グレイフィアの訪問から数日後。
一誠とリアスは件の遺跡へと足を運んでいた。グレモリーにとっての重要地ということで他の眷属は留守番となっている。
遺跡は精巧な石造りの大きな遺跡であり、歴代のグレモリー家の者達を模した石像が柱の間に並んでいる。整備もされているようで目立つ破損箇所のない遺跡を一誠が眺めていると、隣のリアスが深い溜め息を吐いた。
「ふぅ……。事を急に進めてこの子に嫌われたらどうするのよ……」
「部長、大丈夫です。俺がついてるんですから、大船に乗ったつもりで」
「とう!」
リアスのフォローをしようとした一誠の言葉を遮り、何者かが空から降ってくる。六人の特撮ヒーローさながらな仮面とスーツを身にまとった者達は一人づつポーズを決め始める。
「真なる紅は情熱の証! サタンレッド!」
「深き蒼は理智の証。サタンブルー」
「めんどいけど、サタングリーン」
「華やかピンクは可憐さの証! レヴィアた―じゃなかった、サタンピンクよ☆」
「……はぁ、えーと、サタンイエローです」
「輝く銀は勇気の証! サタンシルバー!」
「「「「魔王戦隊サタンレンジャー!」」」」
名乗りの熱量に違いはあれど、全員がポーズを決め終わると同時に、彼等の背後でそれぞれの色に合わせた煙を纏った爆発が上がる。
それを見たリアスは唖然としていただけだが、一誠は顔を覆って膝をついた。
なにせ、目の前の戦隊ヒーローに心当たりがあったからだ。
四大魔王にグレイフィア、さらには天魔である。声はそのままで演出にも覚えがある。何ならピンクはレヴィアたんと言いかけていたし、シルバーのスーツの一部は白龍皇の鎧がそのまま装飾になっていた。
愕然とした一誠はよろよろと立ち上がるとリアスに尋ねる。
「ぶ、部長、ど、どうします?」
「な、何者かしら……。強大な魔力を感じるわ。魔王戦隊だなんて……魔王クラスが六人集まったとでもいうの?」
まったく気づいていないリアスの様子に一誠は絶句する。
内心で頭を抱える一誠だったが、それに構うことなくサタンレッドが話し始める。
「我々はグレモリー家に雇われたのだ。この遺跡には三つの試練が君たちを待ち受けている。それを見事二人だけの力で突破してもらいたい。大事なのはコンビネーション!」
そう説明する横でピンクが突然あらぬ方向を指した。
「ハッ! 謎の飛行物体を発見!」
「なに! 皆、一斉攻撃だ! 「
「「
「えーい「
「……とりゃー、アスモデウス的な攻撃ぃ」
「えーと、いちおう、イエローショットで」
「「
六人の攻撃が合わさり、轟音と閃光が周囲を満たす。
動物たちが逃げ惑い、空が割れて次元の狭間がその姿を覗かせ、輝く粒子がオーロラのような鮮やかな膜を広げていく。
顔を引くつかせる一誠の前でシルバーがピンクへと注意した。
「ただの悪霊じゃないですか。驚かせないで下さいよ、セラ―ピンク」
「てへ☆」
ただの悪霊相手にはオーバーキルが過ぎる攻撃に一誠が白目を剥く。しかしリアスは何事もなかったかのようにレッドへと話しかけた。
「それで、試練とは?」
「ぶ、部長、あれを見なかったんですか……? なんだか、悪霊に全力攻撃してましたよ、魔王クラスらしき人達がぁぁぁぁっ!」
「落ち着いてイッセー。悪霊はよくないから倒すべきだわ」
「そういう意味じゃなくて! あー、もういいです!」
動じないリアスに一誠が対応を投げ出す。そして、今日は何が起きてもスルーしようと決めた。
「我々が各試練を受け持つ! グレモリーを受け継ぐ若き二人よ! 見事、三つの試練を超えて遺跡の奥まで到達してみせるのだ! それでは我々は一足先に各セクションで待っているぞ! フハハハハハハ!」
