「え、ええと、迂拙の様な
ロケットスタートに失敗し、メジロ家の二人と対峙する羽目に成ってしまった。二人共真っ当に成長する事が出来たウマ娘であり、自然と迂拙が見下ろされる形になる。片や釣り目、片や垂れ目と
「貴方がキョクアジサシ……よね? 一応確認しとくけど」
「え、ええ。確かに迂拙がキョクアジサシですが……ええっと、今手持ちが無いので、賠償金の支払いは少少待って頂けると……」
「いや、賠償金って何よ」
「執行猶予が付かないのは解っています、損害賠償もキッチリ支払いますので、如何か、如何か命だけはぁっ……」
「いや、何に対する損害よ……鳥渡、何で涙目なのよ。止めて? 周りからの視線が痛いから」
「可愛らしい方ですわぁ~」
「あっ」
メジロドーベルに対し
「御名前だけは伺っておりましたが、こんなに可愛らしい方だったんですねぇ~」
「あっあっあっ……」
「ちょっ、ブライト、厥の子どんどん顔色悪くなってるから……」
「髪は短いですけど、触り心地が良いですねぇ~」
「話聞きなさいよ」
「ああ、此の儘東京拘置所に連れていかれるんだ……」
「いや、東京拘置所の場所なんて知らないから」
「あ、もう判決出てるから府中刑務所に収監ですか」
「いや違うから。何? 一一全員から貰しを貰わないと
「え、も、若しかして御貰し頂けるのですか……?」
「いや、貰すも何も無いから。てか、昨日のラモーヌさんと、アルダンさんと、ライアンとの遣り取り見てたからね。何であんな怯えてんのか分かんなかったけど、彼の場は何か収まったみたいだったから、アタシも大丈夫かなって思ったんだけど、こんなに反応されるとは思わなかったわ」
「え、居たんですか? 彼の場に……」
「居たわよ。アタシも美浦寮だから」
「何で一緒に来なかったんです? 彼の場に加われば迂拙を一撃で葬れたのに」
「いや、彼の面子の中に割り込む勇気は無かったから。てか葬るって、メジロ家を極道一家みたいに思ってんの?」
「や、矢っ張り御怒りの御様子で……」
「御願いだから顔色悪くしないで。アタシもブライトも、名前だけ聞かされていた子が都合よく同じクラスになったから話そうって思っただけだから。昨日ライアンも言ってたじゃん、アンタに何かする気は無いって、別に
「あら~、昨日何かあったのですか?」
「一言じゃ説明出来ないカオスが有ったのよ。取り敢えず、食堂行きましょ。此処で立ち話するのもなんだし」
「然うですわね~。わたくしもお腹ぺこぺこですわ~」
「……ブライト、厥の子放してあげなよ。厥の体勢じゃ歩けないでしょ」
「キョクアジサシさまの撫で心地が
「あっあっあっ……」
結局、食堂に着く迄撫で回された。何だ此のマイペースは。クリークさんとは別の癖の強さを感じる。食堂に着くと、既にごった返していた。東西*3何処を見てもウマ娘で埋まっている。
「あー、
「じゃあ、迂拙は一人で……」
「鳥渡、逃げようとしないでよ」
「キョクアジサシさま、一人よりも大勢で食べた方が楽しいと思いますわ」
「気が休まらねぇ……」
「何がそんなに恐いのよ」
「其方は飛んでもない門閥家の御令嬢、対する此方は只の小作人、格が違い過ぎますから……」
「然う言うのは一旦忘れて。此処じゃ家柄なんて大して意味無いんだから。それに、ラモーヌさんとかと違ってアタシ達同い年でしょ」
「ああ、確かに
「それに、ブライトなんて如何見ても危害加える様な感じに見えないでしょ。あんなにマイペースでほわほわしてるんだから」
「彼の笑顔の裏に、陰険な本性を隠している蓋然性が……」
「そんな器用な子じゃないわよ。てか、どんだけ疑り深いのよ」
「迂拙の様な小物は、斯うでもしないと生き残れないのです」
「ああ、厥の辺りの誤解もキッチリ解くから、逃げないでよ?」
「へい」
どうやら逃げられそうにない。完全にロックオンされている。昨日と違い裁判長の仲裁が無いので話が如何転ぶかが分からない。取り敢えず食事を取ってきて、後は流れに任せるしかないかと思っていたら、「ドゥーベェェル!!」と言う叫号*5と共に、メジロドーベルの背に誰かが抱き着いた。
