一誠の驚愕から暫く。
一誠と朱乃のデートは中断され、彼らの尾行をしていたリアス達と合流し、全員で兵藤家へと戻って来ていた。
「ほっほっほ、というわけで来日したぞい」
兵藤家最上階のVIPルームにてオーディンが楽しそうに笑う。
アザゼルも合流し、会談の席が用意された。
こういう場合普段は朱乃が茶を淹れているが、バラキエルがいるためか表情は固く動けずにいるため、リアスが代わりに茶の用意をしていた。
「どうぞ、お茶です」
「かまわんでいいぞい。しかし、相変わらずデカいのぅ。そっちもデカいのぅ」
オーディンがカップを差し出したリアスの胸元を覗き込み、次いで朱乃へと視線を送る。
その視線に一誠が警戒していると、オーディンの頭が銀髪の少女の持つハリセンで叩かれた。
「もう! オーディンさまったら、いやらしい目線を送っちゃダメです! こちらは魔王ルシファー様の妹君なのですよ!」
「まったく、堅いのぉ。サーゼクスの妹といえばべっぴんさんでグラマーじゃからな、そりゃ、わしだって乳ぐらいまた見たくもなるわい。と、こやつはわしのお付ヴァルキリー。名は」
「ロスヴァイセと申します。日本にいる間、お世話になります。以後、お見知りおきを」
「ちなみに彼氏いない歴=年齢の生娘ヴァルキリーじゃ」
しっかりとした態度で名乗り、挨拶したロスヴァイセについて、オーディンがいやらしい顔つきで追加情報を告げる。
唐突に挟まれた暴露にロスヴァイセが動揺し、今度は天魔によってハリセンが見舞われた。
「そ、そ、それは関係ないじゃないですかぁぁぁっ! わ、私だって、好きでいままで彼氏が出来なかったわけじゃないんですからね! 好きで処女なわけないじゃなぁぁぁぁいっ! うぅぅっ!」
快音とともにロスヴァイセは崩れ落ち、床を叩き出す。
直前までの姿とのギャップに一誠達が驚いていると、オーディンが頷きながら話しだした。
「まあ、戦乙女の業界も厳しいんじゃよ。器量よしでもなかなか芽吹かない者も多いからのぉ。最近では英雄や勇者の数も減ったもんでな、経費削減でヴァルキリー部署が縮小傾向での、こやつもわしのお付になるまで職場の隅にいたのじゃよ」
そんな北欧組のやり取りに苦笑しつつアザゼルが口を開く。
「爺さんが日本にいる間、俺達で護衛することになっている。バラキエルは堕天使側のバックアップ要員だ。俺も最近忙しくて、ここにいられるのも限られているからな。その間、俺の代わりにバラキエルが見てくれるだろう」
「よろしく頼む」
「爺さん、来日するにはちょっと早すぎたんじゃないか? 俺が訊いていた日程はもう少し先だったはずなんだが。今回来日の主目的は日本の神々と話をつけたいからだろう? ミカエルとサーゼクスが仲介で、俺が会議に同席と」
バラキエルが言葉少なに挨拶したのを見て、アザゼルは茶を飲みながら訊ねる。
対するオーディンはひげをさすりながら嘆息していた。
「まあの。それと我が国の内情で少々厄介事……というよりも厄介なもんにわしのやり方を批難されておってな。事を起こされる前に早めに行動しておこうと思ってのぉ。日本の神々といくつか話をしておきたいんじゃよ。いままで閉鎖的にやっとって交流すらなかったからのぉ」
「厄介事って、ヴァン神族にでも狙われたクチか? お願いだから「
「ヴァン神族はどうでもいいんじゃが……ま、この話をしていても仕方ないの。それよりもアザゼル坊、どうも「
それを聞き、一誠達の表情が強張る。
仮説の一つが的を得ていたことに対しての驚きにグレモリー眷属が顔を見合わせていると、アザゼルが笑って答える。
「ああ、レアだぜ。だが、どっかの馬鹿が手っ取り早く、それでいて怖ろしく分かりやすい強引な方法でレアな現象を乱発させようとしているのさ。それは神器に詳しい者なら一度は思いつくが、実行するとなると各方面から批判されるためにやらなかったことだ。成功しても失敗しても大批判は確定だからな」
「なんですか、その方法って」
「リアスの報告書でおおむね合っている。下手な鉄砲も数打ちゃ当たる作戦だよ。まず、世界中から神器を持つ人間を無理矢理かき集める。ほとんど拉致だ。そして、洗脳。次に強者が集う場所、超常の存在が住まう重要拠点に神器を持つ者を送る。それを
影使いとは、一誠達が対処した英雄派と思われる神器使いのことである。
影を通して攻撃を受け流す神器を持っていた男で、一誠達にやり込められた後に何やら妙な気配を発していたそうだが、変化が確定的になる前に転移していったため詳細はわからないらしい。