レッドが遺跡へと入っていくのに続いて残り五人も遺跡の奥に消えていく。
リアスは一呼吸置くと気合の入った声で宣言する。
「さて、イッセー! 行きましょう! ここまで来たら吹っ切れたわ! 私とイッセーがどれだけ深い仲か彼等に見せつけてあげましょう!」
「はい!」
一誠も力強く応じ、遺跡を進んでいく。
通路を進んでいくと、開けた部屋にたどり着いた。
待ち受けているのはピンクとシルバーだった。
ピンクは一誠とリアスの姿を捉えると横チェキしながら宣言する。
「さあ、お二人さん☆ 最初の試練なのよ!」
「第一の試練は……ダンスだ」
「は?」
シルバーがもったいぶって告げた試練の内容に一誠は呆気にとられる。一方、リアスはある程度予想していたのか頷いていた。
「二人のダンスを私達に見せて欲しいの! バツグンの相性を見せてくれたら、無事クリアとなるわ☆ ほらほら、ダンスダンス! 社交界に出ていく二人にはダンスが大事なのよ!」
ピンクが話す間にシルバーが手早く音響装置を用意し、クラシックをかけ始める。
「ほら、イッセー、いくわよ!」
流れ始めた音楽にリアスが手を出す。
一誠が夏休みの合宿中に習ったとおりに手を取り、踊り始めると、気付けばピンクとシルバーも踊っていた。ヒーロースーツで社交ダンスというトンチキな取り合わせだが動きが良いため様にはなっていた。
一瞬そちらに気を取られた一誠だったが、ステップがぶれたことで自分達のダンスへと意識を戻し、ふとリアスと目が合った。
「イッセー。上手よ。お母さまのレッスンがきちんとあなたの身についていたようね。……良かったわ。これでいざというときも……」
頬を染めながらのリアスの言葉の意図を理解せぬ内に終曲し、挨拶を交わす。
「うふふ。なんだ、心配して損しちゃった☆ 二人ともいけるじゃない!」
ピンクが拍手と共に賛辞を贈ると石の扉が開いていく。
「さ、二人とも先に進んで! 第二の試練にゴーなのよ!」
開いた通路を進んでいくのだが、その後ろにはシルバーがついてきていた。
「て―ええっと、シルバーも一緒に行くのか?」
天魔と呼びそうになった瞬間、マスクの目の部分がギラリと輝く。慌てて言い直すとシルバーがあっさりと答えた。
「ルシファー様のご要望で、試練の様子を撮影することになっています。路傍の石とでも思っていて下さい」
光を反射する白銀を路傍の石にするのは明らかに無謀だが、なるべく気にしないように進んでいく。
再び開けた空間が広がり、その先にはグリーンが待っていた。
第二の試練はテーブルマナーということで審査をするメイドの前で食事を進める。
リアスはもちろん一誠も高得点で突破し、第三の試練へと進むことになった。
「そういえば部長」
「なに?」
「サーゼクスさまとグレイフィアさんの恋愛が俺の家で話題になってましたけど、一体昔に何が起こったんですか?」
「……そうね」
第三の試練への道中でふと尋ねた一誠にリアスは後ろからついてくるシルバーへと視線を向ける。それを受けたシルバーは一礼してリアス達を置いて通路を進んでいき、姿を消した。
「グレモリー眷属のあなたには話しておくわ。お義姉さまの姓はルキフグス。代々魔王ルシファーに仕える名門のお嬢様だったの」
「ま、魔王の……腹心一家の出ってことですか?」
一誠の問いのリアスは頷き、話を続ける。
神と魔王を失ったことで三大勢力の戦争は終結した。
しかし、旧魔王派の悪魔達は最後まで戦争継続を主張し、それに対抗する反魔王派との紛争へ発展した。
サーゼクスは反魔王派の英雄と呼ばれており、グレイフィアは前魔王側の前線で戦っていた。セラフォルーと「最強の女性悪魔」の座を争うほどの戦果を上げていたのだ。
