変態の双子の兄弟として   作:篠白 春夏秋冬

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Life.59 力の発展型

「そろそろ時間だな」

 

「そういえば元ちゃんは?」

 

「遅れてくるらしいぞ。流石に終わった後でくるってことはないと思うが」

 

「ええ……」

 

 時間はすでに夜。

 

 天魔達はオーディンと日本の神々が会談する予定の構想ホテルの屋上で待機していた。

 

 転移を担当するシトリー眷属はロキが正面から来なかった場合に備えて周囲に散っており、天魔が話していた桃は一誠達からはそこそこ離れていた。

 

 時計が会談開始の時刻を指した直後、空間が歪み始める。

 

「時間ちょうどに正面突破。剛毅なことだな」

 

 ロキとフェンリルが姿を現したのを確認し、ホテル一体を包む巨大な結界魔方陣が展開される。

 

 ロキは転移の光りに包まれながらも不敵に笑むだけで抵抗せず、戦闘班の全員が採石場跡地へと転移する。

 

「逃げないのね」

 

 リアスが皮肉気に言うと、ロキは笑う。

 

「逃げる必要はない。どうせ抵抗してくるのだろうから、ここで始末してその上であのホテルに戻ればいいだけだ。遅いか早いかの違いでしかない。会談をしてもしなくてもオーディンには退場していただく」

 

「貴殿は危険な考えにとらわれているな」

 

 バラキエルの言葉にもロキは不遜に返すだけだった。

 

「危険な考え方を持ったのはそちらが先だ。各神話の協力などと……元を言えば、聖書にしるされている三大勢力が手を取り合ったことから、全てが歪みだしたのだ」

 

「話し合いは不毛か」

 

 バラキエルが手元に雷光をまとわせると同時に十枚の翼を広げる。

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!!』

 

 赤い閃光と共に一誠の体を紅の鎧が身を包む。

 

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!!!!!』

 

 天魔も右手を顔の正面に、左手を右肘に添えると両腕を引き、禁手を完了した。

 

「やはり素晴らしい! 二天龍がこのロキを倒すべく共同するというのは! こんなに胸が高鳴ることはないぞッ!」

 

「言ってろ」

 

 天魔は短く言い返すと一気に上空へ陣取り、軌道を読ませないよう高速で動き回りながら仕掛ける。

 

 一方地上の一誠は全開で直線的に突っ込んでいった。

 

「赤と白の競演ッ! こんな戦いが出来るのはおそらく我が初めてだろうッ!」

 

 嬉々としたロキが全身を覆うように魔方陣を展開すると、そこから光弾がいくつも放たれていく。回避する天魔を曲線的な軌道で追いかけるのを見て一誠が突貫し、最大限加速して右拳を振るう。

 

 大きな破砕音とともに魔方陣が砕け散ると同時に天魔の魔術がロキへと掃射された。

 

 採石場の三分の一程を覆い尽くす攻撃に、そこの見えない大きな穴が生じる。

 

 あまりの攻撃の規模に一誠は瞠目していたが、天魔は別の方向を睨んでいた。

 

「北欧の術式なら多少は効果があると踏んだんだがな」

 

「ふはははは! しっかりと効果はあったさ。いまのは少しひやりとしたぞ」

 

 高笑いするロキに一誠はミョルニルを突きつける。

 

 それを見て、ロキは目元をひくつかせた。

 

「……ミョルニルか。レプリカか? それにしても危険なものを手にしている。オーディンめ、それほどまでに会談を成功させたいか……ッ!」

 

 目の前の一誠ではなくオーディンへと毒づくロキだったが、ミョルニルを振り上げて迫る一誠を大きく回避する。

 

 ミョルニルから生まれる雷を警戒しての回避だったが、レプリカからは静電気すら生まれなかった。

 

 聞いていた効果とは違う現実に、その場で何度もミョルニルを振る一誠にロキが笑う。

 

「ふははは。残念だ。その槌は、力強く、そして純粋な心の持ち主にしか扱えない。貴殿には邪な心があるのだろう。だから、雷が生まれないのだ。本来ならば、重さすら無く、羽のように軽いと聞くぞ?」

 

 その言葉に一誠が歯噛みしながら手元のミョルニルを見る。本人も含め、邪な心という部分に心当たりがありすぎた。

 

「そろそろこちらも本格的な攻撃に移ろうかッ!」

 

 ロキが指を鳴らすと、これまで大人しくしていたフェンリルが前に出る。

 

「神を殺す牙。それを持つ我が僕フェンリル! 一度でも噛まれればたちまち滅びをもたらすぞ! おまえたちがこの獣に勝てるというのならばかかってくるがいい!」

 

 動き出そうとするフェンリルを前にリアスが合図を送ると、黒歌がフェンリルの周囲に展開した魔方陣からグレイプニルが出現する。

 

 それらをタンニーンやバラキエル達がフェンリルへと投げつけるのを見て、ロキが哄笑する。

 

「ふはははははっ! 無駄だ! グレイプニルの対策など、とうの昔に済ませている!」

 

