄っていた男が黙る。
あっという間に逆転した状況に女がコロコロと笑うとそのまま黙り込んだ男にしなだれかかった。
「諦めなさいな。私達は認めてるのだから。抵抗しているのは貴方だけよ?」
そういいながら抱きしめようとする女を引き剥がすと、男は一つため息を吐いた。
「はぁ、とにかく、今回の件には全力であたる。ここで旧魔王派にトドメを刺す。まずはそこからだ」
そういうと男が部屋を後にする。残された男女は肩を竦めていた。
「あいつ、まだ抵抗してたのか? 一時期は盛り上がってたのによ」
「盛り上がったからこそ、これ以上増やすのはこっちに不誠実なんじゃないかってさ。今更なのにね」
「今回の件が終わる頃にはまた盛り上がるのかね」
「だと思うわよ? 少なくともあの子を受け入れてくれないと困るわ。そういえば、例の件は?」
「もう済んでる。あとはあいつ次第だ」
天魔が鹿威しの音に気付くと、気品にあふれる和室にいた。
周囲を見回すと白無垢姿のアーシアが正座していた。
「天魔さん、今までありがとう御座いました。アーシアは今日、お嫁にいきます」
居住まいを正したアーシアが天魔へ向けて頭を下げる。
あっけに取られる天魔をよそに、両親や一誠、リアスたちが涙を浮かべて感極まっていた。
天魔の思考が追いつかぬうちにディオドラが現れ、アーシアを幸せにすると宣言すると彼女を抱き上げてその場を後にする。
周囲が祝福にながら見送る中、天魔には不快感が募っていく。
そして、それが爆発しそうになった瞬間、意識が覚醒し、未だ見慣れぬ自室の天井が目に入った。
目を瞬かせ、上半身を起こして周囲を見やると横にアーシアが眠っていた。
安らかに眠るアーシアへ、その存在を確かめるようにゆっくりと手を伸ばし、サラサラとした金髪を手で弄ぶ。
しばらくそうしていると、アーシアが目覚めた。
「んぅ……天魔さん? どうかしましたか?」
「……悪い、起こしちゃったな。ちょっと、夢見が悪かったんだ。まだ寝てていいぞ?」
天魔がそう言って頭を撫でるも、アーシアは天魔の言葉が気になるのか心配そうな目をしていた。
大丈夫だと告げるように笑顔を作ろうとした天魔だったが、それは失敗した。
「随分前からアーシアの髪に触れていたが、本当に大丈夫なのか?」
「っ! ゼノヴィア、脅かすな!」
「? 脅かしたつもりはなかったんだが……」
振り返るとゼノヴィアが体を起こしていた。
冥界から帰ってからというもの、複数人で寝ることに安心感を覚えるようになったのか、よく天魔の部屋へと来るようになっていた。
ゼノヴィアの言葉に取り繕うのは無駄だと考え、一つため息を吐くと、体を倒す。
ぼーっと天井を眺め始めたことを心配するアーシアへ気を配る余裕もない天魔に流石のゼノヴィアも違和感を覚えたが、それをうまく口にすることは出来ず、ひとまずアーシアをなだめることにするのだった。
(「夢見が悪い」……か。どうしたもんかね)
天魔は自分の考えに頭を痛めつつ、長く息を吐くのだった。
夏休み明け。
長期休みの後ということもあり、雰囲気が変わる者も多くいる。その場合、変化はポジティブな動機によるものであり、その姿は自信に満ちたものになることがほとんどだ。
だが、その男の雰囲気はかけらも自信というものを感じなかった。
「ねぇ、兵藤。あっちの兵藤ってなんかあったの? いつかの木場君以上にぼーっとしてるけど。いつもの定型文すら返ってこないわよ」
「わかってんなら何か区別する呼び方を考えろよ……天魔を名前で呼べばいいんじゃないか? って、そうじゃなくて、休み明け直前にちょっとな」
「アーシアの方を見てるのはわかるけど、アーシアを見てないというか……そのアーシアも心此処にあらずって感じだし……もしかして告った?」