「ヴッ、タ、タイキ? 如何したのよ、先に食べてたんじゃないの?」
「ロンリーは嫌デス! ずっと待ってマシタ。でも、全然ドーベルが来てくれないから、見捨てられたと思いマシタ……」
「アンタは犬かっての。ねぇ、此の子も一緒で良い? すっごい寂しがり屋で、此の様子じゃ絶対離れないから」
「まぁ、迂拙は別に構いませんが」
「わたくしも御一緒したいですわ~」
何やら色色とデカいウマ娘が追加された。ずっとメジロドーベルの背中に張り付いてスリスリしているので、ウマ娘と言うよりもイヌ娘である。
「鳥渡タイキ、離れて呉れないと食事取れないんだけど」
「Oh! ソーリー。ドーベルに会えたのが嬉しくて、つい」
「……ラブラドール・レトリーバー」
毛色と言い懐き具合と言い背丈と言い、完全に大型犬である。兎にも角にも食事を盛り、空いていたテーブル席へ着いた。
「偖、改めて、アタシはメジロドーベルよ。此方はタイキシャトル」
「Hi! タイキシャトルデース! アメリカから来ました!」
「メジロブライトですわ~。タイキさま、と御呼びしても宜しいでしょうか~?」
「Yes! ブライトも宜しく御願いシマース!」
「キョクアジサシです。アジでもサシでもアニサキスでも、何とでも」
「しれっと罵倒が這入ってるんだけど。何、被虐趣味でもあるの?」
「阿婆擦れを自称しているんで、別に綽名位なら何でも良いという事です」
「如何言う奴よ。まあ、無難にアジで行くわ」
「アバズレ?」
「英語で言う"bitch"です」
「No! 自分でそんな事言ってはイケマセーン!」
「然うですわ。アジさまは立派に代表挨拶を務めたのですから」
「あんな誰も理解出来ん文章を作っといて立派は無いでしょうに」
「……まぁ、立派かどうかは置いといて、何言ってるのかはサッパリだったわね」
「うう……。此の日の為に、日本語の勉強ガンバリマシタ。でも、全然理解出来なかったデース……」
「ああ、大丈夫ですよ。純日本人でも理解出来ませんから。
「本当、聞いてるだけで
「ああいう単語並べてると、口語体だと違和感が酷いんですよね。なので文語体にして、反語表現とかも入れてみました」
「猶更タイキにはムリゲーじゃない。日本語の勉強で文語体とか習わないでしょ」
「ブンゴタイって何デスカ?」
「簡単に言えば、100年位前に使われていた、古い言い回しです」
「全然知らないデス……」
「タイキ、落ち込まなくて良いわよ。多分、彼の場に居た全員が理解出来てないから」
「わたくしも、途中から頭が働かなくなりましたわね~。隣の方は目を回してましたわ」
「迂拙も席に戻ったら、隣の奴が目ぇ回してましたね」
「挨拶文読んだだけで何でそんな地獄絵図を作り出せるのよ」
「文句は彼の挨拶文にGOサイン出した理事長へ御願いします」
「いや言える訳無いでしょ、理事長に直接なんて」
「迂拙は理事長に言われた通り、自由に書いただけなんで、苦情は受け付けておりません」
「はぁ、此の話題は止めにしましょう。何か
「然う言えば、メジロドーベル氏とタイキシャトル氏はどのような御関係で?」
「ドーベルで良いわよ。何よ氏って」
「呼び方一つにも地雷が埋まっている可能性が排除出来ないので、出来る限り譏嫌を損ねないようにと……」
「寧ろ厥の他人行儀な口調の所為で譏嫌悪くなりそうなんだけど」
「アジさま、もっと砕けても宜しいんですよ」
「はあ、然様ですか。素になると途端に口が悪くなりますけど大丈夫ですか?」
「鳥渡は自重して慾しいけど、同級生同士の会話なら普通じゃない?」
「ワタシの事も綽名で呼んでクダサーイ!」
「じゃぁ、シャトルと呼んでも?」
「Yes!」
アメリカ人の典型の様な明るさである。リアクションの一つ一つがオーバーと言うか、大袈裟と言うか。留学生と会話するのなんざ初めてだから、距離感が摑み難い。そして、リアクションをする度に胸の
「で、ドーベルとシャトルはどんな関係で?」