「これらの事はどの勢力も、思いついたとしても実際にやれはしない。仮に協定を結ぶ前の俺が悪魔と天使の拠点に向かって同じことをすれば批判を受けると共に戦争開始の秒読み段階に発展する。自分たちはそれを望んでいなかった。だが、奴等はテロリストだからこそ、それをやりやがったのさ」
まさに人道に反する方法に実行されなかった理由を一誠達は納得する。そうして頷いていた一誠だったが、何かを思い出したようにアザゼルへと視線を向けた。
「自分はそのような目に遭って禁手に至りましたけどって訴えかけるような顔だな、イッセー」
「そりゃそうですよ、先生」
「だが、お前は悪魔だ。人間より頑丈なんだぜ?」
「それでも死にかけました!」
「あー、まあ、お前だから別にいいんだよ」
「あーっ! それでまた片付けるぅぅぅぅっ! 酷いよ、先生!」
叫ぶ一誠だが、やはりというか気にも止めることなくアザゼルは話を再開した。
「どちらにしろ、人間をそんな方法で拉致、洗脳して禁手にさせるってのはテロリスト集団「禍の団」ならではの行動ってわけだ」
「それをやっている連中はどういう奴なんですか?」
気を取り直した一誠の問いにアザゼルが続ける。
「英雄派の正メンバーは伝説の勇者や英雄様の子孫が集まっていらっしゃる。身体能力は天使や悪魔にひけを取らないだろう。さらに神器や伝説の武具を所有。そのうえ、神器が禁手に至っているうえに、神々をも倒せる力を持つ
「禁手使いを増やして何をしでかすか、それが問題じゃの」
アザゼルの話を引き継ぐ形でオーディンはそう言って話を締めた。そこに深刻そうな気配はなく、悠然と茶を飲んでいるため一誠にはイマイチ問題の大きさはわからなかったが、アザゼルの雰囲気も似たようなものだった。
「まあ、調査中の事柄だ、ここでどうこう言っても始まらん。爺さん、どこか行きたいところはあるか?」
アザゼルの問いにオーディンはいやらしい顔つきで両手の五指を動かしながら答える。
「おっぱいパブに行きたいのぉ!」
「ハッハッ、見るところが違いますな、主神どの! よっしゃ、いっちょそこまで行きますか! 俺ん所の若い娘っ子どもがこの町でVIP用の店を最近開いたんだよ。そこに招待いちゃうぜ!」
「うほほほっ! さっすが、アザゼル坊じゃ! わかっとるのぉ! でっかい胸をしこたま用意しておくれ! 沢山もむぞい!」
「ついてこいクソジジイ! おいでませ、和の国日本! 着物の帯くるくるするか? あれは日本に来たら一度はやっとくべきだぞ! 和の心を教えてやるぜ!」
「たまらんのー、たまらんの!」
盛り上がりつつ退室しようとする二人にリアスは眉をしかめ、天魔は額に手を当てて俯く。
そんな彼らを置いてロスヴァイセは追う姿勢を見せた。
「オーディンさま! わ、私もついていきます!」
「お前は残っとれ。アザゼルがいれば問題あるまい。この家で待機しておればいいぞい」
「ダメです! 行きます!」
そんなやり取りをする二人とは別に天魔はアザゼルに話しかけていた。
「あの店に連れて行ったら……わかってるだろうな?」
「何だよ急に? 行く予定はないが、行ったらどうなる?」
「お前の人工神器に関する資料をばらまく。とっておきのヤツをな」
「とっておき?」
天魔の言葉にアザゼルは胡乱な目を向ける。
「ああ、棚の後ろにある部屋への隠し扉―の二つ横の棚にあった二重底から開く地下室においてあった資料だ」
「おま、何故それを!?」
「こいつを……そうだな。ここ最近で関係を持つようになった勢力の幹部陣に」
「やめろよ? 冗談じゃ済まねえからな?」
真面目な表情の天魔にアザゼルが本気で止める。
普段はふてぶてしいアザゼルがここまで言う資料に一誠達は興味を惹かれたが、特に答えを得ることはできず、去っていく三人を見送るのだった。
オーディン来日の翌日。
護衛という名の観光の付き添いを終えた天魔達オカルト研究部の男子は訓練に精を出していた。
現在は一誠と天魔が模擬戦中であり、それを祐斗とギャスパーが見学していた。
禁手の鎧を着込んだ一誠に対し、天魔は肘と膝から先を覆っているだけであり、胴はジャージのままだった。
魔力を放出する轟音とともに一誠が天魔へと迫る。
その勢いの乗った一撃を天魔は完璧に見切り、腕を取って足を払い、一誠を背中から叩きつける。
