変態の双子の兄弟として   作:篠白 春夏秋冬

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Life.57 悪神推参

 オーディン来日から数日後。

 

 天魔達は空を駆けていた。

 

 中央に八本足の軍馬―スレイプニルの引く馬車を置き、天魔、祐斗、ゼノヴィア、イリナ、バラキエルが周囲を警戒している。残りのメンバーは馬車の内部にいる。

 

 高級寿司店、遊園地、キャバクラと様々な場所へ向かい、場所によっては護衛のはずの天魔達が外で待機という状況になっていたりもする。

 

 来日直後の護衛という言葉を舐めているのではという言葉が思い切りオーディンへ返ってきているのだが、それを知るものは突っ込める状況ではなかった。

 

 朱乃を端に発する一連の空気は察しているのか、全員が無言で移動していると、唐突に天魔が禁手の鎧を纏いつつ周囲を制した。

 

「止まれ!」

 

 天魔の声に応じるようにスレイプニルが止まり、嘶き声を上げる。

 

 正面には黒を基調としたローブを来た男性が浮遊しており、全員が注目したことを確認してマントを広げ口の端を吊り上げると高らかに話し始める。

 

「はっじめまして、諸君! 我こそは北欧の悪神! ロキだ!」

 

 名乗りを上げたロキの前にアザゼルが進み出る。

 

「これはロキ殿。こんなところで奇遇ですな。何か用ですかな? この馬車には北欧の主神オーディン様が乗られている。それを周知の上での行動だろうか?」

 

「いやなに、我らが主神殿が、我らが神話体系を抜け出て、我ら以外の神話体系に接触していくのが耐え難い苦痛でね。我慢できずに邪魔をしにきたのだ」

 

「堂々と言ってくれるじゃねぇか、ロキ」

 

 最初のアザゼルは問いかけこそ冷静なものだったが、悪意に塗れたロキの言葉に口調が変わる。

 

 その変化をロキは楽しむように笑った。

 

「ふはははは、これは堕天使の総督殿。本来、貴殿や悪魔達と会いたくはなかったのだが、致し方あるまい。オーディン共々我が粛清を受けるがいい」

 

「お前が他の神話体系に接触するのはいいってのか? 矛盾しているな」

 

「他の神話体系を滅ぼすのならば良いのだ。和平をするのが納得できないのだよ。我々の領域に土足で踏み込み、そこへ聖書を広げたのがそちらの神話なのだから」

 

「……それを俺に言われてもな。その辺はミカエルか、死んだ聖書の神に行ってくれ」

 

「どちらにしても主神オーディン自らが極東の神々と和議をするのが問題だ。これでは我らが迎えるべき「神々の黄昏(ラグナロク)」が成就できないではないか。ユグドラシルの情報と交換条件で得たいものは何なのだ」

 

 アザゼルは指を突き付けて訊いた。

 

「ひとつ訊く! お前のこの行動は「禍の団」と繋がっているのか? って、それを律義に答える悪心様でもないか」

 

 ロキは面白くなさそうに返す。

 

「愚者たるテロリストと我が想いを一緒にされるとは不快極まりない所だ。己の意志でここに参上している。そこにオーフィスの意志はない」

 

「……「禍の団」じゃねぇのか。だが、これはこれでまた厄介な問題だ。なるほど、爺さん。これが北が抱える問題か」

 

「ふむ。どうにもの、頭の固いものがまだいるのが現状じゃ。こういう風に自ら出向く阿呆まで登場するのでな」

 

「ロキ様! これは越権行為です! 主神に牙をむくなどと! 許されることではありません! しかるべき公正な場で異を唱えるべきです!」

 

 振り返るアザゼルにオーディンはひげを撫でながら返し、ロスヴァイセはロキに物申していた。

 

 しかし、ロキは聞く耳を持たない。

 

「一介の戦乙女ごときが我が邪魔をしないでくれたまえ。オーディンに訊いているのだ。まだこのような北欧神話を超えた行いを続けるおつもりなのか?」

 

「そうじゃよ。少なくともお主よりもサーゼクスやアザゼルと話していたほうが万倍も楽しいわい。日本の神道を知りたくての。あちらもこちらのユグドラシルに興味をもっていたようでな。和議を果たしたらお互い大使を招いて、異文化交流しようとおもっただけじゃよ」