「そういう訳じゃないんだけどな」
天魔とアーシアの変化の原因は言わずもがな、ディオドラである。
駅のホームでの一件以降、日々大量の手紙が届き、その内容も愛をささやくものから、映画や食事の誘いなど様々であった。その他にも大量に贈り物が届いており、一日に何度も受取を行う両親にアーシアが申し訳なさそうに謝るのが日常となっていた。
変化の原因を知りたがる桐生にどう説明したものかと一誠が考えていると、教室に男子が駆け込んで来る。
その生徒は渡されたペットボトルを煽ると、クラス中に聞こえるように声を張る。
「このクラスに転校生が来るぞ! 女子だ!」
その報告に男女問わず声を上げる。
周囲の興奮の中、天魔は頬杖をついたままだった。
「えー、このような時期に珍しいかもしれませんが、このクラスに新たな仲間が増えます」
担任の声にクラス中が興奮を隠しきれないといった雰囲気になる。その様子に担任が苦笑しつつその生徒を呼ぶと、入ってきた生徒を見て、男子が歓喜の声を上げる。
その生徒は栗色の髪をツインテールにしており、十字架を首に下げた美少女だったからだ。とりわけオカルト研究部の面々には見覚えのある少女―紫藤イリナがそこにいた。
そして、休み時間。
一誠は男女問わず囲まれ質問攻めにあうイリナを連れ出し、アーシア、ゼノヴィアとともに人気のないところまで来ていた。天魔にも声をかけようとしたが、居眠りをしており、起こそうとした一誠をアーシアが止めたため、置いてきていた。
「おひさ~、イッセー君、それにゼノヴィアも! 元気そうで良かった! 立場上複雑だけど、素直にうれしいわ!」
「ああ、久しぶりだね、イリナ、元気そうで何よりだよ。イリナが胸に下げた十字架がチクチクと地味なダメージを私に与えてくるのは天罰だろうか……」
そういうとイリナがゼノヴィアに抱きついた。ゼノヴィアも笑みを見せつつも複雑そうな顔をするのに苦笑しつつ、ここにいる理由をいつ訪ねようかと見計らっていると、ゼノヴィアが口を開いた。
「なぜ、ここに?」
「ミカエル様の命により使いとして此処に転校してきたの。詳しくは放課後に。場所は噂の旧校舎で、ね?」
ゼノヴィアの端的な疑問にイリナはウインクとともに返し、ひとまず質問は後に回すことにした。一誠がリアスに確認を取ると、イリナ同様放課後に説明する旨の返答があったこともあって、疑問を抱えつつ授業を受けることとなった。
「紫藤イリナさん、貴方の来校を歓迎するわ」
放課後の旧校舎にグレモリー眷属、天魔、アザゼル、ソーナが集まり、イリナを迎え入れる。天魔も流石にボーっとすることはなく、膝に座った小猫を持て余しつつ、イリナへと目を向けていた。
「はい! 皆さん! 初めまして、の方もいらっしゃれば、再びお会いした方のほうが多いですね。紫藤イリナと申します! 教会いえ、天使様の使者として駒王学園に馳せ参じました!」
イリナの自己紹介に応じ、拍手が起きる。
三大勢力の内、悪魔、堕天使のものはいるが、天界のものがいないことを不安視した結果送られて来たのがイリナなのだという。
そのため、イリナも神の消滅を知らされており、あまりの衝撃で七日七夜寝込んだという話にアーシアとゼノヴィアが同意する。三人で肩を抱き合うと、イリナが以前の非礼を謝り、二人が許したことで、和解が成立した。
三人揃って祈りを捧げるのをほのぼのと見ていた天魔だったが、ふと疑問がよぎり、それはそのまま口を吐いた。
「そういえばイリナ、何があったんだ? ずいぶんと変わったみたいだが」
天魔の言葉に皆の視線がイリナに集中する。再会したものは以前と何が違うのかと観察しており、その視線にイリナはくすぐったそうにすると、再び祈りを捧げるポーズを取る。
