ダラダラ書いていたら二万文字超えてしまった……。
足取りの打ゆよ*1たるや倍旧*2して
「……只今戻りました……」
「あ、御帰り。結構時間掛かったね。……
「
「……大変だったね」
「ええ全く。途中で乱入してきたクリークさんに此れでもかと甘やかされて変な扉開きそうになりましたし」
「ああ、クリークさんね……。ライスも偶にされるけど、鳥渡、恥ずかしいよね……」
「此方の尊厳を破壊しようとするのは止めて頂きたいものです」
ベッドへ
「だ、大丈夫? ライスがマッサージしてあげよっか?」
「いやいや、入学式も経ていない小娘に其処迄気ぃ使わなくて良いですよ」
「本当? 辛かったら言ってね。ライスが力になってあげるから」
「ライスシャワー先輩は御
ホンマ、ライスは天使やでぇと、脳内のタマモさんが呟く。こんなにも誮しいライスシャワー先輩を扱き下ろした記者連中には、矢張り法の裁きを下すべきでは?
「ライスで良いよ。先輩も要らないから。一緒の部屋で過ごすんだから仲良くしていこう、ね?」
「では、ライスさんと……。よし、天使様に励まされたからには、動かない訳にはいかんですね」
「て、天使は言い過ぎだよぉ……」
「そ、然う言えば、会長さんと何しに行ってたの?」
「入学式の打ち合わせですね。新入生の代表挨拶を任されてしまったんで」
「そうなの? 凄いね。代表って事は、首席?」
「首席になってしまいました……。入学式なんて、適当に船漕ぎ乍ら話聞き流して遣り過ごそうと思ってたのに、変に役押し付けられました」
「そ、そうなんだ……」
「然も、挨拶文を迂拙が書いて呉れって、理事長直直に言われまして。なので文の内容の確認もしてきました」
「挨拶文書いたの? 凄いね」
「ネットで検索したらテンプレみたいなのが出て来たんで、厥に沿うようにして自分なりに書きました」
「一回読んで予習しておきます? 内容が可成アレなんで」
「ううん、明日ちゃんと聞くから大丈夫。アジちゃんが心を込めて書いた文だもん」
何だろう、心の鬼が身を責めて*11くる。ライスさんを騙している感が非常に強い。
「まぁ……無理強いはしませんが。偖、荷解きしますか」
「アジちゃん、荷物少ないよね」
「服飾関係が
「……厥の"辞彙"って書いてある奴って辞書なの?」
「然うです。辞書の事を"
「ころもへんに"日"って書いてあるのは?」
「
「へー、然うなんだ。読めない字
「ありゃ、厥は失礼しました。御詫びに靴舐めましょうか?」
「し、しなくて良いよ。お腹壊しちゃうよ?」
「心配する所其処ですか」
送られて来た段ボールに書いてある文字から
「まあ、斯う言う寮で相部屋ってなると、相手の為人は気に成りますよね。自分の気に入らん奴だったり、とんでもない高慢ちきで自分が気を使わないと
「う、うん。毎年新入生が這入って来ると、然う言う気の合わない子達が一緒に成っちゃってトラブルになったりってのがあるから、寮長を任されたウマ娘も困ってるんだ」
「寮長って言っても未だ学生ですよね? だのにそんな胃の痛む様な仕事やらされてんですか」
「うん。ヒシアマさんも此の時期は鳥渡元気無いの」
実際に
「うーむ、厥を考えると、ライスさんと言う天使と相部屋になった迂拙は相当幸運な部類なんですね」
「ラ、ライスは天使じゃないよぉ……」
「三女神なんぞより実際にG1捷ってるライスさん信仰した方が御利益ありそうですね。有難や~」
「止めてぇ……は、恥ずかしいよぉ……」
うーん可愛い。癒やされる。本当に先輩か? そして、そんな事を考えている迂拙は矢張り性格が
「よし、整理終わり」
「は、早いね。前の子はもっと私物が一杯あったから、未だ未だ整理が終わってなかったけど」
「一番多いのが辞書ですからね。本棚に詰め込みゃ終わりですし、私服は作業着と下着だけ。クローゼットに適当に突っ込みゃ終わり。そりゃ時間も掛かりませんわな」
「次は何するの?」
「原稿を一回通しで読んでみようかなと思ったんですけど、一個思いついた奴が有るので。ライスさんにも協力して頂きたいのですが」
「ライスが? 何すれば良い?」
「一回ジャージ脱いでスカートだけになるんで、若し迂拙が気絶したら介抱を御願いします」
「だ、大丈夫? 無理しない方が……」
「いえ、一応実験しとかないと。入学式で芋ジャースカートスタイルを指摘された時に相手を説破*16するには、実験結果を話すのが手っ取り早いんで」
「う、うん。分かった。ライスに任せて」
