変態の双子の兄弟として   作:篠白 春夏秋冬

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第八章 アクマのお仕事
Life.61 蘇らない不死鳥


 ロキとの戦いも終わり、じきに修学旅行。

 

 天魔が浮ついたりしている秋の日に兵藤家へ珍しい客が訪れていた。

 

「ご、ごきげんよう」

 

「よう、レイヴェル。時間通りだな」

 

 やってきたのはレイヴェル。やや緊張気味に挨拶をすると、天魔の案内に従いリビングへと通される。そこにはリアスとその眷属が揃っていた。

 

 リアスと対面する形でレイヴェルと天魔が座ったのを待って、リアスが口火を切った。

 

「それで、レイヴェル。ライザーのことで相談と聞いているけれど、何があったの?」

 

 それに答えたのは天魔だった。

 

「ひとまずは俺から、ことの発端から話します」

 

 

 

 遡ること一週間程前―天魔は冥界を訪れていた。

 

「は〜、でっけえ。さすが時代とかいい出す奴が出るだけあるわ」

 

 天魔の正面にそびえるのはこれまでに見た上級悪魔の本邸にも引けを取らない程に巨大な門だった。

 

 その前には見覚えのある仮面の女性が立っていた。

 

「イザベラか。本日はお招き頂きどうも。これ、お土産な」

 

「む? レイヴェルがケーキを用意していたはずだが……」

 

「ああ、眷属の皆で食ってくれ。中身はアップルパイでな。赤い方がシナモンありで青い方がシナモンなしだ。匂いが苦手な奴もいるから分けてある」

 

「では、有り難く頂こう。っと、いかんな。……フェニックス家へようこそおいでくださいました、「白龍皇」天魔・H・ルシファー様。お嬢様の待つ庭園までご案内します」

 

 イザベラは唐突に姿勢を正すと恭しくお辞儀をする。服装は使用人服ではなくゲームのときにも見た戦闘服なのだが、様にはなっていた。

 

 そんな歓迎の言葉に天魔はむず痒そうにする。

 

「止めてくれよ。俺は庶民上がりなんだ。そうかしこまられると、困る」

 

「フッ、そう言うなら戻すが、これから先はこういった対応が基本になるのではないか?」

 

「だからこそだろ。見知った顔からぐらい気安く接してもらいたいんだよ」

 

「……そうか。では、案内しよう」

 

 頭を掻きながらのセリフにイザベラはわずかにきょとんとしたが、わずかに微笑むと案内を始める。

 

 グレモリー家同様に何枚もある門をくぐり、本邸へたどり着く前にそれる。

 

 進んだ先には東屋があり、そこではレイヴェルが待っていた。

 

「天魔様! お待ちしておりましたわ」

 

「お招きに預かり恐悦至極……ってな。済まないな、遅くなって」

 

「お約束通りに来ていただけたでけでも十分ですわ。お忙しいルシファー様ですもの」

 

「あ~、止めてくれ。上層部のおっさんたちのギラついた目に貼り付けた笑顔を思い出しちまう」

 

 うんざりといった表情で耳を塞ぐ天魔にレイヴェルはくすくすと笑う。天魔は深いため息を吐くと続ける。

 

「象徴としてちょうどいいってのはあるけどな。ヴァーリまでの繋ぎってのが透けて見えるんだよな。俺が「逸れ者」をコントロールできるのは知ってるから、より血の濃いあいつに継がせたいんだよ」

 

 そう愚痴りながら紅茶を飲み干し一息吐く。

 

 ふと顔を上げるとレイヴェルが目を丸くしていた。

 

 理由を少し考え口を滑らせ機密情報を漏らしたことに気付いた天魔は口を覆うが、すでに手遅れである。

 

「あれだ、オフレコで頼む。聞き耳立ててる奴らもコミで」

 

 手刀を切りながら悪びれもせずに言う天魔にジト目が浴びせられる。

 

