変態の双子の兄弟として   作:篠白 春夏秋冬

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第七章 放課後のラグナロク
Life.55 思い悩む日


 兵藤家地下―大広間にて。

 

 スクリーンにはCGのような技術で頭だけ一誠にすげ替えられた役者による大立ち回りが上映されていた。

 

 相対する敵に追い詰められたかのように見えた“一誠”が禁手の鎧を纏い、戦闘が始まる。

 

 これは冥界で放送されている番組の放送前の確認用映像である。

 

 作品名は「乳龍帝おっぱいドラゴン」。

 

 伝説のドラゴンと契約した若手悪魔―イッセー・グレモリーが悪魔に敵対する邪悪な組織と戦うというストーリーのいわゆる特撮作品となっている。

 

 キャッチフレーズが「おっぱいを愛し、おっぱいのために戦う男。邪悪な悪事を働く輩を倒すため、伝説のおっぱいドラゴンになるのだ!」というもので、天魔が最初に聞いたときには目眩がしてふらつく程のショックを受けた。ついでに二天龍は泣いた。

 

 著作権はグレモリー家が仕切っており、既にグッズ展開も始まっている。冥界では視聴率が五十%を超えるお化け番組となっており、主に子供たちにから大人気らしい。

 

 イリナやアザゼルも含めたオカルト研究部の全員で映像を見ているのだが、天魔はあぐらをかいた中心に座った小猫をあすなろ抱きにしてつむじに顔を埋めていた。

 

 くすぐったそうにする小猫だが、天魔の気持ちが沈んでいることを理解しているのか身動ぎしつつも離れようとはしなかった。

 

 そうしている内にスクリーンではイッセーが追い詰められ、そこへイッセー同様に顔をすげ替えたリアスが駆け寄ると、イッセーはリアスの胸に触れ、パワーアップを果たして逆転し始める。

 

 それを上目でみていた天魔はそのまま顔を伏せ、視界を完全に小猫の髪で埋めた。

 

 その瞬間、小猫の方が跳ねたが離れることはなく、されるがままになっていた。

 

 そんな様子を尻目にアザゼルはノリノリで説明する。

 

「味方側におっぱいドラゴンとスイッチ姫がいるんだよ。そして、ピンチになったとき、スイッチ姫の乳に触れることで、無敵のおっぱいドラゴンになるのだ!」

 

 ドヤ顔するアザゼルの頭にハリセンが炸裂する。

 

 下手人はリアスであり、その顔は羞恥と怒りで赤く染まっていた。

 

「……ちょっとアザゼル。グレイフィアに全部聞いたわよ? ス、スイッチ姫の案をグレモリーの取材班に送ったのは貴方ね。おかげで、私が、こ、こんな……」

 

「いいじゃねえか。おかげでガキどもの支持を得て、お前の人気が高まったって聞いたぜ?」

 

 リアスは怒りに震えるがアザゼルは悪びれることなく人気の上昇を喜ぶ。

 

 冥界では発売される情報誌の記事も差し替えられるという話もあり、「リアス姫特集」から「皆もスイッチ姫になろう!」となるということだった。

 

「……もう、冥界を歩けないわ」

 

 憂鬱気にリアスが呟くのに合わせ、天魔がなにやら愚痴を漏らす。聞き取れなかった者達の視線がすぐ上に天魔の顔がある小猫に集まり、小猫は悲しそうな顔で天魔の通訳を始めた。

 

「……「俺の「ルシファー」の名が初めて出るのがこんなのって……俺が何をしたっていうんだ」だそうです」

 

 そう、この作品にはスペシャルサンクスとして天魔の名前もクレジットされていた。

 

 これはテロリストである「禍の団」壊滅に一役かっている天魔の名前も番組と共に広げ、壊滅した旧魔王派の件もあって旧魔王派と現魔王派の和解の象徴としてのプロパガンダを兼ねていたりする。

 

 番組の人気が出たこともあり、プロパガンダ自体はうまくいっていたのだが、本人からすれば複雑極まりなかった。

 

 沈鬱極まる雰囲気を放つ天魔に誰も何も言えなくなっていると、唐突に一誠は後ろから抱きつかれた。

 