相反する派閥同士ではあるが恋に落ちた二人は戦後に愛を深め合う事になり、その逸話はラブロマンスとして語り継がれている。
普段メイドをしているのは現魔王派への忠誠と捉えるものもいるが、魔王の妻として細々としたことをするよりもメイドとして家事などをする方を本人が望んでいるためである。また、メイドとしての立場を徹底したいということでリアスとの関係も役割に応じる形になっている。
「……憧れると共に私は二人をとても敬愛し、尊敬しているわ。けれどね、イッセー。同時に感じてしまうの。優秀な二人に比べて、私はダメな妹なのではないか? って。本当に次期当主でいいのかとさえ思ってしまうこともあるわ」
落ち込んだ様子で話を締めくくったリアスを見て、一誠はリアスも一人の同年代の女性なのだと再認識した。俯くリアスに一誠は歩み寄ると後ろから抱きしめる。
「……イッセー?」
訝しむリアスだったが、一誠は抱きしめる力を強めつつ言う。
「部長の悩み事……俺は到底想像もつかないものだと思います。けど、俺は部長のことを一度もダメだなんて思ったことありません。部長がいなかったら、俺はこんな最高の日々を送れることなんて出来なかったです。ずっと、ずっと俺にとって最高の女性です。全部知った上でそう思ってます。俺、部長に一生ついていきますから。だから、一緒にいろんなものを超えていきましょう!」
「……あなたはいつだって私を見てくれるのね。そうね。その通りだわ。私、イッセーがいてくれるなら、突き進んでいけると感じてしまう。私もあなたに夢中なのね、きっと。ええ、超えていきましょう。共に。これからも、ずっと」
一誠の言葉にリアスは手を握りつつ答える。振り向いたリアスは笑顔であり、その表情に一誠はホッとする。
直後、リアスは僅かに俯いた。
「何か言いました?」
「……いいえ。なんでもないわ。行きましょう! 最後の試練を突破するわよ!」
「は、はい!」
俯いたリアスが何か呟いた気がしたが一誠は聞き取ることが出来ず、リアスも誤魔化したことで立ち消えとなる。改めて進んだ先では先行したシルバーとブルーが待っていた。
「や、どうも」
広間には机と椅子が並べられており、筆記用具と紙が置かれていた。
「最後の試練は筆記問題なんだよ。グレモリー家に伝わる歴史と冥界の一般知識などなど、悪魔に関することを問題用紙にまとめて、テストとして試験するわけさ」
試練の内容を聞き、一誠が青ざめる。学び始めたのが夏以降と積み重ねの足りない部分での試練であるため一気に不安が襲ってきていた。
しかし反論の余地もなく巨大な砂時計が用意され、一時間の試験が始まった。
「はい、そこまで」
砂が落ち切ると同時にブルーが終了を宣言する。
シルバーがさっと紙を回収し、集中の切れた一誠はそのまま机に突っ伏した。
そのまま紙はブルーへと回され、採点が始まる。後半に移るにつれて不正解と思しき動きが増える中、一誠は固唾をのんで見守る。やがて採点が終わったのか軽く机で整えるとブルーが顔を上げた。
「リアス・グレモリーは問題なく合格。それで、赤龍帝の兵藤一誠くんは……」
そこでブルーは言葉を切る。そして一誠の緊張が一気に高まったのを見計らい、口を開く。
「合格だが、ここで突然クイズ! 間違ったらそこで即終了! 兵藤一誠くんのみ答えてもらおうか!」
突然の宣言に一誠が目を剥く。それに構わずブルーは言葉を続ける。
「我ら悪魔は七十二柱という序列がむかし存在した。その旧序列を一位から七十二位まで述べよ」