「気が抜けてたみたいだ。そんだけ信頼してると思ってくれ」

 

「まったく、困った方ですわね」

 

 レイヴェルは呆れたように首を振り、言外に了承を示す。その後は談笑しつつ時間を過ごし、気付けば日が暮れ始めていた。

 

「さて、そろそろお暇しようかね。帰る前にトイレ借りていいか?」

 

「構いませんけど、何かありましたの?」

 

 天魔の申し出にレイヴェルが首を傾げる。それに対してなんのことはないかのように話す。

 

「この後ちょっと書類を出しに魔王様方のところにな。流石に緊張してきた」

 

「重要事項ではありませんの!」

 

「グレイフィアさんに渡して終わりだから大したことじゃないさ。締め切りもだいぶ先だしな」

 

 軽い口調で話す天魔にレイヴェルは額を抑えながらうめき、イザベラへと手で指示を出す。イザベラも呆然としていたがレイヴェルの手振りではっとしたように案内を始め、それに従って天魔も移動した。

 

 

 

 無駄に広いトイレに困惑しながら用を足し、外に出る。

 

 直後聞こえた物が落ちる音に振り返ると、ライザーが蒼白な顔で立っていた。

 

「あー、えっと、その、お久しぶりです」

 

 以前のレーティングゲームのことを思い出し、気まずくなりながらも挨拶をする。だが、ライザーは返事をすることなくプルプルと震えだした。

 

「あの?」

 

「は、白龍皇!? ひぃいいい!」

 

 天魔が声をかけた瞬間、ライザーは踵を返し全力で逃げ出した。空を飛ぶでもなく必死な様子で走り去っていくライザーに目を瞬かせる天魔にイザベラが気まずそうに説明する。

 

「あれが、今のライザー様の状況だ……引きこもっていることは聞きしに及んでいるだろうが、ドラゴン関係にひどく怯え、特に君達二天龍についてはニュースを聞くのも拒否するほどでな……」

 

 で、曰く

 

 ライザーはトラウマを抱え外に出ることなく、もっぱらレーティングゲームの仮想ゲームかチェスの強い領民を呼び寄せて打っているらしい。また、天魔が白龍皇と知ってからは白い物を怖がるらしく、身の回りのものを、それこそ寝具やタオルに至るまで様々なものを、色ないし柄のあるものへと変えたそうだ。

 

 色々と治療を試しても効果はなく、復調の兆しはないという。

 

 思っていた以上に全身ズタボロにされた挙げ句に打倒されたのが堪えたと見える様子に、下手人である天魔は微妙な顔になった。

 

 同情するのも憐れむのも筋違いなような気がしていたのだ。

 

 その後は予定通りに魔王領にて書類を提出し、レイヴェル経由の連絡を受けて相談となったのだった。

 

 

 

「で、部長―というより、俺等の領分なのではという話になりまして」

 

「領分?」

 

 天魔の物言いにリアスが首を傾げる。天魔は頬をかきながら一誠に視線を向けた。

 

「要するに、ライザーの不調は精神的なものなので「根性」を叩き直すのがいいのではと……で、身近な話で「根性」ということで」

 

 予想外の回答にリアス達は一瞬間の抜けた表情になるが、すぐに苦笑いが漏れた。天魔の視線を追って一誠に視線が集中した。

 

 そんな弛緩した空気にレイヴェルが爆発する。

 

「そもそもですね、兄は情けないんです! 一度ぐらいの負けで半年近くも塞ぎ込んで……! ドラゴンが怖いそうなんですよ? あれからレーティングゲームにも参加してませんし、ゴシップ誌にも好きなように書かれ放題! 天魔様にやり込められたトラウマでドラゴン関係に一切触れなくなりましたの。恨むならまだ話はわかります。怖がっているのですよ? 男なら負けを勝てに前を向けばよろしいのに! 本当に情けなくて情けなくて! ……でも、いちおう私の兄なものですから」