一誠は凄まじい衝撃を受けるが、痛みに呻く間もなく地面を殴った反動で転がる。先程まで一誠の身体があった場所に天魔の足が振り下ろされ、容赦のなさに肝を冷やす。
体制悪くも立ち上がった一誠に今度は天魔から仕掛けていく。
一誠は防御も間に合わず両肩・腹を殴られ、鎧を破壊されながら後退する。続く右の回し蹴りを屈んで避けそのまま足払いを仕掛けるが、軸足を揺らすこともかなわなかった。
よく見ればつま先の鎧が変形し、地面に食い込んでいた。
耐えた分衝撃は大きく伝わったのか、今度は天魔が後退する。左足を気にした様子に好機とみた一誠が殴りかかるが、間合いに入った直後に天魔が消え、顎下からの衝撃で意識を飛ばす事になった。
「あっぶねぇ。無理に耐えたのは失敗だったな」
天魔が大きく息を吐きながら鎧を解除し、座り込む。
最後の攻防は一誠の拳を足を畳みながらバク転するように両手をついて躱し、そのまま身体を伸ばすようにして顎を蹴り上げたのである。
蹴りの際に感じた痛みから恐らく左足の骨にはヒビが入っており、これ以上の訓練は難しいと判断できた。
心配して駆け寄る二人に手を挙げて応えつつ、天魔は嬉しそうに笑っていた。
暫く時間を置き、一誠が目覚める。
一度完全に気絶したこともあり、これ以上の運動を止められた一誠が不満そうにするのを見て、祐斗は苦笑していた。
今は天魔がギャスパーに合気の型を教えており、動きが歪むたびに指示棒での指摘が入っていた。
「たまに二人の練習量についていけないときがあるよ」
「「覇龍」になって、俺はとんでもない力が解放されたかもしれない。でも、死んじまうから二度とあれは使えない。けどまた仲間が危険な目に遭うかもしれない。「覇龍」がダメだからって、俺自身が終わったわけじゃないんだ。違う方法でもっと強くなる。才能が無いなら努力で埋めりゃいいし、魔力が足りないなら体力で補えばいい。俺は諦めないよ。サイラオーグだって、そうやって次期当主の座を手に入れたっていうじゃねぇか。先駆者がいるんなら、俺はさらに頑張れるさ」
今彼らがいるのは兵藤家の地下ではなくグレモリー領の地下にある修行用のフィールドである。
外では全力が出せないためディオドラの件での活躍の褒美として頑丈で広大な空間が与えられていた。
専用の魔方陣で転移するこの空間は特殊な作りになっており、敵対勢力に気取られることはないとのことだった。
ゲームに参加している上級悪魔は似たような空間を持っており、実績を上げているグレモリー眷属とバアル眷属が特例として贈られていた。
「俺達、強くなってるよな?」
「勿論。近くに天魔くんがいるから実感は湧かないかもしれないけど、並の上級悪魔なら圧倒出来ると思うよ。でも、油断はいけない」
「ああ、俺とお前の能力は広く知られているから、対処されやすいんだよな?」
一誠の言葉に祐斗は頷く。
シトリー眷属とのレーティングゲームは冥界全土に放送されていたことで既にライバルとなる上級悪魔は対策の構築を進めている。
一誠は禁手前の対応力と力を増大したことが察知されてしまうところ。そして、
祐斗は防御力の低さと速度を維持できなくなると強みが薄れること。
ちなみに天魔との模擬戦ではグレモリー眷属は全敗である。
個人戦は言わずもがな、多対一でも勝てた試しはない。
一応有効打は増えているし、全員が揃っていればコカビエルのときのように制限を外しているが、禁手を使わせるまでには至っていない。
今ギャスパーに行っている合気の指導も後衛陣が奇襲を受けた際に少しでも抵抗出来るようにするためのものである。
「単騎でチーム相手の模擬戦している俺が言うのもなんだが、一強のチームだと先が知れるしな」
予定のセットを終えた天魔も口を挟む。
その背にはぐったりしたギャスパーが背負われていた。
「そうだね。特にイッセー君は将来部長のもとから離れて「王」になろうとしているんだから、気をつけたほうがいい」
「「王」を取られたらゲームオーバー、ね。ああ、よーくわかってますよ。俺も今のうちにチームバトルに慣れておくさ。サイラオーグさんみたいに「王」自らってのもいいかもしれないけどな」
「イッセー、この前型にはまってリタイヤしたの忘れたのか?」
「ぐっ、わーったよ、「王」になったら、いざというとき以外は自重するよ!」
痛いところを突かれ、一誠は頭をかきながら答える。
天魔はテキパキとギャスパーを寝かしながら続ける。