「只のルームメイトよ。タイキの方が先に来ていてね。アタシが這入ったら行き成り抱き着いてきたのよ。寮長のヒシアマさんも苦笑いしていたわ。尻尾は千切れん許りにブンブン振られていたし、完全に大型犬よ」
「ノー! ワタシはdogじゃアリマセーン!」
「行動が完全に犬の厥って言ってるのよ。今朝なんて、アタシが先に起きて鳥渡トイレに行って帰ってきたら、アタシが居ないって半泣きに成ってんだもの」
「仲が良くて何よりですわ~」
「鳥渡は手加減して慾しいわ。日本に留学して不安なのは解るけど、会って一日しか経ってないのに、普通此処迄懐く?」
「ウマソウルだけでなくイヌソウルもインストールされてますねぇ。……イヌソウルなんてDLCあったっけ?」
「……ワタシはdogじゃアリマセーン……」
因みに迂拙にはトリソウルがインストールされている模様。迂拙の一度に走れる距離が異常だという事が判明したので、絶対に極鰺刺の魂が這入っているに違いない。
「アタシも一個訊いて良い? 何でずっとスカートの下にジャージ穿いてるの?」
「然う言えば、代表挨拶の時にも御召しになられていましたね~」
「此の芋ジャースカートスタイルは迂拙にとっての生命線なので」
「如何言う事?」
「スカートだけに成ったら速やかに気絶すんの。
「は?」
「昨日実験したら3分と持たずにバッタリ。本当、誰だよスカートなんて考えた奴。死ねばいいのに」
「いや恐い事言わないでよ。てか何厥の体質。生地が肌に合わないとか然う言うんじゃなくて?」
「もうね、我慢ならん不快感が体の芯を貫くのよ。気合で如何にか出来るレベルじゃない」
「不思議な体質ですね~」
「ウイニングライブの衣装は大丈夫デスカ?」
「現状、何の対策も無しに着たら多分即死する」
「致命的じゃない。レース捷ったらどうするのよ」
「取り敢えず彼の衣装考えた奴は
「アジ、若干メンヘラ這入ってない?」
「無理矢理着せられたら不同意猥褻で民事訴訟起こして勝てると思う?」
「アジ、目が据わってるわよ。どんだけ嫌なのよ」
「アジの目が恐いデース……」
「見てるだけであんな
「……アジを担当するトレーナー、相当苦労しそうね……」
「ワタシは可愛くて良いと思いますケド」
「作業着を私服にするような奴に可愛さなんざ求めるな。
「アジ、完全にキャラ変わってるわよ」
「綽名が整備士って、如何言う事ですか~?」
「アジの私服が作業着で、厥の恰好で小学校に通ってたから、そんな綽名になったみたいよ」
「あれ、厥の話ドーベルにしたっけ」
「近くで会話聞いてたから。ルドルフ会長からは完全に整備士って呼ばれてるわね」
「Oh……、厥って綽名としてドウナンデスカ?」
「アジは気にしない所か整備士って呼んで良いって自分から言う位気に入ってるわよ」
「良いんですよシャトル、整備士って呼んでも」
「イエ、アジの方が言い易いからアジって呼びマス」
「整備士さまだと~、誰を指しているのか分かりませんね~」
「あら残念」
「にしてもシャトル、本当に日本に来たばっかなの? 発音は二の次にしても、全然違和感無く喋れてるね」
「Yes! 勉強頑張りマシタ! 読み書きは未だ苦手ですケド、御喋りはNo problemデス! デモ、アジの挨拶は全然ワカリマセンデシタ……」
「だから
「どのようにして彼の文章を考えたのですか?」
「そりゃぁ、
「如何言う勉強したらあんな単語憶える事に成るのよ」
「
「ハンチュウ?」
「ああ、範疇は
「……カテゴリーとか? てか、普通なら範囲でしょ」
「無意識の
「タイキが居る時は少しは自重しなさい。勉強で付いた自信が無くなっちゃうでしょ」
「前向きな善処を検討しておきます」
「日本人特有の責任逃れは止めなさい。何処の政治家よ」
「若しかしたら会社役員かもしれんぞ」
「御二人共~。タイキさまが目を回していらっしゃいますよ~」
「ウ~ン、話についていけないデス……」
「あっ、御免」
留学生様が目を回してしまった。外人の日本語学習と言う物は