「有難う御座います」
一言礼謝*17し、一旦スカートを脱ぐ。ウマ娘の服には尻尾を通す為の穴が有る為、一度スカートを脱がないとジャージが脱げない。そして、ジャージを脱ぎスカートだけを着ける。瞬間、耐え難い不快感に襲われるが、ぐっと
迂拙が
「あ、起きた? 良かったぁ……」
「御手数御掛けして済みません」
「ううん、厥は別に良いんだけど、本当にスカート駄目なんだね。見る見るうちに顔が
「段段不快感が体の芯に迄到達して、酷い吐き気にも襲われたんで」
「ベッドに寝かせてから、ヒシアマさんに相談しようかなって思ったんだけど、普通に息もしているから直ぐに起きるかなって。厥で、傍で見てたんだけど、結構時間掛かったね」
「此のジャージはライスさんが?」
「うん。起きた時に
「ああ、パンツですか」
「ご、御免ね。ジャージ穿かせる為には、如何してもスカートを脱がせないと不可なくて……」
「良いんですよ別に。
「ああいうのって、男の人が穿くものだって思ってたから、鳥渡
迂拙が着用しているのは、何処ぞの将軍家も愛用しているもっさりブリーフである。色はグレーで、尻尾用の穴は強引に開けてあるが。
「有難う御座います。此れで、此の格好を兎や角言われても、スムーズに説破出来ます。ライスさんと言う証人も居るので、信頼度も補強されて万万歳です」
「う、うん。良かったね……。でも、一個気になったんだけど……」
「何ですか?」
「ウイニングライブの衣装って、制服よりも可成露出度高いけど、
「……ごふっ」
「アジちゃん!?」
クリティカルなダメージを受け厥の場に
然も、此の時に着用を強制される汎用衣装が又、迂拙の体質と致命的に相性が悪いのだ。中でも、最も使用頻度の高い"STARTING FUTURE"と呼ばれる衣装は、胸元と臍との辺りを大胆に露出するのだ。何の対策もせずに着用しようものなら、今回の実験の二の舞を演じる事になるのは明白である。
「ふふふ……今迄意識的に考えない様にしてたんですけどね……此処へ来たからには、もう逃れる術が無いんですよね……」
「毎回ライブを欠席するって訳にもいかないし……如何すれば良いんだろう……」
「インナーの着用が認められれば、多分大丈夫だとは思うんですが、ライスさん、如何思いますか」
「衣装の下にインナーを着ている子は見た事無いから、ライスも分かんないな……」
「でしょうね。まぁ、厥に就いては追い追い考える事にしましょう。問題の先送りは日本人の御家芸ですから」
「厥で大丈夫なの?」
「此れ以上考えたら本格的に
考えているだけで何故か
「偖、次は何をしましょうかね」
「御飯迄は未だ時間があるしね。学校の案内に行く?」
「今から行くと鳥渡時間が足りないと思うので、寮生活のルールとか、厥の辺りを御教示して頂ければ」
「あ、そっか、斯う言う生活初めてだもんね。色色あるけど、生活していくうちに覚える事もあるから、先ずは簡単なルールから覚えよっか」
斯くして始まったライスシャワー先生による寮生活の心得講座。門限や消灯時間から始まり、風呂の入り方から
「ふう。先ずは此れ位かな」
「有難う御座います。此れで先輩連中に睨まれずに済みます」
「そ、そんな直ぐに目くじらを立てる先輩は基本居ないから」
「基本、と言う事は、偶には居ると」
「まあ、スランプに陥っていたり、捷ちから
「まあ、然う言う手合いの扱いには慣れているので御安心を」
「ぼ、暴力は駄目だよ?」
「振るうのは言葉の暴力なので大丈夫です」
「大丈夫じゃないよ!?」
辞典を読めば解るが、良い意味の言葉よりも、悪い意味の言葉の方が遥かに多いのだ。悪口雑言に関しては
「然う言えば、一つ訊きたい事が」
「何?」
「美浦寮に、メジロ家のウマ娘って、どれ位居ます?」
「メジロ? メジロって言うと、ラモーヌさん、アルダンさん、ライアンさん……結構居るよ?」
「……ガッデム」
指折り数えて教えて呉れた。本家に限らず分家も入れれば、結構な人数が居るとの事。何と言う事だ、逃げ場が無い。
「メジロ家と何かあったの?」
「……いえ、此れは迂拙の問題なので……。卒業迄に生きていられるかな……」
「本当に何が有ったの!?」
そんなこんなで
食べ放題と
「は、恥ずかしいから、あんまり見ないで……」
「……良く食べるんですねぇ」
「うう……」
適当なテーブル席に着き、さあ手を付けようかと思った瞬間、背後から声が掛かる。