「彼のことは置いておいて、そろそろ約束を果たしてほしいですわ」

 

 抱きついたのは朱乃。

 

 両者の頬が付きそうになるほどに顔を近づけ、一誠の背にしなだれかかる朱乃にリアスの眦が釣り上がる。

 

「約束?」

 

「デートの約束ですわ。ディオドラ・アスタロトとの戦いでイッセー君が言ってくれたでしょう?」

 

「そんなこともありましたね」

 

 一誠の疑問に満面の笑みで答えた朱乃だったが、続く言葉に悲しそうな顔を作ると目元を潤ませた。

 

「もしかして、あれは嘘なの……?」

 

「う、嘘じゃないです!」

 

 突然泣き出しそうになった朱乃にあわてて一誠が否定を返すと朱乃はあっさりと表情を笑みに戻した。

 

「嬉しい。なら、今度の休日にデートね。イッセー君と初デート♪」

 

 手のひらで転がされる一誠にリアスは不機嫌になり天魔がため息を吐いた。

 

 

 

 一誠が改めてデートの約束をして数日後。

 

 天魔達は昼食を囲んでいた。

 

「そういや、もうすぐ修学旅行だぜ。班を決めないとな」

 

 話題を挙げたのは元浜。

 

 修学旅行の行き先は京都であり、その後には文化祭も予定されている。

 

「えっと、三、四人で組むんだっけ?」

 

「そうそう。泊まるところが四人部屋らしいからな。ま、俺等三人は固定だよ。嫌われ者だからな、俺等」

 

 一誠の確認に答えたのは松田。夏休み以降地獄で鍛えられた一誠は多少評価が変わっていたりするが、基本的に三人セットで嫌われている。普通に話すことができるのは桐生とオカ研メンバー程度なので、女子相手にはほぼ全滅である。

 

「眼の前で俺を除け者にするな。俺が他の男子に混じると面倒なことになるからな。四人で組むぞ。ふふふ、それにしても旅行かぁ……京都……いいよなぁ……」

 

 天魔は班決めに強引に割り込み決定事項のように話すと、含み笑いをしながら麦茶をすする。

 

 普段なら「自業自得」ぐらいは言いそうなものだが、特に嫌味もなくワクワクした様子に松田と元浜を目を見合わせた。

 

「特に詰りもないと何だか気持ち悪いな」

 

「というか、天魔ってこんなにイベントを楽しみにするタイプだったか?」

 

「あ~、天魔は小中と修学旅行参加してないからな。楽しみなんだろ」

 

 天魔は修行もあってイベントには基本不参加だった。

 

 まともに参加したのは中学生からだが修学旅行はちょうどその頃神器の発動ができなくなったことで不参加であり、今回が最初で最後の修学旅行なのだった。

 

 ついでに最近の情勢から駒王町近辺は重要地として様々な勢力が注目しており、防衛戦力も十分。家族の心配もしなくていいため本当に気楽に過ごせる人間界での旅行に浮かれているのである。

 

「こんな浮かれてる兵藤は初めてね。ま、いいか。とりあえず、アンタ達はうちらと組むわよ。アーシアもゼノヴィアっちもこっちの兵藤と一緒の方がいいでしょうし。イリナさんもそれでいいわよね?」

 

 桐生の案にアーシア達も賛同し、修学旅行の班が決まる。

 

 なお、天魔の状態は昼休みギリギリまで戻らず、班決め以降はアーシアに世話を焼かれる事となった。

 

 

 

 そんなことのあった放課後。

 

 天魔は黒歌とともに襲撃者の対処にあたっていた。

 

 旧魔王派の壊滅以降、断続的に異形を引き連れた神器所有者が駒王町を訪れており、怪しい動きを繰り返していた。

 

 ただ、近隣になにかするでもなく廃工場のような寂れた区画に現れ存在を発するだけであり、行動の理由は不明である。

 

 とはいえ明らかに怪しい存在を放置するわけにもいかず、発見次第捕縛するよう指令が下っている。

 