「まぁ、此の手の勉強って、ノートと教科書開いてガリガリ遣るよりも、実際の会話を通した方が憶え易いってのはあるかもね。迂拙は日本語に関してはそこそこ詳しい自負はあるから、解らん事があれば何時でも訊いて。逆に英語に関してはてんで駄目だから、シャトルに訊くかもしれないから宜しく」
「Oh、win-winの関係と言う奴デスネ。Englishなら任せてクダサーイ!」
「何か鳥渡違う気がするけど、まぁ良いか。てか、あんな文章書ける癖して、そこそこ詳しいって認識なの?」
「試しに広辞苑読んでみ? 知らん言葉なんて腐る程あるよ」
「あんな分厚い辞書なんて読む気にならないわよ」
「
「彼で中型って……、じゃあ大型は何なのよ」
「日本国語大辞典とか。全部で13巻ある、文句無しの大型国語辞典だよ。彼読んでるとホント時間忘れる」
「もう良いわ。此の手の話題でアジに勝てる気がしない」
「アジさまは勤勉なんですね~」
「趣味よ趣味。迂拙の中じゃ勉強って括りじゃないから」
「はえ~、然うなのですか~」
「じゃあ訊くけど、ブライトの趣味って何?」
「御人形の服を作ったり、日向ぼっこをするのが好きですわ~」
「おおう、真っ当に女の子してる」
「後、走っている電車を眺めるのも好きですね~」
「と思ったら意外な角度から
「行き成りマニアックな内容になったわね。何
「一つの会社のコンテナだけを積んだ貨物列車。同じロゴのコンテナが延延と流れてくるから見てて面白いよ」
「ほえ~、そんなのがあるのですねぇ。知りませんでしたわ~」
「あら、其処迄のめりこんでいる感じでは無い?」
「ブライトは只眺めているのが好きなのよ」
「迂拙は東京出て来た時、
「次から次へと知らない単語出さないで」
不図気が付くと、シャトルが顔を青くして
「え、シャトル如何した?」
「鳥渡タイキ、顔真っ青じゃない。如何したのよ」
「い、今、maniacと言いましたカ?」
「メニアック? ああ、マニアックの事? 言ったけど、別に変な単語じゃないでしょ」
「そ、そんなコワイ事してるんですカ……?」
「え、恐い? 如何言う事?」
「ああ、
「え、そんな物騒な単語なのマニアックって」
「慥かそんな雑学を聞いた覚えが有る」
「ち、違うんデスカ?」
「日本だとそんな恐い意味で使う事は
「御免ねタイキ、そんな意味だって知らなかったから」
「日本に這入って来た時に、原義がどっか行ってる外来語って結構あるかもね。リベンジとか、元元の復讐とか報復って意味で使ってる奴見た事無いし」
「リベンジなんて、インタビューで
「そんな感じで、元元の意味とは違う形で使われている英単語って結構あると思うから、一一恐がらんで大丈夫」
「ソ、ソウデスカ。良かったデス」
「
「Oh! それはナイスアイデアデス!」
「株価みたいなテンションの乱高下だな……」
本人的には平常運転なのであろうが、常時一緒に居ると疲れそうである。此れも異文化交流の一つと言う事か。恐らく顔に出したら目に見えて落ち込むだろう。少少気を使うべきか。
偖、本日は入学式があった為、午後は一限
「あれ、アジちゃんもう終わってたんだ。……もう制服脱いでるんだね……」
「授業終わったら着ている義理なんざ無いんで」
「そっか……。これから如何する? 昨日出来なかった学園の案内しよっか?」
「渡りに船なんで是非御願いしたいんですけど、無理しなくても大丈夫ですよ」
「ううん、ライスは大丈夫。任せて」
「じゃあ、御願いします」
「それでね、アジちゃんに鳥渡御願いが有るんだけど……」
「え、迂拙に?」
「うん、あのね、マックイーンさん、メジロマックイーンさんに会って慾しいんだけど……」
「……
「違うからね? 全然違うからね? えっとね、マックイーンさんは今年入学した……ブライトさん? を案内するって言ってて、ライスはアジちゃんを案内するって言ったら、一緒に回りませんかって、その、結構な勢いで
名古屋高裁で逆転無罪を勝ち取ったと思ったら、原告は仙台高裁にも訴訟を起こしていた。如何する、ライスさんとブライトが居るなら未だ勝ち目はあるか?