 

 オーディンの返答を聞き、ロキは苦笑する。

 

「認識した。なんと愚かなことか。ここで黄昏をおこなおうではないか」

 

 直後、何人かの動きが止まる。

 

 ロキの敵意を受け、萎縮したのだ。

 

「それは、抗戦の宣言と受け取っていいんだな?」

 

「いかようにも」

 

 アザゼルの確認に不敵に笑んでいたロキへと波動が襲いかかった。

 

 放ったのはゼノヴィアであり、すでに抜かれているデュランダルからは大質量のオーラが立ち上っていた。

 

「先手必勝だと思ったのだが……どうやら効かないようだ。流石は北欧の神か」

 

「聖剣か。いい威力だが、神を相手にするにはまだまだ。そよ風に等しい」

 

 ロキの言うようにまったくの無傷だった。

 

 祐斗とイリナもそれぞれの獲物を取り出すが、ロキは哄笑する。

 

「ふははっ! 無駄だ! これでも神なんでね、たかが悪魔や天使の攻撃ではな」

 

 そう言いながらゆっくりとロキが左手を前に突き出す。

 

 そこに集まる得体のしれないプレッシャーに危機感を覚えた一誠が禁手を終えながら飛び出した。

 

 一気に距離を詰めた一誠の拳はロキに軽やかに躱されて空を切る。片頬を上げるロキだったが、左側から天魔の追撃が突き刺さった。

 

「クソっ! 触れそこねた!」

 

 ロキの右手には障壁があり、拳が届くことはなかった。

 

 舌打ちをする天魔に対し、ロキは嗤う。

 

「はははははっ、能力の如何がわかっているのにわざわざ触れる馬鹿はいない。なかなかいいコンビネーションだが、神を相手にするにはまだ早い!」

 

 ロキの左手に光り輝く粒子が集まっていく。

 

 その圧力に一誠は倍加を重ね、全力の一撃で応じる。

 

 結果はほぼ相殺。轟音と爆音が周囲に広がり、僅かに貫通した一誠のドラゴンショットがロキの手から赤い煙を立ち上らせていた。

 

 自身の手を確認し、ロキは改めて嗤う。

 

「……特別手を抜いたわけではないのだがな。これはまた面白い限りだ。うれしくなるぞ。とりあえず、笑っておこう。ふははははっ!」

 

 護衛対象も外に出ているためリアス達も外に出て臨戦態勢となる。それを見てロキは顎に手を置くと目を細めた。

 

「紅い髪。グレモリー家……だったか? 現魔王の血筋だったな。堕天使幹部が二人、天使が一匹、悪魔が沢山、二天龍も付属。オーディン、ただの護衛にしては厳重だ」

 

「お主のような大馬鹿がきたんじゃ。結果的には正解だったわい」

 

 オーディンの言葉にロキは何度か頷くと不敵な笑みを一層深めた。

 

「よろしい。ならば呼ぼう。出てこいッ! 我が愛しき息子よッ!」

 

 ロキの叫びに一拍空け、宙に歪みが生じる。

 

 そこから姿を現したのは灰色の狼だった。

 

 十メートルに迫る体長の狼を前にグレモリー眷属の動きが目に見えて硬直する。

 

 近くにいる一誠をかばうような位置取りをしつつ、天魔が警戒を促した。

 

神喰狼(フェンリル)―神を喰らう狼。神話にてオーディンを殺すもの。アイツの牙は神を死に至らしめる劇毒だ。それ以外でも脅威であることには違いない」

 

「詳しいな、白龍皇。その通り、こいつは我が開発した魔物の中でもトップクラスに最悪の部類だ。なにせ、こいつの牙はどの神でも殺せる代物なのでね。試したことはないが、他の神話体系の神仏でも有効だろう。上級悪魔でも伝説のドラゴンでも余裕で致命傷を与えられる」

 

 説明を終え、ロキは指をリアスへと向けて話し始める。

 

「本来、北欧の者以外に我がフェンリルの牙を使いたくはないのだが……まあ、この子に北欧以外の血を覚えさせるのも良い経験となるかもしれない。現魔王の血筋。その血を舐めるのもフェンリルの糧となるだろう―やれ」

 

 ロキの命令に応じ、フェンリルが吠える。

 