 先日の一件で功績が認められ、自由度が上がった黒歌は二人での外出を「デート」と言って喜んでいたが、不謹慎だと仕置を受けている。

 

「これで全員だな」

 

「今日もつかれた〜。おぶって〜」

 

「転移だから疲れんだろ」

 

 天魔は背中にもたれかかる黒歌に肩をすくめつつ捕縛した人間たちを魔法で連行し、帰途につく。

 

 この甘えが黒歌が不謹慎なことを言う原因なのだが、それを知っている者は少ない。

 

 その日の夜。一誠の部屋にて。

 

 互いに上半身裸の天魔と一誠がベッドに腰掛けていた。

 

「極限状態に持っていって禁手の実験、か。なるほど、ありそうな話だな」

 

「そっちはそういう前兆はなかったのか?」

 

「奇襲で一気に昏倒させてたからないな」

 

 彼らは特定の趣味を持っている方々が興奮するようなことをしていたわけではない。

 

 天魔がここにいる理由は治療であり、「覇龍」によって失った寿命を少しでも伸ばすために仙術による生命力の回復を行ってたのである。

 

「にしても、なんでこんな絵面なんだよ……」

 

「しょうがねぇだろ……黒歌も小猫もお前とほぼ裸で接触するのを嫌がったんだから……お前のスケベ根性の結果だよ」

 

 ため息を吐く一誠に天魔もぼやく。

 

 反論のしようがない一誠は黙り込んだ。

 

「そういえば、天魔は「覇龍」を扱えるんだよな? 何か方法ってあるのか?」

 

「生命力の代わりに魔力とオーラを消費しつくしている感じだな。多少なら仙術で回復もできるからある程度なら無理もきくが、完全な制御とはいかない。強力で切り札であることには変わりないが」

 

 天魔の回答に一誠は難しい顔でうなり始める。

 

 自身では実行できそうにない方法にため息をついていると天魔が立ち上がる。

 

「アザゼルも言っているらしいが、別方向でのアプローチを試すべきだな。だが、今日は早めに切り上げとけよ。明日はデートだろ?」

 

 そう言い残して天魔が部屋を後にして、入れ替わりでリアスが入ってくる。

 

 朱乃とのデートが翌日とあって不機嫌なリアスを前に一誠は中々寝付けなかった。

 

 

 

 そして、翌日。

 

 天魔は朝からアザゼルの指示の下ある場所を訪れていた。

 

 その場には既に大柄な男性が待っており、男は直ぐに天魔に気づいた。

 

「天魔、来たのか。朱乃の様子はどうだ?」

 

「あんたはいつもその話だな。まぁ、今日は随分上機嫌だったよ」

 

 男の名はバラキエル。

 

 堕天使の幹部の一人であり、朱乃の父である。

 

 その性格は実直そのものであり、アザゼルに色々と吹き込まれている彼が一誠と朱乃がデートだと知れば暴走してしまう可能性があるため、天魔は適当に誤魔化す。

 

 同居人である天魔からバラキエルが普段の生活など色々と聞き出そうとしていると、今回の目的が現れた。

 

「何をやっとるんじゃ、主らは。わざわざジジイが遠路はるばるやってきたというのに」

 

「オーディン様! せっかくアザゼル殿が呼んでくださった護衛役なのですからきちんとなさるべきです!」

 

 現れたのはオーディン。護衛としてパンツルックのスーツに身を包んだ女性を連れ、呆れた様子で二人を見ていた。

 

「これは俺のせいじゃない。それはともかく、極東へようこそ、クソジジイ。歓迎するぜ」

 

「おい、天魔。北欧の主神をそのような」

 

「いーんだよこれで。理由は今度話してやる」

 

 天魔の物言いに目を怒らせるバラキエルをいなし、オーディンを見る。クソジジイ呼ばわりされた本人はひげを撫でていた。

 

「全く、お主は豪胆というかなんというか……まあええわい。で、この後はどうするんじゃ?」

 

「一旦アザゼルと合流する。そのために兵藤家まで移動するわけだが、どこか寄っておきたいところはあるか?」

 

「そうじゃな……若い娘さんがおるところはないのか?」

 

