変態の双子の兄弟として   作:篠白 春夏秋冬

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Life.70 可能性の帰還

 渡月橋に戻った後は襲撃もなく、天魔達は二条城の観光をしてホテルへと帰った。

 

 最終日は午前に京都駅周辺で土産などを買う時間のあとで移動となるためこの日がホテルで過ごす最後の夜となり、やってきた元浜と松田とともに撮影したデータを見ながら思い出話に花を咲かせた。

 

 就寝時間が間近となったことで解散し、グレモリー眷属、シトリー眷属、イリナ、アザゼル、セラフォルーが天魔の部屋に集まった。

 

 一誠の部屋がいざというときの集合場所だったが、事ここにおいて全員が集まるには狭く、人避けの結界を厳重に敷いて集まることになった。

 

 中央に広げられた地図を前にアザゼルが全員を見回して口を開く。

 

「では、作戦を伝える。現在、二条城と京都駅を中心に非常警戒態勢を敷いた。京都を中心に動いていた悪魔、堕天使の関係者を総動員して、怪しい輩を探っている。京都に住む妖怪達も協力してくれているところだ。いまだ英雄派は動きを見せてないが、京都の各地から不穏な気の流れが二条城を中心に集まっているのは計測できている」

 

「不穏な気の流れ?」

 

 祐斗がアザゼルに訊く。

 

「ああ、京都ってのは古来、陰陽道、風水に基づいて創られた大規模な術式都市だ。それゆえ、各所にいわゆるパワースポットを持つ。晴明神社の晴明井、鈴虫寺の幸福地蔵、伏見稲荷大社の膝松さん、挙げればキリがないほどに不思議な力を持つ力場に富んでいる。それらが現在、気の流れが乱れて、二条城の方にパワーを流し始めているんだよ」

 

「ど、どうなるんですか?」

 

 匙が生唾を飲み込みながら訊く。

 

「わからんが、ろくでもないことは確かだ。奴らはこの都市の気脈を司っていた九尾の御大将を使って「実験」とやらを開始しようとしているんだからな。それを踏まえたうえで作戦を伝える」

 

 アザゼルの言葉に皆が頷いたことを確認して、改めて告げる。

 

「まずはシトリー眷属。お前達は京都駅周辺で待機。このホテルを守るのもお前達の仕事だ。一応、このホテルは強固な結界を張っているため、有事の際でも最悪の結果だけは避けられるだろう。それでも不審な者が近づいたら、シトリー眷属のメンバーで当たれ」

 

『はい!』

 

「次に天魔とグレモリー眷属にイリナ。いつも悪いが、お前達はオフェンスだ。この後、二条城の方に向かってもらう。正直、相手の戦力は未知数だ。危険な賭けになるかもしれないが、優先すべきは八坂の姫を救うこと。それができたらソッコーで逃げろ。奴らは八坂の姫で実験を行うと宣言しているぐらいだからな。……まあ、虚言の可能性も高いが、あの曹操の言動からするとおそらく本当だろう。俺達が参戦するのを望んでいるフシがあったからな」

 

「お、俺達だけで戦力足りるんですか?」

 

 一誠が声を上げる。六人で攻め込むことに気後れしている様子だ。

 

「安心しろ。テロリスト相手のプロフェッショナルを呼んでおいた。各地で「禍の団」相手に大暴れしている最強の助っ人だ。それが加われば奪還の可能性は高くなる」

 

「助っ人? 誰ですか?」

 

「とんでもないのが来てくれることだけは覚えておけ。これは良い報せだな」

 

 祐斗の質問にアザゼルは何故か天魔を見ながら答える。

 

 ニヤついた様子に不穏なものを感じた天魔だったが、今追求することではないので流す。

 

「それとこれはあまり良くない報せだ。今回、フェニックスの涙は三つしか支給されなかった」

 

「へぇ……随分多いな。ありがてえ」

 

「いやいや、た、足りなくないか!? いちおう、対テロリストなんだぞ!」

 

 天魔の言葉に匙が素っ頓狂な声を上げる。

 

 それにこてるようにアザゼルは厳しい表情で言う。

 

