階段を上りきり聖堂に戻ってきた天魔たちを出迎えたのは光の槍だった。しかし、それは天魔たちを貫くことはなく、魔法陣によって防がれる。すると、空中から声がかけられた。
「くくく、防いだか。そうでなくてはな。こんなもので終わってしまってはつまらん」
「よく言うぜ。今ので終わってくれればとか考えてるくせによ」
「お前はここでぶっ潰してやる! アーシアに手出しなんかさせねぇ!」
『Boost!!』
ドーナシークの言葉に天魔が煽り、一誠が叫ぶ。
そのことに苛ついたように顔を歪めたドーナシークが光の槍を生み出したことで、戦闘が始まった。
ドーナシークが構えるのを見て、天魔は魔法を撃ち始める。上から打ち下ろすようにすることでドーナシークの高度を下げ、魔法の合間を縫って殴り掛かった。ドーナシークも天魔に光の槍を放って反撃しつつ、身をかわしていく。一誠にも光を放ってけん制していたが、回避を優先した一誠には当たらなかった。
「貴様らが何を考えているかはわかっているぞ。非力な人間では俺を倒せぬ故、貴様が足止めし、あそこにいる悪魔に仕留めさせる算段なのだろう。しかし、奴の神器は「龍の手」だ。たった一の力が倍になったところで、俺には届かんぞ」
「あんまりうちの兄弟を甘く見るなよ。そうやってバカにしていると痛い目見るぞ」
「貴様もこちらを甘く見ているようだな。私が一人でないのは知っているはずだ!」
ドーナシークが声をあげると同時に至近距離にいる天魔とドーナシークをまとめて貫くように光の槍が放たれ、天魔が防御する。
「遅いぞ、レイナーレ。何をやっていた」
「……」
「な、堕天使がもう一人⁉」
光の槍の出先を見ると、二対四翼の女性の堕天使が浮かんでいた。レイナーレと呼ばれた堕天使は顔を伏せたままじっとしているのに焦れたのか、ドーナシークが声をかける。
「どうした、レイナーレ? 早くこいつらを殺せ。それとも、お友達がどうなってもいいのか?」
そういうとドーナシークは懐から禍々しく輝く球体を取り出した。一誠から見ても異質な雰囲気を漂わせるその球体を見た瞬間、レイナーレはびくりと震えるが、キッと顔をあげると涙を浮かべた目でドーナシークをにらみつけた。
「何を白々しいことを! お前は最初からあの子のことを解放する気などなかったのでしょう!」
「な、何を言って……」
叫ぶレイナーレに風向きが自分の望む方向と違うことに気付いたのか、ドーナシークが焦りだす。
「俺って結構性格悪いって言われること多いんだよなぁ」
「な、なんだ……それは」
そういって天魔も懐を探り、人形代を取り出す。その人形代はドーナシークの持つ球と同じような雰囲気を漂わせていた。
「こいつは神器「
「そ、そんな……ありえない……」
事態を理解したドーナシークは愕然とする。天魔はドーナシークの仕掛けていた呪いを神器によって無害化していた。
こんな状態ではレイナーレに対する脅迫の材料とはならず、敵が増えるということであった。
「っく! こんなはずでは!」
「おいおい、旗色が悪くなったら逃げるとかかっこ悪いんじゃないか?」
「逃がすわけないでしょ!」
「お、おのれぇ!」
「行け、イッセー!」
「ぶっ飛べ! くそ堕天使!」
『Explosion!!』
翼を広げ逃げようとするドーナシークだったが、行く先をレイナーレによって塞がれ、不安定な体勢となったところを三角飛びの要領で壁を駆けあがった天魔に蹴り落される。その先には一誠が走り寄っており、そのこぶしがドーナシークに突き刺さった。
「ば、バカな……」
ドーナシークは天魔に蹴り落とされ、不安定な状態ながらも魔方陣による防壁を展開していたが、一誠の拳はそれをまとめて突き破ってドーナシークを吹き飛ばした。
ドーナシークは壁に激突し、大きな破砕音をたてながら、壁を貫通して外へと飛んでいった。
