シンボリルドルフからの
最早食事をする気が完全に失せ、外に出て適当な日陰にあった
「ねぇねぇ、
気が付くと、眼前に一人のウマ娘が立っていた。普段より五割増しで死んでいる眼を上げる。伸ばした鹿毛の髪を編み込んで後ろに垂らしている。
「……ああ、御気遣いどうも。色色あってやさぐれているだけなんで御放心下さい。厥の内何処か行くんで」
「でも、一時間以上同じ所に座ってるよね? お父さんとかお母さんは?」
「別行動中です。捨てられたとか逸れたとかでは無いので御構い無く」
「然うなの? でも、君みたいなちっちゃい子が独りで居ると、御姉さん心配になっちゃうな。御昼は食べたの?」
「昼……ああもうこんな時間か。食いっ
「食べてないの!?」
「まあ、適当に外に出て何か買いますよ」
「駄目よ! 御姉さん心配だわ。ほら、鳥渡尾いて来て。タマちゃんに頼めば何か作ってくれるかも」
「いやぁ……G1バ様に世話されるのは
「ほらほらそんな事言わないの。仕様が無いわね……よいしょっと」
有無を言わさず抱え上げられ、厥の儘連行された。此処迄構い倒す辺り、世話好きなのか? あれよあれよと言う間に一軒の出店の前へ連れてこられた。
「ん? クリークやないか……何や厥の
「1時間以上同じ場所に座ってて、御昼も食べてないって言うのよ。心配だから連れて来ちゃった」
「いや
「ああ、所怙……親とは別行動しているだけなので。ウマホもあるので大丈夫です」
「何や迷子にしては豪い落ち着いてるな。ホンマに迷子ちゃうんか?」
「只やさぐれてただけの
「何や自分、訳アリか?」
「訳アリと言うか……仙台送りされるかと思ったら拘置所から釈放されたと言うか」
「いや分からんわ」
「まぁ、
「分からん分からん」
店番をしていたのは此れ又G1バ、タマモクロスだった。白い稲妻の異名を取り、迂拙と
「ま、ホンマに迷子やったら此処迄会話出来へんやろうけど、
「……試しに掛けてみますか。出るかは分かりませんけど」
ウエストポーチからウマホを取り出し電話を掛ける。幸い、直ぐに繫がった。
「あ、母さん? 今何処? え、
此れ以上長引かせたくなかったので強引に会話を打ち切った。詳細を話すのは後で良い。ウマホを仕舞って向き直ると、二人揃って何やら愕きを含んだ表情をしていた。
「取り敢えず、16時半に校門に集合となったので。御手数御掛けしました。じゃあ、迂拙は此れで」
「いやちょい待ちぃ。色色言いたい事はあるけど取り敢えず1個言わしてくれ。ツッコミ所多過ぎるわ今の会話」
ウマ娘がウマホで通話をする時は、基本的にスピーカーモードで話すので、先刻の会話の内容は二人に駄駄洩れである。
「何やねんルドルフに呼び出されたとか、自分、そんな良いとこの御嬢様なんか?」
「いや、只の米農家の娘です」
「何で米農家の娘がルドルフに名指しで呼び出されてんねん。自分、
「いや、自分の慾に素直に従って走ってただけなんですけどねぇ。何故か気に入られてしまいまして」
「彼のルドルフに目ぇ付けられるってこたぁ、自分、相当出来るやっちゃな。興味出てきた。よし、ウチが昼飯作ったるさかい、代わりに話聞かして貰うわ」
「あ、鳥渡、行きたい所あるんで……」
「
「畜生
「彼の会長さんが目を掛ける子……私も気になりますね」
「ブルータス、御前もか」
G1バと言う者は
タマモクロスの手捌きは淀み無く、あっと言う間に蛸焼きやらお好み焼きやらを拵えてしまった。非常に栄養の偏りを感じるが、祭の場でそんな
