背にアサルトライフルと
半円状に彼女を囲む手には、鉄パイプにナイフをねじ込んだ槍やバールにボウガン、ポンプアクション式の散弾銃を持つ者もいる。
「おい、ねーちゃん!ねーちゃんだろ?この先に住んでるってのは?」
「兄貴、聞いたのは頭が赤と青の二人だって話ですが…。」
「馬鹿野郎!混ぜりゃ紫だろうが、間違いなんざよくあることだ。」
風体のよろしくない集団で、兄貴と呼ばれた男は顎でゆかりを指し、下卑た笑みを浮かべて続ける。
「まあ〜その、俺たちは流れの用心棒ってトコだ。このご時世何かと物騒だろう?だからねーちゃん家を『警備』してやろうってんだ。嫌ってなら背中の立派なそれで勝負するかい?」
男たちは善意の自警団…ではなく茜の家をどこからか聞きつけた野盗だった。
恒星間移民船に乗れなかった人類の末裔は、社会が崩壊したあともしぶとく生き残っていた。
「勝てるわけありませんね。」
彼女はため息をついて観念したように両手を上げると、アサルトライフルや
細い鎖骨と肩があらわになるキャミソールタイプのワンピース姿に野盗たちは、
「おお!分かってるじゃないかへへっ。」
そして、色めき立つ野盗をよそに腰のベルトに手を伸ばし——
どん
「勝てるわけありませんね。退かないと撃ちますよ?」
聞く耳ごと頭の半分を吹き飛ばされた男は、返事もできず糸の切れた操り人形のように倒れた。
「聞こえませんか?
中身を撒き散らし、クラキ=ニューロン発火反応の演算を止められた死体を銃口で指し、彼女はガキリ。と再びリヴォルヴァーの撃鉄を起こした。
「て、てめえ!?」
散弾銃を持つ男が腰を引き気味に発砲。ゆかりは半身をずらしてそれを避けた。生身の人間をはるかに超える動体視力と身体能力を持つ義体には、朝飯前の芸当だ。
「遅い、下手っぴ♪」
そして男がポンプを操作し引き金に力を掛けたとき、彼女は視界から消えていた。
どん
2発の銃声が重なる。散弾銃の弾は地面にめり込み、リヴォルヴァーの弾は男の頭を爆ぜさせた。
かがみ込み、懐に潜り込んた彼女は死体の緩んだ手から銃を奪いポンプを引く。
じゃこん、ぱん。じゃこん、ぱん。
槍を突き出したところに散弾を浴びた3人目は、上半身に多くの穴を開けて倒れた。
「殺せ!」
銃弾より遥かにも遅いボウガンの矢を涼しい顔で軽々と躱すとカギ付きワイヤーを射出、ボウガン男の喉を鋭い爪が抉る。
「ゴポッガハッ。」
溢れ出る血に『信じられない』という顔で、穿たれた喉を抑える彼の網膜と脳細胞が最期に灰色のスローモーションで捉えたのは、片手で銃を構え嗤う少女と雨粒のような散弾。
そして死を悟り情報の処理速度を上げた脳は、鉛玉に掻き回された。
「VOICEROIDか!?人間じゃねぇぞ!」
彼女の動きと飛び出たワイヤーを見た兄貴が、上ずった声で怒鳴る。
「シツレイな、ちょっと仕組みが違うだけですよ!」
4人目のボウガン男の死体を銃床で殴りつけたゆかりは、散弾銃を投げ捨てる。
かつて、人口の減少に悩んだ政府が行き着いた方策、『ヒト』の定義を改めることで労働力などを確保しようとした政策は、自然種のヒトと同じくクラキ=ニューロン発火反応を宿すVOICEROIDに人権を認めた。
結局、地球を捨て去るまで差別や偏見が完全に消えたわけでは無いが、法の上では対等なパートナーとして迎え入れられた。
「ま、まあ待てよ。VOICEROIDとは知らなかった、軍用義体だろ?第6世代か、見逃してやるからさ——」
どん
「ひっ。」
腰の鉈に手を掛けながら引きつった笑みを貼り付ける兄貴を無視して、彼女はリヴォルヴァーを撃った。兄貴の横で隙をみてアサルトライフルを掴もうとした男が、後頭部に風穴を開けられ5体目の死体に変わる。
「なるほど、私が
黒いリヴォルヴァーの銃口と、少女のものとは思えない感情の消えた紫の人工眼に射抜かれ、兄貴は言葉に詰まった。
「見逃してくれ…。頼む。」
瞬く間に5人を殺したVOICEROIDを前に、腰が砕けへたり込んだ彼は、命乞いの言葉を絞り出した。彼のズボンには染みが広がり濡れていた。
「なるほどそうですか、久しぶりに
どん
ワイヤーのカギ爪についた血を死体の服で拭うと、再び茶色いコートを羽織る。コートを脱いだのは、挑発でも油断を誘うためでもなく、頑丈な素材とはいえマスターのコートが傷ついたり汚れるのが嫌、というわけだった。
「弱っちい。だから滅びるんですよ…。魂はすべて無に帰り、救いはなく。」
目を伏せ2020年代に、ある天才科学者が遺した言葉を呟いた彼女はリュックを背負い直すと歩き出す。クラキ=ニューロン発火反応の抜け殻が6人分、彼女を見送った。
「今晩はあそこに泊まりましょうか。」
海岸線の彼方に見える座礁した戦艦を指し、彼女はお下げを揺らした。