変態の双子の兄弟として   作:篠白 春夏秋冬

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一応構成はしていたので、とりあえず六巻の内容は終わらせるべきだと思うため投稿します。


Life.53 覇龍

 誰も、現実に思考が追いついていなかった。

 

 ディオドラを倒し、アーシアを救出した。

 

 後は旧魔王派と各勢力の上層部の戦闘が終結するのを神殿地下のシェルターで待つだけ―そう思っていた。

 

 しかし、突如として天魔が光に包まれ、その姿がかき消えた。

 

 まるで最初からそこには誰もいなかったかのような風景に唖然としていると上空から男性の声が聞こえた。

 

「神滅具で創り出した物が神滅具によって消える、か。霧使いめ、手を抜いたな。計画の見直しが必要だ」

 

 その声に祐斗達が顔をあげると、そこには見知らぬ男性がいた。

 

 マントを羽織り、軽鎧に身を包んだその男は臨戦体勢でないにもかかわらず、祐斗が気後れしそうになるほどのオーラを放っている。

 

 その男に呆然としつつもリアスが問う。

 

「誰?」

 

「お初にお目にかかる、忌々しき偽りの魔王の妹よ。私の名前はシャルバ・ベルゼブブ。偉大なる真の魔王ベルゼブブの血を引く正当な後継者だ。そこの偽りの血族とは違う。ディオドラ・アスタロト、この私が力を貸したというのにこのザマとは。先日のアガレスとの試合でも無断で「蛇」を使用し計画を敵に予見させた。貴公はあまりに愚行が過ぎる」

 

 シャルバの返答に祐斗達は驚愕する。

 

 以前和平会談へ襲撃をかけたカテレアがアザゼルと戦っていた姿は記憶に新しく、それを凌ぐほどの力を臨戦態勢でないにもかかわらず感じさせる目の前の男に勝てるビジョンが見えなかった。

 

 そんなシャルバの登場に、ディオドラは懇願するような顔になった。

 

「シャルバ! 助けておくれ! キミと一緒なら、赤龍帝を殺せる! 旧魔王と現魔王が力を合わせれば」

 

 ディオドラの懇願は最後まで続かず、シャルバの放った光の一撃に遮られた。

 

 味方と思っていた男からの一撃を全身がボロボロのディオドラが避けることは出来ず、胸を貫かれるとそのまま崩れ落ちる前に塵となって消えていった。

 

「哀れな。あの娘の神器の力まで教えてやったのに、モノにもできずじまい。たかが知れているというもの」

 

 消えたディオドラを嘲るシャルバが―悪魔が光による攻撃を放ったことで違和感を覚えていた祐斗だったが、よく観察するとシャルバの腕には機械が取り付けられており、これが先程の光を放ったのだと推測出来た。

 

 そして、今のものに似た光を全身に浴びた天魔の行く末を想起する。

 

「さて、サーゼクスの妹君、早速で悪いが貴公には死んでいただく。理由は当然、現魔王の血筋を全て滅ぼすため」

 

「グラシャラボラス、アスタロト、そして私達グレモリーを殺すというのね」

 

 リアスの問にシャルバは憎悪にまみれた目を細める。

 

「その通りだ。不愉快極まりないのでね。私達真の血族が、貴公ら現魔王の血族に「旧」と呼ばれていることが耐えられないのだよ」

 

 そう言うとシャルバは嘆息し、続ける。

 

「今回の作戦はこれで終了。私達の負けだ。まさか、神滅具の中では中位クラスの「赤龍帝の籠手」が上位クラスの「絶霧」に勝つとは。想定外としか言えない。まあ、今回は今後のテロの実験ケースとして有意義な成果が得られたと納得しよう。クルゼレイが死んだが問題ない。私がいればヴァーリがいなくても十分に我々は動ける。真のベルゼブブは偉大なのだから。さて、去り際のついでだ。サーゼクスの妹よ、死んでくれたまえ」

 

「直接現魔王に決闘も申し込まずにその血族から殺すだなんて卑劣だわ!」

 

「それでいい。まずは現魔王の家族から殺す。絶望を与えなければ意味がない」

 

「外道ッ! 何よりも天魔を殺した罪! 絶対に許さないわッ!」

 

 リアスが激昂し、赤いオーラを全身から迸らせる。

 

 朱乃は複雑そうな顔をしつつもリアスに応じるように雷光を撒き散らし始めた。

 

 祐斗も聖魔剣を構え、シャルバへの殺気をたぎらせるが、それ以外のものは思考が追いついておらず、構えることすらできていない。

 

 特に一誠とアーシアは重症だった。

 