 天魔をして一瞬硬直するほどの威圧感と聞き惚れるような魅力を孕んだ美声を響かせ、フェンリルの巨体が消える。

 

「触るんじゃねぇぇぇぇぇぇぇッ!」

 

 一誠が追いつき、フェンリルを殴り飛ばした。

 

「ぶ、部長! 大丈夫ですか? ケガは?」

 

「い、いえ、大丈夫よ。あなたが助けてくれたから」

 

 反応する間もなく庇われたリアスだけでなく行動した一誠本人も驚いていたが、天魔は感心するより先に舌打ちしていた。

 

「ごぶっ」

 

 唐突に一誠が吐血する。様子を見ると一誠の鎧の腹部には大穴が開いており、フェンリルの左前足の爪が血に濡れていた。

 

 自身の怪我の原因と大きさを認識し、再び吐血する。

 

 よろめく一誠を祐斗が支え、天魔が再び前にたった。

 

「祐斗、アーシアのところまでイッセーを頼む。もう抜かせねえ!」

 

「出来るのか? 先程はあっさりと置いていかれたようだが」

 

 ロキの挑発に歯噛みしつつも天魔はフェンリルから目を逸らさずオーラを巡らせる。発現した深緑の光に天魔の圧が増していった。

 

 その光景に笑いながらロキが指示をだそうとするが、それはアザゼルとバラキエルの攻撃に遮られた。

 

「フェンリルを使わずとも、堕天使二人程度では我の相手は無理だ」

 

 堕天使幹部二人の攻撃も魔方陣に防がれ、続くロスヴァイセの攻撃も追加の魔方陣が防御しきる。

 

「では、次はこちらの手番だな」

 

 そう言ってロキが手を肩の高さへと上げるのに合わせ、フェンリルの殺気も高まっていく。

 

 それに合わせるようにオーラを高める天魔の後ろから白銀の砲撃がフェンリルへ突き刺さった。

 

「随分と重傷だね、赤龍帝」

 

「来たのか、ヴァーリ」

 

「オーフィスの世話は彼にまかせてきた。まあ、不満たらたらって感じだけどね」

 

 天魔に並んだのはヴァーリ。先程の砲撃も彼女によるものなのか白銀の残滓が身体から散っていた。

 

「何だ? お前は」

 

「お初にお目にかかります、トリックスター。私はヴァーリ・ルシファー。貴殿を屠りに参りました」

 

 乱入者を訝しむロキに自己紹介をしつつヴァーリは恭しく礼をする。

 

 突然の宣戦布告にロキは笑みを深めるとフェンリルを戻した。

 

「面白い、今日のところは一旦引き下がろう! だが、この国の神々との会談の日! またお邪魔しよう! オーディン! 次こそ我と我が子フェンリルが、主神の喉笛を噛み切ってみせよう!」

 

 そう言ってロキがみを翻すと空間が大きく歪み、ロキとフェンリルが姿を消す。それと同時に一誠も意識を失い、戦闘は終結した。

 

 

 

 一誠を馬車内に移し、治療にアーシアと小猫を任せて主要なメンバーで話を始める。

 

「それで、お前らが来たのは天魔の差し金ってことでいいのか?」

 

「当たらずとも遠からずってところかな。私の事情だが、あれがほしいのさ」

 

「そうか……なら共同戦線といけそうだな」

 

 事情を読み取ったのかアザゼルが納得したことで、詳細はわからないながらも受け入れる方針になる。

 

 そこに治療を終えた一誠が合流した。

 

「イッセー! 傷はもういの?」

 

「はい、部長。もう大丈夫です」

 

 心配するリアスに答え、ヴァーリ達に視線を向ける。

 

 黒歌と美猴が騒いでおり、金髪の少女が呆れ気味に嘆息していた。どうにも黒歌が一人だけ先に足抜けして兵藤家に住んでいるのが気に入らないらしい。

 

 放っておけばいつまでも続きそうな低レベルな口喧嘩に移行し始めた当たりで天魔が止め、一度帰宅して全体で相談することとなった。

 

 

 

 ロキの迎撃以外にも会談の場の守りも必要であるためシトリー眷属も呼ばれ、全員が集まれる地下一階の大広間へと集まった。

 