 

 突然の噴出に驚いていた一誠達だったが、最後のこぼすような一言にレイヴェルへと柔らかい視線を向ける。

 

 その様子に天魔は苦笑しながらレイヴェルを宥め、改めて一誠に顔を向ける。

 

「まぁ、そういうわけでだ。イッセー、お前を参考にしようと思うんだが」

 

「そういうことね……了解。話をしてみるよ」

 

 天魔の意図を察した一誠が頭を掻きながら首肯する。

 

 兄弟間で交わされる連携にリアス達は首を傾げながらもライザー更生計画が幕を開けたのだった。

 

 

 

 レイヴェル訪問から数日後―オカルト研究部全員でフェニックス家へと訪れていた。

 

 経験者であう天魔とフェニックス家と親交のあったリアスが促すままに庭園を抜けていくと、レイヴェルとライザーの眷属が待っていた。

 

 案内に従い豪奢な扉の前にたどり着くと、レイヴェルがノックをして扉へと語りかける。

 

「お兄様、お客さまですわよ」

 

「……レイヴェルか。今日は誰とも会いたくない。嫌な夢を見たんだ……とてもそういう気分じゃない」

 

 レイヴェルの声からやや間をおいて返ってきた声には覇気というものが微塵も感じられなかった。レイヴェルはため息を吐くと改めて来客を告げる。

 

「リアス様ですわ」

 

 一拍おき、何かをひっくり返した音が響いた。

 

「リ、リアスだと……?」

 

 返ってきた声はひどく狼狽したものになっていた。よほど想定外の客だったらしい。リアスは扉の前に立つと存在を証明するように声を掛ける。

 

「ライザー。私よ」

 

「……今更何をしに来た、リアス? 俺を笑いに来たのか? それとも赤龍帝との仲睦まじい話でも聞かせに来たのか?」

 

 声に多様の覇気は戻ったが、その声は非常に低い。どこか恨めしげな声にリアスは優しげな声をかける。

 

「……少し、お話をしましょう。顔を見せてちょうだい」

 

 リアスの声からしばし、ドタドタという音が近づいてくると扉が勢いよく開かれる。奥からでてきたのはだらしない格好にボサボサの髪のライザーだった。

 

「振った男にキミは何を話すと言うんだ……?」

 

 据わった目で睨むようにリアスを見ていたライザーだったが、ふと横に視線をずらし一誠を視界に収めると愕然とした表情で震えながら一誠を指さした。

 

「せ、せ、せ、赤龍帝ぇぇぇっ!」

 

「ど、どうも、こんにちわ」

 

 天魔から聞いていたとはいえ、以前とのギャップに一誠は頬を引きつらせながら挨拶する。

 

「ひぃぃいいいいいいいぃぃぃっ!」

 

 挨拶に対して悲鳴で返し、ライザーはベッドへと飛び込むと毛布で身体を包みつつ叫び始める。

 

「か、帰ってくれぇぇぇぇっ! あのときのことを思い出すのは嫌だ! もう嫌だ! あんなみすぼらしい思いを二度としたくない!」

 

「何か前よりひどくなってねぇか?」

 

 天魔はイザベラを振り返りながら尋ねる。

 

 どうにも先日遭遇したときは調子のいい状態だったようで、場内を散歩できるように無ていたらしい。天魔との遭遇後は部屋から出ることもなかったとのことだった。

 

 更生計画のため被った布団を話そうとしないライザーを強引に引っ張り出そうと天魔が近づくとライザーは放心したように硬直し、予想よりあっさりと部屋から出すことに成功した。

 

 ライザーの眷属とも協力し荷物をまとめると天魔は事前に用意していた荷物を含めて背負う。

 

「それで、作戦はどういうものなの?」

 

「ああ、そろそろ来ますよ」

 

 リアスの問いに一誠が空を指さしながら答える。

 