「……分かりました。鳥渡待って下さい。有りっ丈の金下ろしてくるんで」
「必要無いからね? 只一緒に学園の案内するだけだからね? 示談金とか必要無いからね?」
「そんな……迂拙に死ねと?」
「マックイーンさんは只のスイーツが好きなウマ娘だから」
「厥のスイーツと言うのは何かの隠語ですか? 5000万円?」
「只の甘くて美味しい食べ物だから。他意は無いから、落ち着いて」
何れ会う事には成るのであろうが、斯うも立て続けとなると精神が
先方は既に校門に着いていた。ブライトの隣に紫掛かった
「あ、ライスさん、御待ちしておりましたわ。ええと、キョクアジサシさんは何方に?」
「えっと、ライスの後ろに隠れちゃってて……ほら、アジちゃん」
「ど、どうも、御初に御目に掛かります。キョクアジサシと言う者です」
挨拶すると同時に、
「アジちゃん、財布を出す必要は無いからね」
「で、でも、少しでも誠意は見せないと……」
「アジさま、マックイーンさまは恐喝をするようなウマ娘ではありませんよ~」
「……噂通り、豪く怯えられていますわね……。こほん、初めまして、メジロマックイーンと申しますわ。どうぞよしなに」
「よ、宜しく御願いします……」
「マックイーンさまには、後でケーキでも差し入れておけば大丈夫ですわ~」
「ブライト!? 行き成り何を!?」
「マックイーンさまは甘い物が大好きでして~、何時も誘惑と闘っておりますわ~」
「よくトレーナーさんに絞られてるもんね。二重の意味で*14」
「ライスさん!?」
あれ、何か急に空気が緩緩になった。
「何なんですの二人して! 確かにスイーツは好きですが、今此処で話題にする必要は……」
「斯うすれば、マックイーンさまに対する印象が柔らかくなるかと思いまして~」
「よく、体重計の前で難しい顔してるもんね」
「ライスさん!? もう追撃は必要なくてよ!?」
「……成程、ケーキで笑って計器に泣いていると」
「上手い事言った心算ですの!? ああもう! 私のイメージがガタガタですわ!」
「どう? アジちゃん。此れでもマックイーンさんは恐い?」
「全然」
「良かったねマックイーンさん、もう恐くないって」
「全然素直に喜べませんわ! 何で自己紹介するだけでこんなに色色と失わねばなりませんの!?」
「大丈夫、今朝、会長さんも色色失ったから」
「何がありましたの!?」
如何やらシンボリルドルフ寝坊未遂事件は未だ広まっていないようである。が、彼の場に
で、肝腎のメジロマックイーンは、プンスコと頰を膨らませて拗ねてしまった。御嬢様と言うよりも"おぜうさま"と言う感じである。鳥渡「う~☆」って言ってみて慾しい。多分物凄く"かりすま"が出ると思う。一方ブライトはと言うと、「マックイーンさま~、御免なさい~」と表情も声の調子も変えずに謝っていた。案外彼女は大物なのかもしれない。
「もうっ、何なんですの……二人して私を揶揄って」
「でも、斯うしないとアジちゃんに、お金差し出されて土下座されるよ。命だけはって、命乞いもされるよ」
「キョクアジサシさんの中のメジロ家は如何なってますの……?」
「会長さんが、聖蹄祭でアジちゃんにやられたんだって」
「……会長の彼の噂の原因は厥ですのね……と言う事は、私に対しても同様の噂が流れる可能性が有ったんですの……?」
「校門だと目立つから、余計酷い事に成りそうだね……」
「若しかして私、助かったんですの?」
「コラテラルダメージって奴かな」
「何で会う時点でダメージを負う事が確定しているんですの……?」
「相手がアジちゃんだから?」
二人から冷視される。迂拙は御嬢様と言う人種には性悪しか居ないと思っているので、名家の出身と言われると、厥だけで身構えてしまう。どれだけ頑張った所で身分と言う埋め難い差があり、嵩にかかった*16態度を取られたり、