「済まない、相席しても良いだろうか」
「か、会長さん?」
「あれ、ルドルフさん? 他にも席は空いてますけど」
「いや何、鳥渡君に訊きたい事が出来たんでね」
「まあ、別に
「では、失礼して」
然うしてルドルフさんは、迂拙の隣を陣取る様に座った。ともあれ、先ずは一口頂く。大人数の食事を一度に作ると、より旨味が出て美味しくなるという話があるが、成程確かに美味い。府中刑務所のカレーは絶品と言う噂もあるが、果たして真偽の程は如何なのだろうか。続いて白米を口に運ぶ。昔、親戚の結婚式で東京に出て来た時、泊まったホテルの食事で出された米が不味くて手が止まった事が有る。
「どうだ? トレセン学園の食事は」
「米の味が餤える範疇なので取り敢えず一安心、といった所です。
「まあ、君の家で作っている米には劣るだろうが、そんなに気にする事か?」
「昔泊まったホテルで出された米が、餤えない位不味かった事があったんで、米の味には結構神経質になっています」
「自分の舌の事を莫迦舌だと言っていた記憶が有るんだが?」
「基本莫迦舌ですけど、米に関しては別です」
「そんなに違うの?」
「此れに関しては米所出身特有の感覚だと思います。……あ、然う言えば、ライスさんに米渡してない。何たる不覚……」
「だ、大丈夫、ライスは気にしてないから」
「後で必ず御渡ししますので」
「私には無いのか?」
「ルドルフさんは上納した奴
「……キョクアジサシ、段段と遠慮が無くなってきているぞ」
「持ってきた米には限りがあるんで、出来るだけ初対面の方に渡したいんです。ほら、袖の下を渡す相手は多い方が良いでしょ?」
「もう鳥渡オブラートに包んだ言い方は出来んのか」
「なら今度、山吹色の御菓子でも持って来ましょうか?」
「然う言う事を言ってるんじゃない」
「アジちゃん凄いね……会長さんとそんな会話出来るなんて」
半面識*28の範疇から脱け出ればこんなもんである。構わず次の御菜に箸を伸ばそうとした瞬間、復び後ろから声が掛かる。
「あの、済みません会長さん」
「ん? メジロライアンか。如何した?」
「会長さん、
「ああ言ったな。そして此処に居るぞ。シンボリ家とメジロ家からの誘いを、総て
「え、良いんですか? 有難う御座います」
何やら意地の悪い笑みを浮かべたルドルフさんが、態とらしく然う言う。既に御菜に伸ばした箸は引っ込めている。
「あら? ルドルフ会長とライアン? 珍しい組み合わせですわね」
「アルダンさん」
「む、メジロアルダンか。君も一緒に如何だ? 多分、君も会いたがっていたウマ娘が此処にいるぞ」
「会いたがっていたウマ娘?」
「キョクアジサシちゃんが居るって会長さんが言うから一緒に食べてたんだ。アルダンさんも一緒に食べませんか?」
「まぁっ、キョクアジサシさんが? では、私も御一緒させて頂きます」
メジロが増えた。新橋色*30とも秘色色*31とれる髪色の、豪く
「あら、ルドルフ、面白そうな事してるじゃない」
「ラモーヌか」
「姉様、此方にキョクアジサシさんがいらっしゃるみたいですよ。御一緒に如何ですか?」
「聞いた事ある名前ね。前から鳥渡気になっていたのよ。そうね、なら今回は一緒に食べましょうか」
メジロハウスだ!(BGM:化け物小屋)*32 不味い、高飛び草もバクスイの巻物も聖域の巻物も無いぞ。如何すれば、如何すれば此の状況を打開出来る。色色考えるも策は思い浮かばず、何時の間にやら目の前に食事を取って来たメジロ三人衆が勢揃いする。不味い、検察官しか居ないぞ。弁護士が居ない。此の時点で迂拙の敗訴、有罪判決は確定である。もう如何にでもな~れ☆
「偖、此処に居る佐目毛のウマ娘が、キョクアジサシだ」
「ん? 如何したキョクアジサシ。手なんか挙げて」
「……ルドルフ裁判長、発言の許可を願います」
「いや私は裁判長じゃない。序でに言えば此の場は君を責める場でもない。で、何だ?」
「迂拙の毛色は佐目毛ではなく
「む、然うなのか? 色の薄さから佐目毛だと思っていたが」
「遺伝子検査から、河原毛でも佐目毛でも無いと断定されています」
「然うか、厥は失礼」
「発言は以上です」
復び口を
「会長さん、厥の子本当に大丈夫なんですか? 顔は蒼褪めてるし、体は
「何と言うか、キョクアジサシはだな、シンボリだのメジロだのウマ娘の名家に対して、結構な偏見を持っているんだ」
「……如何言う事かしら?」
「少しでも不義理を働いたら、存在を抹殺する様な恐ろしい連中だと思い込んでいるんだ」