天魔は動く気配のないドーナシークを見て、気絶していることを確認すると、にっと笑い、一誠とレイナーレに対して親指を立てる。
「よっしゃー! 勝ったぁぁぁ!」
一誠はガッツポーズを決め、勝利を喜ぶ。レイナーレは苦笑しているがすっきりとした顔をしていた。
「やぁ、終わったみたいだね」
「よぉ、遅かったじゃねぇか、色男」
「部長に邪魔するなって言われてたからね」
「部長に?」
一誠がひとしきり喜んだころ、祐斗が現れ声をかける。祐斗のセリフに疑問符を浮かべる一誠だったが、リアスから声がかかった。
「その通りよ。あなたたちなら、堕天使であっても倒せると信じていたもの」
「おや、部長。棄てられている場所とはいえ、教会の地下に転移とは、剛毅なことをしますね」
「さすがに緊張したわ。こんな事初めてだったから」
リアスがどうやって登場したか理解した天魔が冷かすが、リアスは肩をすくめてため息をついた。
「それで、無事に勝ったようね」
「ほとんど天魔のおかげですけどね」
「そうね。でも、きっとあなた一人でも勝てたはずよ」
そういいながらリアスは一誠の鼻先をつつく。
「あらあら、教会がボロボロですわ。部長、よろしいのですか?」
「え? なんかヤバいんですか?」
「教会は神もしくはそれに属する宗教のものだし、今回みたいに堕天使が所有している場合に他勢力が教会をボロボロにすると、あとで他の刺客から付け狙われることがあるんだよ。恨みと報復のためにな」
「ヤバいじゃねぇか!」
「心配すんな。ここはすでに廃棄された場所だし、突入前にも言ったが、ちょっとした小競り合いだ。こんなのどこにでもあることだから、なんも起きたりしねぇよ」
朱乃の発した言葉に一誠が不思議そうにするのに天魔が補足すると一誠は慌て始める。そこから天魔が説明をすると一誠はリアスのほうを振り向き、リアスが首肯したのを見てほっとしたように息をついた。
「……持ってきました」
「ありがとう小猫。さて、起きてもらいましょうか、朱乃」
「はい、部長」
小猫が引きずって持ってきたのはドーナシークだった。リアスが朱乃に指示を出すと、空中に水が生まれ、ドーナシークに浴びせられる。口の中に水が入ったのか、せき込みながらドーナシークは目を覚ますと周囲を見回し、リアスをにらみつける。
「……グレモリー一族の娘か……」
「はじめまして、私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主よ。短い間でしょうけど、お見知りおきを」
「フン、レイナーレを手籠めにして計画を崩してやったと得意顔になるのも結構だが、まだまだ協力者はいる。貴様ら程度すぐに」
「こねぇよ」
ドーナシークはあざ笑うように協力者の存在をほのめかすが、天魔が話を遮る。
「カラワーナも、ミッテルトも来ない。ミッテルトに関してはレイナーレを懐柔した際に話はついたが、カラワーナのほうは許せるような事情がないんでな。拘束させてもらった」
「な⁉」
絶句するも信じられないという表情をするドーナシークだったが、天魔が取り出した羽を見て表情が抜け落ちる。どうあっても助けは来ないことを悟り、絶望し始める。
天魔はドーナシークを見下ろし、何をしていたのかを話し始める。
「お前らがこの町に入ってきたころから何かしようとしていることは分かっていた。イッセーが殺された件も含めてぶっ殺してやろうかとも思ったが、リアス・グレモリーに協力することになったから、下手に動くと問題になる可能性が出てきていったん保留した。とはいえ、何をしようとしているのかは知っておこうと思った。それもアーシアと会ったことでおおよそ解けたがな。そして、期せずしてアーシアを保護したところで、一計を案じることにした。保護しているアーシアを攫わせることで、大手を振って殴り倒す機会を作ることにした。ただ、アーシア本人を攫わせると危険が大きすぎるからな。そこは代役を使ったが。そして、ここに突入する前に、レイナーレとミッテルトと協力してカラワーナの拘束をしておいたわけだ」