 直後、周囲に影が指し、地響きとともに降り立った。

 

「この間ぶりだな、お前達」

 

「おっさん、来てくれてありがとう」

 

 現れたのはタンニーン。突如現れた元龍王にドラゴンを見ることさえ怖がるライザーは震え上がる。

 

「ライザー・フェニックスか。レーティングゲームの試合をいくつか見たことがある。将来有望な「王」として注目していたのだが……その様子だと聞いたようにいささか問題があるようだ」

 

 レイヴェルの訪問のすぐ後に連絡を取り、手筈を整えていた。強引に環境を変え、物理的に鍛えることで根性を付けさせようという大雑把なものだが、通常の治療では効果が薄く家族も根性を付けるという方針で賛成となったため決行となった。

 

「というわけで俺と天魔でこのヒトを連れて山に行ってきます。何かあったら連絡しますので」

 

 一誠はざっくりと説明し、自分の荷物を背負う。その後ろではライザーがタンニーンに掴まっており、悲鳴を上げていた。ちなみにライザーを立ち直らせるのに協力したいということでレイヴェルも同行することになっている。それらの荷物も含めて天魔が背負っていた。

 

「よし、行くか」

 

 準備が整ったため天魔達はタンニーンの背に乗る。

 

 行き先はタンニーンの領地。ドラゴンの多数生息する土地で精神的に鍛える予定である。

 

「たすけてぇぇぇぇぇっ!」

 

 ライザーの悲鳴を遺しながらタンニーンが飛んでいく。

 

 数ヶ月前に似たような状況になった一誠はライザーに同情の視線を送るのだった。

 

 しばらく飛び続け、タンニーンが着陸する。

 

 巨大な渓谷の広がるこの土地がドラゴンの渓谷と呼ばれており、人型の悪魔が生活できる山としてはギリギリのラインの環境である。

 

 心身ともに過酷な状況にライザーはがっくりとうなだれ、嫌々ながらも特訓が開始された。

 

 

 

「ほらほら、遅いですぞ!」

 

「うわぁぁぁっ! 凍る! 俺の炎が凍るぅぅぅっ!」

 

 山の雪原地帯にて炎の翼を背負った登山装備のライザーが水色のドラゴンに追われている。水色のドラゴン―氷雪龍(ブリザード・ドラゴン)に氷のブレスを吐かれ、ライザーは涙目になりながら逃げるように走る。

 

「ライザー殿! 訓練中の掛け声は「ドラゴン!」です! ほら、ドラゴン!」

 

「ド、ドラゴン!」

 

「お兄さま! これぐらいで音を上げてどうしますの!」

 

 レイヴェルは氷雪龍の上から兄に檄を飛ばしている。健全な精神は健全な肉体に宿るということで走り込みとなっていた。

 

 まるでドラゴンに襲われる冒険家のようなライザーの後方で天魔と一誠が走っていた。その上空には蒼い鱗のドラゴンが超大型のタブレット端末をいじっており、ファンタジーをぶち壊す光景を作っていた。

 

 そんなドラゴンが一誠へと話しかける。

 

「赤龍帝殿、どうスか、フェニックス家の坊っちゃんは?」

 

「え? あー、まあ、大変そうです」

 

「パねぇスねー。マジ軟弱っスねぇ。上級悪魔のお坊ちゃんっでもう少しエレガントなものだと思ってたんスけど、案外打たれ弱いのかもしれないっスねぇ。超パねぇっス」

 

 軽い口調のドラゴンは蒼雷龍の成体らしく、アーシアの使い魔であるテスラと同じ種族とのこと。それを知った天魔の表情は渋いものであり、テスラへの教育方針を修正し始めることになった。

 

 一時間ほど走ったところで休憩となり、水分を取る天魔と一誠の横でライザーは息を荒げて倒れていた。

 

「……し、死ぬ……」

 