「バアル、アガレス、ヴァサーゴ、ガミジン、マルバス、ヴァレフォール、アモン、バルバトス、パイモン、ブエル、グシオン、シトリー、ベレト、レラィエ、エリゴス、ゼパル、ボティス、バティン、サレオス、プールソン、モラクス、イポス、アイム、ナベリウス、グラシャラボラス、ブネ、ロノヴェ、ベリト、アスタロト、フォルネウス、フォラス、アスモダイ、ゲアプ、フールフール、マルコシアス、ストラス、フェニックス、ハルファス、マルファス、ロイム、フォカロル、ウェパル、サブノック、シャックス、ウィネ、ビフロンス、ウヴァル、ハーゲンティ、クロセル、フールカス、バラム、アロケル、カイム、ムールムール、オロバス、グレモリー、オセ、アミィ、オリアクス、ウァプラ、ザガン、ヴォラク、アンドラス、フラウロス、アンドレアルフス、キメリイェス、アムドゥスキアス、ベリアル、デカラビア、セーレ、ダンタリオン、アンドロマリウス! どうだ!」
一気に言い切った一誠は肩で息をする。覚えるべきことということで夏以降ずっと暗記を練習し、最近ようやく暗唱でいるようになったのだ。
ちなみにグレイフィアのルキフグスのように七十二柱以外にも純血の上級悪魔は存在し、それらは「
答えきり息を吐いた一誠にブルーは容赦なく次の問いを与える。
「お見事。では、そのなかで御家断絶している家は?」
ブルーの問いに一誠は息を呑む。そして集中のため目を閉じると順番に答え始めた。
「マルバス、ヴァレフォール、ブエル、グシオン、レラィエ、エリゴス、ボティス、バティン、モラクス、イポス、アイム、ブネ、ロノヴェ、フォラス、ゲアプ、マルコシアス、ストラス、ハルファス、マルファス、ロイム、ウェパル、サブノック、ウィネ、ビフロンス、ハーゲンティ、クロセル、アロケル、カイム、ムールムール、オロバス、オセ、アミィ、ザガン、アンドラス、フラウロス、キメリイェス、アムドゥスキアス、デカラビア、セーレ、アンドロマリウス! ど、どうだ!」
一誠は答え終わると同時に自信なさげに刮目し、僅かに歯噛みする。しかし、ブルーは頷くと拍手を贈る。
「正解。やるじゃないか。転生悪魔になったばかりだから、知らないと思ったんだけどね。かなりの意地悪問題だったけど……合格を授けよう」
ブルーに続き、シルバーも拍手を贈る。
大きく息を吐いて安心した様子の一誠を前に、ブルーが高らかに宣言した。
「これにてグレモリー家の儀式―男女の試練は終了。おめでとう」
「「やった!」」
試練を乗り切ったことを喜び合い、一誠とリアスがハグをする。
「部長ぉぉぉぉぉっ! 俺達、無事に完遂しましたねぇぇぇっ!」
「ええ! よくやったわ! イッセー! これで私達の仲を疑う者なんていなくなるわ! ああ、やっぱり、私とあなたは最高のパートナーなのね!」
歓喜に沸きつつリアスが一誠の頬に何度もキスをする。ひとしきり喜ぶのを見届けてブルーは最後の扉を開いた。
「さ、奥でレッドがお待ちだ。合格を報告してくるといい」
二人は頷き合い、通路を進んでいく。
その先は
中央の武舞台にレッドとイエローが待っている。
「おめでとうございます、お二人とも」
イエローから賛辞を贈られ一誠が肩の力を抜く。しかし、そこにレッドが進み出た。
「よし! よくぞ、ここまで来た! しかーし! これで終われるほど、グレモリー家の試練は甘くないのだ! 兵藤一誠くんには真の最終試練としてこのサタンレッドと戦ってもらうぞ! 見事この私を倒してみせろ!」
そう言って紅いオーラを纏ったレッドに一誠は驚愕する。魔王とのタイマンなど想像の埒外の展開だった。
「魔王戦隊サタンレンジャーのリーダーとして、一度おっぱいドラゴンとお手合わせしてみたかったのだ! ふふふふ! どちらが冥界の真のヒーローになれるのか雌雄を決しようではないかッ!」