「うし、こんだけありゃ腹膨れるやろ。然う言や訊いとらんかったけど自分、歳幾つや?」
「11歳の小6です」
「小6でそんなちっこいんか。聢り餤わな大きくなれへんで」
「小2で身長は止まりました。幾ら餤っても
「ああ……然う言う……済まん」
「いえ」
小2迄は寧ろ平均より身長は高い方だったが、余りにも早過ぎる成長期の終焉に当時は首を傾げたものである。此れもウマ娘の神秘と言う奴かと適当に理由付けをして納得しておいた。取り敢えず、服を買い替える手間が減ったと、一応利もある。
「いや、でも未だ11やから、これから本格化が始まるやろ。せやったら、未だ望みはあるで」
「いやぁ、服を買い替える手間が面倒なんで、伸びなくて良いですよ」
「何や、自分ち金無いんか?」
「単純に、迂拙が服に金を出したくないだけです。無駄でしかないんで」
「服に興味無いんか」
「無いですねぇ全く。作業着を私服にする位ですから」
「……然う言やぁ今着てる服、明らかに子供の奴ちゃうな」
「もう買ってから4年近く経ちますけど、作りが頑丈なんで気に入ってます」
「4年も服買っとらんのか」
「ええ」
「もっと御洒落な服を着ても良いんじゃないですか? ピンクのワンピースとか、似合うと思いますよ」
「あー駄目です。そんな服着たら蕁麻疹出ます」
「何や厥」
「女物の服着ると蕁麻疹が出るんですよ」
「そらまた
「じゃあせめて、耳飾り位はしたらどうです? 耳に何も着いてないと、鳥渡寂しい気がします」
「然う言やぁ、耳飾りもしとらんな」
「耳飾りはですねぇ、着けると鬱陶しいわ気持ち悪いわ違和感酷いわで、着けてらんないんですよ」
「……徹底的に御洒落から
「迂拙としては、金掛からなくて寧ろ有難いですけどね」
此の辺りは、ガワはウマ娘だが中身が偽物の、中途半端な存在である迂拙特有の感覚であろう。
「って、大分話が脱線してもうた。ホラ、冷めんうちに餤いな。味は保証するで」
「……では、頂きます。救い様の無い莫迦舌なんで、味の感想は期待しないで下さい。
「あら、此の儘でいいじゃないですか」
然う言って、迂拙を抱えた儘椅子に座るスーパークリーク。
「ああ……クリークの悪癖が出てもうてるな……。済まん、クリークな、一旦斯うなると自分の気が済む迄甘やかさんと放さへんねや。ちょっち餤い辛いかもしれんけど、堪忍したって」
「……スーパークリークさんには、そんな
「実家が託児所でな。何かにつけて他人を甘やかそうとするんや。ウチもようやられる」
「って事は何ですか、今の迂拙は人身御供と言う訳ですか」
「ほら、クリーク御姉ちゃんが食べさせてあげますよ。はい、あーん」
然う言い乍ら、吹き冷ました蛸焼きを口許へ持ってくる。完全に
「いや、自分で食べられますんで……」
「遠慮しないでいいんですよー。はい、あーん」
「…………あむっ」
如何やら此方の言い分は通らないようである。
「クリークのトレーナーもようやられてなぁ。初めて見た時は言葉が出ぇへんかったわ。完全に絵面がアウトやった」
「然う言う店の然う言うプレイですか然うですか」
「かと言って、ずっとクリークに甘やかしをさせへんと、調子崩すから余計に厄介なんや」
「迂拙も大概アレですけど、スーパークリークさんも大概ですね……」
「ええんや……ウチが犠牲になってクリークのコンディションが良くなるなら……厥でええんや……」
「心中、恐察*26致します」
抔と会話をしている間にも、スーパークリークの手に依って、迂拙の口に蛸焼きが運ばれてくる。気分は宛然被介護者である。
