「そろそろ時間だな……」
懐中時計を確認し、天魔が顔を上げる。
時計の蓋を閉じ、僅かに瞑目して息を吐く天魔に黒歌が寄ってきた。
「うまくいくかしら?」
「いかせるさ。そのための策だ」
そう言うと黒歌に時計を預け、部屋を出る。黒歌も続くも、天魔の表情を見たものはいなかった。
観覧席へと入ると既に役者は揃っていた。
アザゼルを始め、やる気十分という雰囲気であり、天魔も気を引き締める。
設置されているモニターではリアス達が転移したところであり、状況が動き出したところだった。
転移が完了したところで映像が途切れフィールドが結界に覆われる。
オーディンの左目が輝き、そこから広がる波動で水晶の義眼があらわになった。
魔術文字が動き周り、そして、オーディンが残っている右目を見開いた。
「まいったのぅ。儂の力をもってしても破れんとは……ずいぶんな使い手のようじゃな」
「おいおい、まじかよ。早速暗雲立ち込めてきてねぇか?」
オーディンの言葉に全員が驚愕し、天魔が消えたモニターを見ながら歯噛みする中、観覧席に多数の魔方陣が現れた。
「忌々しい偽りの魔王とそれに迎合する愚か者どもよ! 真なる魔王の血族を騙し、傀儡へと変えようとする恥知らずよ! 貴様らはここで我らが滅ぼす!」
魔方陣から悪魔が現れ、宣言とともに攻撃を始める。
天魔が舌打ちしながら攻撃を防ぎ、オーディンへと顔を向けた。
「入り込むのにどれだけかかる⁉」
「凡そ九十といったところか。もう少し待っとれ」
オーディンの回答にもう一度舌打ちすると、反撃の魔法で悪魔を倒し、顔をしかめる。
永遠にも感じる短時間が過ぎ、待ちに待った瞬間がおとずれる。
「よし。準備が出来たぞい。小僧、こっちによれ」
オーディンの言葉に直ぐに反応し、天魔がオーディンへと張り付く。アザゼルやサーゼクス、小型化していたタンニーンも加わり、観覧席から転移した。
僅かに時間を巻き戻し、中継が消えた頃。
リアス達が、転移が完了したにもかかわらず、何のアナウンスもないことを訝しんでいると、フィールドに多数の魔方陣が浮かび上がる。
リアス達の知識から、旧魔王派の思想に傾倒しているであろう悪魔のものだと知らされ、驚いていると、現れた悪魔が口を開いた。
「忌々しき偽りの魔王の血縁者、グレモリー。ここで散ってもらう」
敵意に満ちた言葉に警戒し、一誠が戦闘に備えて籠手をどう扱うか考えていると、悲鳴が上がる。
その声に反応して顔を向けると、アーシアがディオドラに捕らえられていた。
「やあ、リアス・グレモリー、そして赤龍帝。アーシア・アルジェントはいただくよ」
「アーシアを放せ‼このクソ野郎‼卑怯だぞ! 天魔とゲームするんじゃなかったのかよ⁉」
一誠の怒りを込めた叫びにディオドラは鼻で笑って返す。
それはこれまで見せていた爽やかなものでなく、とても醜悪なものだった。
「バカじゃないの? そんなことするわけないだろ。君たちはここで彼ら―「禍の団」のエージェントに殺されるんだよ。いくら力のある君たちとはいえ、白龍皇を欠いた状態で上級悪魔と中級悪魔を相手には出来ないだろう? ハハハ、死んでくれ。速やかに散ってくれ」
「あなた、「禍の団」と通じたというの? 最低だわ。しかもゲームまで汚すなんて万死に値する! 何よりも私の可愛いアーシアを奪い去ろうとするなんて……ッ!」
「彼らと行動したほうが、僕の好きなことを好きなだけできそうだと思ったものだからね。ま、最後のあがきをしていてくれ。僕はその間にアーシアと契る。意味はわかるかな? 僕はアーシアを自分のものにするよ。白龍皇に見せられないのが残念だ。追ってきたかったら、神殿の奥まで来てごらん。素敵なものが見られるはずだよ」
リアスの激昂にディオドラは嘲笑で返す。
その様に我慢ならなくなったゼノヴィアが叫んだ。
「イッセー、アスカロンを!」
「おう!」
一誠は素早く応じ、籠手を出すとアスカロンを外してゼノヴィアへと手渡す。受け取ったゼノヴィアはすぐさまディオドラへ向けて飛び上がった。
「アーシアは私の友達だ! お前の好きにはさせん!」
そのまま斬りかかろうとするゼノヴィアだったが、ディオドラの魔力弾に体勢を崩され、空振りに終わる。
ゼノヴィアはそのまま剣先から聖なるオーラの波動を放ったが、これは空中であっさりとかわされ、歯噛みしているとディオドラとアーシアの像が崩れ始めた。
醜悪にニヤついたディオドラに対し、祈るように目を閉じ手を組むアーシアがその場から消え、一誠が叫んだ。
「アーシアァァアアァァ!」
