天魔達はシトリー眷属と合流し、アザゼルの案内で料亭へと移動した。
「……料亭の「大楽」、ここにレヴィアタン様がいらっしゃるのか」
一誠の呟きの通り、彼等を呼び出したのはセラフォルー。ちょうど別件で京都に来ていたらしい。
案内に従い奥の座敷へ通されると和服姿のセラフォルーが待っていた。
「ハーロー! 天魔くん、赤龍帝ちゃん、ソーナちゃんとリアスちゃんの眷属の皆、この間以来ね☆」
セラフォルーのあいさつがまとめてなのは、シトリー眷属も先日の試練突破のパーティーに呼ばれていたためだ。
「ここのお料理、とてもおいしいもの。特に鶏料理は絶品なのよ☆天魔くん達も匙君達もたくさん食べてね♪」
そう言うとセラフォルーは料理を追加し始める。少し前に夕食を取ったばかりだがせっかくだからと箸をつけると案外いけるもので、食事をしながら話すことになる。
「それで、セラフォルー様はなんでここに?」
「京都の妖怪さん達と協力態勢を得るために来ました☆」
天魔の問いにセラフォルーは横チェキをしながら答える。
しかし、そこでセラフォルーは箸を置くと表情を曇らせた。
「けれどね……。どうにも大変なことになっているみたいなのよ」
「大変なことですか?」
「京都に住む妖怪の報告では、この地の妖怪を束ねていた九尾の御大将が先日から行方不明なの」
それを聞いて、襲撃を受けた面々は顔を見合わせる。
「なるほど、それであの子も」
「ええ、アザゼルちゃんから、貴方達の報告を耳にしたのよ。おそらくそういうことよね」
アザゼルが盃の酒を呷ると言う。
「ここのドンである妖怪がさらわれたってことだ。関与したのは」
「十中八九「禍の団」よね」
「となると、英雄派か……」
セラフォルーの断言に天魔が苦い顔をする。アザゼルは酒のおかわりを注ぎながら尋ねた。
「心当たりでもあるのか?」
「最近ヴァーリの周囲にハエが飛んでいたらしい。オーフィスが前に構想していた資料にも手をかけていたそうだし、厄介な事になりそうだな」
「お、お前ら、また厄介な事に首突っ込んでるのか?」
「あっちからやってくるんだよ」
目元をひくつかせている匙に天魔は適当に返す。
巻き込まれることが多い自覚のあるグレモリー眷属は苦笑いだ。
「ったく、こちとら修学旅行で学生の面倒見るだけで精一杯だってのにな。やってくれるぜ、テロリストどもが」
「どちらにしてもまだ公にすることはできないわね。なんとか私達だけで事を収束しなければならないの。私はこのまま協力してくださる妖怪の方々と連携して事に当たるつもりなのよ」
「了解。俺も独自に動こう。ったく、京都に来てまでやってくれるぜ、やっこさんどもよ」
アザゼルは再び酒を呷る。天魔は咀嚼していた料理を飲み込んでから聞いた。
「それで、俺達はどうする?」
「とりあえず、旅行を楽しめ」
「なら、そうさせてもらう」
軽い口調で聞いた天魔にアザゼルも軽く返す。
それで思考を打ち切り料理に手を伸ばす天魔に一誠は不安そうに尋ねる。
「そ、それでいいのかよ……?」
答えたのはアザゼルだった。
「何かあったら、呼ぶ。でも、お前等ガキにとっちゃ貴重な修学旅行だろ? 俺達大人が出来るだけなんとかするから、今は京都を楽しめよ」
アザゼルが頭を乱雑に撫でながら言うのに一誠は感じ入ったように頷く。
「そうよ、赤龍帝ちゃん、ソーナちゃんの眷属ちゃん達も。今は京都を楽しんでね。私も楽しんじゃう!」
セラフォルーも雰囲気を上向けるように明るい声で話した。
それに頷き、方針は観光となる。
無用な心配をかけないためにもリアスへの報告は保留となり、その日の夜は更けていった。
翌朝、修学旅行二日目の早朝。
ホテルの屋上で天魔と一誠は組手をしていた。
一誠が本気で当てにいっているのに対し、天魔は時折寸止めをしていた。