すると、イリナの身体が輝き、純白の羽が現れた。
「へぇ、きれいだな」
天魔の賛辞にイリナは顔を赤くしつつも説明を始める。
イリナの天使化は「悪魔の駒」と人工神器の技術を利用したものであり、「
十人のセラフのメンバーをキング、悪魔で言う眷属となるA〜Qが「御使い」として仕える立場となる。
神の消失によって増えることのできなくなった天使を増やすことで自陣の強化につなげる目的なのだという。
トランプの持つ「切り札」という意味と人数も十二使徒となぞらえている点、技術開発の速さなどを、アザゼルが面白そうに笑う。
説明の後、イリナの札を尋ねると、イリナは自慢げに胸を張りつつ左手の甲を見せる。
「私はAよ! ふふふ、ミカエル様のエース天使として光栄な配置をいただいたのよ! もう死んでもいい! 主はいないけれど、私はミカエル様のエースとして生きていけるだけで十分なのよぉぉぉっ」
イリナの目が輝き、実に楽しげな表情になる。
「さらにミカエル様は悪魔のレーティングゲームに異種戦として、「悪魔の駒」と「御使い」のゲームも将来的に見据えているとおっしゃっていました! 今はまだセラフのみの力ですが、いずれはセラフ以外の上位天使様達にもこのシステムを与え、悪魔のレーティングゲーム同様競い合って高めていきたいとおっしゃられていましたよ!」
イリナの言葉に驚く者もいたが、天魔は微妙そうな顔をしていた。
悪魔に弱点となる光を使う天使とのゲームは不公平ではないかと感じたためである。
とはいえ、命に危険が少ないゲームで戦うことで唐突な停戦による不満も解消でき、円滑な同盟の継続につながるため、悪いことばかりでもない。
時間をかけ、ルールの調整が終わるのは十年以上後のことになると考えられるため、天魔は考えることをやめた。
「悪魔の皆さん! 私、今まで敵視してきましたし、滅してきました! けれど、ミカエル様が「これからは仲良くですよ?」とおっしゃられたので、私も皆さんと仲良くしていきたいと思います! というか、本当は個人的にも仲良くしたかったのよ! 教会代表としてがんばりたいです! よろしくお願い致します!」
イリナの挨拶を最後に話は終わり、歓迎会が始まる。
生徒会のメンバーも合流し、賑やかにイリナの編入が祝われた。
そうしてイリナが転校して数日。
イリナは持ち前の明るさもあって完全に馴染んでいた。
今も、借り物競走に出ると宣言するイリナに反対意見もなく、激励の声がかけられていた。
イリナも兵藤家で暮らすこととなり、「また転校生が兵藤の毒牙に」という噂が広がったりという一幕もあったが、この噂も以前の噂同様に元浜と松田が流したことが発覚し、一誠による制裁が加えられた。
夏休み明け前に小猫が加わり、住人が増えたことで賑やかになった兵藤家でも、天魔はどこかボーっとすることが多く、イリナは不思議そうにしていたが、語られることはなかった。
今も窓の外を眺めていた天魔だったが、不意に何かが飛んできたことで、反射的にそれを掴み取る。手を開いて確認すると、白いチョークだった。
「今、手を上げてたわね、兵藤。決まりよ!」
放物線を描くチョークを掴むため挙げた手を意思表示だと断定し、黒板へと名前を書き込む桐生に今が体育祭の出場競技を決める時間だと思い出した天魔だったが、そのとなりに書き込まれた時に目を見開いた。
「あんたには二人三脚に出てもらうわ。パートナーは」
メガネを光らせ、アーシアへと視線を向ける。
天魔の隣にはアーシアの名前が記されていた。
各々の出場競技を決めた次の日から、体育祭の準備が始まった。
天魔たちのクラスも体操着に着替え、競技の練習をする中、天魔はため息を付いていた。
「天魔さん、やっぱりご迷惑でしたか?」