「おかげでこっちは無駄足を踏んだけどね」
天魔が顛末を語り終えると、リアスがため息を吐く。リアスは最終的に援護に行けないようカラワーナたちを始末しようと動いていた。しかし、レイナーレとミッテルトがカラワーナを拘束していたことで完全に無駄足となってしまった。
突入前の口論を打ち切った用事が自分たちの援護だったことに一誠が感涙しそうになっていると天魔が一誠へと体を向ける。
「さて、皆が気になっているであろう最後の一撃についての謎を解くとしよう」
天魔はそういうと一誠の左手の籠手を手に取ると掲げて見せる。
「一誠の神器は「龍の手」じゃなかったらしい。この籠手は「
皆が一誠の左腕に注目し、そこに秘められた力に引き付けられる。そこにリアスが近づき一誠に話しかける。
「まぁ、どんなに強力でも時間を要する神器はリスクも大きいわね。そうそう増大するのを待ってくれる相手なんていないわ。でも面白いわ。さすがは私の下僕君。やっぱり、イッセーは面白い子ね。もっともっと可愛がってあげるから」
「すみません。あの時、俺がアーシアを助けに行くって言った時に部長が手を貸してくれないからって、すごく失礼なことばかり言って……。でも、部長は裏で動いてくれていたのに」
「気にしなくていいわ。貴方達はまだ悪魔としての勉強が足りなかっただけ。ただ、それだけよ。強くなりなさい。これからもこき使うから覚悟しなさい。私の兵士」
「はい!」
リアスが一誠に釘を刺しつつ、頭をなでる。それに耐えかねたように一誠が謝るとリアスは気にしないように諭し、一誠は声をあげて返事をする。リアスはそれを見て満足そうに頷くと、ドーナシークへと向き直った。
「さて、あとは彼らの始末だけど」
「俺、参上」
リアスがそこまで言ったところでフリードが壁の穴から姿を現した。
「わーお! 俺の上司がチョーピンチくせぇ! どうしたものか!」
「私を助けろ! この場を切り抜ければ、褒美をとらせてやる!」
「んーんー。天使様から素敵な命令をいただきました。でもねぇ、クズの悪魔に圧倒されている上司なんて願い下げさぁ。神様に見放された堕天使様じゃぁ天国にも地獄にも行けずに無に帰るだけでしょうが。その際はぜひとも『無の体験』レポートを提出していただけると嬉しいかもしれませんぞ? あ、無理か。無だもんね。無理だねぇ。無が3つで南無三! なんてね! あっ、俺は元クリスチャンでした! 俺って悪い子ね!」
援軍となりそうなフリードの登場にドーナシークが助けを求めるが、フリードはあっさりと見捨てた。
「イッセーくん。君、素敵な能力もってたのね。さらに興味津々なり。殺しがいがあるよねッッ! 君、俺的に殺したい悪魔ランキングトップ5入りだからよろしく。次に出会ったら、ロマンチックな殺し合いをしようぜ? おっと、もちろん、君もだぜ、テンマ君。じゃあね! バイバーイ! みんな、歯磨けよ!」
笑顔で殺害予告を繰り出すフリードに背筋の寒くなる一誠だったが、フリードは手を振って姿を消す。微妙に空気が弛緩したが、改めて皆がドーナシークに向き直る。
「さて、下僕にも見捨てられるとは、哀れね。堕天使ドーナシーク、堕天使レイナーレ」
「すみません、部長。ここは一つ俺の話を聞いてもらっていいですかね。言いたいこともあるし、なんか関係者も全員揃ってるみたいだし」
堕天使二人を消し飛ばそうと魔力をたぎらせるリアスを差し止め、天魔が入り口のほうを向くと、そこにはアーシアが立っていた。
アーシア(偽)にも持たせていましたが、名前があるのは初めて出すので、タグに「オリジナル神器」を追加しました。