誤字修正のため見返している内に首を捻り回していました。
ひとまず確認は終わったので投稿します。
イリナを泣き止ませた後は練習に打ち込み、あわや遅刻の危機を迎えつつ放課後。
オカルト研究部の部室にてリアスが記録媒体を手にしていた。
「これは若手悪魔の試合を記録したものよ。私達とシトリー眷属のものもあるわ」
「お前ら以外にも若手たちはゲームをした。大王バアル家と魔王アスモデウスのグラシャラボラス家、大公アガレス家と魔王ベルゼブブのアスタロト家、それぞれがお前らの対決後に試合をした。それを記録した映像だ。ライバルの試合だから、よーく見ておくようにな」
「「「はい」」」
リアスとアザゼルの言葉の通り、記録媒体にはゲームの様子が記録されていた。
ゲームの映像を見るのが初めてな一誠やゼノヴィアが興味津々という様子でモニターを見つめる中、最初に流れたのはサイラオーグとゼファードルの試合だった。
初めてのレーティングゲーム観戦ということもあり、興奮していた一誠だったが、すぐに浮ついた気持ちは取り払われた。
サイラオーグとゼファードルの眷属同士の戦いは白熱していた。両眷属とも強力であり、ゲームに臨むにあたって参考になる部分も多かった。
問題は、「王」同士の戦いである。
最終的に駒をすべて失ったゼファードルがサイラオーグを挑発し、一騎打ちを挑むと、サイラオーグはそれに躊躇なく乗った。
一騎打ちが始まり、ゼファードルの攻撃が始まるも、サイラオーグは拳だけでそれを弾き、前進する。
ゼファードルの攻撃は十分に強力なのだが、何の障害もないかのように近づいてくるサイラオーグに焦りが生まれ、動きが淀んだ途端にサイラオーグが距離を詰め、拳を繰り出した。
幾重にも重ねた防御がまるで障子紙かのように破られ、ゼファードルへと拳が突き刺さる。
映像越しでもその衝撃が伝わる一撃にゼファードルは膝を折り、うずくまった。
追撃をゼファードルは体勢悪くも避けたが、その一撃が建物を破壊し、周囲の景色を変えていく。
「……凶児と呼ばれ、忌み嫌われたグラシャラボラスの新しい次期当主候補がまるで相手になっていない。ここまでのものか、サイラオーグ・バアル」
映像では追うのがやっとであるサイラオーグの動きを見つつ、祐斗が険しい顔で告げる。
天魔は画面で繰り広げられる暴威にギャスパーが怯え、自身へとすがりつくのに苦笑しつつ、頭をなでて落ち着かせようとするが、震えが伝わるばかりだった。
「リアスとサイラオーグ、おまえらは「王」なのにタイマン張りすぎだ。基本、「王」ってのは動かなくても駒を進軍させて敵を撃破していきゃいいんだからよ。ゲームでは「王」が取られたら終りなんだぞ。バアル家の血筋は血気盛んなのかね」
苦言を呈するアザゼルにリアスが顔を赤くして黙り込む。
過去二戦で両方とも「王」同士のタイマンへと持ち込んだ事実に何もいえなくなっていた。
「そういや、あのヤンキー悪魔って、どのぐらい強いんですか?」
「今回の六家限定にしなければ決して弱くないわ。といっても、前次期当主が事故で亡くなっているから、彼は代理ということで参加しているわけだけれど……」
「若手同士の対決前にゲーム運営委員会が出したランキングでは、一位がバアル、二位がアガレス、三位がグレモリー、四位がアスタロト、五位がシトリー、六位がグラシャラボラスでしたわ。「王」と眷属を含み平均で比べた強さランクです。それぞれ、一度手合わせして、一部結果が覆ってしまいましたけれど」
「しかし、このサイラオーグ・バアルだけは抜きんでているということですか」
一誠の疑問にリアスと朱乃が答え、そこから導き出された一誠の答えにリアスが頷いた。
「ええ、彼は怪物よ。「ゲームに本格参戦すれば短期間で上がってくるのでは?」と言われているわ。逆を言えば彼を倒せば、私達の名は一気に上がる」
リアスの言葉に少し考え込む一誠だったが、ふと思い至ったのか、恐る恐る口に出す。
「もしかして、ライザーより強かったり?」
「両者がやってみないとわからないけれど、私の贔屓目で見てもサイラオーグの方が強い気がするわ」
リアスの言葉に一誠が目を見開く。当時歯が立たなかったライザーより強いという言葉に、一誠の視線が天魔を捉える。