魔王と相対することに及び腰の一誠はなんとかして拒否しようとする。しかしそれを遮るようにリアスが前に出た。
「ふふふ! サタンレッド! あなたが何者か知らないけど、私のイッセーは伝説のドラゴン―赤龍帝よ! 北欧の悪神ロキをも倒したドラゴンを相手にするなんて良い覚悟だわ」
「相手はあのロキをも倒した赤龍帝! 緊張するものだ! これほどの高揚感は久しいものだな!」
未だレッドの正体に気づかないリアスは落ち着いているが、一誠は気が気でない。レッドから発される滅びのオーラに武舞台も悲鳴を上げ始め、いつそれが放たれるか解ったものではないのだ。この場で唯一レッドを止められるイエローに視線を送るが
「……無理だけはしないで下さい」
という回答に一誠は愕然とする。それに構うことなくレッドは滅びの魔力を放った。
「とう!」
「ぎゃあああああああっ!」
放たれた滅びの魔力を一誠はなんとか躱す。
飛んでいった一撃が見物席の一角を大きく削り取ったのを見て、一誠は内心で悲鳴を上げながら籠手を出現させた。
「ドライグ! 禁手になるぞ!」
『おう! 待ちくたびれていたぞ!』
宣言とともにカウントが始める。その間、レッドはポージングを決め始めた。
「変身の間、攻撃しないのがお約束なのだ!」
困惑する一誠にレッドが律儀に答える。
『Welsh Dragon Balance Breaker‼‼』
カウントが終わり、鎧が顕現した。
「禁手、赤龍帝の鎧! サタンレッド! こうなったら、容赦しませんよ!」
「ふふふふ! 望むところだ!」
互いに構え、オーラを滾らせ、戦いが始まった。
そして、戦闘開始から十分ほど経過した頃。
一誠は肩で息をしていた。
「どうした、兵藤一誠くん! こんなものか!? リアスへの想いはこの程度なのか!?」
そう言いながらレッドがポージングを繰り返す。
増大させ撃ち出したドラゴンショットは縦横無尽に動き回る滅びの魔力の球体に削り取られて消滅させられ、打撃戦は簡単に受け流された。
圧倒的な格の違いに歯噛みする一誠に声援が届く。
「赤龍帝くーん! がんば☆う〜ん、これおいしー☆」
「気張りなさいな。今の段階であのサーゼクス相手に十分以上も戦えるなんて将来が有望な証拠だ。正直、ここまでやれるとは思わなかった。予想以上にいい赤龍帝だよ」
「……ZZZZZZZ……」
「あ、クリーム付いちゃってますよ」
「天魔くん、おかわり!」
「はい、どうぞ。クリーム増々です」
いつの間にか見物席には魔王三人が揃っていた。すでに全員マスクを外しており、セラフォルーとアジュカはシフォンケーキを食べていた。眠っているファルビウムも口元にクリームが付いており、すでに食べた後のようだった。シルバーがそれを拭い、次いでセラフォルーにおかわりを差し出す。
ほのぼのしている見物席に一誠が恨みがましい視線を送っていると、顎に手を当てて考え込んでいたリアスが何かに気づいたように顔を上げた。
「……滅びの力。まさか! バアル家の出ね!」
やはりレッドの正体に気づかないリアスに一誠が頭を抱える。げんなりとしているとレッドが指を突きつけてきた。
「リアスが好きなのだろう? こんな調子でいいのかね? 私を倒すぐらいの気概を見せてくれないと、とてもじゃないがリアスを任せられないな!」
家族から似たような事を言われるシチュエーションは時折見るものだが、実際にサーゼクスを凌ぐ実力者が圧倒的少数である以上とても理不尽な要求だった。
いろいろと言いたいことを飲み込み、一誠は大きく息を吸う。そのまま倍加を重ねると魔力で作った火種に譲渡し、炎の息を吐き出した。
「見事なドラゴンの息だ。だが」
