「三大勢力の運動会!?」
兵藤家のゲストルームにグレモリー眷属の声が響く。
驚いていないのは天魔とイリナであり、どちらも事前に説明を受けていた。
グレモリー眷属の驚愕に説明をしていたサーゼクスは笑顔で頷いて続ける。
「親睦会ということで、スポーツに興じることになったのだよ。そこで、スポーツ大会ならぬ運動会を開催することになったのだ。先程アザゼルがイッセーくんへと詰め寄っていたのも堕天使側の選手に引き入れるためだな」
サーゼクスが兵藤家を尋ねる直前に、一誠は堕天使組織でのイベントと偽装を受けて選手登録をされそうになっていた。
おっぱいドラゴンの人気と赤龍帝の籠手を狙っての勧誘はサーゼクスにより水際で押し留められたのだが、今後騙されることのないよう説明がされているのだ。
「ってことは、天魔とは別チームか。まぁ、競技だし大事になることはないか」
「いや、悪魔チームで出るぞ?」
「そうなのか?」
「ああ、選手登録もすでに済ませてある。あいつは知らねぇけどな」
出し抜いてやったという感じで天魔が笑う。
その上機嫌な様子にリアスは苦笑しつつもサーゼクスへ参加を表明し、イベント当日まで準備をするのだった。
運動会の会場はレーティングゲームのフィールドを使ったものである。何かあっても周囲への被害はないという状況に天魔は遠い目をしながらも周囲の選手を見回す。
天使が白、堕天使が黒、悪魔が赤のジャージに身を包み、それぞれ準備運動などを行っていた。
赤いジャージを着てグレモリー眷属といる天魔を見た堕天使の何人かが驚きアザゼルも戸惑っているのを見て天魔が笑っていると、イリナとともにミカエルが近づいていた。
「お久しぶりですね、皆さん。天使長のミカエルです。三大勢力の和議以来でしょうか」
「どうも、その説はお世話になりました」
「こ、こちらこそ挨拶が遅れまして! お久しぶりです!」
「ごきげんよう、ミカエルさま」
「「「「「お久しぶりです」」」」」
ミカエルに合わせ、オカルト研究部も挨拶を返す。
初対面であるロスヴァイセは天使長との邂逅に感動し、面識を得られた幸運を噛み締めていた。
ミカエルは要人との挨拶は終えているらしく雑談していると、別の天使が近づいてくる。
「ミカエルさまーっ。開会式が始まりそうですわよー」
おっとりとした雰囲気の女性天使は多くの翼を持っていた。また、とてつもなく美人であり、素晴らしいスタイルをしている。一誠だけでなく天魔も思わず視線を送る天使の言葉に時間を確認したミカエルは一つ頷いた。
「そのようですね。要人とのごあいさつだけでかなりの時間が過ぎたようです。おっと、紹介が遅れましたね、こちら、私と同じ四大セラフの一人で」
「ごきげんよう、わたくし、四大セラフのガブリエルと申します」
ガブリエルと出会えたことでアーシアとゼノヴィアは恍惚とした表情で祈りを捧げ始める。それを横目にガブリエルへと邪な視線を向ける一誠を咎めようとしたところで天魔は後ろから首を掴まれた。
「よう、裏切りもん」
掴んだのはアザゼルだった。首を抑えられているため振り向くこともできないが、せっかく出し抜けたため天魔はそのまま煽る。
「俺は一度も堕天使の選手として参加するとは言ってないぜ」
「いけしゃあしゃあと……っ! お前の管轄の連中ごと悪魔側に寝返りやがって……っ!」
「人望の差だなぁ」
実際に堕天使全体で見れば人望という点ではアザゼルの軍配が上がるが、「逸れ者」は天魔個人へ忠誠を向けているため、そこに属する者達を悪魔側に引き入れたにすぎない。
それでも煽りは効いたのか歯噛みするアザゼルに満足そうにしながら、天魔は開会式まで首を掴まれて過ごすのだった。
「スポーツマンシップにのっとり、正々堂々と競い合うことを誓います」
よく聞く選手宣誓を最後に開会式を終え、指定の応援席まで移動していく。その道中、堕天使チームの横を通り過ぎているとアザゼルの演説が聞こえてきた。
「いいか、お前達。これは交流会という名の戦争だ。今日だけは暴れても文句は言わん。協力態勢を敷いたとはいえ、常日頃から天使や悪魔に言いたいこともたくさんあるだろう。やれ天界アイテムの価格が高すぎるとか、やれ悪魔の持つ等価交換の意識がウゼーとか、天魔のやつがモテるし生意気で気に食わねえとか。溜まるものも溜まっているだろう。あいつも今日は敵だ。存分に暴れまわれ。俺が許す!」