「ストップです!」
アーシアの合図で拳を止め、呼吸を整える。
「被弾十五か。大分見えるようになってきたな」
天魔が水分補給をしながら紙へと結果を記入していく。
数えているのは寸止めの回数で、まだまだ数は多いが着実に減っており、成長は目に見えるようになっている。
一誠は「騎士」へのプロモーションをしているが、天魔も制限を外しており、速度は天魔が勝っていた。
「そういえば、俺が寝てる間に飛び出していったっていうお前の可能性は音沙汰なしか?」
「ああ、どこいっちまったんだろうな……」
可能性というのは、新幹線での移動中にアジュカの用意した鍵を使い神器の中で開いた箱から飛び出した何かである。ドライグ曰くそのうち戻って来る因果にあるらしいが、行方知らずになっているのはどことなく不安になるのは止められなかった。
「二人とも早いね」
「あの大王家の次期当主とのゲームも近いからな。ここを壊さない程度に励もうじゃないか」
視線を向けると祐斗とゼノヴィアが来ていた。
昨日襲撃を受けたため木刀よりはましだということで祐斗が聖剣の短刀を作り、ゼノヴィアに手渡した。祐斗は禁手に至ったにあたり、聖剣も作れるようになっていたのだった。
その後は二人も加えて模擬戦となり、加減を間違えた天魔の拳が一誠を捉える事になった。
「じゃあ、野郎ども! 行くわよ!」
「「「おおーっ!」」」
桐生の声に三人組が雄叫びを上げながら続く。
最初の行き先は清水寺。近くのバス停で降り周囲を軽く散策してから坂を登って清水寺を目指していく。その最中、桐生がメガネを光らせながら告げた。
「ここ三年坂って言って、転ぶと三年以内に死ぬらしいわよ?」
「はぅぅぅっ! それは怖いです!」
桐生の言葉を真に受け、アーシアが天魔の腕に掴まる。
天魔がアーシアを落ち着かせるため頭を撫でようとすると、その手はゼノヴィアに掴まれた。
「ゼノヴィア?」
「……日本は恐ろしい術式を坂に仕込むのだな」
どうやらゼノヴィアも桐生の言葉を信じたらしく、天魔は苦笑する。慎重に歩を進める二人を気遣いながら登る天魔に三人の恨めしげな視線が突き刺さるのだった。
坂を登りきって仁王門を潜り、境内へ。
ようやく緊張が解け興奮した様子ではしゃぐ外国育ち三人を抑えながら一回りし、桐生の先導で銀閣寺へ向かうことになった。
「銀じゃない!?」
ゼノヴィアの開口一番がこれである。
尋常ではないショックを受けたのかゼノヴィアは呆然としている。家でも銀ピカの銀閣寺を想像して期待に胸を膨らませていただけにとても落胆していた。
動けないゼノヴィアは天魔に手を引かれながら一通り回り、昼食を済ませると次の目的地へ向かう。
「金だっ! 今度こそは金だぞ!」
金色に輝く金閣寺を前にゼノヴィアが全力で叫ぶ。
一度期待が外れた分、余計に喜んでいた。
「金だぞぉぉっ!」
両手を挙げて顔を輝かせるゼノヴィアを他の観光客が微笑ましげに眺める。そのまま立ち止まり続けるのは迷惑になるためゼノヴィアは背中を押されながら見て回るのだった。
カメラを持つ松田だけでなく一誠達も道中で写真を取りながら一通り回り、休憩所へ。
皆が抹茶を飲む中ゼノヴィアは感動に浸っており、抹茶は置きっぱなしになっていた。
休憩所を出る直前、外から女性の悲鳴が聞こえ、確認すると男性が係の者に取り押さえられていた。どうやら痴漢らしい。
「今朝も痴漢騒ぎがあったらしいな。何かここのところ行き当たる回数多くないか?」
「そうだな。松田も行きの新幹線で俺に襲いかかってきたし」
ぼやく天魔に元浜が応じる。どうやら天魔が寝ている間に乱心した松田が元浜に襲いかかったらしく、本人曰くやたらと乳に触りたかったらしい。
「お前、とうとう男に」
「ちげぇよ! あのときは、なにかが、おかしく」
