変態の双子の兄弟として   作:篠白 春夏秋冬

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第九章 修学旅行はパンデモニウム
Life.65 いろいろ試す日


 修学旅行を間近に控えたある日。

 

 リアスの眷属が揃ったため、両親に紹介すべく眷属と天魔、イリナはグレモリー家を訪れていた。

 

 修学旅行先である京都でのお土産をそれとなく催促されたりしながらお茶会を終え、帰る前に偶然訪れていたサーゼクスに挨拶をすべく、サーゼクスがグレモリー邸で利用している区画へと移動すると、サーゼクスとサイラオーグが話していた。

 

「お邪魔をしている。元気そうだな、リアス、赤龍帝」

 

「ええ、来ていたのなら一言言ってくれても良かったのに。けれど、そちらも元気そうで何よりだわ。と、あいさつが遅れました。お兄様、ごきげんよう。こちらにお帰りになられていると伺ったものですからご挨拶だけでもと思いまして」

 

「気を遣わなくても良かったのだが、すまないね。ありがとう」

 

 ついてきていたミリキャスを抱きかかえながらサーゼクスが微笑む。サイラオーグが訪ねてきた理由を計りかねてリアスが尋ねた。

 

「お兄様、サイラオーグがここに来ていたのは……?」

 

「うむ。バアル領の特産である果物などをわざわざ持ってきてくれたのだよ。従兄弟に気を遣わせてしまって悪いと思っていたところだ。今度是非ともリアスをバアル家のお屋敷に向かわせようと話していたのだよ」

 

 そこで笑みを深めながらサーゼクスは続ける。

 

「今度のゲームについていくつか話してね。リアス、彼はフィールドを用いたルールはともかく、バトルに関しては複雑なルールを一切除外してほしいとのことだ」

 

 それを聞き、リアスは瞠目するとサイラオーグへと視線を向けた。

 

「サイラオーグ、それはつまり、こちらの不確定要素も全て受け入れる、ということかしら?」

 

 リアスの真剣な問いにサイラオーグは不敵に笑む。

 

「ああ、そういう事だ。時間を止めるヴァンパイアも女の服を弾き飛ばし、心の内を読む赤龍帝の技も、俺は全部許容したい。お前達の全力を受け止めずに大王家の次期当主を名乗れるはずがないからな」

 

 サイラオーグの告白にグレモリー眷属が息を呑む。

 

 その気迫と覚悟に気圧されそうになっていると、サイラオーグはリアス、一誠と視線を移し、最後に天魔を見据えた。純粋な戦意による威圧を天魔は柳に風といなす。

 

 しかし、その体は震えていた。原因はその後ろでギャスパーである。

 

「……怖いですぅ。ぼ、僕の力を前向きに受け止める方がいるなんて……逆に怖いですよぉぉっ」

 

 震えが伝播したことで苦笑しつつ天魔がギャスパーをあやす。

 

 その様子をみて微笑んでいたサーゼクスは思い出したように口を開いた。

 

「そうだ、ちょうどいい。サイラオーグ、二天龍と―イッセーくんや天魔くんと少し拳を交えたいと言っていたね?」

 

「ええ、確かに以前そう申し上げましたが……」

 

「軽くやってみたらいい。二人の拳、その身で味わいたいのではないかな?」

 

 言葉の意味を理解するのに一誠は一拍使い、驚愕する。目を瞬かせる一誠を置いて、サーゼクスはリアスへと視線を向ける。

 

「リアス、どうだろうか?」

 

「……お兄様……いえ、魔王様がそうおっしゃるのでしたら、断る理由がありませんわ。イッセー、やれるわね?」

 

「……は、はい! 俺で良かったら!」

 

 リアスの確認に一誠が前に出る。それを見てサーゼクスは頷くと天魔へと視線を向けた。

 

「天魔くんはどうかな?」

 

 サーゼクスの確認に天魔は不敵に笑う。

 

「……やめておきます。せっかくリアス・グレモリー眷属が若手ナンバーワンの座を奪うってのに、俺の助力があったって噂が立ったんじゃ敵いませんから」

 

 天魔の挑発を聞き、サイラオーグは笑みを深める。事実上のリアス側の勝利宣言に戦意を滾らせるサイラオーグを見て、サーゼクスは頷いた。

 

「なるほど。では、私の前で若手ナンバーワンの拳と赤龍帝の拳、見せてくれ」

 

「これは良い機会をいただきました存分にお見せしましょう、我が拳を……ッ!」

 

 

 

 安全のためミリキャスは別室でグレイフィアとともに待機し、後の全員で地下のトレーニングルームに移動する。

 

 グラウンドがまるごと入りそうな広大なフィールドで一誠とサイラオーグが向かい合った。

 