当の天魔は震えるギャスパーをあやしており、一誠の視線には気づかなかった。
「ま、グラフを見せてやるよ。各勢力に配られているものだ」
そういうとアザゼルが術を発動し、立体映像のグラフが現れた。
リアスやソーナ達若手悪魔の顔と名前が表示され、各パラメータの表示とともに棒グラフが伸縮する。
パワー、テクニック、サポート、ウィザードという駒の評価として一般的なパラメータに加え、キングと書かれた項目が加わっていた。
「王」としての資質と考えられるパラメータはサイラオーグ、シーグヴァイラ、ソーナ、リアス、ディオドラ、ゼファードルの順となっており、サイラオーグ、ディオドラ、ゼファードルが、それぞれの前後との開きがあった。
リアスのパラメータはウィザードが一番伸び、パワーもそれなりの伸びを見せたが、テクニック、サポートは平均をやや超える程度だった。
問題はサイラオーグだ。
サポート、ウィザードは若手悪魔の中でもっとも低いが、パワーがダントツであり、部室の天井に達する程に伸びる。
サイラオーグを除いた五人の内でもっともパワーの高いゼファードルの数倍のパラメータは異常というほかなかった。
「ゼファードルとのタイマンも本気ではないようだな」
「マジか……天才ってことか」
天魔の言葉に一誠がこぼす。
呆然とした様子の一誠に返ってきたのは否定だった。
「むしろ逆だろ。上級悪魔が最も重視する魔力、そしてバアル家の特性である滅びの力、それらを支えるウィザードのパラメータはこの中で一番低い。上役からすれば、蔑まれる対象だろう。何よりあの拳……凄まじいまでの修練によるものだ」
「天魔の言うように、サイラオーグはバアル家始まって以来の才能のない純血悪魔だ。そもそもの魔力が少ない上、その魔力にも滅びの力が受け継がれなかった。己の身体しかなかったサイラオーグは生まれた時から何度も何度も打倒され、敗北し続けた。それでも愚直なまでの修行で天才どもを追い抜き、次期当主の座についた。それがどれほどの偉業か。敗北の屈辱と勝利の喜び、地の底と天上の差を知っている者は例外なく本物だ。ま、サイラオーグの場合、それ以外にも強さの秘密はあるんだがな」
天魔とアザゼルの話が終わるころには試合も終わっていた。
ゼファードルが物陰に隠れ、怯えた様子で「
そこだけ切り取れば情けない姿だが、サイラオーグの打撃の威力と画面越しでも伝わる気迫に誰も何も言えず、一誠はサイラオーグに先の戦いでの匙を思い浮かべていた。
「先に言っておくがお前ら、ディオドラと戦ったら、その次はサイラオーグだぞ」
アザゼルの言葉にグレモリー眷属が驚愕する。
とりわけリアスは怪訝そうな顔でアザゼルへと尋ねる。
「少し早いのではなくて? グラシャラボラスのゼファードルと先にやるものだと思っていたわ」
「奴はもうダメだ」
アザゼルの返答に得心いかなかったのか怪訝そうな顔をする者が多い中、天魔が口を開いた。
「なるほど、サイラオーグ・バアルの拳はゼファードルの心も折ったか。この戦いで戦意を完全に折られたゼファードルは脱落というわけか」
「その通り、若手悪魔のゲームは残りの五人で戦っていくことになる。おまえらも十分に気を付けておけ。あいつは対戦者の精神も断つほどの気迫で向かってくるぞ。あいつは本気で魔王になろうとしているからな。そこに一切の妥協も躊躇もない」
アザゼルの言葉にグレモリー眷属が気持ちを引き締める。
リアスが深呼吸をすると口を開いた。
「まずは目先の試合ね。今度戦うアスタロトの映像も研究の為にこのあと見るわよ。対戦相手の大公家の次期当主シーグヴァイラ・アガレスを倒したって話だもの」
その言葉に勝敗を知らなかった全員が驚愕する。その驚愕がわかるのか、リアスは苦い顔をしながら話を続ける。
「私達を苦しめたソーナ達は金星、先ほど朱乃が話したランクで二位のアガレスを打ち破ったアスタロトは大金星という結果ね。悔しいけれど、所詮対決前のランキングはデータから算出した予想にすぎないわ。いざ、ゲームが始まれば何が起こるかわからない。それがレーティングゲーム」
自分たちも苦しめられたためかリアスの話に納得し、眷属たちが次のゲームへの気持ちを新たにする。
リアスが次の記録映像を再生しようとしたタイミングで魔方陣が輝き出した。