「偏見が過ぎますわ。それに、下手に出ると言っても限度が有るでしょう。行き成りお金と土下座で解決しようだなんて、反社会勢力を相手にしている時の動きではありませんか」
「
「ですから、出合頭に殺されるという物騒な思考を止めなさいと言っているのです」
「世の中ってのは基本的に悪意で構成されているんですよ。雀の涙程度の善意に期待しちゃぁ痛い目を見るのは自分なんです」
「貴方多重債務者の経験とか連帯保証人になって裏切られた経験でも有るんですの?」
「誘いを
「厥を債務に含めないで下さいまし。厥の理窟が通ってしまったら、メジロ家と消費者金融が同列になってしまいますわ」
「じゃあ如何やって返済すれば良いんです? 迂拙が売れるものと言ったら、肺と腎臓位ですよ。あ、肝臓って再生能力高いからいけるか……?」
「背筋が凍る様な発言をしないで下さいまし。抑抑、メジロ家の当主である御婆様が何とも言ってないのですから、キョクアジサシさんが気負う必要は何処にも有りませんわ」
「然様で」
「一一メジロのウマ娘に会う度にそんな過剰に反応していたら
「え、あの、心の準備が……」
「度胸が無くてはウマ娘なんて務まりませんわ。ライスさん、美浦寮で会ったメジロのウマ娘は判りますか?」
「ラモーヌさん、アルダンさん、ライアンさんは会ってるよ。他は鳥渡判んないな……」
「ドーベルとわたくしは同じクラスだったので、先程顔合わせしましたわ~」
「あら、ドーベルとも会っていたのですね。判りましたわ、後は私に任せて下さいまし。さあ、行きますわよ」
「あ、ちょ、待っ、あっ」
有無を言わさず始まった学園見学ツアー。校舎の中だけでも保健室だの音楽室だの色色有り、そして外に出れば、多種多様の練習コースに屋外施設と、迚も一度では憶え切れない量の設備が有った。ウイニングライブ練習用の屋外ステージを見た時は、自分でも表情が死んだのが解った。そして、行く先先でメジロ家のウマ娘に水飲み鳥の玩具の
「アジちゃん、大丈夫?」
「…………皆さん御
「偖、後会ってないのはパーマーだけですわね。此処で待ち合わせていますので、少し休みましょう」
「え、未だ居るんですか」
「後一人ですわ。大丈夫、パーマーは親しみ易いウマ娘ですから」
「厥って只の貴方の感想ですよね」
「何処ぞの管理人みたいな事言わないで下さいまし」
「此れ以上会ったら犬を悦ばせ*20そうだ……」
「犬を……喜ばす?」
「わんちゃんが喜ぶんですか~?」
「ゲロ
「ああ、よろこぶって其方の……と言うか、犬が何をしたって言うの……」
「わんちゃんが可哀想ですわ~」
「カフェテリアで厥の話題は
実際もう腹一杯である。デザートと違って別腹なんざ無い。此れ以上は確実に欧く。成程、斯様な苦しめ方もあるのかと一周して感心してしまった。暫し阿呆みたく口を開けてぼけっとしていたら、何時の間にやらブライトに抱えられていた。このマイペースさ、矢張り大物である。
「矢っ張りアジさまの撫で心地は良いですわ~」
「何かアジちゃんから生気がどんどん無くなっていってる……」
「……何か、
「其方行っちゃ駄目! 戻って来れなくなるよ!」
「何故顔合わせだけで半死半生になってるんですの?」
「アナフィラキシーショックの一歩手前みたいな感じ?」
「メジロ家のウマ娘は
「メジロ家と言うよりも、名家アレルギーかな……」
「こんな反応をされたのは初めてですわ……」
ライスさんとメジロマックイーン氏が迂拙の反応に就いて合評している。アナフィラキシーショックよりも、オーバードーズの方が近いか。許容量は疾うに超過している。ブライトの為すが儘にされていると、遂に最後のメジロが現れた。