「あんた不死身だろうが」

 

「まだ走り始めて対して時間経ってないスよ?」

 

 二人の呆れた様子にライザーは顔を上げる。しかし身体までは起こす元気はないのか這いつくばったままで声を荒げる。

 

「う、うるさい! 山にこもって修行なんて野蛮人のすることだ! これだから転生悪魔は!」

 

「少しは持ち直してきたようで何よりだ」

 

「俺は生粋の上級悪魔だぞ? 受け継いだ血と才能を重んじて貴族らしく生きてこその上級悪魔だ! それに魔王を輩出したグレモリーの者を許嫁にできるほどの家柄だぞ! こ、こんな泥臭い真似をしないといけないなんて……!」

 

 天魔の皮肉を無視してライザーが持論を語る。その気質の筋金入りぶりに呆れつつ、天魔は休憩の時間を測るのだった。

 

 

 

 山に入って三日目。

 

 悲鳴を上げるライザーを尻目に天魔はレイヴェルと茶をしばいていた。結界の中でテーブルセットを用意して魔法瓶から温かい紅茶を注ぎ、普通にくつろいでいた。

 

 ちなみに一誠は近くの雪に埋まっている。走るのに慣れてきたため組手をすることになり、岸壁に叩きつけられた衝撃で上から積もっていた雪が落ちてきたのだ。

 

 けっこうな量に埋もれたため出てきてはいないが気絶しているわけではないので、気配を探りつつもし大事に至りそうなら救出する方針である。

 

「……兄はいかがでしょう?」

 

「改善していると言ってもいいかもな。望まない環境というのもあって、俺やイッセーに面と向かって文句を言えるようになってきた。ビビってたときと比べれば大分良くなったよ」

 

「そうですか……少し安心しました」

 

 天魔の報告にレイヴェルの空気が緩和する。

 

 その様子に天魔も表情を緩め、紅茶を口にする。

 

「そういえば、天魔様はマナーが身についてますのね。育ちが庶民の家とは思えませんわ」

 

「アザゼルがうるさかったからな。まぁ、あいつは最初から血縁関係を察してたみたいだし、後々困らないようにしたかったんだろ。お陰で今は助かってるけどな」

 

 そう言ってカップの紅茶を飲み干すと魔法瓶を手に取る。その重量に残りが少ないことを確認して注ぐことなく戻した。

 

「そういえば、今夜リアス様達がこの山に来るそうですわ」

 

「部長達が?」

 

「はい。なんでもこの近くに良い温泉があるそうなのです」

 

「温泉、ね」

 

 天魔は酷薄な笑みを浮かべながらライザーへ視線を送る。

 

 ちょうどドラゴンの攻撃を食らったらしく悲鳴を上げるのを見て笑みを深めた。

 

 

 

 その夜。一誠は寝泊まりしている洞窟で横になりながら隣のライザーの気配を伺っていた。

 

 雪に埋まっていた一誠だったが、組手の再開を嫌がってかまくらのように雪を掘って空間を作って休んでいたので天魔とレイヴェルの会話を聞いており、温泉の話も耳に届いていたのだ。

 

 天魔は用事があると一時下山し、監視はいない。後はライザーさえ誤魔化せば覗きにいける考えていたが、ふと違和感を覚える。

 

 山に来てからは寝袋生活であり、それに散々文句を言っていたライザーが今日に限って大人しく寝ているのだ。

 

 万が一大人しく眠っているなら起こさないようゆっくりと確認すると、偽物が寝袋に横たわっていた。

 

「やられた!」

 

 姿を消したライザーの行き先は決まっている―温泉だ。

 

 覗きをするために抜け出したライザーを追うため禁手の鎧を身にまとうと一誠も洞窟を飛び出した。

 

 温泉の場所は天魔がレイヴェルに聞いていたため把握している。そのためまっすぐに目指していると少し離れたところに揺らめく炎の翼が見えた。

 