特定個人への中傷もあったが堕天使達が雄叫びを上げる。
その横で天使達も集まっていた。総括するミカエルは堕天使を見て微笑む。
「はははっ、堕天使の方々は元気ですねぇ」
一方、一般天使の反応は冷ややかである。
「奴らのペースに全部合わせると我々は堕天するかもしれないというのに……!」
「一度堕ちたら天使として終わりなんだから、その辺、堕天使も悪魔もわかってほしいものだ……!」
やはり思うところがあるのか愚痴をこぼす天使達の視線を手を上げて集めると、ミカエルは金色のオーラを迸らせつつ話す。
「いいですか、皆さん。普段の教えの通りです。異端者には天の罰を与えなさい。我々は亡き神の代行を果たす役目があります。―彼等に『光』を」
『はっ! 終末を彼等に!』
物騒な宣言に一誠の背筋に冷たいものが走る。
前方に悪魔の集まる一角を発見しそれに交じると、サーゼクスが悪魔達をまとめていた。
「天界もグリゴリも元気いっぱいのようだ。我々も負けぬよう精一杯競い合おう。交流会だからといって、手を抜いても失礼だ。―本気でやるように」
『ハルマゲドーンッ!』
物騒な掛け声の悪魔陣営に天魔が苦笑する。
嫌な予感を感じつつも競技が始まるのだった。
そんな心配をよそに、平和に運動会は進んでいく。
天魔が参加するのは障害物競走、借り物競走、玉入れ、騎馬戦の四つである。
まずは障害物競走ということで列に並んで待機していると、一列目がスタートする。
一誠は一列目だったらしく、走っていくのをモニターで見ていると、平均台やネット潜りと言った一般的な障害物を超えた最終ストレートには、ある種の地獄が広がっていた。
選手がたどり着いたことで実況が説明を始める。
『最後の障害物に各モンスターを配置しちゃいました☆ 天使や悪魔も余裕で殺せる猛毒の大蛇ヒュドラ! 地獄の番犬ケルベロス! それに謎の怪鳥ジズも参戦です! モンスターを見事退けて下さい!』
明るい声に現地の選手だけでなく待機中の選手もドン引きする。よく見るとタンニーンまで化け物側で参戦しており、最上級悪魔の元龍王を障害物にする運営に天魔は顔を引きつらせていた。
そんな待機組をよそに現場が動く。
『おーっと! 選手の皆さん、早速モンスター達と楽しく戯れています! 平和な光景ですね!』
ヒュドラに締め上げられる堕天使、ジズに連れ去られていく天使、ケルベロスに頭をかじられる悪魔と地獄絵図が広がっていく。一誠もタンニーンから炎を吐かれ、命からがらといった様子で逃げる。
なんとか逃げ切った一誠と堕天使の選手がゴールしたところで残りの選手はリタイアと判断されて、魔物から救出、搬送されていく。
『さぁ~、第二組を始めようと思います! 位置について!』
重症者が出たにも拘らず競技を続けようとする運営に、選手達が驚愕とともに抗議するが、それでも進行は止まらない。
選手達は戦々恐々としながら位置につくのだった。
結局、障害物競走は重症者を多数だしながら終了した。
天魔は同時に走った選手を救助しながら競技を終え、救護班への搬送をしたりしていた。
障害物競走での闘争にかつての戦争状態を思い出したかのように緊迫感が張り詰める中、借り物競争となった。
一誠も参加していたが今度は先に天魔の番となり、スタートを切る。
設置されていた封筒を拾い、中を検めると
『イタい人』
と書かれていた。
天魔が宇宙を背負う。普段の素早い判断が見る影もなく硬直する天魔を正気に戻したのは他の選手の声だった。
他の封筒のお題も難題らしく、阿鼻叫喚の騒ぎになる。
悲痛な叫びに意識を戻した天魔は少し悩んだ後で悪魔側の応援席へと駆け寄った。
「セラフォルー様、少々よろしいでしょうか!」
「私? ちょっと行ってくるわね☆」
声をかけたのはセラフォルー。いつも通りの魔法少女の格好でチアリーダーに混ざっていた彼女を連れ出してコースに戻ると、他の選手はまだ戻っておらず、そのまま一位でゴールした。
胸を撫で下ろす天魔にセラフォルーが嬉々として訊く。
「それで天魔くん。借り物ってなんだったの? 「魔法少女」? それとも「魔王」とか? 「美少女」とかだったら照れちゃうかも☆」