目の前に迫る広範囲で大火力の炎にレッドは頷くと手を横に薙ぐ。同時に滅びの魔力の球が動き回り、炎の中に潜り込むと大きく膨張した。そのまま炎の大部分は消失し、残った部分は霧散する。
とっておきの一撃があっさりと攻略され歯噛みする一誠にイエローが手招きする。その横にはリアスがいた。
一誠がレッドから視線を逸らさずに駆け寄るとイエローはとんでもない事を言い出した。
「一誠さん。リアスのお乳を触りなさい」
イエローの言葉を聞いて一誠の鼻から血が噴き出し、リアスの顔は赤く染まる。
イエローはそんな彼等を気にも留めず、簡易的な試着室を作り出すと一誠とリアスを放り込み声を掛ける。
「いいですか、リアス・グレモリー。私からのアドバイスです。あなたは赤龍帝を誰よりも深く信頼しているはずですね。それならば、彼の特性も承知でしょう。そう、彼はお乳ひとつで様変わりするのです」
諭すような言葉に天魔は深くため息を吐く。否定する要素はないのだが、認めるのは非常に心が削られる事実だった。
頭を抑えて首を振る天魔達が見守る中、簡易的な更衣室で一誠がリアスの胸を触り、オーラが一気に噴出する。
「どうせ、やるなら一発勝負! ドライグ! このパワーを全部乗せてドラゴンショットでサタンレッドをぶっ飛ばすぜぇぇぇっ!」
『応ッ! 任せろ!』
言葉通りにエネルギーが一誠の両手に集まり、まばゆい一撃へと変わる。
「それでいい! こい! キミとリアスの愛が生んだ一撃! 兄として、義兄として是非とも受け止めたい!」
対するレッドも滅びの魔力を一点に集中し、正面から受け止める姿勢を取った。
「望むところです! サタンレッドォォォォッ! いっけぇぇぇっ! 俺と部長が生んだドラゴンショット・ネオバーストォォォォッ!」
即興の技名を叫びながら極大の魔力が放たれる。
迎え撃った滅びの魔力は一瞬飲み込まれたように見えたが、そのまま一誠の攻撃を貫通して引き返し、大凡を削り取った。
不安定となった魔力は大爆発を引き起こし、その閃光と爆音に乗じてサタンレンジャー全員が撤収する。
そして、最後の一撃の後気を失った一誠が目覚めたのを見計らい、扮装を解いて入口から進んでいく。
「二人ともよくやったね」
「お兄さま。いまこちらへ?」
「ああ、そろそろしれんが終わった頃だと思ってね」
サーゼクスの声に二人が振り向く。何も気づいていないリアスが純粋に驚くのに対し一誠はジト目で天魔を見ていた。
それに構うことなくサーゼクスは二人の方に手を置く。
「よくやった。二人とも合格だ」
「これで旦那様も奥方様もご安心されることでしょう」
労うサーゼクスにグレイフィアも続く。顔を見合わせて笑う二人に天魔も笑った。
「イッセーくん、突然、このような儀式に巻き込んでしまって悪かったね」
「い、いえ! そ、そんな! 結果的に部長のお乳にも触れたんでOKです!」
「そう言ってくれると助かる。私もキミとリアスの今後が気になっていたからね。お陰で今日の出来事はいい未来を垣間見られた。リアスを頼むよ、イッセーくん」
「はい!」
「おめでとう、リアスちゃん!」
一誠の力強い肯定にセラフォルーが嬉しそうに抱きつく。
その後ろでファルビウムはだるそうにしていたが、その隣のアジュカは好奇心を目に宿して一誠へと近づいていく。
「少しばかり、キミのなかの「悪魔の駒」を見てもいいかな?」
そう言いながらアジュカは魔方陣を幾重にも展開させ一誠の「悪魔の駒」を観察し始める。魔方陣に記された文字が凄まじい勢いで動くのを眺めて楽しそうに笑った。