 ロキの哄笑を遮るように激しく魔術の光が明滅し、グレイプニルがフェンリルへと巻き付いていく。

 

 苦しそうな声を上げるのを確認し、バラキエルが口を開く。

 

「フェンリル、捕縛完了だ」

 

 その報告に天魔達の空気がやや弛緩する。

 

 一方でフェンリルを封じられたはずのロキは焦ることもなく不敵に笑っていた。

 

「スペックは落ちるが」

 

 そう言うとロキが両腕を広げ、その先の空間が歪み始める。そこから現れたのは二匹の狼だった。

 

「スコルッ! ハティッ!」

 

 フェンリルと比べるとやや小さいがそれでもかなりの圧力を放つ二匹がロキの声に呼応して吠える。

 

「ヤルンヴィドに住まう巨人族の女を狼に変えて、フェンリルと交わらせた。その結果生まれたのがこの二匹だ。親よりも多少スペックは劣るが、牙は健在だ。十分に神、そして貴殿らを葬れるだろう」

 

 ロキの説明に全員が驚く。

 

 驚愕を楽しそうにするとロキは二匹の狼へ指示を出した。

 

「さあ、スコルとハティよ! 父を捕らえたのはあの者たちだ! その牙と爪で食らい千切るがいいっ!」

 

 風を切る音とともにスコルがヴァーリ達へ、ハティがグレモリー眷属へと迫る。

 

 迎撃にタンニーンが炎を見舞うが、二匹とも怯むこと無く動き回っていた。

 

「イッセー!」

 

 天魔の声に一誠が視線をロキへと戻すと、ちょうど魔方陣が攻撃を受け止めたところだった。

 

「あっちはあっちに任せろ! 俺達の相手はこいつだ!」

 

「悪い!」

 

 天魔の言葉に短く返し、一誠がロキを正面に捉える。

 

 それを見て天魔は防御に使った魔方陣を消すと、ロキを相手に魔術の打ち合いを始める。

 

 互いに相殺しきれなかった魔術が命中するが、鎧を砕かれる天魔に対し、ロキはさしたるダメージを受けた様子を見せなかった。

 

「いっけぇぇぇぇえええええええっ!」

 

 砲撃戦でロキが足を止めた一瞬を突いて一誠が全力のドラゴンショットを放つ。

 

 その一撃をロキは正面から受け止めると天魔へといなした。

 

 天魔がそれを躱したのを確認し、ロキが笑う。

 

「ふははは。白龍皇のほうは熟練した強さを誇り、赤龍帝のほうは凄まじい気合を込めて一撃を放ってきている。技術はないが、意外に侮れないものだ。うーん、すごい! 想いのこもった一撃というのは内に響くもの。どれだけの想いを今の攻撃に込めたものか」

 

 そういうロキの手は僅かに痙攣していた。

 

「高速で動き回る白龍皇よりも赤龍帝のほうが捉えやすいのは確かだ! 倍増した力を譲渡されても面倒極まりない! そちらからぶっ殺しだっ!」

 

 一誠がちらりと天魔を見たことで譲渡を考えたことを読んだのか、先に排除しようとロキが手を向ける。

 

 その後ろを天魔が魔力を構えて陣取った。

 

「これなら―ゴバッ!」

 

 魔力を放つ寸前でフェンリルが天魔へと噛みつき、ロキから引き離す。天魔の身体には牙が貫通しており、鮮血が口元を濡らしていく。

 

 拘束されていた場所へ視線を向ければハティが鎖を咥えており、戦うふりをしながら高速から解き放ったらしい。

 

「ふははははっ! まずは白龍皇を噛み砕いたぞ!」

 

「天魔!」

 

 一誠は哄笑するロキを横に、天魔を解放させる為にフェンリルへと突貫する。

 

 その拳が届く前にフェンリルは反応し、一誠は腹を深々と切り裂かれる。追撃はタンニーンの炎によって遮られたが、標的が移り、当の龍王も反応できずに全身を切り裂かれた。

 

 重傷を負った二人は持たされていたフェニックスの涙で傷を癒やす。しかし、今なお腹を貫かれたままの天魔は回復できない。

 

 歯噛みする者達の前でロキは次の手を繰り出す。

 

「ついでだ。こいつらの相手もしてもらおうか」

 

 ロキの足元の影が広がり、そこからミドガルズオルムによく似た姿のドラゴンが五匹現れる。

 

 サイズは本体よりもかなり小さくタンニーンと同等程度。

 

 それらが同時に炎を吐くが、相対したタンニーンの火炎に吹き飛ばされていく。

 

 ロスヴァイセも加わりドラゴン達は押し返せていたが、スコルとハティはダメージをものともせずに攻撃を繰り返していた。

 

 バラキエルの極大な雷光を受け、ハティの動きが止まった瞬間に祐斗が聖魔剣で追撃する。

 