「厥って、完全に極道とかソッチ系の話ですよね」
「然うだ。私も去年の聖蹄祭で初めて会った時に、行き成り財布から金を出して土下座してきたんだ。
「若しかして、ルドルフ会長がウマ娘の子供相手にカツアゲしたって噂が出たのって……」
「完全に厥の一件が原因だ。私は只普通に会って話がしたかっただけなのに、噂の火消しに苦労したよ……」
「何でそんなに怯えているんですか?」
「メジロ家も、キョクアジサシに対して、茶会なりパーティーなりの招待状を送っていただろう?」
「ええ、然うですね。一回も来て呉れなかったので、迚も恥ずかしがり屋なウマ娘なのかと思っていました」
「まあ、理由は後で本人の口から言わせるとして、厥の招待を総て
「? 如何言う事ですか?」
「此方からの誘いを全て
「いやそんな事絶対にしませんよ。確かに
「私は逆に興味が湧いたわね。此処迄招待しても来ないなんて、どんなウマ娘なのかしらって」
「……ラモーヌ、今の発言は鳥渡不味いぞ」
「? 別に何も変な事は言ってないわよ」
「多分、今ので完全にラモーヌに殺されると思っているぞ」
「あ……ああ……」
「ア、アジちゃん、聢りして。大丈夫だよ。ラモーヌさんも、アルダンさんも、ライアンさんも、皆誮しいウマ娘だから……」
「父さん、母さん、先立つ不孝を御許し下さい……」
「アジちゃん! 聢りして!」
「……何で斯うなるのかしら?」
「恐らく、"興味が湧いた"と、"どんなウマ娘なのか"の二个所を曲解して、"一度も顔を見せないとは如何言う料簡だ"的な発言に受け取ったんだと思う」
「ラモーヌさんは、氛囲気と話し方が組み合わさって、近寄り難い印象が有るからなぁ」
「ライアン、如何言う意味かしら」
「醸し出す空気が重重しいって言うか……あたしの後輩にも、「ラモーヌさんって恐いウマ娘なんですか?」って訊いてくる子もいるし」
「まあ、ラモーヌが纏っている空気は、後輩が進んで寄ってくる様なものとは違うからな」
「ルドルフ、貴方迄そんな事言うのね……」
「キョクアジサシさん、心配要りませんよ。姉様は純粋に、貴方とお話をしたかっただけなんですから」
「そうそう、色色凄いって聞いてたから、一回会ってみたいなって、あたしも思ってたんだ」
「一回発言しただけで、アルダンとライアンにフォローされるなんて……」
「ラモーヌ、君は何も悪くないんだ。只、キョクアジサシの認識が、一般的なものと大分ずれているだけなんだ。加えて、一度に三人のメジロ家のウマ娘と会ってしまった事で、一時的に恐慌状態に陥っているだけだ。余り怒らないで遣って呉れ」
「別に怒ってなんていないわよ」
「あーはは~、判決何かな~。絞首刑かな~斬首刑かな~打ち首獄門かな~。あ、
「……何か、凄く物騒な事言ってるけど、そんな事する家って思われてんの? 最後、聞いた事無い単語も出て来たけど」
「だから言っただろう、酷い偏見を持っていると。私と最初に話した時も、死刑宣告を受けに来たと普通に言ってたからな。どうも、キョクアジサシの中では、名家の誘いを断るという事はとんでもない重罪となっているらしい」
「御誘いしても、色色あって来られない方は普通にいらっしゃいますよ?」
「そうなんだがなぁ。キョクアジサシの場合、
「でも、厥に就いては此の子の自業自得ではなくて?」
「ラモーヌ、確かに厥は正論なんだが、此の場では扣えて呉れ。話が
「ドラマとか漫画だと、然う言う描写も無いとは言い切れないけど、有繫に影響され過ぎじゃないですか?」
「シンボリもメジロも、家の規模が大きい上に権力もあるから、農家の娘一人を消した所で、簡単に揉み消せるとも思っているらしい。
「ルドルフ会長が最初に御会いした時は、如何やって話を進めたんですか?」
「……キョクアジサシの私服がな、工事現場の作業員が着ている様な作業着だったんでな。虐待を
「私服が作業着? 如何言う事ですか?」
「気になるならキョクアジサシに直接訊いて呉れ。取り敢えず、彼女の格好に就いて訊く事から始めるのが良いかもしれない。其処から話を膨らませて、此方に害意が無い事を懇切丁寧に説けば、多分此の恐慌状態も収まるだろう」
「うーん、でも今の状態だと、会話が出来そうに無いんですけど」
「キョクアジサシ、そろそろ戻って来て呉れ」
不意に後頭部をぺしぺし叩かれた。
「裁判長、判決ですか」
「だから裁判長じゃない。厥に、此の場は裁判でもないし、公判でも取り調べでもない。只の夕食だ」
