変態の双子の兄弟として   作:篠白 春夏秋冬

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しばらく投稿できずに申し訳ありませんでした。

どうにも次回の呪文が決まらず投稿の踏ん切りが突きませんでした。


Life.58 天魔の罪科

 アザゼルが戻り、天魔と一誠、匙がミドガルズオルムを呼び出すための空間に移動する。

 

 その先にはタンニーンが待っており、顔見知りを見つけた一誠が駆け寄る。

 

「先日以来だな、お前達」

 

「タンニーンのおっさん!」

 

「……そちらがヴリトラか」

 

「ド、ド、ドラゴン……龍王! 最上級悪魔の……!」

 

 視線を向けられた匙は緊張と尊敬で震えていた。

 

 匙がここにいるのは黒い龍脈が成長したことで増加したヴリトラのオーラをミドガルズオルム召喚に活用するためである。

 

「緊張すんなよ。おっさんは強面だけど、いいドラゴンなんだ」

 

「バ、バカ! 最上級悪魔のタンニーンさまだぞ! お、お、おっさんだなんて! 最上級悪魔ってのは、冥界でも選ばれた者しかなれない。もっと言えば、レーティングゲームの現トップ10内のランカーが全員最上級悪魔だ。冥界での貢献度、ゲームでの成績、能力、それら全て最高ランクの評価をしてもらって初めて得られる、悪魔にとって最上級悪魔の位なんだよ」

 

「でも、天魔は最初っから最上級悪魔だしなあ」

 

「例外中の例外を持ってくるな!」

 

 匙の熱弁に一誠が頭を掻く。

 

 当の天魔が苦笑する横でアザゼルは魔方陣を描き始めていた。

 

「しかし、あやつ、来るのだろうか。俺も二、三度程度しか会ったことがない」

 

「二天龍がいれば否でも応でも反応してくるだろうさ」

 

「気難しいドラゴンなの?」

 

 タンニーンのつぶやきにアザゼルが答える。

 

 一誠の問いにタンニーンが目を細めながら答えた。

 

「あやつは基本的に動かん。世界の終末に動き出すものの一匹だからな。使命が来るときまで眠りについているのだ。たまに地上へ上がってきていたが、そのときですら寝ていた。数百年前、ついに世界の終わりまで深海で過ごすと宣言していたからな」

 

「それで意識を呼び出すとかいう話になるのか」

 

 タンニーンの説明に天魔が納得した様子で頷く。

 

 そうこうしている間に魔方陣も出来上がり、それぞれが指定された場所に立つ。

 

 アザゼルが魔方陣を操作すると天魔の下が白く、一誠の下が赤く光り始める。同様にアザゼルの下が金に、匙の下が黒く、タンニーンの下が紫に光る。

 

 魔方陣が発動するが、特に何も起こらず数分が経過したころ、徐々に立体映像が投影され始める。

 

 広がっていく立体映像の規模に初めて目にする者達が驚く中、広大な空間を埋め尽くすほどの巨大な映像が出来上がった。

 

 蛇のような身体の細長いドラゴンはとぐろを巻いており、その頭部も体長に比例するように大きい。

 

 タンニーン曰くグレートレッドの五、六倍はあるとのことで、全長は五、六百メートルはあるようだ。

 

 その巨大な影を見上げる天魔達の耳に特大のいびきが響く。

 

「案の定、寝ているな。おい、起きろ、ミドガルズオルム」

 

『……懐かしい龍の波動だなぁ。ふあああああああああっ……』

 

 タンニーンの声に反応してミドガルズオルムはあくびをする。そのままゆっくりと全員を見回してゆったりとした口調で話し始める。

 

『おぉ、タンニーンじゃないかぁ。久しぶりだねぇ。……ドライグとアルビオンまでいる。……ファーブニルと……ヴリトラも……? なんだろう、世界の終末なのかい?』

 

「いや、違う。今日はお前に訊きたい事があってこの場に意識のみを呼び寄せた」

 

 タンニーンが話す間にミドガルズオルムは眠り始め、タンニーンは怒り始める。

 

「寝るな! まったく、お前と玉龍(ウーロン)だけは怠け癖がついていて敵わん!」

 

『……タンニーンはいつも怒ってるなぁ……それで僕に訊きたいことってなんなのぉ?』

 

「おまえの兄弟と父について訊きたい」

 

 タンニーンの言葉に一誠が不思議そうにする。

 

 ミドガルズオルムはロキが作り出したドラゴンであり、強大な力を持っていながら巨体と怠け癖から北欧の神々も使い道が見いだせず、海で眠るように促したらしい。

 

『ダディとワンワンの事かぁ。いいよぉ。どうせ、ダディもワンワンも僕にとってはどうでもいい存在だし……あ、でも、タンニーン。一つだけ聞かせてよぉ』

 

「なんだ?」

 

『ドライグとアルビオンの戦いはやらないのぉ?』

 

 そう言ってミドガルズオルムは天魔と一誠を交互に眺める。

 