「アスタロト」
その魔方陣を確認した天魔が低い声でつぶやくのを聞き、アーシアの身体が僅かに跳ねる。
輝く魔方陣から姿を表したのは、ここ最近でもっとも名前を見た人物だった。
「ごきげんよう、ディオドラ・アスタロトです。アーシアに会いに来ました」
上級悪魔が来たと合って、机にはリアスとディオドラ、顧問ということもあってアザゼルの三人が座り、他の面々はリアスの後ろで待機していた。
迷惑をかけているという考えがあるからか不安そうにするアーシアが天魔に寄り添うと、安心させるかのように天魔がその手を取り、アーシアはそれを握り返した。
手の位置が死角になっているからか、そのことに気づいていないディオドラは優しげな雰囲気を保ったまま口火を切った。
「リアスさん。単刀直入に言います。「僧侶」のトレードをお願いしたいのです」
「いやん! 僕のことですか⁉」
「んな訳ないだろ」
「ほんと、図太くなったなぁ、お前」
ディオドラの言葉に真っ先に反応したのはギャスパーだった。
これまでの流れからアーシアを要求することは想像に難くないため、身を守るような動きをするギャスパーに対し、一誠と天魔が呆れた声を出す。
その一方で、アーシアの手の力は強くなっていた。
「僕が望むリアスさんの眷属は「僧侶」アーシア・アルジェント。こちらが用意するのは」
ディオドラがアーシアを要求し、それに対する「僧侶」が載っているのであろうカタログを取り出そうとしたところでリアスがそれを制するように口を開く。
「だと思ったわ。けれど、ごめんなさい。その下僕カタログみたいなものを見る前に言っておいた方がいいと思ったから先に言うわ。私はトレードをする気はないの。それはあなたの「僧侶」と釣り合わないとかそういうことではなくて、単純にアーシアを手放したくないから。私の大事な眷属悪魔だもの」
「それは能力? それとも彼女自身が魅力だから?」
ディオドラは雰囲気を崩すこと無く淡々と聞く。
あくまでも引き下がらない態度に一誠をはじめとして苛立っていく。
「両方よ。私は、彼女を妹の様に思っているわ」
「部長さんっ!」
「一緒に生活している仲だもの。情が深くなって、手放したくないって理由はダメなのかしら? 私は十分だと思うのだけれど。それに求婚した女性をトレードで手に入れようというのもどうなのかしらね。そういう風に私を介してアーシアを手に入れようとするのは解せないわ、ディオドラ。貴方、求婚の意味を理解しているのかしら?」
リアスの回答にアーシアが瞳をうるませる前で、リアスは堂々と告げる。
相手も上級悪魔であるためか気を遣っているが、リアスも切れている事がうかがえる声音だったが、対するディオドラは笑顔のままだった。
「分かりました。今日はこれで帰ります。けれど、僕は諦めません」
ディオドラはそう言うと立ち上がり、アーシアへと歩を進める。アーシアの前で跪くと、空いていた手を取った。
「アーシア。僕は君を愛しているよ。大丈夫、運命は僕たちを裏切らない。この世の全てが僕達の間を否定しても僕はそれを乗り越えてみせるよ」
そう言うと、ディオドラがアーシアの手の甲へとキスをしようとしたところで、その動きは止められた。
ディオドラの肩を掴み、キスを制止したのは天魔だった。
その場で動きを止められたディオドラは、なおも笑みを崩さぬまま天魔へ話しかけた。
「話してくれないか? 薄汚いドラゴン、その上、下級以下の半端者に触られるのはちょっとね?」
笑顔のまま罵倒を繰り出すディオドラに、アーシアが手を振り上げたが、その手は他ならぬ天魔によって止められた。
「待て、アーシア。こいつに殴るほどの価値もない」
「言ってくれるね。ふむ、そうだな……「兵藤天魔を倒したら」と言いたいところだが、彼は今度のゲームには参加出来ないし……では、こうしようかな。次のゲームで僕は赤龍帝の兵藤一誠を倒そう。そしたら、僕の愛に応えて」
「いや、お前とは直接ケリをつけてやるよ」
ディオドラの言葉を遮って天魔が答える。
予想だにしなかった言葉にグレモリー眷属が驚愕し、ディオドラの笑みに僅かに疑問が浮かぶ。
「どうやって? もしかして、リアスさんの最後の駒を使うつもりかい? だけど、「戦車」一つでは白龍皇を眷属にすることは出来なそうだけど」