「然う言えば、これだけ会話しておいて自己紹介が未だでしたね」
「……然う言やぁ、君の名前知らんなぁ。色色衝撃有り過ぎて頭から吹っ飛んでたわ」
「では後れ馳せ乍ら、迂拙はキョクアジサシと言います。アジでも、サシでも、アニサキスでも、何とでも御呼び下さい」
「いやアニサキスはアカンやろ、寄生虫やん。ウチはタマモクロスや」
「スーパークリークです。アジちゃん、宜しくね」
最後の自己紹介は上から降って来た。そして先程から、
「御二人の御雷名は
「お、何やウチのファンか? 嬉しいなぁ」
「二つ名は
然う言うと、得意顔をしていたタマモクロスが盛大にズッコケた。本場の関西人の御手本の様なズッコケ方に思わず「おおっ」と感嘆の声を漏らす。
「いや、其処は普通に"白い稲妻"でええねん……。面白い言われるんは嬉しいけど、今やないねん……」
「でも、イジって貰えて嬉しいって気も、鳥渡は有りますよね」
「よう分かっとるやないかい」
何とも言えぬ色を含んだ三白眼を此方に向けてくる。
「なら
「別に構いませんよ。因みに、迂拙の小学校での綽名は「整備士」です」
「新しいネタ
「
「如何言う感性しとるんや自分」
「頭の螺子が幾らか脱落している自覚はあります」
「厥、自分で言う科白ちゃうやろ」
「御褒め頂き光栄です」
「褒めとらんわ」
打てば響く様にツッコんで呉れるので、思わず厥に乗って漫才染みた遣り取りをしてしまう。すると、上からクスクスと笑い声が降って来た。
「ふふっ、タマちゃん、オグリちゃんと話してる時みたいね。楽しそう」
「いや、此奴がボケてくるから、思わずツッコミ入れてまうねん」
「関西人の哀しき習性ですね」
「分かっとるんなら、ちったぁ自重せぇ。御蔭で話が進まんわ」
猶、此の間にも、スーパークリークに依る迂拙への餌付けは止まらない。今度は箸で切り分けたお好み焼きを口へと運んでくる。最早自分で箸を執る事は叶わないだろうと悟ったので、流れに身を任せる事にした。
「はぁっ、何や疲れたわ。取り敢えず本題に入らして呉れ。自分が何者なのか、何でルドルフに呼ばれたんか、洗い浚い吐いてもらうで」
「そんなに面白い話でも無いですよ」
そう前置きしつつ、スーパークリークに餌付けされ乍ら搔い摘んで
「とまぁそんな感じで、死刑は免れましたが執行猶予付きの懲役となった感じです」
「厥の物騒な言い回し止めぇや。でもまぁ、そんな小っちゃい頃からそんだけ走れるっちゅうなら、会いとうなるわなルドルフなら」
「アジちゃんは頑張り屋さんなんですね。よしよし」
「噫嚱……この包容力に駄目にされそうだ……」
「アジ、気張りや。
地獄への道は善意で舗装されていると言うが、この甘やかしも厥に入るのだろうか。
「厥だけ頑張り屋のアジちゃんなら、屹度
「せやなぁ。小2で峠走破出来て、自分の走りを客観視するウマ娘なんて居らんわな。自分、地元じゃ
「まぁ、小学校の徒競走とかなら輸けた事は無いですね。本格的なレースは走った事無いので、どれ程通用するか分かりませんけど」
「何や、レースクラブとか這入っとらんのか?」
「1回親に連れられて這入ろうとしたんですけどね。誕生日言ったら
「チョウサイボウ?」
「ああ、莫迦にされるとか然う言う意味です」
「何やルドルフみたく難しい言葉使いよるなぁ。って、誕生日言うただけでそんな対応されたんか。自分誕生日何時や?」
「12月19日です」
「冬誕まれか。珍しいな」