「御免マックイーン、遅れちゃった」
「大丈夫ですわ、然程時間は経ってませんから」
「で、件のキョクアジサシちゃんは?」
「今、ブライトに玩具にされてますわ」
「何で?」
「顔合わせだけで疲れ切って、抵抗する気力も残っていないようですわ」
「そんなに疲れるもんなの?」
「本人的にはボスラッシュ的な感じだったようで、会う人数が増えるに従って、声の覇気がどんどん失われて行ってましたわね」
「私、今会って大丈夫なの?」
「此の手触りが堪りませんわ~」
「あっあっあっ……」
「うーん、私には解り兼ねますわね……」
「多分、パーマーさんが来た事を認めたくないから現実逃避してるんじゃないかな……」
「ライスさん、良く解りますわね……」
「斯うなっちゃうと、アジちゃんって思考が単純になるから」
「おーい、大丈夫かーい? パーマーさんが来たよー」
目の前で手をヒラヒラと振られる。畜生、ライスさんが迂拙の思考を読み切っている。
「ああ……どうも、こんな形で申し訳有りません」
「いや、厥は別に全然良いんだけどさ、大丈夫? 別の機会にする?」
「いや、もう此処迄来たら最後迄御願いします。欧いたら済みません」
「そんなに苦手なの?」
「御嬢様って言う人種への無理解も有りますけど、如何ともし難い権力の差とか、迂拙の不義理とか色色と組み合わさって……後者に関しては自業自得ですが」
「あー、まあメジロ家ってデカいからね。ラモーヌさんとか恐かったっしょ?」
「斯う言うとアレですけど、ドスの効いた声って言うか……生きた心地がしなかったです」
「解るわー。私もラモーヌさんと話す時、未だに緊張するもん。マックイーンと同じ様にはいかないね」
「パーマー。厥では私に威厳が無いと言っているように聞こえますが?」
「マックイーン、
「何で知っていますの!? 誰にも言ってないのに!」
「テイオーが言ってた」
「テイオー……」
「マックイーンさん、復やっちゃったの……?」
「ち、違うのですライスさん。偶偶、偶偶チケットが手に這入りまして、斯う言うのはちゃんと使わないと、御店に失礼でしょう? ですから……」
「でも食べる量は自分で調節出来るよね?」
「うぐふっ……」
「マックイーンはスイーツが絡むと途端に
「噫嚱……私の株がストップ安ですわ……」
「御嬢様って言っても大体こんなもんなんだよ。徹頭徹尾御嬢様やってるのなんて本当に少数なんだよ。私も前は色色あったし」
「へぇ、そんなもんなんですか」
「マックイーンさまもパーマーさまも誮しいウマ娘ですわ~」
「……ブライト、先程の暴露の件、私は許していませんわよ?」
「え、暴露って何?」
「大体同じ内容ですよ。メジロマックイーンさんの最大の敵はライスさんではなく体重計と言う話です」
「あっはっはっ! ブライトも言うね~、やるじゃん」
「パーマー、此処は同じメジロ家としてフォローして慾しいのですが」
「マックイーンがスイーツでやらかすの、此れで何回目よ。後輩にも言われてるよ。マックイーン先輩が復パックイーン先輩になったって」
「何ですの厥!? 聞いた事無いですわ、そんな話!」
「そりゃ、本人の前で言う訳無いじゃん」
「私って一体……」
「じゃあ迂拙もパックイーン先輩と御呼びした方が宜しいでしょうか?」
「止めて下さいまし! と言うか、先程迄の半死半生の様子は何処に行ったのですか!?」
「乗るしかない、此のイジリのビッグウェーブに」
「乗らなくて宜しい!」
「マックイーンは面白いよ。有繫に後輩をチームに勧誘する為に、頭陀袋被せて誘拐したって聞いた時は引いたけど」
「そ、厥は、ゴールドシップに
「え、そんな事を……メジロ会系指定暴力団マックイーン組……組長って呼ばないと……」
「ああああ! 違うんです違うんです!