「そんなことはしない。俺とお前で戦うと言っているんだ」
言葉の真意を気にする皆の前で、天魔は懐から箱を取り出し開いた。
そこには、白銀に輝くチェスの駒が収まっていた。
「「悪魔の駒」だ。「王」としての認定も受けている。つまり、非公式ならゲームにも参加できるということだ」
「なるほど、しかし、駒はほぼ全て未使用のまま揃っているようじゃないか。そんな状況で僕に勝つつもりかい?」
「勝つ! そのいけすかねぇ面、ぶっ飛ばしてやる!」
「いいだろう、改めて、君を、兵藤天魔を、白龍皇を倒し、アーシアに僕の愛を受け入れてもらうとしよう」
話はそれで終わり、ディオドラは帰っていった。
天魔が思い切りサムズダウンしているのを見て、アザゼルが楽しそうに笑っていた。
「全く、そういったことは言っておいてほしかったわね」
「すみません、この後話すつもりだったんです。ゲームとか猫とか色々あったので遅くなりました」
ディオドラが去り、発作的に天魔が撒き散らした塩を若干のダメージと共に掃除し、落ち着いてお茶の時間となっていた。
「それで、貴方も上級悪魔として認定を受けたということでいいのね?」
「まぁ、一応? 駒は頂きました」
そういう天魔の前には駒の入った箱が置かれており、女王が一つ、戦車が二つ、騎士が二つ、僧侶が
「あれ? 一個足りなくねぇか?」
「予約席だ。そういう約束だったからな」
駒の不足に気づいた一誠が尋ねるも、天魔はあっさりと答える。
使った相手について何も言わないところから、言うつもりはないのだと捉え、そのことについて聞くことはなかった。
「なら、「僧侶」の一枠は埋まっているわけね。だとしても、眷属がほとんどいない状態でゲームをするなんて無謀だわ。一旦トレードで何人か」
「結構です。これは俺が決めたこと。手出し無用に願います」
リアスの申し出を最後まで聞くこと無く天魔が断りをいれる。
リアスはそれを傲慢故と感じたのか僅かに怒りをにじませながら説得にかかった。
「貴方の強さは知っているわ。けれど、強いほうがゲームを制する訳では無いことは貴方もわかっているはずよ。ディオドラは貴方に合わせて駒を切り替えてくる。少しでも人数は多いほうがいいわ」
「仮にトレードしたとして、俺と奴のゲームの日程が皆とサイラオーグ・バアルとのゲームと被ったらどうするんです? 全員揃っていなければ彼を倒すことなど不可能ですし、不確定な戦略を立てるわけにはいきません」
天魔の言葉に返すことのできなくなったリアスが黙り込む。
どちらも引く気がないのを見て、アザゼルが口を開いた。
「まぁ、確実に日程がかぶるって保証もないわけだし、天魔にも当てがあるから言ってるわけだ。まずは目先のゲームに集中していこうや」
その言葉に不承不承という感じではあるものの、リアスが一旦引き、本人の登場で中断された、ディオドラとシーグヴァイラのゲームの記録映像を再生する準備をする。
雰囲気は微妙な中、再生が始まった。
ゲームの内容は途中までは特筆するようなものはなかった。
前評判通りにシーグヴァイラの眷属がディオドラとその眷属を追い詰めていく。
ディオドラの眷属が減り、シーグヴァイラの眷属がディオドラへと迫った時、それは起こった。
突如としてディオドラがパワーアップし、シーグヴァイラの眷属を撃破し始めたのだ。
「王」自ら、孤軍奮闘、一騎当千の戦いを見せ、最終的にシーグヴァイラとのタイマンにも勝ち、勝利を手にした。
この戦いに疑問を持ったのは、ほぼ全員。その視線はゲーム全体では無くディオドラのみに集中しており、急激なパワーアップへの疑問に満ちていた。
データを確認し力量の程度を知っていたアザゼルと家同士の関わり合いで顔を合わせることの多かったリアスの意見は一致していた。
曰く、「ディオドラはここまで強い悪魔ではなかった」
パワーアップ前のディオドラはリアスにやや劣る程度の魔力の持ち主であり、十分に強い部類ではある。
しかし、唐突に観戦者が驚くほどの力を発揮した。
グレモリー眷属もその不自然さに首を捻りながらも結論は出ず、契約を始める時間となったため、一度解散するのだった。