「大方、秋誕まれですら大成しないと言われてるのに、冬誕まれなんか見る価値も無いと言う事なんじゃないですかね。ほら、鳥渡前迄「
「にしても腹立つ盆暗やな其奴。誕生日以外にも見るべき所あるやろ。なぁクリーク」
「そうですよ。こんなに将来有望な子を誕生日だけで切るなんてとんでもない話です」
慰めるが如く誮し気な手付きでスーパークリークが撫でてくる。初対面の相手に此処迄怒れるとは、二人共根が善人なのだろう。
「ま、厥のレースクラブに這入っている連中にも輸けた事は無いですし。何なら何度も大差捷ちしてますよ。徒競走ですけど」
「節穴やろ厥のクラブのトレーナーの目」
「然も厥の後に、臆面も無くクラブの勧誘に来やがったんですよねぇ、厥の阿呆」
「いい歳して恥と言う概念知らんのか其奴」
「全くです。「どの面下げて来やがったんだ
「おう、やったれやったれ。良い気味や」
何処の世界にも度し難い阿呆は居るものである。厥の後、
「然う言やぁ、小6っちゅう事は来年中学に上がるっちゅう事やな。当然
「
「豪く後ろ向きやなぁ。夢はでっかく持たなアカンで」
「厥のでっかい夢の為にでっかい借金拵える事になるんですよ中央の場合」
「ああ金の問題か……。ウチも最初捷つ迄は不安やったなぁ。捷てへんかったら如何しよう、未勝利で終わったら如何しようってな。ウチん
「まぁ、確かに余裕は有るとは思いますけど、何か気が引けるんですよね」
「小学生が、んな事気にしたってしゃあないやろ。親御さんやって解って呉れると思うで」
「そうそう、子供は甘えるのも仕事ですよ。それに、アジちゃんが来てくれれば、色色教えられる事もありますよ。私もタマちゃんも長距離が得意だから」
「せやな。峠走り切れるんやったらステイヤー寄りやと思うし、ウチもクリークも春天捷っとるから、徹底的に扱けるな」
「鳥渡待って下さい。何でもう迂拙が入学した気になっているんですか」
「大丈夫、先輩にも同期にも後輩にも、等速ストライド使える奴なんて居らんかった。今ん所アジだけが使える技術や。絶対中央でも通用する。ウチが保証したるわ」
「私も同感です。コーナーも坂道も関係無く同じ速度で走れれば、良いタイムが出るのは自明の理ですからね」
「噫嚱、今からでも併走しとうなってきたわ。なぁ、今から飛び級で編入試験受けへんか?」
「いや無茶苦茶言わないで下さい」
「私も走りたいですねぇ。今から練習コースの使用申請出来ないかしら」
「スーパークリークさん、今聖蹄祭の最中ですよ。多分無理だと思います」
「あら、私の事はクリークで良いですよ。私とアジちゃんの仲じゃないですか」
「いや、
「ウチの事もタマモでええで。よし、ちょっちたづなさんに今から編入試験出来へんか訊いてくるわ」
「タマモさん、正気に戻って下さい。今此処で泣き喚いて有る事無い事えらしますよ」
「掛かってしまっているようです。一息入れられるといいのですが」抔と脳内の実況が
「分かりました分かりましたよ。確約は出来ませんが中央受験に就いては親に話しますから」
「よっしゃ言質取ったで。受験日に会場に現れへんかったらオマエん家に突撃したるからな」
「いやタマモさん、迂拙の家何処か知らないですよね」
「ルドルフに訊けば教えて呉れるやろ」
「個人情報保護法は何処行ったんですか。嫌ですよ、G1バがテレビの画面内で容疑者呼ばわりされるのを見るのは」
「じゃあ聖蹄祭が終わったらアジちゃんの家に御邪魔しに行きましょう」
「一面クソミドリのド田舎に来て何する気ですかクリークさん」