「そう、ですね。当たらず触らずってことで……」
「や〜ん困っちゃう☆」
似合ってはいるのだが、立場を考えると少々痛々しい服装ということで選択したわけだが、天魔は正直に答えるわけにはいかず、お題に関しては墓の下まで持っていくことを決意した。
その後走った一誠はサーゼクスを伴ってゴールし、本人には誤魔化していたがお題は『シスコン』とのことだった。
互いの秘密を共有し、二人揃って深い溜め息を吐いたのだった。
他の競技を挟み、全員参加の玉入れとなる。
背の高い棒の上に設置された籠と各陣営の色の玉が用意され、各選手が合図を待つ。
『それでは天使、堕天使、悪魔、全員参加の玉入れ競技のスタートです!』
合図を受け、一誠達が玉を拾う。直後結界が展開され、それを疑問に思う間もなく衝撃に揺れた。
「悪魔どもに光を投げろォォッ!」
「あのときの恨みっ!」
「ハルマゲドンじゃ、こんちくしょうがぁぁぁっ!」
「終末の角笛を鳴らしてやろうかぁぁっ!」
競技が始まった途端、天使、堕天使が悪魔へと光の球を投げ始める。それに対抗するように悪魔も魔力で応戦し、どさくさにまぎれて堕天使の一部が天使への攻撃を開始した。
『天使、堕天使の選手は悪魔の皆さんに光を投げないでくださーいッ! 消滅しちゃいますよ! ほら、そこ! 光の槍でやり投げするんじゃないよ! 競技違うし! 悪魔も攻撃を止めなさい! バカか、てめぇら! バカなのか!』
ヤケクソ気味に叫ぶ実況を無視して各陣営は暴れ続ける。
その最中、ミカエルとアザゼルが向かい合っていた。
「よー、ミカエル。ここで会ったが万年目ってやつだな」
「ふふふ、今日はいつぞやの戦役時のような目つきですね。邪悪極まりない」
「ああ、あの時を思い出すぜ。てめえ、よくもあのとき俺が天界にいた頃にかいたレポートを発表しやがったな」
そう言いながらアザゼルは玉を投げつける。ミカエルはそれを躱すと顎に手を当てて意味深に微笑んだ。
「ああ、あれのことですか。設定資料集のことですね? 「ぼくが考えた最強の神器資料集」ってタイトルで長々と設定が書かれていた上に自筆のイラストまで添えてありました。素晴らしい才能じゃないですか。ついついむかしの戦役時、ビラでそれを撒いてしまいましてね。是非とも皆さんに見ていただきたかったのです。「
「うるせえっ! あれのせいでな、俺は一時期、幹部連中に「閃光と暗黒の龍絶剣総督」って呼ばれてたんだぞ!? 「おい、アザゼル、秘密兵器に閃光と暗黒の龍絶剣を出してくれ」だとか、「この後閃光と暗黒の龍絶剣で敵を仕留めるんだよな?」とか「アザゼルさんや夕食の閃光と暗黒の龍絶剣はまだかい?」とか言われまくったんだぞォォォォッ!」
「ハハハ、それは失敬!」
赤面したアザゼルの猛攻撃を躱しながらミカエルも反撃する。互いに玉を投げている当たりまだ理性的だと思いながら天魔が玉入れに従事していると、その横で朱乃とバラキエルが対峙していた。
「あ、朱乃……」
和解こそしたもののどう声をかければいいのかと迷うバラキエルに朱乃は手を組んで目を潤ませながら懇願する。
「……父さま! 私達を助けて!」
「……うぅ、うおおおおおっ!」
憂いを帯びた表情での娘の懇願にバラキエルは赤いボールを大量に抱え、次々に籠へ放り込んでいく。思わず手を止めて咎めるアザゼルを振り切り猛然と赤い玉を投げるバラキエルの横で朱乃も楽しそうに競技に参加し、悪魔チーム優勢で競技は進むのだった。
玉入れでの敵意と殺気を引き継いだまま騎馬戦へと移る。
天魔の騎馬は黒歌を先頭にレイナーレにミッテルトが後方を務めている。
先程の一件もあり、リアスや一誠の騎馬の付近に陣取っていた天魔だったが、予想は現実となった。
『それでは騎馬戦スタートです!』
「おりゃあああっ! カタストロフィだっ! 死ね、天使どもぉぉっ!」
「天使を舐めるなぁぁぁ! 最後の審判だっ!」
「天使も堕天使も共に滅べぇぇぇぇっ!」
競技場は一気に戦場と化し、光と魔力が飛び交い始める。
「転生天使は陣形を組め! 我等は札が揃えば力を発揮するのだから! フォーメーション、フルハウスッ!」
「そうはさせるかぁぁぁっ! 転生アクマと転生天使の全面戦争じゃい!」