「悪い、そう受け取っちゃうよな。迷惑なんてことはないさ。アーシアと二人三脚なんて普通に約得だしな。ただ、桐生にうまいこと嵌められたのが悔しいだけだ。さ、練習しようぜ」
天魔の言葉にアーシアも気を取り直し、練習を始める。
天魔が合わせつつ、ゆっくりと歩くところから始め、その日の練習は普通に歩く程度の速度で終始した。
そして放課後。
天魔、一誠、アーシア、ゼノヴィア、イリナが部室に入ると、その他のメンバーは揃っており、皆一様に苦い顔をしていた。
「どうかしたんですか?」
「ええ、若手悪魔のレーティングゲーム戦、私たちの次の相手が決まったの」
皆の表情を疑問に思った一誠に対するリアスの返答に、天魔の表情が歪む。そのことに一誠達が疑問に思ったが、続くリアスの言葉に驚愕した。
「次の相手はディオドラ・アスタロトよ」
悪い冗談としか思えない組み合わせに、一誠達は絶句するしかなかった。
それから数日後。
それまで以上にぼーっとすることの増えた天魔をゼノヴィアが引きずり、早朝の学園で二人三脚の練習を行っていた。
普段は考え事の多くなった天魔だったが、二人三脚の練習の間は自分がコケればればアーシアも怪我をしかねないため、しっかり周囲を見れていた。
「よし、いい感じだね。次は本番を想定して走ってみようか」
ゼノヴィアの言葉に天魔は頷き、足の紐を確認する。
その最中、アーシアの表情に気づいたのか、一度紐を解き、アーシアと向き合った。
「アーシア、後悔してるか?」
「え?」
「ディオドラのことだ。あいつを治さなければ、今も教会で過ごす事が出来ただろう。悪魔になることも、神の死を知ることも無く敬虔な信徒として生きられた」
天魔の言葉を聞き、アーシアが目を見開く。
しかし、答えるまでにそう時間はかからなかった。
「私、あの時、彼を救ったこと、後悔してません。その結果、追放されて、命を狙われたりもしましたけど、それでも、あの時治療したことを悔いたことはないです」
毅然とした様子のアーシアに、天魔は眩しいものを見たように目を細めると、僅かに顔を伏せる。
「──―」
「え? なんですか?」
天魔が何か言ったように聞こえたが、内容を聞き取れなかったアーシアが問うも、天魔は答えず、ゆっくり顔を上げる。
見惚れるような微笑みを浮かべ、天魔がゆっくりとアーシアを撫でる。
紅潮した頬のアーシアはされるがままになっていた。
「そうだよな、君は、そういう子だ。アーシア。胸張っていいんだ。その考えは貶されるようなものじゃない。誇っていいんだ」
「はいっ!」
天魔の言葉にアーシアが笑顔で返し、温かい空気が流れる。
それを見て、ゼノヴィアがが思い詰めたように話しだした。
「……アーシア、改めてだけど、もう一度謝りたい。初めて会った時、アーシアに暴言を吐いてしまった。いまでも後悔しているんだ。……アーシアは私と仲良くしてくれると、と、友達だと……」
慣れない事を言っていると思っているのかゼノヴィアの頬が紅潮し、言葉に詰まる。
そんなゼノヴィアの手を取るアーシアは笑顔だった。
「はい。私とゼノヴィアさんはお友達です」
屈託のない笑顔での言葉にゼノヴィアが涙組ながら礼をいう。
近くで見ていたらしいイリナも泣き出し、ゼノヴィアは気恥ずかしそうにするのだった。
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本章の途中まで制作していたので、ひとまず六巻終了までは定期的に投稿する予定ですが、それ以降は少し時間が空くと思います。
Life.43登場の「金髪の男」について
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