「ちっ、しゃあないな。アジが入学する迄我慢したるわ」
「何で迂拙が譲歩される側になってるんですか」
「ウチ等を期待させた自分が悪いやろ」
「解せぬ」
知らぬ間に責任が迂拙に
「タマちゃん、大変な事に気付いちゃいました」
「何や急に」
「アジちゃん、女物の服が嫌いって言ってましたよね。だとすると、学園の制服着られないんじゃないですか?」
「いや、
「いや、本当に女物着せられると
「串戯ちゃうんか!?」
「本当ですよ」
「そら豪いこっちゃ。トレセンの制服なんてスカートの奴しかあらへんで。どないすんねん」
実は此の問題には既に気付いていた。スカートタイプしか無い制服と、女物の衣服を峻拒*33する迂拙の体は相性が最悪なのである。トレセンが共学であれば男物の制服もあったであろうが、生憎ウマ娘
「アジ一人の為に態態別の制服仕立てるなんて事出来へんしなぁ」
「困りましたねぇ。これじゃアジちゃんが合格しても、進学を蹴っちゃいますよ」
「……せや、スカートの下にジャージ穿くのはどうや? スカートのひらひらが嫌なんやら、ジャージ穿いちまえば問題あらへんやろ。アジ、自分は如何思う?」
「……まぁ、常に穿いていいのであれば、多分大丈夫かと……」
「ならOKやな。良し」
「でもタマちゃん。厥だと校則違反に成りませんか?」
「大丈夫や。スカートの下にジャージ穿いとったらアカンなんて校則は無い。それに、明らかに制服と関係無い帽子常に被っとる奴も
校則の
「只、此の方法には1つだけ無視出来へん欠点がある」
「何ですか?」
「見た目がメッチャダサくなる事や。常時芋ジャー着とる奴なんて居らんから、多分メッチャ浮く見た目になると思うで」
「作業着を
「……せやった。此奴のファッションセンス、ゼロ所かマイナスに振り切れとるんやった」
「胸部に着けるリボンは大丈夫かしら」
「……耳飾りと違って、直接肌に触れるものでなければ恐らくは」
「リボンは上着の上から着けるから大丈夫やな」
「でも、実際に着用してみない事には何とも……」
「ホンマに服に気ぃ
「アクセサリーなんて走る時に邪魔でしかないじゃないですか」
「全国の服飾屋敵に回す様な発言止めぇや」
重視するべきは見た目より機能性である。それに、一一アクセサリーを着ける抔面倒が過ぎる。誕まれてくる性別も種族も間違えたとは祖父の談である。蓋し至言であると迂拙は思ったが、直後に婆さんに折檻されていた。
「まぁ、取り敢えず制服の問題は大丈夫そうやな。此れで心置きなく入学出来るな」
「所で、ルドルフさんも然うですけど、何で迂拙の走りを一度も見た事が無いのに其処迄高く評価してくれるんです?」
「そりゃ自分等速ストライドやで? セクレタリアトしか使えんかった伝説の技術やで? 厥を不完全でも出来るっちゅうんやから評価するやろ。ウチも一瞬だけ練習しよか思てやってみたけど、一一歩幅変えるなんて走り辛くてしゃあなくて無理やったわ」
「私も出来る気がしないですね」
「迂拙が話盛ってる可能性もありますけど」
「其処に会長の御墨付や。こらぁもう間違いないって思たわ」
七冠バ様の御墨付は黄門様の印籠か?
「せやから期待しとるで。どんな走りを見して呉れるか」
「余り期待し過ぎると、現実見た時の落差が酷いですよ」
「大丈夫ですよ。アジちゃんは出来る子ですから」
「クリークさん、貴方は迂拙の何なんですか」
母親みたいな事を急に宣うクリークさん。ずっと迂拙を膝に抱え乍ら会話していたので、気分は既に母親か?