「匙の言うこともわかる。だが、世界各地で「禍の団」がテロってくれるおかげで涙の需要が急激に跳ね上がってな。各勢力の重要拠点への支給もままならない状態だ。もともと大量生産ができない品だったもんでな、フェニックス家も大変なことになているってよ。市場での値段も高騰しちまって、ただでさえ高級品なのに、頭に超がふたつはつきそうな代物に化けちまった。噂じゃ、レーティングゲームの涙使用のルールも改正せざるを得ないんじゃないかって話だ。お前達の今後のゲームに影響が出るかもしれないことだけ頭の隅に置いておけ」

 

 アザゼルの言葉に匙が目を丸くする。現状の準備が十分に破格のことであると気付いたのだ。

 

 それを確認してアザゼルが続ける。

 

「これは機密事項だが、各勢力協力して血眼になって「聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)」の所有者を探している。レアな神器だが調査の結果、アーシアの他に所有者が世界に何人かいると発覚しているからな、スカウト成功は大きな利益になる。冥界最重要拠点にある医療施設などにはすでにいるんだが、スカウトの一番の理由はテロリストに所有者を捕獲されないためだ。優秀な回復要員を押さえられたらかなりマズイ。現ベルゼブブ、アジュカも回復能力について独自に研究しているそうだが……。まあ、いい。それとグリゴリでも回復系人工神器の研究も進んでいる。実はアーシアに陰で回復の神器について協力してもらってな。良い結果も出ている」

 

 アザゼルの言葉に視線の集まったアーシアが照れる。

 

「てなわけでだ。この涙はオフェンスのグレモリーに二個、サポートのシトリーに一個支給する。数に限りがあるから上手に使ってくれ」

 

『はい!』

 

 アザゼルの指示に皆が返事をする。アザゼルの視線が匙に移った。

 

「匙、お前は作戦時、グレモリー眷属のほうに行け」

 

「お、俺っスか?」

 

 匙が自身を指でさしていた。予想外のオファーだったのだろうが、すぐに自分の役目が理解できたようだった。

 

「……龍王、ですか?」

 

「ああ、そうだ。お前のヴリトラ、龍王形態は使える。あの黒い炎は相手の動きを止め、力まで奪うからな。ロキ戦のようにお前がグレモリーをサポートしてやってくれ」

 

「そ、それはいいんですけど、あの状態って、意識を失いかけて暴走気味になりやすいんです」

 

「問題ない。ロキの時と同じようにイッセーがお前の意識を繋ぎ止めてくれるだろう。イッセー、そのときは匙に話しかけて何とかしろ。天龍なら、龍王を制御してやれよ」

 

「は、はい!」

 

 一誠が緊張気味に返事をすると、イリナが手を挙げた。

 

「あの、このことは各勢力に伝わっているのですか?」

 

「当然だ。この京都の外には悪魔、天使、堕天使、妖怪の者達が大勢集結している。奴らが逃げないように包囲網を張った。ここで仕留められるなら、仕留めておいたほうがいいからだ」

 

「外の指揮は私に任せてね☆悪い子がお外に出ようとしたら各勢力と私が一気にたたみ掛けちゃうんだから♪」

 

 アザゼルの回答にセラフォルーも続いた。

 

「それと駒王学園にいるソーナにも連絡はした。あちらはあちらでできるバックアップをしてくれているようだ」

 

「アザゼル、うちの部長たちは?」

 

 名前が上がらなかったことに疑問を持った天魔の質問に、アザゼルは顔を少ししかめた。

 

「ああ、伝えようとしたんだが……タイミングが悪かったらしくてな。現在、あいつらはグレモリー領にいる」

 

「何かあったのか?」

 

「どうやら、グレモリー領のとある都市部で暴動事件が勃発してな。それの対応にでているようだ」

 

 暴動と聞き、一誠が身を乗り出す。しかし、アザゼルは苦笑していた。

 

「旧魔王派の一部が起こした暴動だ。「禍の団」に直接関与している輩でもないらしい。それでも暴れているらしくてな、あいつらが出ていったわけだ。将来自分の領土になるであろう場所だからな。それにグレイフィアが出陣したと報告を受けた。まあ、あのグレイフィアが出たとなると、相手の暴徒共もおしまいだろう。正確かどうかはわからないが、グレモリー現当主の奥方もその場にいるそうだ。グレモリーの女を怒らせたら大変だろうさ」