「へぇ、面白いことをしているね。神器の中に潜っているのか。魂を封じられたタイプだからこそできるやり方だ。やり方を示したのは堕天使総督のアザゼル、いや、天魔くんも一枚噛んでいるのかな? それはともかく、駒の力、特性が何かに左様されて少々変質しつつあるようだ。俺のプログラムではないコードで上書きがされている。「覇龍」の影響のように見えるね。しかし、意図しない上書きだからか、雑な仕上がりだ。このままでは誤作動しやすいな。よし、俺がキミのなかにある「悪魔の駒」に一工夫してみようじゃないか」
「い、いいんですか? こんな事をして。レーティングゲームとかの不正になるんじゃ?」
「もちろん、ゲームのときは発動できないようにするけど、実戦では使えたほうがいいだろう? いや、ゲームで使えても面白いか。イレギュラー好きの観戦者にウケが良いかもしれない。ルールと対戦相手次第ということにしておこう。ま、キミは赤龍帝だから、これからも敵勢と相対する。能力のアイデアが活用できる環境の方が良い。何よりもそちらのほうが見ている方も楽しそうだ。それに身内が迷惑をかけてしまったお詫びもあるしね」
ディオドラの件をあげられ、天魔が微妙な顔をする。最終的に手を下したのはシャルバだが、私怨で再起不能まで陥れたのは間違いなく天魔だったからだ。
「よし、これでいいかな」
程なくして調整は終わったらしく、アジュカは魔方陣を消す。さして変わったことはないのか胸をさすっていた一誠がアジュカに聞く。
「……何か変わったんですか?」
「変えるのはこれからのキミ自身さ。俺がやったのは切っ掛け。鍵がかかった数多くの扉の前に鍵を用意したに過ぎない。多くの扉からどれかを選び、鍵を開け、その先を進むのはキミだ」
アジュカの言葉を受け、一誠は籠手に包まれた左手を握りしめる。それを見て満足そうに頷くとアジュカは踵を返した。
「さ、帰ろうかな。俺は人間界でとある「ゲーム」を創って運営しているんでね。俺がいなくなると支障が出たりする」
「アジュカ、例の一件か? それとも趣味か?」
「ああ、趣味は大事にしたいものだ。そうだ、赤龍帝くん。キミも俺のゲームに参加しないか? 携帯端末ひとつで参加可能だよ?」
サーゼクスの問いに口の端を釣り上げて笑ったアジュカは一誠に声を掛ける。勧誘に何か感じ取ったのか一誠は半歩身を引いた。
「い、いえ、遠慮しときます」
「そうか、それは残念だ。また会える日を楽しみにするよ。革新したまえ」
その言葉を最後にアジュカは転移で去っていく。気付けばファルビウムも消えていた。
「さて、邸のほうで試練突破のパーティーを催す予定だ。リアスの眷属達もすでに呼び寄せてあるんだよ」
サーゼクスが笑顔で話す横でグレイフィアが魔方陣を展開する。魔方陣からは鷹の翼と頭に獅子の身体をした生物が姿を表した。
「これはグリフォンという魔獣だ。私達は魔方陣で一足先に帰るが、キミとリアスはこれで邸まで帰るといい」
「お嬢様へのサービスですから。一誠さまは道中お願い致します」
二人だけ空の旅となることを不思議がる一誠にグレイフィアが耳打ちする。首をひねる一誠をよそにサーゼクスが口を開いた。
「リアス、イッセーくん。最後に。パーティーで発表する予定のことだが、先に二人に伝えておこう。サイラオーグとのゲームが決まった。開催日時は駒王学園の学園祭と同時期になりそうだ。あとのスケジュール調整はこちらで行うが、それだけは覚えておいて欲しい」
突然の報告に二人の顔色が変わる。
落ち着いた後にグリフォンにまたがって飛んでいく二人を見送り、転移でグレモリー邸へと移動するのだった。
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寄り道は以上、次回からは九巻分です。