アーシアの契約が恙無く終わり、魔方陣での転移ができるようになったにもかかわらず、得意先の反応から自転車での移動を続ける一誠を待つリアスを置いて帰宅すると、天魔は部屋にアーシアを呼び寄せた。
アーシアが部屋にはいると天魔はテーブルへと促し、対面して着席すると、しばらく時間を開けて天魔が口を開いた。
「まず、その、済まなかった」
「えっと……」
「アーシアのことを俺とディオドラだけで決めてしまったことだ。事前に確認しておくべきだった」
突然の謝罪にアーシアが困惑し、それを察した天魔が補足する。僅かに目を見開くアーシアを前に天魔は言葉を続ける。
「ずっと目をそらしていた。俺の自己満足で助けて、後ろ盾のないアーシアが悪魔になった。勿論、アーシアが納得の上で転生を選んだのはわかっている。それでも、「神の子を見張る者」の協力を得られる俺なら、はぐれとはいえ、アーシアが人間のまま、信仰に生きることも出来た。その手段を提示出来なかったのは、俺がオカルト研究部から離れたくないというエゴ故だ。堕天使陣営の者だとわかればこの町にいられないと思ったから。結局、皆優しくて、俺が近くにいることを赦してくれて、俺が、もっとできる事があったはずなのに……あぁ、何言ってんだろ、これは関係ないじゃないか。そう、君を、君の事をまっすぐ見るのが怖かった。どこかで納得出来てないんじゃないか。どこかに後悔があって、悪魔になるしかない状況に追いやってしまった俺の事を、恨んでいるんじゃないかって」
天魔が顔を伏せ、懺悔するかのように話すのを、アーシアは何も言わずに耳を傾ける。
テーブルへと雫を落とし、支離滅裂になりつつも、何かを伝えようとするのを慈愛に満ちた目で見守っていた。
「でも、そうじゃなかった。君は、ディオドラを治療したことを肯定出来ていて、悪魔になった事を後悔なんてして無くて、誰にも恨みなんて向けていなくて……ただ、純粋に生活を楽しんでいた。俺が、兵藤天魔という一個人が、彼女達の気持ちを勝手に推測して、無駄に意地を張って、君を見るのを嫌がった。話を聞いて、無駄に時間をかけて考えて、ようやく結論を出した。本当なら、もっと早くいうべきだった。少なくとも、ディオドラが来る前には」
天魔が顔を上げ、アーシアへと目を合わせる。
息を整え、最後に大きく深呼吸をすると、改めて切り出した。
「アーシア・アルジェントさん。俺に、君の人生を背負わせて欲しい。これから君はひどく傷つくことになる。俺は俺のために、君を囮にするような外道だ。だけど、必ず助けるし、俺の生命尽きるまで、君のそばにいる。だから、俺と一緒に生きて欲しい」
天魔が言葉とともに差し出した手を、アーシアは僅かに目を伏せると、包み込むように両手で握る。
その表情は微笑みつつ、一筋の涙が伝っていた。
「もちろんです。天魔さん、ずっと、一緒にいましょう」
アーシアの答えを聞き、包まれた手を握り返し、自由な手で顔をおおうと天井を仰ぐ。
「あ~、本当俺ってばクズだよなぁ。告白に「これから傷つけます。でも助けるから赦してください」ってなんだよ、マジで。ごめんな、アーシア。こんなクソ野郎で」
「そんなことはないです。天魔さんは素敵なヒトですよ」
自嘲する天魔をアーシアが慰め、天魔が深い溜め息と共にうなだれる。
そんな様子にアーシアが微笑んでいるとゼノヴィアが呼びに来た。
「アーシア、朱乃さんがコスプレ衣装なるものを持ってきたんだが、一緒にどうかな? 何でもこの国におけるシスターにあたるものらしいぞ」
応じるか迷うアーシアへ、天魔が手で応じるように勧め、それを見たアーシアが部屋を出る。
一人になった部屋で瞑目していると、音もなく一人が入室する。
「聞いての通りだ。俺はもう目をそらさない。真正面から、何人に増えようが、全員まとめて幸せにしてやるよ」
「言ったわね? もう取り消せないわよ? 何人になるかしらね?」
「……悪い、人数に関して明言するのはもうちょっと待ってくれ……覚悟は決めたが、あと少しだけ現実逃避させてくれ……」
「ダーメ♪」
心底面白そうに黒歌が告げる。
深い溜め息と共に項垂れる天魔のもとに、一つの連絡が届いた。
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