「嫁さん一筋の堅物と未成年に案内させるところじゃねぇだろ……」

 

 オーディンのリクエストに天魔は呆れ顔をする。

 

 それに対するオーディンはしたり顔だった。

 

「聞いておるぞ。お主、アザゼルから店を任されておるのじゃろ? そこでいい。案内せい」

 

 それを聞き、天魔は渋面を作る。

 

 ひとしきり歪んだ顔を晒した後で、天魔は全力で舌打ちする。

 

「チッ、あの野郎……はぁ、案内はするよ。だが、あそこはそういう店じゃねぇからな。セクハラするようだったら日本での平穏はないと思え」

 

「ホッホッホッ、それぐらいわきまえておるわい。アザゼルの坊主の案内する店までの時間潰しよ」

 

「それはそれで腹立つな……」

 

「ワガママなやつじゃのう」

 

 納得がいかなそうな表情で案内を始めた天魔にオーディンは肩を竦めながら続く。

 

 会話で置いていかれた二人もひとまずついていくことにするのだった。

 

 

 

 そうしてやってきたのは歓楽街。

 

 近くにはホテルも複数存在する高校生が昼間から立ち入るには少々合わない場所である。

 

 早速店の場所へ向かおうとしたところで、バラキエルが離れていく。

 

「おい、バラキエル。そっちは違うぞ。お~い」

 

 天魔の声も聞かず、バラキエルが角に身を寄せ、その先を伺い始める。

 

 妙に真剣な様子でラブホテル街を覗き込む様子に何があるのやらと天魔達も近づいていく。

 

「ったく、何があるってんだよ……あらら、これはこれは」

 

「堕天使どもは護衛という言葉を舐めておらんか? ……ほほう」

 

 バラキエルが覗き込む先には一誠とその服の端を掴む朱乃がいた。

 

 両者とも顔は紅潮しており、一誠に至っては鼻血が垂れている。

 

 見る限りデート中にそういう雰囲気になったカップルであるのだが、少女の方が自身の娘というのは複雑なのかバラキエルからオーラが溢れ始める。

 

 このままでは一誠に襲いかからんばかりの表情となっている父親を野放しにするのはまずいと天魔とオーディンは目線を合わせると、互いにため息を吐き角から一誠たちへと歩み寄っていく。

 

「まったく、昼間っから、女を抱こうなどとやりおるわい、赤龍帝の小僧」

 

「いや、アンタさっきまでガールズバーに行こうとしてたよな?」

 

「天魔!? と……思い出した、オーディンの爺さん!」

 

 オーディンの声にバッと振り向いた一誠が驚愕に声をあげる。

 

 闖入者に雰囲気をぶち壊されたことでチャンスが流れたことに悔しがっていると、オーディンの横をすり抜けてバラキエルが朱乃へと詰め寄っていた。

 

「……あ、あなたは」

 

「朱乃、これはどういうことだ?」

 

 バラキエルは突然現れたことに驚く朱乃に構うことなく怒気を含んだ声で問い詰める。

 

 それに対する返答は反発だった。

 

「……か、関係ないでしょ! そ、それよりもどうしてあなたがここにいるのよ!」

 

「それはいまどうでもいい! とにかく、ここを離れろ。お前にはまだ早い」

 

 そう言うとバラキエルは朱乃の腕へと手を伸ばす。

 

 朱乃がそれを避けようとするが、バラキエルの手は途中で止められた。

 

「熱くなりすぎだ。お互いにな」

 

「何だか、わからないけど、朱乃さんに触れないでくれ。嫌がっているだろう。つーか、あんた何者だよ?」

 

 天魔がバラキエルの手を掴んで引き離し、開いた隙間に一誠が身体を割り込ませて朱乃を背に庇う。

 

 バラキエルを睨む一誠に返答したのは天魔だった。

 

「こいつの名はバラキエル。堕天使組織グリゴリの幹部で―姫島先輩の親父さんだ」

 

 天魔の言葉に一誠は呆けたような顔をする。

 

 誰も否定しないことが天魔の言葉が真実だと物語っており、それを認識した一誠は驚愕に声をあげるのだった。




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