「あ、成程。結審はしたけど、判決言い渡しは後日という事ですね」
「だから違うと言っているだろう」
今度は
「……何て言うか、会長さんが後輩相手にこんな遣り取りしてるの、初めて見た」
「
「……メジロアルダン、今此の場で厥を言わないでくれ……」
「え、ルドルフさん、そんな悩み抱えてたんですか」
「……然うだよ。後輩と会話をしていて、君が相手の時の様に気安く話せた
「ああ、トウカイテイオー先輩ですか。確かに人懐っこそうな印象は有りますね」
「私なりに色色努力はしているんだ。駄洒落で場を和まそうとしたりな」
「いや駄洒落って……」
「駄目か?」
「駄洒落って、真正面から堂堂と言われると、基本的に死ぬ程詰まらないですから。然も、ルドルフさんの成績を考えると、後輩的には地方の支店の一事務員と、本社の代表取締役が一対一で話す様な状況ですから、そんな時に死ぬ程詰まらん駄洒落を
「そ、然うなのか……。と言うか、
「大漢和辞典に収載されているので後は御自分でどうぞ。一文字目は口偏に屋号の屋です」
「キョクアジサシちゃん、凄いね。四字熟語で会長さんと渡り合えるなんて」
「御褒め頂き恐悦至極。所で、判決が言い渡されるのは何時ですか?」
「いや、判決とか無いからね。あたしもアルダンさんもラモーヌさんも、別に君を責めようって訳じゃないんだから」
「やっと会えたんですもの。色色とお話出来たら、嬉しいです」
「取り敢えず、メジロ家とヤクザを同列に見るのは止して頂戴」
「ひっ、すっ、済みません! 何卒、何卒平に御容赦を!」
「……姉様、やっとキョクアジサシさんが此処迄持ち直したんですから、空気を読んで下さい。今の高圧的な言い方じゃ、振り出しに戻りますよ」
「アルダン、何か恐いわよ」
「空気の一つも読めない姉様なんて知りません」
「アルダン……」
メジロアルダン先輩が執り成して呉れた。う、迂拙は
「こほん、改めまして、メジロアルダンと申します。どうぞ気軽に、アルダンと御呼び下さい」
「あたしはメジロライアンだよ。ライアンって呼んで良いよ。色色トレーニングの話、聞かせて欲しいな」
「……」
「……姉様……?」
「……メジロラモーヌよ」
「……はぁ、後輩に恐がられる同士、ルドルフ会長と御似合いですね」
「メジロアルダン、何か言葉の毒が強いぞ」
「キ、キョクアジサシ……です。新潟の
「別に心配要りませんよ。キョクアジサシさんは未だ中学生に成った許りの身。そんな気を使う必要はありませんよ」
「そうそう、此処で会えたんだから
「御婆様が、シンボリに先を越されたって、悔しがってたわね」
「姉様、鳥渡は学習して下さい。何で厥の話題を今出すのですか」
「や、矢っ張り御怒りのようで……?」
「別に然う言う事じゃ無いわよ。勝手にシンボリとメジロの当主が、何方が先に呼び出せるかって競ってただけ。結局、何方の当主も呼び出せずに、其処の皇帝様が一番乗りしたから、揃って項垂れてたわね。鳥渡面白かったわよ。農家の娘に、シンボリとメジロの当主が揃って振り回されてたんだから」
「お、御詫びの品は何を贈れば……」
「厥の必要は無い。競っていたといっても、仲の良い当主同士が
「あら、
「高級なドレスを用意するとか、色色なアクセサリーを上げるとか、そんな感じだな。御洒落に微塵も興味が無いキョクアジサシからしてみれば、全く惹かれないのも当然だ」
「あら、御洒落をしないんですか? 小柄で可愛らしいウマ娘だから、ワンピースとか似合うと思いますよ」
「しないですね。女物の服を着ると蕁麻疹が出るんで」
「え、何厥聞いた事無い」
「先程、制服で実験したんですけど、人事不省に陥りました」
「実験? と言うか人事不省とは穏やかじゃないな」
「そ、然うなんです。アジちゃんが、スカートだけに成ったらどれだけ我慢出来るかって、
「本当か、ライスシャワー」
「は、あ。スカートの丈も限界迄長くしたんですけど、ジャージを脱いでスカートだけに成ったら、見る見る顔色が悪くなって、直ぐにバタッて倒れちゃったんです。厥の後、三十分位気絶した儘でした」
「
「最早拒絶反応だな……」
「て事は、耳飾りを着けないのも似たような理由なの?」
「然うです。違和感が酷いわ不愉快だわで、着けていられないんです」
「残念ですね……。こんなにも可愛らしい方なのに」
「メジロアルダン、見掛けに騙されるな。中身は可成強烈だぞ……」
「強烈……ですか?」