「転生、転生って、そんな方法で頭数増やしやがって! ちったぁ天使共は俺達のところに堕ちてこいやぁぁぁっ!」
『皆さーん、ここであの戦争の続きを始めないでくださーい! 再現されてますよ! あの戦争が見事なぐらい再現されてますからね! やめろって言ってんだろぉぉぉっ! ひゃっは──っ!』
興奮からか、帽子そっちのけで戦う各陣営を止めようという建前も忘れて、アナウンスは絶叫を張り上げる。
天魔が苦い顔で額を押さえつつ、襲い来る堕天使の騎馬を崩して防止を回収していると、アザゼルが一誠へと耳打ちしていた。
鼻血と垂らしつつ目を見開く一誠に嫌な予感を覚えた天魔が事情を聞き出す前に、一誠の騎馬は女性が騎手を務める騎馬へと突撃していく。
「剥ぎ取りゴメーンッ!」
突き進み、すれ違いざまに軽く触れながら通り過ぎる一誠の騎馬を帽子を守ろうとした騎手が訝しむ。
一誠はニヤリと笑うとポーズを決め、指を弾いた。
「洋服崩壊!」
触れられた騎手の衣服が吹き飛び、全裸に剥かれる。
悪魔と堕天使の男は素直に興奮を露わにしていたが、天使達は翼を白と黒に点滅させながら苦しんでいた。
女性の裸を見たことによる欲望で堕天しかかっているらしく、それを見たアザゼルが高笑いする。
「天使どもは堕とせ堕とせ! ふははははっ! 女の裸を見ただけで堕天しかけるなんて普段から溜まってる証拠だぜ! 俺ら堕天使は堕ちることがなければ光が怖いわけでもない! 頭数は三大勢力の中で一番少ないが、こういう場面じゃ天使や悪魔に比べたら優れてんのさ! ふははははっ! さて、イッセー! 次はあれだ!」
そうして指差す先にはガブリエルがいた。
邪悪な顔で嗤うアザゼルに一誠は戦慄していたが、アザゼルは構わず一誠を煽る。
「天界一の美女の裸、見たくないか?」
「見たいですぅぅぅっ!」
欲望に支配された一誠に呑まれ、騎馬はガブリエルの騎馬へと突撃していく。
しかし、その突撃はガブリエルに到達する直前に阻まれた。
「これ以上の蛮行はさせねぇ!」
天魔が一瞬で禁手の鎧を纏い、意識を刈り取るべく一誠へと回し蹴りを叩き込む。周囲への注意がおざなりになっていた一誠はまともに食らううが、予想外の事態が起きた。
「うおおおおお!」
「何!?」
一誠が意識を朦朧とさせながらも天魔に反撃したのだ。
封印を外していないことに加え、騎馬をしているギャスパーへの気遣いで多少加減したとはいえ、一撃を堪え反撃してくる一誠に場違いにも関心していたせいで周囲の状況判断が僅かに遅れた。
一誠の拳が天魔を捉え、蹴りの後で不安定な天魔を押し飛ばす。
そのまま直ぐ側の騎馬を巻き込み地面へと落ちた天魔だったが、硬い砂地ではなく柔らかな感触に受け止められた。
「っ痛ぅ」
殴られた箇所を押さえつつ、天魔は立ち上がろうとする。
「ひゃっ」
手をついてた先はやはり柔らかいながらも弾力のある物体であり、その感触と聞こえた声に天魔は背筋で身体を上げた。
「あっ、あのぅ、そのぅ」
そこにいたのはガブリエルだった。押し倒すような態勢になり、あまつさえ片手で胸をわしづかみにしていた。
羞恥によるものか紅潮した顔で震えるガブリエルに生唾を飲み込み、感じた殺気に飛び上がる。
直後、全方位から様々な攻撃が降り注いだ。
「殺せ! 白龍皇を亡き者にしろ!」
「俺だって揉んでみたかったのに!」
「よくもガブリエル様を汚したな!」
「覇龍」の際の歴代所有者の憎悪もかくやという悪感情とともに繰り出される攻撃に天魔は走馬灯を見ながら必死に対処する。
唐突な三大勢力VS白龍皇の構図に一部が過去の戦争を思い起こすことになった。
その後、天魔はなんとか生き残った。
事故ということでセラフからの執り成しで天使はなんとか収まり、堕天使はひとしきり天魔をボコボコにしたことで満足したらしい。悪魔は一応ルシファーであることが効いたのかそもそも攻撃が少なく、初めて自分の血筋にありがたみを感じるのだった。
ちなみに運動会は最終競技のリレーにて一誠とアザゼルが小競り合いをしている内にガブリエルがゴールし、天使チームの優勝となった。
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