 

 そう言うアザゼルは僅かに身震いする。

 

 それを裏付けるようにセラフォルーが口を開いた。

 

「まあ、「亜麻髪の絶滅淑女(マダム・ザ・エクステインクト)」、「紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)」、「銀髪の殲滅女王(クイーン・オブ・ディバウア)」がそろっちゃうのね☆うふふ、暴徒の人たち、大変なことになっちゃうわね♪」

 

「……お前も将来大変だな」

 

 アザゼルが一誠の肩に手を置き、何度も頷く。

 

 天魔も少し同情的な目で見ていた。

 

「と、俺からの作戦は以上だ。俺も京都の上空から独自に奴らを探す。各員一時間後までにはポジションについてくれ。怪しい者を見たら、ソッコーで相互連絡だ。死ぬなよ? 修学旅行は帰るまでが修学旅行だ。京都は俺達が死守するいいな?」

 

『はい!』

 

 全員が返事をして作戦会議は終了した。

 

 

 

 戦闘準備を終え、天魔はロビーに降りる。

 

 アザゼルとロスヴァイセが座るテーブルにつく直前に一誠も合流した。

 

 一誠を視認するやアザゼルが立ち上がった。

 

「イッセーか。ちょうどいい」

 

「はい?」

 

 突然の言葉に一誠が困惑する。それには構わずアザゼルは懐から赤く輝く宝玉を取り出した。

 

「さっきな、ホテルの外で痴漢騒ぎがあったんだ。で、俺が偶然居合わせて女の乳をももうとしていた男をとっちめたんだが……そうしたら、身体からこれが飛び出してきてな。もしかしたらと思うんだが……」

 

『その宝玉は』

 

 宝玉を見て、ドライグがアザゼルや天魔にも聞こえるように言葉を発する。このタイミングで話し始めたドライグに天魔は嫌な予感がした。

 

「どうした、ドライグ?」

 

『ああ、それは新幹線でお前の中から飛び出していった箱の中身だ』

 

「例の可能性ってやつか?」

 

『ああ、間違いない』

 

「やっぱりか。宝玉を解析したらイッセーのオーラが検出できたんでな」

 

 天魔の確認にドライグも太鼓判を押し、アザゼルが頷く。

 

 一誠は宝玉を受け取り眺めていたが、情報を調べていたドライグが悲しそうな声で話し始める。

 

『なんてことだ……軽く宝玉の情報を調べてみたのだが……、箱の中身、お前の可能性は……様々な人間の身体を移りながら京都中を旅して回ったようだ。相手の、ち、乳を触ることで』

 

「つまり、あれか? ここ最近頻発していた痴漢騒ぎはこの宝玉が原因、と?」

 

『残念ながら、そういうことらしい』

 

 頬を引くつかせる天魔に悲しそうな声でドライグが応じる。

 

 衝撃の事実の愕然としていた一誠だったが、気を取り直してドライグに尋ねる。

 

「それでドライグ、この宝玉の塩梅はどうよ?」

 

『……まだわからん。力が高まっているのは確かなのだが……。し、しかし、この都市にいるいろいろな人間の胸を触って力を高めてくるとは……これでいいのか、お前の可能性は……』

 

 あんまりな話にフォローのしようもなく天魔は力なく椅子に座り、顔を覆う。その横でロスヴァイセは冷静に話し始める。

 

「……京都の方々に多大な迷惑をかけるなんて……。イッセーくんのせいで痴漢をしてしまった方々のフォローを後でしておかないといけませんね」

 

「俺がなんとかしておく。しかし、イッセーの可能性は何か特異な力でもかき集めているのか? 乳力と書いて「にゅーパワー」と呼ぶようなものが魔力やドラゴンの力意外にイッセーの中にあるとか……? イッセーを見ていると有り得そうでな」

 

『そんな力があるのならできる限り早く証明してくれ、アザゼル。天龍に妙な力があるなどと思われたらかなわない。少なくとも白龍皇は関係ないことは照明して貰わなくては』

 