「作業着を私服にするのを親に認めさせる為に、謀略を企てる位だからな」
「え、作業着が私服?」
「ワーク○ンで買った作業着が私服です。今被っている帽子も作業用ですね」
「……此処迄飾り気の無いウマ娘は初めて見たわ」
「
「然う言えば、髪も随分と短く切っていらっしゃいますね」
「大体3cm位を維持しています。これでも大分妥協しているんですけどね」
「……何か
「昔ですね、髪が多い事が
「……走り以外でも、色色凄いんだね。キョクアジサシちゃん」
「自分が無駄だと思ったら、徹底的に厥を排除するのが、此のキョクアジサシと言うウマ娘だ」
「只でさえ短いスパンで靴を履き潰しているんですから、削れる所は削らないと」
「だからと言って、其処迄身を削るか? 小学生のウマ娘が」
「……小学生にしては、行動力に溢れているね……」
「有り過ぎて逆に困る面もあるな。取り敢えず、人目も憚らず直ぐに土下座をするのは止めて呉れ」
「前向きな善処を検討しておきます」
「……はぁ」
「所で、パーティーの誘いを
「いや、キョクアジサシの場合は、服装以上の理由が有るな」
「ふぅん、是非聞かせて貰いたいわね」
「さあキョクアジサシ、君の出番だ」
「え、此れ、本音言って良い場面なんですか」
「大丈夫ですよキョクアジサシさん。遠慮なさらずに言って下さい」
「ほら、メジロアルダンも斯う言っているぞ」
「いや、絶対大丈夫じゃないですよね。ほら、ルドルフさんなら知ってるでしょ。
「何時の時代の話だ。ほら、さっさと吐いてしまえ。厥の方が楽になれるぞ」
「……鳥渡待って下さい。今、辞世の句を
「認めんで良い」
「だ、大丈夫。大丈夫だからね。別に何もしないから、ね?」
「あああ……笑顔が、彼の笑顔は絶対に貰して呉れない顔だ……」
「……姉様、少しは威圧感を抑えて下さい。何時迄経ってもキョクアジサシさんの本音が聞けませんよ」
「だって、気になるじゃない」
「分かりました。後で御婆様に、キョクアジサシさんを笑顔で威圧して泣かせたと報告致します」
「アルダン、厥だけは止めて頂戴。御婆様を怒らせたら、私でも只じゃ済まないのよ」
「あら、丁度良いですね。折檻されて少しでも柔和になれば、屹度後輩にも慕われ易くなりますよ」
「アルダン、貴方は何方の味方なのよ」
「勿論、キョクアジサシさんですよ。後輩を威圧するようなウマ娘なんて知りません」
「ほ、ほら、あたしもパーティーみたいな畏まった場って、鳥渡苦手なんだよね。多分そんな感じだと思うんだけど、如何かな?」
「……ライアンさん、解って頂けますか……」
「あ、矢っ張り?」
「……ドレスコードが指定されるような
「然うだねぇ、マナーに厳しい人が居ると、可成気を使うね」
「加えて、
「うんうん、解るよキョクアジサシちゃん。あたしもパーティーに行くより、アイネスと一緒に居た方が気楽で楽しいから良く解るよ。ホント、ああいうマナーって誰が考えたんだろうね」
「毛程も理解出来ないマナー身に着けるよか、危険物乙四の勉強した方が、余っ程有意義ですよ」
「ホントだよねぇ」
「……ライアン、今の発言は、メジロ家のウマ娘として如何かと思うわよ」
「だってラモーヌさん、家族しか居ない食事で、あんなガチガチのテーブルマナーとか、本当に必要なんですか?」
「メジロ家のウマ娘たる者、何時如何なる時でも優雅さと気品さを損なってはならない。だからこそのマナーと言うものよ」
「厥が原因で後輩に避けられたら本末転倒じゃないですか。現に斯うして、キョクアジサシちゃんが忌避して近寄ろうとして呉れなくなってるし」
「ライアン、貴方言う様になったわね……」
「成程、厥の様な理由でしたか。キョクアジサシさん、御安心下さい。理由としては至極納得のいくものですから。キョクアジサシさんは一般の出身、それなのに、急にパーティーに誘われたら、不安に思いますよね。マナーや、此方側特有の常識に疎いのも当然です。ですから、然う気に病まないで下さい」
「寧ろ小学生の内から、其処迄色色考えられるなんて凄いね」
「ええっと……ゆ、
「貰すも何も、最初から
「良かったなキョクアジサシ、これで一件落着だ」
貰された……生き残った……。噫嚱、生きているって、素晴らしい……。涙が
「お、おい、何故泣く」
「今、生きている事の有難さを実感しています。噫嚱、此れが最期の晩餐にならなくて良かった……」
「いや、どれだけ恐怖を覚えていたんだ」