「ああ、やらん。今回の宿主は兄弟でな。当分は戦わんだろう」

 

『へぇ、そういうこともあるんだ。面白いねぇ……二人が戦いもせずに並んでいるから不思議だったよぉ』

 

 そう言って笑うミドガルズオルムは改めて質問に答え始めた。

 

 フェンリルは神話の通りドワーフの作った魔法の鎖―グレイプニルで捕らえられるらしい。だが、すでに対策でもされているのか北欧では効果がでず、その解決のためにミドガルズオルムの意識を呼び出している。

 

 それを聞き、ミドガルズオルムはダークエルフの一族をあげた。長老がドワーフの加工品を強化する術を知っているらしく、その場所が神器経由で天魔へと伝えられた。

 

 ロキにはミョルニルでも打ち込めとのことで、持ち主のトールからどう借りるかと話していると、先に上げたダークエルフとドワーフがミョルニルのレプリカをオーディンから預かっているとのことで、それを借り受けることになった。

 

「物知りで助かるよ、ミドガルズオルム」

 

『いやいや。たまにはこういうおしゃべりも楽しいよ。さーて、そろそろいいかな。僕はまた寝るよ。ふあああああっ』

 

 アザゼルの苦笑混じりの礼にミドガルズオルムはあくび混じりに返すと映像がぶれ始める。

 

「ああ、すまんな」

 

『いいさ。また何かあったら起こして』

 

 タンニーンの礼にそれだけ言い残して映像が切れる。

 

 ミドガルズオルムからの情報を得て、対策が進んでいくのだった。

 

 

 

 翌日の朝。

 

 全員で再び大広間に集まっていた。

 

 皆使い魔を代わりに出席させる等偽装を施して休んでおり、日々の学園生活を楽しみにしている面々は残念がっていた。

 

 ソーナはそういった面々の中でも更に落ち着かないようだった。

 

「会長、何かあったんですか?」

 

「どうにも不安でして」

 

「大丈夫ですよ。北欧勢の協力もあって対策もできてますし、誰も欠けずにできますって」

 

 天魔は安心させるように微笑みながら声をかけるが、ソーナは気まずそうに苦笑する。

 

「ああ、いえ、そうではなく……学園が心配で」

 

「それこそ無問題ですよ。会長の使い魔は優秀ですから。何が起きても対処できますよ」

 

「そうでしょうか……」

 

「そうですって。後にひきずりそうなら俺も手伝いますよ」

 

「では、その時は存分に働いてもらいましょうか」

 

「ええ、任せて下さい」

 

 和やかに話していると衝撃で部屋全体が大きく揺れる。

 

 見れば一誠が頭の巨大なハンマーを前に悪戦苦闘しており、必死に持ち上げようとしているが全く持ち上がる気配がなかった。

 

 ハンマーの正体はミョルニルのレプリカであり、今回は一誠に貸与される。本物には及ばない部分を赤龍帝の籠手で補う予定だ。

 

「天魔、お前もオーディンの爺さんにねだってみたらどうだ? 今なら特別に何かくれるかもしれない」

 

「今は要らない。慣れない装備は失敗を生むかもしれないからな。後からなにかもらう約束を取り付けられるのならそれに越したことはないが」

 

 天魔の言葉にアザゼルは肩をすくめると咳払いをして全員の注目を集め作戦の説明を始める。

 

 まずは会談の会場でロキ達が来るのを待ち、シトリー眷属の力で戦うメンバー全員を一気に転送する。

 

 転送先は採石場跡地のため周囲に影響はでない。

 

 ロキの相手は天魔と一誠。

 

 フェンリルは残りのメンバーでグレイプニルを使って捕縛後、撃破。

 

 天魔が神相手に戦うことにプレッシャーを感じる一誠をどう和ませるか考えているとアザゼルは匙へと歩み寄る。

 

「さーて、鎖の方もダークエルフの長老に任せているから、完成を持つとして、後は……匙」

 

「なんですか、アザゼル先生」

 

「おまえも作戦で重要だ。ヴリトラの神器あるしな」

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! お、俺、兵藤や天魔みたいな馬鹿げた力なんてないっスよ!? とてもじゃないけど、神さまやフェンリル相手に戦うのは! て、てっきり会長達と一緒に皆を転移させるだけだと思ってましたよ!」

 

 アザゼルの言葉に匙は激しく狼狽する。

 

 地獄の夏を経てある程度自信はついたとはいえ、神やそれを凌ぐような怪物を相手にしろと言われればこうもなるだろう。

 

 それを理解しているのかアザゼルも嘆息して続ける。

 

「わかってるよ。お前に前線で戦えとは言わない。だが、ヴリトラの力で味方のサポートをしてもらう。特に最前線で戦うイッセーと天魔のサポートにおまえが必要なんだよ」

 

「サ、サポート」

 

「そのためにはちょっとばかしトレーニングが必要だな。試したいこともある。ソーナ、こいつを少しの間、借りるぞ」

 

「よろしいですが、どちらへ?」

 