 各勢力の上層部にも状況は伝わっているが英雄派からのテロが断続的に続いているため追加の人員はなく、この場にいる者だけでロキ及びフェンリルを相手にする必要がある。

 

 目下の問題はフェンリル。

 

 生みの親であるロキを凌ぐ能力を持ち、封印前の二天龍にも匹敵するとされる正真正銘の怪物。

 

 無論、今の天魔と一誠で勝てる相手でない。

 

 「覇龍」であれば可能性はあるが、一誠は使えば死が待っており、天魔もロキを相手にするどころではない。

 

 また、二人を欠いた状態でロキを相手にすれば犠牲者が出ることは避けられない。ただ、一応の対抗策があるとのことで作戦会議となっていた。

 

 現在はロキとフェンリルに詳しいという五大龍王の一体「終末の大龍(スリーピングドラゴン)」ミドガルズオルムの意識を呼び出すためタンニーンとの連絡待ちである。

 

 アザゼルとバラキエルが対策について話すため退席したことで、一旦初顔合わせの面々の紹介をすることになった。

 

 主に紹介は全員と面識のある天魔である。

 

「まずはこっちからいくか。「逸れ者」筆頭のヴァーリ・ルシファー。今は「禍の団」でオーフィスの話し相手だな」

 

「お姫様が爆発しないかヒヤヒヤだけどね」

 

 グレモリーとシトリーの眷属は会談で目にしており、イリナも最近会ったばかりなのでさらりと流す。

 

「次にそっちの黒髪が美猴だ。闘戦勝仏の末裔で、主にヴァーリの補助。オーフィスが抜け出したときに変化で誤魔化したりとかな」

 

「時々天魔に化けてオーフィスを抑えたりとかね」

 

 紹介に合わせ、美猴は深いため息を吐く。

 

 天魔が次元の狭間に飛ばされたときも一人で時間稼ぎをしていたいたのだ。事前に知らされていればともかく突然重大な役を負わされればストレスも溜まるというものである。

 

 誰が悪いかと言われれば唐突に飛び出したオーフィスが悪いのだが、天魔は苦笑すると手を広げ、美猴がそこに飛び込む。

 

 グリグリと頭を押し付ける美猴に苦労を偲びつつ、天魔は視線を立ったままの金髪の少女へと移した。

 

「こっちがアルトリア・ペンドラゴン。聖剣持ちの元英雄派で現在家出中。バトルジャンキーの気があって、組織的な縛りがゆるくて自由に動ける「逸れ者」に合流した次第だ」

 

 聞いた途端に悪魔陣営の全員が音を立てて立ち上がる。

 

 弱点となる聖剣持ちな上、ここ最近戦ってばかりの英雄派など信用することなどできないからだ。

 

 何人かが獲物を手に警戒する様子にアルトリアはため息を吐くと一振りの聖剣を取り出した。

 

「戦うというのなら受けて立ちますが、ここで戦力が減ればロキとの戦いが厳しくなるだけですよ? それでも剣を向けますか?」

 

 隙のない構えと放たれるオーラに緊張が高まっていく。

 

 何かあれば戦闘に発展しかねない空気を止めたのは天魔だった。

 

「アル」

 

 その言葉にアルトリアは剣を収め、気を静める。そして、未だに天魔にしがみつく美猴を引き剥がして座らせると元の位置に戻った。

 

 天魔に従う様子に信用とはいかなくとも折り合いをつけ、ひとまず一触即発の自体からは脱した。

 

 一旦落ち着いたのでグレモリー、シトリーの両眷属とイリナを紹介し、目的を終える。

 

 共に戦う以上親睦を深めるべきなのだが、空気は重苦しいままだった。

 

 その中心となっている自覚のあるアルトリアは再びため息を吐く。

 

「私のことは誤魔化しておく方がよかったのでは?」

 

「戦闘中にロキから明かされて疑心暗鬼に陥るよりはましだ。というか、イリナは立たなかったよな」

 

「まあ、私は天魔君の奇行になれてるし。昔から天魔君は知らない人と友だちになるの上手かったものね」

 

「友だちって……いや、上手かったけどさ」

 

 イリナの言葉に気が抜けた一誠を筆頭に警戒が解け始め、空気が弛緩したのを契機に黒歌と美猴は再び喧嘩を始めるのだった。




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