 一誠が禁手のカウントダウンを始めるが、サイラオーグは動かない。余裕を見せているわけではなく全力の一誠と戦うために待つサイラオーグを見据えながらカウントが終了した。

 

『Welsh Dragon Balance Breaker‼‼』

 

 禁手が完了し、二人が同時に構えを取る。

 

 先手を打ったのは一誠。全力で背中のブースターをふかし、玉砕覚悟の突撃とともに右のストレートを放つ。

 

 対するサイラオーグは、避けずに食らった。

 

 盛大な打撃音が響き、しかしてサイラオーグはほんの僅かな身動ぎもせず立っていた。

 

 一誠は素早く距離を取り、サイラオーグが無傷であることに愕然とする。赤龍帝の籠手の能力こそ使わなかったが、防御策を講じることもなくマトモに受けられて無傷という事実が判断を鈍らせた。

 

「いい拳だ。真っ直ぐで、強い想いが込められた純粋な拳打。並みの悪魔ならこれで終わる。だが……」

 

 サイラオーグが一度言葉を切る。直後、一誠の視界から姿が掻き消える。

 

「俺は別だ」

 

 次に声が聞こえたのは背後からだった。

 

 放たれた拳を一誠は咄嗟に両腕で防御する。しかし一撃で両手の籠手は破壊され、瞠目しつつ距離を取る。

 

 籠手の修復をドライグに任せつつ痺れた両手の状態を確認する。骨は折れておらず、拳も握れる。問題なしと判断して構え直すとサイラオーグは感心したように笑みを浮かべた。

 

「ほう、吹っ飛びはしなかったか。まあ、あいさつ代わりの打撃にすぎないものな」

 

 挨拶代わりの攻撃の重さに内心で舌打ちする。素手で鎧を破壊するなど天魔でも簡単にできることではないのだ。

 

「俺の武器は三つだ。頑丈な体、動ける足、体術。 いくぞッ!」

 

 再びサイラオーグの姿が一誠の視界から消える。横からのボディブローを躱した風圧で鎧がきしみを上げるのに悪態をつきながら反撃するが、再び顔面で受けられる。やはり何の痛痒も与えていないようだ。

 

 カウンターの蹴りを大きく躱すと、空振ったその一撃が空間の端まで亀裂を作り、肝を冷やす。

 

 血脈の特質である滅びを持たず、その肉体のみでのし上がってきた壮絶な修練の跡を実感し、一誠は思わず零した。

 

「すごいです。その強さになるまで、全部、鍛えたんですか?」

 

「己の肉体を信じてきただけだ」

 

 サイラオーグの答えに一誠は兜の中で僅かに笑う。

 

 一度拳を開いて握り直し、改めて構える。そして宣言する。

 

「「戦車」にプロモーションッ!」

 

「「戦車」だと?」

 

 一誠の中で駒が変化した。通常「兵士」がプロモーションする「女王」ではなく「戦車」を選択したことに怪訝そうにしながらもサイラオーグが攻撃を仕掛ける。

 

 一誠は衝撃に備えるように脚を踏ん張り、脚甲をスパイク状に変化させる。全身をオーラで覆い、それを増大させていく。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 増加させた力を防御に回し、右拳へと力を込める。

 

 その瞬間、サイラオーグは正面から拳を繰り出した。

 

 凄まじい衝撃とともに身体が浮きそうになるが、事前の準備が功を奏し、なんとか耐える。飛びそうになる意識を根性で繋ぎ止め、サイラオーグが拳を引く瞬間、全力の拳を顔面へと叩き込んだ。

 

 その一撃にサイラオーグは僅かにたたらを踏み、鼻血を噴き出した。

 

 一方の一誠は吐血し、兜から血を流す。肋骨が折れているのか呼吸のたびに鋭い痛みが全身に響くが、鎧は砕かれることなく原型を保っていた。

 

 重傷ではあるが目に見えたダメージを与えられたことで一誠の身体に活力が漲る。

 

 震えながらも構える一誠にサイラオーグは鼻血を拭いながら心底嬉しそうに笑った。

 

「……「戦車」への昇格か、誤った判断でもなさそうだ。こちらも力を込めて拳を放ったんだがな。お前の「戦車」としての攻撃と防御は見事だった。やることとやれることが多くなる「女王」よりも攻守のみが高まる「戦車」のほうがパワータイプのお前には似合っているのかもしれないな……どうした? 身体から疑問が見られる。俺が相手では問題か?」

 

「いえ、何ていうか……上級悪魔の方で、俺のことを……その、馬鹿にする人が多かったので……サイラオーグさんは最初からマジできているから驚いているんです」

 

 これまでライザー、ディオドラと上級悪魔からは初見で侮られることが常だった。そのため最初から自身を高く評価しているサイラオーグに困惑していたのだが、それを聞いたサイラオーグは一つ息を吐いた。

 