「転移魔方陣で冥界の堕天使領―グリゴリの研究施設まで連れて行く」

 

 ソーナに確認を取ったアザゼルの表情は楽しげな笑顔だった。

 

 その笑顔に匙の行く末を想起した一誠は匙の肩を叩いて憐憫の眼差しを送る。

 

「匙、先生のしごきは地獄だぞ。俺も冥界で死にかけたし。しかも研究施設だ。おまえ、死んだな」

 

「元士郎を死なすなよ、アザゼル」

 

「はっはっはー。その時はその時だ。いくぞ匙」

 

「マジかよ!? た、助けてぇぇぇぇぇっ! 兵藤ぉぉぉぉっ! 会長ぉぉぉぉっ!」

 

 天魔の言葉を否定しなかったアザゼルに匙はぎょっとした顔をするが、抵抗虚しく引きずられていく。天魔に助けを求めなかったのは修行に関しては非情な性格だと理解しているためだろう。

 

 泣き叫ぶ匙を天魔は敬礼で見送り、準備へと戻るのだった。

 

 

 

 研究所へ匙を任せて戻ったアザゼルとともに天魔が作業をしていると、一誠が入ってきた。

 

 グレイフィアとリアスから朱乃のことを聞いたらしい。

 

 朱乃の母―朱璃が巫女を務めていた寺の近くに重傷を負ったバラキエルが飛来し、彼を看病したことで親しくなり朱乃が生まれたこと。

 

 三人で暮らす様子を見た朱璃の親族がバラキエルによる洗脳を疑い、朱璃を奪還する為に高位の術者をけしかけたこと。

 

 それを退けたバラキエルに恨みを持った術者によって三人の居所が堕天使に敵対する者達へ伝えられたこと。

 

 襲撃を受けた日はバラキエルがおらず、朱璃が必死に庇ったことで朱乃は助かったものの、朱璃は間に合わなかったこと。

 

 その時に朱乃が堕天使の幹部(バラキエル)がそれだけ他勢力から恨みを向けられているかを語られたこと。

 

 母を殺され、その事実を突きつけられ、バラキエルに心を閉ざしたこと。

 

 それから数年後、堕天使とのハーフである朱乃は住む家を追われ、天涯孤独の身で各地を放浪する中でリアスと出会ったこと。

 

 それらを聞いたことを報告され、アザゼルは作業を止めずに語り始める。

 

「……俺が全部悪いのさ」

 

「一人の責任ってわけじゃないだろ。あれは、俺が悪かったんだ」

 

「そういえば、前にも言ってたな。どういうことなんだ?」

 

 一誠の疑問に天魔の手が止まる。

 

 ため息をついたアザゼルが話し始めた。

 

「あの日、バラキエルを招集したのは俺だ。どうしても奴じゃないとこなせない仕事だった。だから、無理を言って呼び寄せたんだよ」

 

「その少し前に襲撃があったばかりだから、護衛ってわけじゃないが、戦える人員をつけることにはなっていた。それに立候補したのが……俺だ」

 

 アザゼルの言葉を継いだ天魔が拳を強く握る。

 

 悔恨に満ちた表情の天魔は大きく呼吸をして言葉を紡ぐ。

 

「あの時は白龍皇の光翼(ディバイン・ディバインディング)を扱えるようになってきていて調子に乗ってたんだ。神滅具(ロンギヌス)っていう特別な才能があって、身体能力も同年代とは比べ物にならないほど高い。幼児的な万能感に取り憑かれたことに気づかないまま、女の子を守る騎士様っていう幻想に酔って姫島先輩の警護を買って出た。結果は惨敗。ボロボロにされて、標的じゃないからと放置され、朱璃さんは殺された。その上、バラキエルは姫島先輩を追うこともできず俺を治療施設に送るために戻ってきた。あの二人の確執を深めたのは間違いなく俺なのさ」

 

 暗い表情で自嘲する天魔に一誠は何も言えなくなっていた。

 

 それでも何か言うべきかと考えを巡らせていると、ドアが開きヴァーリが顔をのぞかせた。

 

「天魔、少しいいかい?」

 

「……どうした?」

 

「皆こっちにいるせいでオーフィスの限界値が下がりきってるみたいで、秘匿通信で繋いできてしまっているんだ。一旦顔を出してくれないかな?」

 

「わかった、すぐ行こう」

 

 天魔は頬を軽く叩いて表情を切り替えると部屋を後にする。

 

 一誠はその背中に声をかけようとして、形にならないそれを飲み込んだ。

 

「先生、天魔の言ってたことですけど」

 

「バラキエルも俺もアイツのことを責めたことはないんだがな……ただ、自分からいい出して取り返しのつかない結果になったことが許せないのさ。ある種のトラウマになっているってのもあるんだろう。他にはある程度の合理性を優先出来るようになったが、朱乃に関しては抵抗があるようだからな。まあ、その辺はバラキエルと朱乃の関係性次第だな」

 

 そう言って作業を終え、アザゼルも席を立つ。

 

 残された一誠は考え込むように座り込むのだった。




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