「シンボリ家からは貰される公算が高いとは言え、メジロ家も同様に考えられるなんて出来る訳無いじゃないですか……。御三方が正面に座った瞬間、三十分後に生きている自分を想像する事が出来ませんでしたよ……」
「いや公算も何も、シンボリ家も君に対して何かする事は無いからな」
「
「厥の所為で、私は豪く振り回されたがな」
漸く目の前の料理に手を付ける。噫嚱、美味さが五臓六腑に染み渡る。
「然う言えば、自分の走りに就いて研究してるって聞いてたんだけど、どんな事してたの?」
「迂拙に
「等速ストライドを研究していたと伺っていましたが……」
「畢竟、勾配も屈曲も関係無く速度を維持し続けるのが一番走破時間が短縮出来るので、等速ストライドに行きついたという感じです」
「どんなコース走ってたの?」
「一番走っていたのは、自宅から会津若松迄、国道252号線を往復するコースです。途中に六十里越という峠が有って、カーブや勾配が大量に有るので、彼是験すには
「どの位の距離を走っていたんですか?」
「片道120km、往復240kmです。迂拙にとっては丁度良かったですね」
「え」
「……鳥渡待ちなさい。明らかに距離の桁が可笑しいわよ」
「え、皆さん此れ位走ってますよね?」
「ライスでも、毎日厥の距離走ったら、脚が壊れちゃうな……」
「いや、君の実家から会津若松迄は結構あると思ってたが、そんなに距離が有るのか?」
「峠道って曲がりくねってますから、厥の分距離が伸びるんですよね」
「距離、鳥渡盛ってたりしない?」
「ウマホのGPSを使った実測値です」
実際に走った距離や消費カロリーを計測出来るアプリを使っている。他にも走破時間や、道中の標高差抔も計測出来るので重宝している。アプリを起動し、過去のデータを見せてみた。
「……本当に走ってるわね」
「一番高い所で標高863m? 此の標高差を越えて120km……走り切れる気がしない」
「私は脚が弱いので、こんなに走れるのは迚も羨ましいですね」
「いや走り過ぎだろう。脚に何の異常も来していないのが不思議でならない」
「……あれ、走り切った時間と距離を考えると、途中何処で休憩してるの?」
「
「え、午前中だけで此の距離?」
「然うですよ。早起きして、ちゃちゃっと朝食を済ませて、さっさと家を出て、
「凄まじいな……」
「そんな子が知り合いに居たら、御婆様が会いたくなるのも納得です」
「……鳥渡待ちなさい。行程が400km超えているデータもあるのだけど、如何言う事かしら」
「ああ、厥は柏崎、直江津、渋峠、沼田を経由する周回コースです」
「軽く言わないで頂戴。明らかにランニングの範疇を逸脱しているわ」
「……可笑しいな。標高2172mとか書いてあるんだけど……」
「国道292号線を走破しますからね。日本で一番高い所を通る国道です。空気が薄いので、心肺機能を高めるには最適ですね」
「貴方ケニア出身とかそんなんじゃないわよね」
「正真正銘、純日本産です」
「鳥渡待って呉れ、そんな距離走っているなんて聞いてないぞ」
「そりゃ言ってないですし」
「親は何も言ってこないの?」
「脚が頑丈で良いわね~、としか」
「……
「
「然うですね、一日掛けて走ります。昼飯は横手山ドライブインで摂る事が多いです」
「いや、一日掛けて走るとしても明らかに可笑しい。2200m近い標高を一気に上って一気に下るんだぞ。確実に足首に異常を来す」
「でも、此の通りピンピンしてますけど」
「君はウマ娘の皮を被った新種か?」
「失敬な。何処にでも居る一般的なウマ娘ですよ」
「君みたいなウマ娘が遍在して堪るか」
迂拙も有繫に此の距離は長く感じるが、休憩を挟み乍らなら走り切れる。だが、皆さんは違うらしい。因みに横手山ドライブインでは、迂拙の与り知らぬ間に、会えたら幸せになれるウマ娘の様な扱いになっていた。座敷童か? 中には、「此の子は将来ビッグになる!」とか言ってサインを
「うん、キョクアジサシちゃんが規格外ってのは良く分かったよ……。真似したら絶対体壊す」
「御婆様が執心するのも納得ね。こんな規格外、会って話さない手は無いわ」
「これだけの距離を走り乍ら、コーナーが来る度に、色色考えていたんですね」
「ええ、
「此の距離を走って猶、頭が働くだけの余裕が有るのが凄いな。天皇賞春の距離でも、ペースを考えないと上がり3Fに差し掛かる頃には頭が働かなくなったりするからな」
「慣れりゃ如何って事無いですよ」
「慣れで片付けるな」