『待て、白いの! はしごを外そうとするな!』

 

『黙れ! 私のライバルに乳龍帝などいない!』

 

『うおお〜〜ん! 終生のライバルまで俺をいびる〜!』

 

 天魔は顔を伏せ深い溜め息を吐く。

 

 そのまま集合時間まで外界をシャットアウトするのだった。

 

 

 

 オフェンスが全員集まり、自動ドアから外に出ると、シトリー眷属が集まっていた。

 

「元ちゃん、無理しちゃダメよ」

 

「そうよ、元ちゃん。明日は皆で会長へのお土産を買うって約束なんだから」

 

「おう、花戒、草下」

 

「元士郎、テロリストにシトリー眷属の意地を見せてやるのよ?」

 

「わかってるよ、由良」

 

「危なくなったら逃げなさい」

 

「足なら鍛えてるよ、巡」

 

 仲間から激励をもらう匙を眺めていると、一誠の肩に祐斗が手を置いた。

 

「部長不在のいま、仮としての僕達の「王」はイッセーくんだ」

 

「ま、マジかよ! 天魔とかのほうが良いんじゃ!?」

 

「何を言っているんだい。君は将来部長の元を離れて「王」になろうとしている。それならこのような場面で眷属に指示を送るのは当然となるんだよ?」

 

「そ、それはそうかもしれないが……」

 

 不安げな一誠に木場は続ける。

 

「昼間の渡月橋での一戦、君は土壇場の判断とはいえ、僕達に指示を出した。それが最善だったか、良案だったかはわからないけれど、僕達は無事に今ここにいる。だから、僕は少なくとも良い指示だったと思える。だからこそ、今夜の一戦、僕達の指示を君に任せようと思うんだ」

 

「そうだな。私やイリナは指示を仰いだ方が動ける。昼のお前は咄嗟とは言え、部長の欠けたチームをうまくまとめたと思うぞ」

 

「うんうん。けど、イッセーくんは無茶して飛び出しすぎるのはダメよ?」

 

「そうです。無理は禁物です」

 

「このチームに入って間もない身なので、チームでは先輩のイッセー君に任せます」

 

 眷属達に口々に言われ、一誠は感無量という表情になる。それでも不安はあるのか天魔に視線を送る。

 

「はぁ……いつまで俺の後ろを着いてくるつもりだ? そんなんで一端の「王」になれると思うのか?」

 

 挑発的な言葉に一誠は両頬を叩いて気合を入れる。

 

 それで迷いを吹っ切ったのか力強い目をしていた。

 

「わかったよ! やれるだけやってやる!」

 

 それを見て天魔はにやりと笑っていたが、ゼノヴィアの獲物に視線を止める。魔術文字の記された布にくるまれた長い獲物で、デュランダルよりも一回り大きく見える。

 

「ああ、これか。先程教会側から届いたばかりだ。改良されたデュランダルだよ」

 

「確か、制御しやすくなるように正教会側から打診があったんだったか。どうなったか楽しみだな」

 

「うむ。いきなりの実践投入だが、それも私とデュランダルらしくていいだろう」

 

 天魔の言葉に頷き、ゼノヴィアは新しいデュランダルを撫でる。そこに匙も合流し、京都駅に向かうシトリー眷属を見送って天魔達は二条城へと向かうのだった。

 

 移動はバスということで京都駅のバス停で待つ。

 

 ロスヴァイセは昼間の酔いが戻ってきたのか気分が悪そうにしている。一応自分で酔い覚ましを調合して飲んだらしいが、体調は戻っていないらしい。

 

 そのためバス移動にも不安を抱える中、天魔の背に何かが飛び乗った。

 

「私も行くぞ!」

 

 乗ってきたのは九重だった。素早く肩車の体勢となる少女に天魔が問う。

 

「九重、裏京都で待機じゃなかったか?」

 

「私も母上を救う!」

 

 確認に即答する九重に天魔が微笑む。

 

 意思は強いとみて連れて行くことを提案しようとしたところで足元に霧が立ち込め始める。

 

 驚く間もなく霧は天魔達の身体を這い上がり、全身を包まれた天魔達はその場から消失した。




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