 アーシアは膝をつき口元を抑えて涙を流していた。

 

 わずかな嗚咽と小さく謝るような呟きがリアス達の怒りの火に油を注ぐ。

 

 そして、一誠は

 

「天魔?」

 

 未だ現実を受け止められていなかった。

 

「おい、天魔。どこに行ったんだよ? ほら帰るぞ? 家に帰るんだ。父さんも母さんも待ってる。か、隠れていたら、帰れないじゃないか。ハハハ、お前、こんな悪ふざけするやつじゃないだろ?」

 

 フラフラとおぼつかない足取りで周囲を彷徨い何かを探す。

 

「なあ、早く出てこいよ。それとも、さっさと一人で帰っちまったのか? 薄情だなぁ。なあ、木場もそう思うだろ?」

 

 一誠は祐斗へと話しかけるが、祐斗は何も返せなかった。

 

 あまりも痛ましい様子に小猫とギャスパーは顔を伏せ、朱乃も顔を背ける。

 

 リアスは臨戦体勢を解くと一誠を抱きしめる。

 

「部長、天魔がいないんです。アーシアは助けたのに、あいつがいなかったら……あいつ、俺のライバルで、でもその前に兄弟で……修行は厳しすぎてそのまま殺す気なのかって疑った事もあったけど……それでもずっと助けられてて……血が繋がってなくても、あいつが元々悪魔でも、俺達にとっては家族で……」

 

 虚ろな表情で呟く一誠の頬をリアスが優しげに撫でる。

 

 その横で剣を支えに立ち上がったゼノヴィアが剣を構えた。

 

「……許さない。許さないッ! 斬るっ! 斬り殺してやるっ!」

 

 ゼノヴィアがデュランダルとアスカロンを手に斬りかかる。

 

 悪魔には必殺の聖剣による一撃だが、シャルバは眉一つ動かさない。

 

「無駄だ」

 

 シャルバは聖剣二本の攻撃を障壁で弾き、返しの魔力弾を剣を弾かれ無防備となったゼノヴィアの腹へと見舞う。

 

 ゼノヴィアは吹き飛び、手にしていた剣が床へと突き刺さった。

 

「……天魔を返せ……ようやく答えが出たんだ……あいつは、私にとって……なんで……」

 

 重傷のゼノヴィアは呟きながら、聖剣へと這い寄り、握りしめる。しかし、立ち上がるには至らなかった。

 

 シャルバはゼノヴィアを見下すと一誠へと視線を移した。

 

「下劣なる転生悪魔に汚物同然のドラゴン。その上汚物付きの混ざりもの。まったくもって、グレモリーの姫君は趣味が悪い。そこの汚物。あの小僧は次元の彼方へと消え去った。すでに無に当てられその身も消えているだろう。死んだということだ。汚物の力を振るえれば多少は長生きしただろうが、まあ結論は変わらんな」

 

 その言葉に一誠は顔を上げ、シャルバを見る。

 

 その表情は能面のようであり、異様さが際立っていた。

 

『リアス・グレモリー、いますぐこの場を離れろ。死にたくなければすぐに退去したほうがいい』

 

 ドライグの声が響く。

 

 周囲の者にも聞こえるように声を出したドライグが、グレモリー眷属の驚愕を他所に、シャルバへと水を向ける。

 

『そこの悪魔よ。シャルバといったか?』

 

 その言葉と同時に一誠がリアスを振り払った。

 

『お前は』

 

 死人のようなおぼつかない足取りで、一誠はシャルバの方へ向かっていく。そして、シャルバの真下にたどり着くと、ドライグの声音は一誠の口から発された。

 

 それは祐斗達の心身を底冷えさせるほど、無感情の一声だった。

 

『選択を間違えた』

 

 直後、神殿を震わすほどのオーラが一誠から迸る。血のような赤いオーラが神殿を満たし、それらが祐斗の危険信号を強烈にかき鳴らす。

 

 一誠の口からは、呪詛のような呪文が、本人のものではない老若男女の声とともに発された。

 

『我、目覚めるは―』

 

 〈始まったよ〉〈始まってしまうね〉

 

『覇の理を神より奪いし二天龍なり―』

 

 〈いつだって、そうでした〉

 

 〈そうじゃな、いつだってそうだった〉

 

『無限を嗤い、夢幻を憂う―』

 

 〈世界が求めるのは―〉〈世界が否定するのは―〉

 

『我、赤き龍の覇王と成りて―』

 

 〈いつだって、力でした〉〈いつだって、愛だった〉

 

《何度でもお前達は滅びを選択するのだなっ!》

 