「で、肝腎の等速ストライドの完成度はどれ位かしら?」
「完成形にのいては居ると思います。でも、未だ粗は探せば出てくると思うので、研究は続けますよ」
「此れだけ走っても、完成しないのが等速ストライドって技術なんだね……」
「此れが完成だって自分で思ってしまえば、其処で成長が止まってしまいますから。此の手の技術って、磨き続けないと劣化する一方ですよ」
「厥の考え方は見習わないとな」
「
「ああ、正しく厥の通りだ」
「如何言う意味でしょうか?」
「頂に登り詰めたら、後は転げ落ちるだけだから、ど慢心するな。と言う事です」
「普通のウマ娘だったら、此れだけ努力したんだって天狗に成っている所だろうけど、厥の気配が無いのは立派な強みね」
「……姉様が、素直に褒めた……?」
「アルダン、貴方は私の事を何だと思っているのかしら?」
畢竟、迂拙は只長く走れるだけのウマ娘だと思っている。
皿が空になったので、一言断って御代わりを取ってくる。貰された安堵感からか箸が進む。
「ライスちゃんもだけど、キョクアジサシちゃんも良く食べるね」
「走る距離が距離なので、食事量は多い方だと自分でも思います。まぁ、今日の場合は気疲れから来るものですけど」
「……そんなに恐かった?」
「
「もう鳥渡穏やかに会いたかったね」
「メジロライアン、出合頭に土下座されるよりかは遥かにマシだと思うぞ」
「御三方の
「キョクアジサシ、私に対しては何か無いのか?」
「悪い笑みを浮かべ乍ら此の状況を作り上げた閻魔大王に何を言えと? 未だ誠意が足りないと言うのであれば、腎臓売って金作ってきますけど」
「……砕けた態度で居て呉れるのは嬉しいんだが、素直に喜べない文言がポンポン出て来るのが如何にも……」
「
「整備士、悪名高い暴君と同列に並べられるのは有繫に心外だぞ」
「あ、武烈天皇の方が良かったですか?」
「大して変わらんだろう」
「会長さん、整備士って何ですか?」
「キョクアジサシの小学校での
「厥って、所謂苛めと言うものではありませんか?」
「当の本人が気に入っていると公言して憚らないんだ。現に、試しに使ってみたが顔色一つ変わっていないだろう」
「……何と言うか、感性も変わっているのね……」
「背景知ってないと、周りから苛めているって受け取られそうですね」
「然うだな。使う場面は気を付けないと不可ない」
「整備士が駄目ならアニサキスでも良いですよ」
「余計に悪化しているではないか」
「あたしは……アジサシちゃんって呼ぼうかな」
「アジで良いですよ。基本的には然う呼ばれるんで」
「もう綽名で呼び合える迄距離を縮められたか。良かった良かった」
「逆にルドルフさんは何で毎回名前を全部言うんです?」
「何と言うか……癖みたいなものだ。自然と言ってしまうんだ。例外はラモーヌ、シービー、テイオー、シリウス位か」
「多分厥も後輩が近寄ってこない原因の一つだと思いますよ。口調が堅苦しい上に毎回毎回フルネームで呼んでくるんですから。あ、此奴仲良くする気無いなって思われても仕方ありませんよ」
「ぐっ……君は毎回痛い所を突いてくるな……」
「試しに綽名で呼んで貰う所から始めてみては? ルドっさん」
「あら、面白そうね。私は……ルナって呼ぼうかしら」
「ラモーヌ、厥だけは止めて呉れ」
「え、何を如何したらルドっさんがルナに成るんですか」
「ルドルフの幼名よ。可愛らしい名前でしょ」
「良いですね。ルナちゃん呼びを解禁すれば、一気に親しみが湧きますよ」
「整備士、私を
「そりゃぁもう」
「良いですね。私もルナさんと御呼びしても宜しいでしょうか?」
「メジロアルダン、頼むから厥だけは……」
「しくしく、ルナさんは私の事をアルダンと呼んで呉れないんですね……」
「……アルダン、君はそんなキャラのウマ娘だったか?」
「あら、私は私の儘ですよ」
「アルダンさん凄いなぁ……。あたしには出来そうに無いや」
「ライアンさん、此処は流れに乗ってルナちゃん呼びする所ですよ」
「い、いやー、あたしはルドルフ先輩が限界かな……」
「ライスシャワー、君は私の味方だよ……な?」
「ぴっ!? ええっと、ライスは……えっと……」
「ルナさん、後輩を脅しては駄目ですよ?」
「……誰か助けて呉れ……」
奔放なアルダンさんに、遂に根負けしたルドっさん。所で、ルドっさんが迂拙に訊きたかった事とは、一体何だったのであろうか。
アルダンさんはノリの良いウマ娘。うぇ~い。