 その隙を突こうとしたゼノヴィアは反撃を受け吹き飛ばされたが、イリナとギャスパー、小猫の援護を受けて復帰し、デュランダルとアスカロンによる聖なるオーラの砲撃を見舞う。

 

 ダメージの大きさに僅かに傾いだ体勢を戻す前に聖魔剣を足元に出現させて足を止め全身を斬りつけると、そこに朱乃の雷が突き刺さった。

 

 一方スコルはヴァーリ達によって滅多打ちにされていた。

 

 美猴の如意棒に全身を打ち据えられ、黒歌の術で足を取られ、その隙にアルトリアが聖剣で切り刻んでいく。

 

 ヴァーリの身体から溢れた赤黒いオーラがスコルを蝕んでいき、その体を削り取っていった。

 

 優勢に傾きつつある状況を見つつも、喀血し兜からも血をこぼす天魔を見て不安そうにしていた一誠に声が届く。

 

「イッセー、この場は任せるぞ。俺はフェンリルを殺し切る」

 

「ふははははははっ! どうやってだ! すでに瀕死ではないか! 強がりは白龍皇の名を貶めてしまうのではないか?」

 

 ロキの哄笑を天魔は無視する。

 

「イッセー、俺の「覇龍」を見ていろ」

 

 力強く言葉を紡いでいく。

 

「我、目覚めるは」

 

 〈消し飛ぶよっ!〉〈消し飛ぶねっ!〉

 

「覇の理にて全てを奪いし、白龍皇なり」

 

 〈夢が終わるっ!〉〈幻が始まるっ!〉

 

「無限を想い、夢幻に挑む」

 

 〈全部だっ!〉〈そう、すべてを捧げろっ!〉

 

「我、白き龍の皇帝となりて」

 

「「「「汝を無垢の極限へと誘おうッ!」」」」」

 

『Juggernaut Full Drive‼‼‼‼』

 

 天魔の鎧が眩く輝きながらその形を変えていく。

 

「ヴァーリ、黒歌、飛ばせ!」

 

 その声に応じて魔方陣が展開され、天魔とフェンリル、グレイプニルが転移する。

 

 移動した先は何もない山奥だった。

 

 転移と同時に口内で魔力を爆発させ、僅かに怯ませる。

 

 それにより生じた僅かな隙間で脱出のために力を行使する。

 

『Half Dimension!』

 

『Boost!』

 

 周囲の空間を圧縮し、全身に通った赤いラインが膂力を倍増させる。「覇龍」での身体能力の上昇に「赤龍帝の赫線」による倍加が加わり、身体を貫通する牙にヒビが入る。

 

 フェンリルは天魔の脱出前に噛み砕かんとするが、再度能力が発動する。

 

『Half Dimension!』

 

『Divide!』

 

『Transformation!』

 

『Boost!』

 

 咬合力が一時的にだが減らされ、その力が赫線を通って腕へと集まる。今は不要な足の力も同時に移動し、再び赫線による倍加が膂力を底上げした。

 

 ぞの結果、牙は根本から折り取られ、天魔はフェンリルの口から脱する。

 

 自慢の牙を折られ、天魔を睨むフェンリルを前にフェニックスの涙を使い回復していく。

 

 これが現状、現在の状態でのみ発動可能な「赤龍帝の赫線(ブーステッド・ライン)」の能力。

 

 力の倍加と譲渡を応用した集約である。

 

 倍加も数度が限度で他者への譲渡は今はできないが、将来的には自由に行使できるのではというのが現在の推論である。

 

「さて、時間もない。さっさと終わらせようぜ」

 

 血を失って体力も消耗しているが、外傷の回復も終わり、鎧を修復する。

 

 睨み合う両者だったが、フェンリルの姿が掻き消え―

 

 ギュオオオォォォォン! 

 

 フェンリルの悲鳴が上がった。

 

 フェンリルの初手は爪による斬撃。これまで幾度となく敵を切り裂いてきた一撃は完璧に見切られ、爪を肘と膝で僅かに打点とずらして挟み込まれて破壊される。

 

「痛がっている暇があるのか?」

 

 天魔の声に憎々しげに正面を向くがそこには天魔の姿はなく、行方を考える暇もなく額を打ち据えられた。

 

 天魔のダブルスレッジハンマーによる強烈な打撃音とともに強制的に伏せの姿勢を取らされ、再び悲鳴を上げる。

 

 立ち上がろうとする前に全身をグレイプニルによって拘束された。

 

 身動きの取れなくなったフェンリルの鼻先に天魔が着地した。

 

「後はお前がくたばるまで攻撃を叩き込むだけだな。散々苦しめてくれたからな、抵抗できないお前を葬ることに、罪悪感なし!」

 

 そう言うと天魔はロキと戦っていたとき以上の規模で魔方陣を展開していく。

 

 轟音を上書きするように獣の叫び声が上がり、それが小さくなっていくまでそう長くは必要なかった。




感想・評価・お気に入り等ありがとうございます。

呪文の出来がイマイチ。

しかしこの後の話のストックが出来始めたので投稿しました。
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