 一誠の纏う鎧が変質していく。

 

 さらに鋭角なフォルムが増していき、巨大な翼まで生えていった。

 

 両手両足から爪のようなものが伸び、兜からは角のようなものがいくつも形作られていく。

 

 その姿はドラゴンそのものだった。

 

 そして、全身の宝玉各部から、絶叫に近い声が、老若男女入り乱れて発声される。

 

「「「「「「汝を紅蓮の煉獄に沈めよう―」」」」」」

 

『Juggernaut Drive‼‼‼‼』

 

 変質の完了と同時に放たれた鮮血のようなオーラによって神殿が崩壊していく。

 

 獣のような咆哮をあげ、その場で四つん這いになると、翼を羽ばたかせ祐斗の目にも止まらぬ速度でその場から消える。

 

「ぬうううっ!」

 

 シャルバの悲鳴に振り向けば、小型のドラゴンと化した一誠が、牙を揃えた口のように開いた兜でシャルバの肩口に噛みついていた。

 

 一誠が兜をうごめかす度に肉を引きちぎる不快な音が響く。

 

「おのれ!」

 

 シャルバが右腕の装置で光を放とうとするが、その前に鎧の宝玉から生えた龍の腕が向きをそらし、更に別の宝玉から爪を備えた腕が生えて右腕を切り飛ばした。

 

 それと同時に肩口の肉は食いちぎられ、シャルバが悲鳴をあげる。

 

 シャルバから離れて着地した一誠が首を振って肉を離すと、鎧の赤と鮮血が混じり合い、不気味な光沢を放っていた。

 

 一誠は最早人の言葉とは思えぬうめき声をあげ、全身の宝玉からさらなる腕と刃を生やし、その姿を異形へと変える。

 

「ふざけるな!」

 

 自分を無視して咆哮をあげる一誠に激昂し、シャルバが残った左腕の機会を使って光を放つ。

 

 その一撃は極大と言って差し支えないものだったが、一誠は避ける素振りも見せず、翼を輝かせた。

 

『DividDividDividDividDividDividDividDivid‼』

 

 鳴り響く音声に応じて光は半減を続け、一誠へと到達する頃にはペンライトほどの弱々しいものになる。

 

 発動さえ怪しかった能力を自在に使う姿に全員が驚愕する。

 

「何っ! あの汚物の力だとッ! あの血族はどこまでも私の邪魔をッ!」

 

 シャルバは憎々しげに吠えると今度は極大のオーラを放つ。

 

 しかしその一撃は一誠が翼を羽ばたかせただけで軌道を変えて逸らす。

 

 簡単な挙動で強力な攻撃を逸らす一誠に祐斗達が驚愕していると、赤龍帝の鎧の兜が口を開け、そこから砲身のようなものが顔をのぞかせた。

 

 そこから放たれたレーザーのように細く圧縮されたオーラはシャルバの左腕を吹き飛ばし、床や壁などに真一文字の線を刻むと、一拍置いて爆発し、周囲に衝撃と粉塵を撒き散らした。

 

「ば、化け物め! こ、これが「覇龍(ジャガノート・ドライブ)」だというのか⁉ 冗談ではない! わ、私の力はオーフィスによって前魔王クラスにまで引き上げられているのだぞ⁉ データ上の赤龍帝の籠手のスペックを逸脱しているではないか!」

 

 「覇龍」のあまりの破壊力にシャルバの表情に怯えの色が濃く現れる。

 

 そんなシャルバと一誠を祐斗達は呆然と眺めていた。

 

 その場にいる者全てが暴威を撒き散らす一誠に恐怖し、全身を震わせる。

 

 怯える一同の前で、赤龍帝の鎧の胸部と腹部が音を立てて開く。

 

 そこから大きな発射口が姿を表した。

 

 静かな鳴動のあと、赤いオーラがその発射口に集まっていく。それは次第に大きくなり、見るもの全てが寒気を感じるほどの圧縮されたオーラが発射口へと留まっていく。

 

 広がった両翼も赤く輝き、不気味な赤い光が辺り一帯に広がっていく。

 

「くっ! 私はこんなところで死ぬわけには!」

 

 シャルバが残った足で転移用魔方陣を描こうとするが、その足が動きを停める。

 

「……と、停めたというのか! 私の足を!」

 

 赤龍帝の鎧の目が輝き、その視線はシャルバの足を捉えていた。

 

 ギャスパーの神器と同様の現象を起こしたことがシャルバの逃走を阻止したことで祐斗の驚愕が深まる。

 

 そしてそのタイミングで倍化の音声が鳴り響き始めた。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost‼‼‼‼』