「イッセー君! 冷静に! 今は目の前の敵を薙ぎ払うのが先だ! そのあと、アーシアさんを助けに行こう!」
アーシアが攫われ、僅かに放心した一誠に祐斗が声をかけ、それを聞いた一誠が頬を叩いて気持ちを切り替える。
ディオドラの合図で現れた悪魔たちが魔力を放とうとしているのを見て、対応策を巡らせていると、朱乃から声が上がった。
「キャッ!」
「うーん、良い尻じゃな。何よりも若さゆえの張りがたまらんわい」
「何やってんだジジイ!」
一誠達が朱乃へと視線を向けるとそこにはオーディンが朱乃の尻を撫でており、それを見た天魔がゲンコツを見舞っていた。
「天魔⁉」
「オーディン様⁉」
この場に来れないと思われた天魔が知らない老人をしばくのを見て動揺していた一誠達だったが、リアスからもたらされた老人の正体にさらなる動揺を見せた。
「遅くなりました。現在「禍の団」の旧魔王派によってゲームは掌握され、各勢力の面々で対応中です。ディオドラ・アスタロトが手引したことも判明しており、正式に敵対勢力として認定されました。俺はこのクソジj……んんっ、オーディン様の協力でこのフィールドへの侵入が出来ましたが、これ以上の援軍には期待出来ません」
「本来ならば、わしの力があれば結界も打ち破れるはずなんじゃが、ここに入るだけで精一杯とは……はてさて、相手はどれほどの使い手か。ま、これをとりあえず渡すようアザゼルの小僧から言われてのぅ。まったく年寄りを使いに出すとはあの若造はどうしてくれるものか……」
天魔達の登場にいきり立った悪魔達が魔力を放つが、それを意に介さずに弾き説明を続ける二人にグレモリー眷属はなんとも言えない顔になるが、ひとまずオーディンから手渡された小型通信機を受け取った。
「ほれ、ここはこのジジイに任せて神殿のほうまで走れ。ジジイが戦場に立ってお主らを援護すると言っておるのじゃ。めっけもんだと思え」
そう言うとオーディンは杖の先を向け、天魔を含めた全員にオーラをまとわせた。
「それが神殿までお主らを守ってくれる。ほれほれ、走れ」
「よし、いくぞ」
「いや、爺さん一人じゃ」
「俺は自分より強いやつを心配する程、酔狂じゃねぇよ」
オーラが全員を覆った事を確認した天魔が号令をかけるが、一誠は心配そうにオーディンへと視線を送る。
不安そうにする一誠の言葉を遮る天魔に半信半疑という様子ではあるものの、走り始めた天魔に続いた一誠が振り返ると、オーディンが手に取った槍から放たれた一撃が何十人もの悪魔を消し去った。
「なーに、ジジイもたまには運動しないと体が鈍るんでな。さーて、テロリストの悪魔ども。全力でかかってくるんじゃな。この老いぼれは想像を絶するほど強いぞい」
「イッセー、ボーッとしてないで走るわよ!」
上級悪魔もいると言っていたディオドラを疑うわけではなかったが、あまりにもあっさりと敵を殲滅するオーディンにあっけに取られていた一誠だったが、リアスの檄を受けて走り始める。
オーラが消える頃に神殿へとたどり着き、全員が通信機を取り付けるとアザゼルから着信が入った。
『無事か? こちらアザゼルだ。オーディンの爺さんから渡されたみたいだな。言いたいこともあるだろうが、まずは聞いてくれ。このレーティングゲームは「禍の団」旧魔王派の悪魔だらけだ。だが、これは事前にこちらも予想していたことだ。現在、各勢力が協力して旧魔王派の連中を撃退している』
アザゼルの言葉に一誠達の視線が外から入ってきた天魔へと集中する。
視線を受けた天魔が頷いたことで一誠達は目を見開いた。
『最近、現魔王に関与する者達が不審死するのが多発していた。裏で動いていたのは「禍の団」旧魔王派。グラシャラボラス家の次期当主が不慮の事故死をしたのも実際は旧魔王派の連中が手にかけてたってわけだ。首謀者として挙がっているのは旧ベルゼブブと旧アスモデウスの子孫だ。俺が倒したカテレア・レヴィアタンといい、旧魔王派の連中が抱く現魔王政府への憎悪は大きい。このゲームにテロを仕掛けることで世界転覆の前哨戦として、現魔王の関係者を血祭りにあげるつもりだったんだろう。ちょうど、現魔王や各勢力の幹部クラスも来ている。襲撃するのにこれほど好都合なものもない。先日のアスタロト対大公アガレスの一戦からも今回の件を予見できる疑惑は生じていたんだよ』
アザゼルの説明を聞き、グレモリー眷属の面々も事情を察する。
このゲームは最初から標的とされており、禍の団と通じたディオドラが仕組んだことだったのだ。