「それと、一個頭に留めとけ、ゲームにおいてチームメンバーを見捨てることは絶対に起こることだ」
「助けるなっていうのか?」
「助ける余裕があるなら別にいいが、ゲームではリタイヤがある。命の危険が少ない以上、眼の前の対処不能の事態を切って捨てて、次の行動を大事にする必要がある」
天魔の言葉に一誠は答えない。仲間を見捨てるという言葉が重くのしかかっていることを理解しつつ、話は続く。
「イッセーも祐斗も、お互いのことなら部長のために見捨てる選択肢も取れるだろう。だが、その覚悟を他の眷属にももたなければならない。仲間を見捨てないと覚えられれば、相手は地雷のように倒すことよりも重症を負わせることを優先し、それで負ければ評価は地に落ちることになる。仲間を犠牲にする覚悟はソーナ・シトリーが見せたはずだ。眷属を生かすために「王」がいるんじゃねえ。「王」を生かすために眷属がいるんだ。ことゲームにおいてはな。それは覚えておけ」
話を聞き、一誠が考え込んでいるとアザゼルが女性陣の作った差し入れを携えてきた。
ひとまずそれらを手に取り、何を悩んでいたのか天魔がアザゼルに共有していると一足先に食べ終えた一誠が深呼吸をして祐斗とギャスパーに目を合わせる。
「木場、ギャスパー。俺等もそろそろ覚悟を決めなきゃ行けないのかもしれないな」
「ゲームの際、目の前で倒れた眷属を捨てる覚悟だね?」
「ああ、俺達はレーティングゲームで部長を勝たせないといけない」
「は、はい! そ、その通りですぅ!」
「だから、部長の為に笑って倒れよう。ただし、倒れるときは全力出し切ってから、前のめりに倒れようぜ。敵に背中見せたら格好悪いからな。正々堂々、真っ正面からぶっ倒れよう」
一誠の言葉に二人も笑顔で頷き、いい空気が流れる。
その横でアザゼルは頬を掻いていた。
「カッコイイこと言ってるけどな、イッセー。お前は女を相手にするときどうにかならないものか……パイリンガルとドレス・ブレイクが有効なのはわかるが、それにばかり集中すると、そこを狙われるぞ。ていうか、弱点がわかりやすすぎだ。半裸の女がでてきたら、どうする?」
「眼福です!」
「駄目だ、こいつ。負けるって」
一誠の即答に天魔がげんこつを見舞い、アザゼルが肩を落とす。
「ギャスパー、今日はもう止めとくか?」
「い、いえ! お願いしますぅ!」
先程の空気が雲散霧消したことを切り替えるように天魔がギャスパーへ声をかけると、慌てたように立ち上がった。
食事直後に再開というわけにはいかないので落ち着かせていると、アザゼルがいやらしい表情で懐から人形を取り出した。
取り出したのはデフォルメされた乳龍帝とスイッチ姫の人形。
精巧にできているそれに天魔が感心していると、アザゼルは乳龍帝の人形の指でスイッチ姫の人形の胸を押す。
すると『イヤーン』と声が響いた。
アザゼル曰く、冥界のハンバーガーチェーン店とのコラボ商品のおもちゃらしく、お子様用のセットを注文するともらえるものらしい。
開発はアザゼルらしく、サーゼクスも画期的なおもちゃだと絶賛していたという。
笑うアザゼルと感動する一誠を尻目に、「三大勢力の会談前に話していた冥界にもハンバーガーチェーンをって話はもう実現していたんだな」と現実逃避していると、アザゼルは唐突に真面目な声で話しだした。
「朱乃のこと、お前にも頼んでいいか?」
突然のことにおもちゃから音声を鳴らして遊んでいた一誠の手が止まる。天魔も現実逃避をやめ話に耳を傾けていた。
「わかっていると思うが、朱乃はバラキエル―堕天使が嫌いだ。今回、バラキエルが来たことで俺の話も聞かなくなるだろう。アイツとまともに話せる男はお前ぐらいしかいない。何かあったら支えてやってくれ。お前なら安心だからな」
「そ、それはいいですけど……俺、朱乃さんの事情を詳しく知りませんよ?」
「聞きたいか? と言っても、俺から聞いたんじゃ、堕天使側の総督として堕天使を擁護するような話しぶりになっちまうな。天魔も役には立たんだろうし、朱乃から聞いても憎しみだけの話になるだろう。聞きたきゃ、サーゼクスかグレイフィアに訊け。二人なら客観的な目線で語ってくれるだろうさ」
そこまで聞いたところで天魔は立ち上がり少し離れた位置へ移動する。それに続いてギャスパーも移動し、ゆっくりとした型の練習が始まったのだった。
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