「松田?」
直前まで声を荒らげていた松田が唐突にふらつくのに天魔が訝しむ。周囲の人が次々に意識を失い、起きている人間はいなくなった。
人目を気にする必要がなくなったことで店員も本性を漏らし、狐耳と尾を露わにする。
しかし敵意は感じないため天魔が短剣を抜いたゼノヴィアを手で諌めているとロスヴァイセが駆けてきた。
「戦闘にはなっていないようですね」
「ええ、誤解は解けましたか」
「はい、九尾のご息女があなた達に謝りたいそうで、アザゼル先生に言われて迎えに来ました」
天魔とロスヴァイセの会話についていけない一誠達が困惑する。
店員に扮していた女性が前に出ると深く頭を下げた。
「私は九尾の君に仕える狐の妖でございます。先日は申し訳ございませんでした。我らが姫君もあなた方に謝罪したいと申されておりますので、どうか私達についてきてくださいませ。行先は我らの京の妖怪が住む裏の都です。魔王様と堕天使の総督殿も先にそちらへいらっしゃっております」
案内に従い脚を踏み入れた先は異界だった。
時代劇の町並みのセットのように古い家屋が立ち並び、様々な場所から妖怪達が顔を覗かせていた。
時折驚かせてくる妖怪達に一誠達が驚きながら、裏京都と呼ばれるらしい町並みを歩いていく。
街を抜けて川を渡り、林に入る。その奥の大きな鳥居の奥に屋敷が建っていた。
「お、来たか」
「やっほー、皆☆」
待っていたのはアザゼルとセラフォルーに加え、もう一人。
天魔達に襲いかかった妖怪を率いていた少女が豪華な着物に身を包んでいる。
「九重さま、皆様をお連れ致しました」
案内の者はそれだけ告げると炎の中に消えていく。
独特な転移の方法に一誠が驚く中、九重と呼ばれた少女が一歩前に出る。
「私は表と裏の京都に住む妖怪達を束ねる者。八坂の娘、九重と申す」
自己紹介をしたあと、深く頭を下げる。
「先日は申し訳なかった。お主たちを事情も知らずに襲ってしまった。どうか、許して欲しい」
九重に最初に応じたのはゼノヴィアだった。
「ま、いいんじゃないか。誤解が解けたのなら、私は別にいい。せっかくの京都を堪能できれば問題ないよ。もう二度と邪魔をしないならね」
「そうね、許す心も天使に必要だわ。私はお姫様を恨みません」
「はい。平和が一番です」
ゼノヴィアにイリナとアーシアも続く。
「てな感じらしいんで、俺も別にいいかな」
「右に同じだ。頭を上げてくれ」
「し、しかし……」
少々出遅れたが一誠と天魔も許す姿勢をみせる。しかし、九重はまだ思うところがあるらしかった。
それを感じ取った天魔は膝をつき、九重に目を合わせながらいう。
「九重、お母さんのことが心配だったんだろ?」
「と、当然じゃ」
「気持ちはわかる。俺も家族の誰かが攫われたなんてことになれば、周囲の連中が全部が疑わしくなって、部外者にも襲いかかるかもしれない。そんなもんなんだよ。でも、関係ない相手からしたら不快なことであることには違いない。それが悪いことだと思ったから、九重はこうして謝っているんだろ?」
「うむ」
「なら、俺達は九重に思うところはない。責めたりしないさ」
「……ありがとう」
諭す天魔に九重は顔を赤くしながら礼を言う。
天魔が一つ頷いて立ち上がるとアザゼルは半眼を向けていた。
「お前、いくらなんでも節操ってもんがなさすぎるだろ」
「そういうつもりでやってねぇし、そもそもお前に言われたくねぇよ」
「あ?」「お?」
軽いやり取りのあと二人はメンチを切り始める。
周囲を威圧しようというわけではなく雰囲気を変えるためのやり取りであり、一誠達からは苦笑が漏れる。
それを横目で確認して同時に舌打ちをしながら視線を切る。
意図を汲んだセラフォルーと一誠が二人を形だけ宥め、空気がリセットされた。
状況が切れたのを契機に九重が顔を上げる。