「実行に移している時点で説得力が皆無だと思うな。ライスも誘拐されたし……」
「え、ライスさんも被害に遭ってるんですか」
「うん。ライスの時は、縄で縛られた」
「手慣れてやがる……法務部に通報しないと……」
「そ、厥だけは勘弁して下さいまし! 本家に、御婆様にバレたら只では済みませんわ!」
「組長……保身に走らず素直に罪を認めましょう……あっしも一緒に行きやすから……」
「私は組長ではありません! 厥に組員っぽい喋り方も止めて下さいまし!」
「組長さま~、わたくしも御一緒致しますわ~」
「ブライトも悪乗りしないで下さいまし!」
「あっはっはっはっ! お、お腹痛い……」
累犯常習窃盗は聞いた事が有るが、累犯常習誘拐は寡聞にして知らない。そして、そんな連中が
「うう……何故私だけこんなに恥部を晒されねばなりませんの……?」
「此れに関してはライスも擁護は出来ないよ?」
「此の醜聞が、メジロ家陸沈*22の序章である事を、彼女達は未だ知らない……」
「不穏極まりないナレーションは止めて下さいまし……私の行いでメジロ家の名誉に傷が付こうものなら……」
「陸沈は滅亡するって意味ですよ」
「ライスさん……私の骨は京都レース場のターフに埋めて下さいまし……」
「ちゃんと骨を粉末状にして散骨と言う形にしないと、ライスさんが死体遺棄罪でマッポにパクられますよ」
「もう反社会ネタはお腹一杯ですわ……」
「良かったねマックイーンさん、アジちゃんと仲良くなれたね」
「ダメージが大き過ぎますわ……それとブライト、何時迄キョクアジサシさんを撫でてますの?」
「手が止まりませんの~」
「此れに関してはクリークさんで慣れているので、存分にどうぞ」
「そんなに気持ちいいの?」
「パーマーさまも如何ですか~?」
「え、撫でちゃって良いの?」
「どうぞ」
「じゃ、鳥渡だけ……おお、短髪故の触り心地。
「流れる様に触りに行きましたわね……でも、パーマーにも心を開いて呉れて何よりですわ」
「いやぁ、親しみ易い性格ってのは本当だったんですねぇ。迂拙を
「幾ら何でも警戒心が強過ぎませんこと?」
「迂拙の様な小物が生き残る為には此れ位警戒しとかないと。善意の皮を被った悪意なんざ
「厥の警戒心の強さの所為で、私はどれ程の尊厳を失ったのでしょうか……」
「じゃあ誘拐繫がりで、迂拙が誘拐されかけた話でもしましょうか?」
「誘拐繫がりって何ですの。と言うか、貴方そんな目に遭った事があるんですの?」
「と言っても1回だけですけどね。ランニング中に素性の知れん男が菓子で釣ろうと話し掛けて来たんですよ。其処で足を止めちゃったのが不味かったですね」
「子供って言ってもウマ娘相手に誘拐って、度胸が有るんだかアホなんだか……」
「
「ヤバいじゃん」
「取り敢えず鼻っ柱を一発殴って、鳩尾に思いっ切り肘鉄を入れたら力が緩んだんで、全力で暴れて脱出しました」
「いや冷静過ぎない? 厥の時キョクアジサシちゃん幾つよ」
「小三の時です。で、厥の後股間を全力で蹴り上げたら白目剝いて泡噴いて倒れたんで、厥の儘放置して逃げました」
「厥って大丈夫なの? そんなに遣り返したら、逆恨みとかされそう……」
「半年後位ですかねぇ、性懲りも無く
「いや不味いじゃん」
「迂拙を見付けるなり此方に向かって来たんで、二の轍は踏むまいと迂拙も即臨戦態勢ですよ。で、「野郎ぉ!
「厥の様な目に遭っておいて、何でそんなに冷静なんですの?」
「当時から擦れっ枯らしでしたから。次会ったら再起不能にして警察に突き出してやろうと思ってるんですけど、
「……マックイーン、絶対キョクアジサシちゃん相手に頭陀袋誘拐やったら駄目だよ。返り討ちにされるよ」
「ゴールドシップに言い含めておきますわ……」
勧誘するのであれば、穏当な手段で御願い致します。