「では、あのディオドラの魔力が以前よりも上がったのは?」
『オーフィスの力を借りたんだろう。ディオドラがそれをゲームで使ったことは奴らも計算外だったろうな。それゆえ、グラシャラボラス家の一件と併せて、今回のゲームで何かが起こるかもしれないと予見ができたんだ。しかし、奴らは作戦を途中で覆さなかった』
リアスの問にアザゼルが嘆息気味に答える。
以前からディオドラがゲームを汚すような行動を取っていた事を知り、リアスの眦が釣り上がる。
そんな様子を気にすることもなくアザゼルが続ける。
『あっちにしてみれば、こちらを始末できればどちらでもいいんだろうが、俺達としてもまたとない機会だ。今後の世界に悪影響を出しそうな旧魔王派を潰すにはちょうどいい。現魔王、天界の熾天使達、オーディンのジジイ、ギリシャの神、帝釈天とこの仏どもも出張ってテロリスト共を一網打尽にする寸法だ。事前にテロの可能性を各勢力のボスに極秘裏に示唆して、この作戦に参加するかどうか聞いたんだがな。どいつもこいつも応じやがった。どこの勢力も勝ち気だよ。今も全員、旧魔王派の悪魔相手に暴れてるぜ』
アザゼルがおかしそうに告げるのに対し、リアスは悔しそうに呟く。
「……このゲームはご破算ってわけね」
『悪かったな、リアス。戦争なんてそう起こらないと言っておいて、こんなことになっちまっている。今回、お前達を危険な目に遭わせた。一応、ゲームが開始する寸前までは事を進めておきたかったんだ。奴らもそこで仕掛けてくるだろうと踏んでいたからな。案の定、その通りになったが、お前達を危ないところに転送したのは確かだ。この作戦もサーゼクスを説得して、俺達が立案した。どうしても旧魔王派の連中をいぶり出したかったからな』
「もし、俺達が死んでいたらどうするんですか?」
『俺もそれ相応の責任を取るつもりだった。俺達の首で済むならそうした』
一誠の問に真剣な声で答えるアザゼルに絶句する中、天魔が口を開く。
「それはそうとアザゼル。アーシアが攫われた。俺はこのまま突入するから、旧魔王連中は任せるぞ」
なんのことはないという風に話した天魔だったが、アザゼルの声音は厳しいものだった。
『お前、状況わかってんのか? 現状「
「あいつは俺の逆鱗に触れたんだよ、アザゼル。それにディオドラとはケリを付けないといけない。これはみんなを巻き込んだ俺がつけるべきケジメなんだよ」
アザゼルの言葉を遮るように天魔が断じる。
思わず黙り込んだアザゼルにリアスと朱乃が畳み掛ける。
「アザゼル先生、悪いけれど、私達はこのまま神殿に入ってアーシアを救うわ。ゲームはダメになったけれど、ディオドラとは決着をつけなくちゃ納得出来ない。私の眷属を奪うという事がどれほど愚かな事か、教え込まないといけないのよ!」
「アザゼル先生、私達、三大勢力で不審な行為を行う者に実力行使をする権限があるのでしょう? いまがそれを使う時では? ディオドラは現悪魔勢力に反政府的な行動を取っていますわよ?」
天魔に加勢した二人の言葉にアザゼルは嘆息すると続ける。
『……ったく、頑固なガキどもだ……ま、いい。今回は限定条件なんて一切ない。だからこそ、お前達のパワーを抑えるものなんて何もない。存分に暴れてこい! 特に天魔とイッセー! 裏切り小僧にドラゴンってものを見せつけてやれ!』
「ああ!」「オッス!」
自身の言葉に天魔と一誠が応じるのを聞き、アザゼルは小さく笑うと続ける。
『最後にこれだけは聞いていけ。大事なことだ。奴らはこちらに予見されている可能性も視野に入れておきながら事を起こした。つまり多少敵に勘付かれても問題のない作戦でもあるということだ』
「相手が隠し球をもってテロを仕掛けてきていると?」
『ああ、それが何かはまだわからないがこのフィールドが危険なことは変わりはない。天魔は元からだが、ゲームは停止しているため、リタイア転送は無い。危なくなっても助ける手段はないから肝に銘じておけ。十分に気を付けてくれ』
その言葉を最後にアザゼルとの通信が切れる。
それと同時に神殿へと到着した。
天魔は息を長く吐くと神殿の奥へと進み始めた。
「行くぞ」
なんの根拠も話さずに進みだした天魔は動き出しが遅れたグレモリー眷属に冷たい声をかけ、促す。
明らかに確信を持った歩みと、警戒のため小猫が猫耳を出して気配を探り出したことで天魔も仙術による索敵をしていることを察し、全員が天魔に続いていった。
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