「うし、楽しみが出来たから此の後も頑張れるわ」
「……まぁ、御力になれたのなら何よりです……。あ、然う言えば未だ代金支払ってなかったですね。えーっと、あ、丁度で」
「おう、毎度あり」
「私もそろそろ戻りますね~」
然う言ってクリークさんは去って行った。最後に名残惜し気に頭を撫でられた。彼女の嗜僻は筋金入りの様である。偖、迂拙は如何したものかと考えようとしたら、タマモさんに手招きされた。
「如何しました? タマモさんも頭撫でますか?」
「ちゃうちゃう。鳥渡な、礼を言っておこうと思て」
「礼?」
「
「ええまあ、もう流れに任せようと。御蔭で首が少し痛いです」
「あんなデカいもん2つも頭に乗っけてたらそうなるわな。よう分かる。でな、クリークの好きに甘やかさせて呉れてありがとな」
「如何言う事です?」
「いやな、クリークの甘やかし癖って、学園中に広まっててな。アジみたく素直に甘えて呉れる奴って殆ど居らんのや。寮の同室の奴も結構な捻くれ
「そんなに避けられているんですか」
「いや、面倒見良いから後輩にも人気あんねんけど、彼の甘やかしだけが駄目やねん」
「成程?」
「中高生って、年齢で見れば子供の範疇やけど、かといって親とかにガッツリ甘える様な歳でもないやん」
「そうですねぇ。中高生になって彼の甘え方するのはマザコン位ですかね」
「せやろ。だから小っ恥ずかしいねん。クリークの甘やかし方って、完全に幼稚園児とか相手にする時の言動やん。厥を此の歳でやられるともうな……」
「確かに恥ずかしいですよね」
「然もな、クリークって甘やかす時人目を気にせぇへんねや。周りに誰か居ろうが御構い無しなんや」
「何の羞恥プレイですか厥」
「ホンマ厥。頼むから衆人環視の中でやるのは止めてくれ言うてんねんけど、聞く耳持たずでな……」
「本人は何ともないんでしょうけど、やられる側からするとキツイですね」
「せやねん。然もクリークってな、ウチから見れば年下やねん。後輩やねん。先輩の威厳もへったくれも無いんや。御蔭で後輩から、ウチの方が年下やと思われる事も
「実害出捲りじゃないですか」
「だけどな、止めろとは言わんけどもう少し頻度を減らしてくれって思うとる自分が居ると同時に、クリークの甘やかしで何処か安心感を覚えている自分も居んねや」
「厥の二律背反が生じている時点で大分毒されてますよね」
「せやから、ウチだけやのうて他の奴にもやってくれ言うてんねや。けど
「勿論。秋天や有馬のデッドヒートは見てて熱くなりました」
「おお、見てて呉れたんか。有難うな。でな、オグリって結構天然這入ってんねん*35。せやから、クリークの膝枕とか
「確かに、オグリキャップさんはウマ娘の中でも身長高めですね」
「まあ、それが理由かどうかは
「不思議ですね。
「然う、クリークの同期や。せやから本来ならウチよりオグリの方に行くと思うやろ? でも違うんや」
「イナリワンさんは? 永世三強の括りの一人ですし、身長もタマモさんと同程度だと思うんですけど」
「イナリなぁ……。イナリはクリークの一個上やけど、確かに同じ括りで語られる事も多いし、仲も
「今時珍しいべらんめぇ口調ですもんね」
「もう此処迄言やぁ解るやろ。ホンマにウチに被害が集中しとんねん。多分トレーナー甘やかすだけじゃ満足してへんねん。だからアジ、頼むから中央に来てくれ」
「
「もう手段を選んでられへんねん。被害を分散出来るんやったら何でもやったるわ。若しアジが来て呉れれば、併走とかアドバイスとか面倒見たるから。頼む……! アジ、自分が最後の頼みの綱なんや……!」
タマモさんから
走る西松屋からは逃れられない。