「そうか。お前は、いままで過小評価を受けてきたのか。安心しろ。俺はお前を過小評価などしないッ! 旧魔王派の幹部、そして北欧の悪神ロキと真正面から戦い、生き残ったお前をどうして過小評価などできようか。俺はお前と戦うのが楽しいぞ。いい拳を放ってくれるからな。鼻血を流したのは久しぶりだ。何より同じタイプと相対した喜びは大きい。その拳、鍛え込んでいるのだろう? 一発食らえばわかる。だが、ここまでにしておこう」

 

 そう言ってサイラオーグは唐突に戦意を解く。その様子に困惑しつつも一誠は構えを解かなかった。

 

「俺はまだ戦えます!」

 

「いい覇気を放ってくれる。だろうな。俺もまだまだ戦える。だが、これ以上やると、俺の歯止めが利かなくなる。最後の一撃まで味わってしまう。それではあまりにもったいない。お前はいま何かに目覚めようとしているのだろう?」

 

 その言葉で一誠に緊張が走る。僅かな手合わせで自分が可能性の模索をしていることに気づかれたためだ。

 

 今回の「戦車」へのプロモーションは一つの実験だった。

 

 先日の儀式の後、連絡先を交換していた天魔経由でアジュカから連絡が来たのだ。

 

 内容はアドバイス。現状では一誠は「女王」へのプロモーションと赤龍帝の籠手による増大をかけ合わせるとキャパシティ超過を起こしているらしく、力の流れの調整が稚拙になっているとのことだった。

 

 そのためまずは三種の駒それぞれに特化した力の使い方を覚え、その後に「女王」へのプロモーション後の調整を行うことを勧められたのだ。

 

 実際に今回の「戦車」へのプロモーションでは「女王」へのプロモーションよりも力が扱いやすく、力の流れを意識しやすかった。

 

 サイラオーグは戦闘前に脱ぎ捨てていた上着を拾うと一誠へと歩み寄り肩に手を置いた。

 

「ならばそれを得てからだ。最高の状態で殴り合う。それこそが、俺の求める赤龍帝との戦闘だ。俺達の勝負は、後日のレーティングゲームで決めるべきだ。上役の方々と大衆の前で拳を交わしてこそ、俺とお前の評価が決まる。俺にもお前にも夢があるのだから、そこで再び見えよう。リアス、リアスの眷属達、次に出会うのは夢に繋げるための舞台でだ。来い。俺は全力でお前達を打ち倒す」

 

 サイラオーグはそれだけ言い残すとサーゼクスに挨拶して立ち去った。

 

 鎧を解除して息を整える一誠にサーゼクスが歩み寄る。

 

「どうだったかな? 彼の一撃は?」

 

「……似てました。俺の拳にそっくりで驚きました」

 

 サーゼクスは頷き、微笑む。

 

「うむ、君と同じだよ。足りないものを補おうと必死で練り上げられたものだ。それゆえに力強い。全てがストレートな攻撃。それは悪魔にないものだ」

 

 サーゼクスの言葉に一誠はサイラオーグが去っていった方を見つめる。そんな一誠にサーゼクスは指を立てた。

 

「ちなみに彼は両手両足に負荷のかかる封印を施して先ほど戦っていた」

 

 その言葉にグレモリー眷属の視線が天魔を捉える。

 

 封印の有無での速度の違いは身にしみている。サイラオーグにはまだ先があることを知り武者震いする一誠にサーゼクスは続ける。

 

「彼はもうプロの「王」と比べてもなんら遜色はない。「禍の団」のテロも何度か防止し、悪魔側に勝利をもたらしている。しかし、イッセーくん。大したものだよ。あのサイラオーグと拳を交えてなおも戦闘意識を失わないとは。彼と相対した者の中には軽い手合わせでも戦意を喪失した者が出たほどだ。自慢の魔力が通じず、肉体のみで圧倒されれば、高い魔力こそがステータスの悪魔では心が折れてしまう。上級―位が高い家の者ほどプライドが高く、一度折れたら再起が難しい」

 

「俺は……もう負けたくないだけです。レーティングゲームで負けたくない。俺、ゲームではマトモに勝てたことありませんし」

 

 ライザー戦ではトドメこそ刺したものの天魔のお膳立てがあってこそで、ソーナ戦は完全にやり込められた。ディオドラ戦はゲームとして成立していないため、一誠はゲームには苦い思い出が多かった。

 

「だから、次こそは」

 

 一誠は握り込んだ拳を見下ろす。暗い表情を払拭するように天魔が肩に手を置いた。

 

「なら、修行を厳しくしないとな。電車移動でもできることはたくさんあるぞ?」

 

「修学旅行は普通に楽しませてくれ……」

 

 いい笑顔の天魔に一誠はぐったりと肩を落とすのだった。

 

 




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