「……咎がある身で悪いのじゃが……どうか、どうか! 母上を助けるために力を貸してほしい!」
それは少女の悲痛な叫びだった。
この京都を取り仕切る妖怪のボス―九尾の狐こと「八坂」は、須弥山の帝釈天から遣わされた使者と会談するため、数日前にこの屋敷を出たという。
ところが、八坂は帝釈天の使者との会談の席に姿を現さなかった。不審に思った妖怪サイドが調査したところ、八坂に同行していた警備の鴉天狗を保護した。瀕死の状態だったそうだ。
その鴉天狗が死の間際、八坂が何者かに襲撃され、攫われたことを告げたらしい。
そこで京都にいる怪しい輩を徹底的に探していたところにちょうど現れた悪魔である天魔達が襲われたのだ。
その後、アザゼルとセラフォルーが九重達と交渉し、冥界側の関与は無いことを告げ、相手の手口から今回の首謀者が「禍の団」―ついでに天魔の所見から「英雄派」可能性が高いと情報を提供した。
現在、天魔達は屋敷に上がり、大広間で九重を上座にして座っている。
「ま、各勢力が手を取り合おうとすると、こういうことが起こりやすい。オーディンの時もロキが来ただろう? 今回はその敵役がテロリスト共だったわけだ」
心底不機嫌そうにアザゼルが言う。基本的に平和主義のアザゼルには今回の件も腹に据えかねる問題である。
「総督殿、魔王殿、どうにか八坂姫を助けることはできんのじゃろうか? 我らならばいくらでも力をお貸し申す」
そう言ったのは九重の脇に控える天狗だった。彼は天狗の長で、古くから九尾の一族と親交が深いらしい。今回の件も痛く心配しているようだった。ちなみに逆側には案内だった狐の女性が控えている。
天狗は巻物を取り出すと天魔達に見えるように広げる。
そこに描かれたいたのは巫女装束を着た金髪の美女だった。狐の耳と九本の尾も描かれており、九重の母―八坂とのことだった。
「八坂姫をさらった奴らが未だにこの京都にいるのは確実だ」
「どうしてそう思うんですか?」
アザゼルの言葉に一誠が質問する。アザゼルはそれに答えることなく天魔へと視線を向け、それを受けた天魔は一瞬視線を彷徨わせた後説明を始めた。
「京都全域の気が乱れていないからだ。九尾の狐はこの地に流れる様々な気を総括してバランスを保つ存在でもある。京都ってのはその存在自体が大規模な力場。九尾がこの地を離れるか、殺されていれば京都に異変が起こることになる。まだその予兆すら起きていないってことは、八坂姫は無事であり、攫った奴らもここにいる可能性が高い……で合ってるよな?」
天魔の説明にアザゼルが頷く。軽く息を吐いた天魔から視線を外し、セラフォルーへ向けた。
「セラフォルー、悪魔側のスタッフは既にどれぐらい調査を行っている?」
「つぶさにやらせているのよ。京都に詳しいスタッフにも動いてもらっているし」
アザゼルが天魔達を見渡すように視線を向ける。
「お前達に動いてもらうことになるかもしれん。人手が足りなさすぎるからな。特にお前達は強者との闘いに慣れているから、対英雄派の際に力を貸してもらう事になるだろう。悪いが最悪の事態を想定しておいてくれ。あと、ここにいない木場とシトリー眷属には俺から連絡しておく。それまでは旅行を満喫してていいが、いざというときは頼むぞ」
『はい!』
返事をする一誠に合わせ、天魔も頷く。
九重が手をつき、深く頭を下げる。両脇の狐の女性と天狗も続いた。
「……どうかお願いじゃ。母上を……母上を助けるのに力を貸してくれ……。いや、貸してください。お願いします」
頭を下げる少女を見て、天魔の視線は鋭くなる。
きつく拳を握りしめ、静かにオーラを揺らめかせ、静かに呼吸をしていた。
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