 

『Longinus Smasher!!!!!!!!!』

 

 神殿内に幾重にも倍化の音声が響き、発射口から莫大なオーラが溢れるのを見て、祐斗の脳内に鳴り響く警鐘が恐怖に勝り、遅ればせながら行動を開始できた。

 

「部長、一時退却しましょう! この神殿から出るべきです!」

 

「イッセー……私は……」

 

「―ッ! すみません!」

 

 祐斗の声に答えず一誠を求めるリアスを強引に担ぎ上げ、有とは撤退を断行する。

 

 その間に朱乃がゼノヴィアに肩を貸し、へたり込んだままのアーシアを小猫が担いでギャスパーと共に祐斗へと続いた。

 

「バ、バカな……ッ! 真なる魔王の血筋である私が! ヴァーリに一泡も吹かせていないのだぞ⁉ ベルゼブブはルシファーより偉大なのだ! おのれ! ゴミクズごときが! ドラゴンごときが! 赤い龍め! 白い龍めぇぇぇぇっ!」

 

 シャルバは断末魔をあげつつ極大のオーラへ飲み込まれていく。

 

 その直後、轟音とともに神殿が崩壊していった。

 

 

 

 祐斗は神殿の外に出たと同時に聖魔剣を幾重にも重ねてシェルターのようにしてグレモリー眷属を守ると、崩れる音が収まるのに合わせて剣を消し、周囲に目を配る。

 

 神殿は完全に破壊され、シャルバの姿はどこにも見えない。

 

 唯一神滅具で創られた装置が残っていたが、各所にヒビが入り、崩れている部分も見受けられた。

 

 自分たちの攻撃では傷一つつけられなかった装置の無惨な有り様に祐斗が戦慄していると、一誠は瓦礫の山の頂上で咆哮をあげていた。

 

 決着はついたにも関わらず鎧を解除しない一誠になんの対処もできず呆然としていると、すぐ近くの空間に人が通れる程の穴が空き、その中から銀髪の少女が現れた。

 

「お困りのようね?」

 

「ヴァーリ、何をしにきたの?」

 

 一応は天魔の配下であるため明確に敵というわけではないが、名目上はテロリストであるヴァーリの登場に警戒を露わにするリアスだったが、その返答は肩を竦めながらのものだった。

 

「ここに来る予定はなかったよ。こっちは急に飛び出したお姫様を追いかけてきただけでね。おかげでごまかすための手配はできていないし、バレないかヒヤヒヤだよ。だが、今回はお姫様が正しかったようだけど。それにしても「覇龍」か」

 

「知っているの?」

 

「「白龍皇の翼」及び「赤龍帝の籠手」に内臓されている一種の暴走装置のようなものだ。天魔曰く、悪意と憎悪に満ちた過去の所有者の残留思念による干渉がもたらす破壊衝動に影響され周囲全てを壊しにかかるものらしい。生命力を激しく消耗するものでもあり、二天龍の決戦で使われた場合は大抵は周囲を破壊し尽くし敵を滅ぼした後に自身の生命も削り切る諸刃の剣とのことだ。人間界でこの状態になっていれば都市部とその周辺は更地になるだろうね」

 

「……この状態は元に戻るの?」

 

「どうにも中途半端に「覇龍」と化したようだね。このまま命を削り切るか、何かの拍子に元に戻るのかはわからない。少なくともこのままの状態でいることは兵藤一誠の命を危険にさらし続けることになる」

 

 ヴァーリの言葉を聞き、グレモリー眷属の表情が沈む。

 

 天魔に続き一誠を失う可能性に絶望が這い寄ってくる。

 

 そんなグレモリー眷属をみて、ヴァーリは開いたままの空間の穴へと顔を突っ込んだ。

 

「ところで、そろそろこっちに出てきてくれない? 手遅れになったら嫌われるだけじゃ済まないと思うけど?」

 

「ッ! すぐ行く!」

 

 その言葉に幼い声が焦りを帯びて返事をする。

 

 誰に声を掛けたのかと不思議に思うグレモリー眷属の前に、先程の幼い声に似合わない黒髪の美女が何かを抱えて姿を表した。

 

 その後ろから金髪の少女が現れると空間の穴が閉じ、幼気な声には合わない容姿に疑問に思っていると、黒髪の美女の姿が光に包まれ、見た目が先程聞こえた声に合う少女の姿に変わる。

 

 その少女が抱きかかえていた人物を目にし、グレモリー眷属が驚愕に声をあげた。

 

 そこには次元の彼方へと消えたはずの天魔が安らかな寝顔でゆっくりと呼吸していた。




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