 さらに加速して近づくとライザーも気づいたのか振り返る。

 

「チッ! バレたか!」

 

「あっ! その物言い! やっぱり、温泉を覗く気か!」

 

「覗いて何が悪い! 温泉に入る女がいるなら、それを覗くのが男だ!」

 

「それが貴族のすることかぁぁぁああっ!」

 

 激昂しながら一誠が殴りかかるが、空中機動はライザーに分があり躱される。

 

「あのときより攻撃が鋭いな! だがな、俺はリアスの乳が見たいだけだ! 貴様だけが堪能するだなんて許されないことなんだよ!」

 

「バカじゃないの!? 見せてたまるかよ! 俺の部長だぞ!」

 

 ライザーが拳を躱しつつ放った火炎を避け、一誠も魔力を放つ。互いの攻撃が山へと当たり、轟音を響かせる。

 

「俺は元婚約者だ! あのデカい胸を一度も生で見ないで諦められると思うか!? 俺の立場で考えてみろ!」

 

 ライザーの主張に一誠が怯む。頭を振って同情心を追い出しつつ覗きをしたいがために復調したことに呆れていると、いやらしい顔でライザーが続ける。

 

「雷の巫女の乳も見たいしな! あれもデカいだろ!」

 

「朱乃さんのおっぱい!? マジで許せない! あったまきた! あの豊満なバストは俺だけのもんだぞぉぉぉおおおっ!」

 

 一誠は再び激昂し、オーラを噴出する。それを迎え撃つためライザーも炎を巻き上げるが、そこに天魔が上昇してきた。

 

「まったく、本当に復活するとは思わなかった」

 

 呆れた様子で額に手を当てる天魔は身体に禁手の鎧を纏っていた。

 

 白龍皇の光翼だけでも戦えるはずの天魔が鎧まで持ち出したことで兜の中で顔を引きつらせる一誠だったが、天魔の髪を見てふと気づく。

 

「何か髪の毛濡れてないか?」

 

「ああ、さっきまで温泉に入ってたからな。服も着てねぇし、湯冷めする前に済まさせてもらう」

 

 天魔の髪からは雫が滴っていた。鎧の節からも薄っすらと湯気も立っており、嘘ということはなさそうだった。その様子に嫌な予感を感じ、一誠は震えながら質問を重ねる。

 

「ま、まさか混浴を……」

 

「ちゃんと男女別だわ。黒歌は突入してきたけどな」

 

「してるじゃねえかぁぁぁああっ!」

 

 一誠のオーラが今夜の最高点を突破する。莫大なオーラを纏いつつ、一誠はライザーに振り返った。

 

「ライザー、さん。ここは一時共闘しましょう! こいつを倒さないと覗きなんてできないし、なにより、巨乳猫又お姉さんと混浴なんて許せねえ!」

 

「なにィ!? 一人だけ楽しんでいるだと!? 許せん! 貴様はここで焼き尽くして、その乳も俺が楽しんでやるわ!」

 

「そうだ来いよ。俺も風邪ひきたくなからな!」

 

 ライザーが薄く広く炎を巻き上げ、それを目眩ましに一誠が突撃する。即席とはいえ中々のコンビネーションに笑みを深めつつ天魔は反撃を始めるのだった。

 

 

 

 一時間程後―ボコボコにされ立つ気力もなくなった一誠とライザーが洞窟に横たわっていた。天魔は服を着るために戻っており、再度装備を整えて洞窟まで来ることになっている。

 

 そのため大人しくしているのだが、ライザーがふと一誠へと向いた。

 

「リアスのことは諦める。だから、今度一度だけリアスの乳を見せてくれ」

 

「ふざけるな! 焼き鳥野郎!」

 

 一誠とライザーは同時に起き上がり殴り合いを始める。

 

 その後、ライザーは完全に復調し、ドラゴン恐怖症とも言える状況も克服した。




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