傷だらけ少女が笑えるまで   作:曇らせのキャスター

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 推薦を書いてくれたのが嬉しくて元々書き途中だった番外編の筆が乗った。最近忙しいのであまり書けないけれど、感想や評価、推薦などありがたくて涙出そうでした。

 本日はミヤコ、有馬かな、黒川あかねの三本でお送り致します。


【番外編】sugar & bitter days

 

 

【もう一人の母】

 

 

「わぁ………!」

 

 

 スピネルは目を輝かせて笑っていた。

 子供なら一度は行ってみたい場所である所に初めて入る。

 

 そう、遊園地だ。

 子供なら一度は行ってみたいと思うだろう。スピネルの前世でも行ったことはない。スピネルにとっては憧れの場所で夢のような場所でもあった。

 

 

「遊園地なんて高校生以来ね」

「そうなの?」

「大人になると行かない方が多いわよ。子供連れが多いし」

 

 

 隣で歩いているミヤコにスピネルは首を傾げた。

 大人でも楽しめるのだろうが、大人になると出来る事が多くて選択肢の中にあまり入らない。大人の楽しみ方は色々とある。酒や賭け事は大人の醍醐味だ。遊園地はどちらかと言えば家族や高校生などが楽しむ事が多いだろう。

 

 

「私でよかったの?ルビーとかアイだって」

「いいの」

 

 

 スピネルはミヤコを選んで遊園地に来た。

 アイは僅かに悔しそうにしていたが、スピネルにとって家族と行きたい場所としてなら一番最初にミヤコと一緒がいいと言ったのだ。そもそもアイは仕事で行けないし。ルビー達も学校だ。

 

 アイの事はちゃんと母親と思っている。

 けれど、赤ん坊の頃からずっとお世話をしてくれて助けてくれたのはミヤコの方が時間は長かった。だから……

 

 

「10年分の思い出を作りたいし……ずっと頑張ってくれてたから」

 

 

 スピネルにとって、愛情を与えてくれたもう一人の母親だから。ずっと眠っていて心配かけ続けていたけれど、今はちゃんと生きて笑っていられる。

 

 だからこそ……

 

 

 

「ミヤコさんとも思い出を作りたいの。血は繋がってなくても、家族みたいに思ってるから」

 

 

 

 ギュッとミヤコの手を握る。

 まだ身体が成長し切っていないのか細くて小さな手だけれど、もう眠り続けて握り返さなかったあの時とは違う。温かくて、命の鼓動を感じる。止まっていた時間は再び動き出し、スピネルは今を生きている。それだけでミヤコは救われている。

 

 

「だから一緒がいいの。ダメ…だったかな」

「ダメじゃないわよ。ホント、涙腺が緩くなる」

 

 

 幸せになってほしい。

 そう願うだけのあの頃はもう無い。今度こそ幸せになってほしくてミヤコは少しだけ涙ぐんだ。やっと、その機会を取り戻せるのだから。

 

 

「だったら10年分、ちゃんと楽しみましょう」

「うん!」

 

 

 このあとめちゃくちゃ遊園地を楽しんだ。

 ジェットコースターやメリーゴーランド、お化け屋敷に観覧車。目を輝かせてスピネルは目一杯楽しんでいた。

 

 後日、遊園地で撮った二人の写真をスピネルの部屋の写真立てに飾っているのを見て、アクアは何処かほっこりとして笑っていた。

 

 

 

 

【苦手だけどもファンである】

 

 

 

 最近、有馬かなはアイドルになった。

 あの双子に押し切られてしまったというのもあるが、少なからず子役としての知名度では役者の復帰は難しく、何かしらの実績を積まなければいけないのも事実。子役時代の事務所から今はフリーランスであったのもあるが、押し切られてしまう性格が恨めしく思う。

 

 そんな中、かなは一人だけ異質な存在を見る。

 苺プロダクションのレッスン場所ではなく、ボイストレーニングでよく使う部屋で見かける銀髪の女の子を。

 

 

「あっ、おはようロリ先輩」

「マジでいびるぞ生意気後輩!」

「あっ、有馬さん……おはようございます」

「って、ああ…おはようスピネル」

 

 

 星野スピネル。

 星野ルビーと星野アクアの妹。かなはてっきりアクアとルビーは双子であると思っていた。一度共演した映画の場所であったのは双子だけだったから。身体が弱く、星野家の秘蔵っ子らしいと言われて納得し切れない部分はあるが、顔の輪郭はルビーにそっくりではある。銀髪に染めずに金髪だったら見分けが目の色くらいしかつけられないかもしれない。

 

 性格は大人しめではあるし、ルビーと比べれば礼儀正しく物腰の柔らかさを感じる。自然と歳下の雰囲気が出ているのもある。

 

 

「ねえ、いっつも私に対してビクビクしてるけど、私何かした?」

「あっ……えっ、と…その」

「その反応は結構傷付くんだけど……」

 

 

 ぴゅー、とルビーの背中へと退避するスピネル。

 可愛いと思わず呟く二人にスピネルは少しだけ顔を赤くして、ううぅと唸っていた。ルビーは思わず写真を撮りたくなった。

 

 

「先輩が苦手?」

「いや、違くて……」

「ああ、スピネルは高圧的な人は苦手だったっけ」

「うぐっ……!」

 

 

 さりげないルビーの一言がかなに突き刺さる。

 現場で高飛車で高圧的で生意気だった頃があったからこそ、今は仕事がない有馬かな。天才子役の時代はとうの昔に過ぎたとはいえ、それを言われたら弱い。

 

 

「えっ?……ああ、そういえばスピネルよく観てたね。性格は酷いのに」

「聞こえてるわよコラァ!」

「スピネル、子供の頃から先輩のファンなんだって」

「えっ……」

「ね、姉さんなんで言っちゃうの!?」

 

 

 ルビーの衝撃的なカミングアウトに、悲鳴のような声をあげてスピネルは背中を強めに叩いていた。涙目になって背中に隠れているスピネルにかなはそっと覗き込んで視線を合わせるとぴゃっっ、と変な声を出して狼狽えていた。

 

 

「そ、その……兄さんと演技してた映画からよく追いかけてて、実際に会ってみると恥ずかしいというか、えっと……その」

「私の何処に惹かれたの?」

「先輩それ自分で聞く?恥ずかしくないの?」

 

 

 自分の評価をエゴサしているルビーが言える台詞ではないが、スピネルは顔を逸らしながら近場のソファーのクッションを抱えてポツリと話し始めた。

 

 

「責任感もあって、キラキラしてて、歳もあまり変わらないのにあんな凄い演技が出来て自信に満ちてる在り方が、凄くて憧れて……」

「私は凄くなんか……」

「私はその、踏み出す勇気があの頃は無かったから……かなさんを見てこうなれたらいいなって……」

 

 

 ルビーは少しだけ分かる気がした。

 あの頃のスピネルは今よりももっと自分を押し殺して生きていた。何かになりたいとか何かをしたいとか、そんな誰もが持つような夢も目標もなく、ただ傷付かなければそれでいいという消極的な生き方をしていた。あの頃の有馬かなは目標を持って夢を大きく語っても実現出来そうなスター性を持っていた。だからこそ憧れる部分はあったのだろう。

 

 

「先輩、照れてる?」

「うっさい!…でもそっか、私のファンがまだ居たんだ」

 

 

 少しだけ嬉しそうにスピネルの頭を撫でた。

 体育座りをして顔を隠しているが、耳が真っ赤になって恥ずかしがっているように見えた。かなとスピネルの関係は苺プロダクションで顔合わせの関係に過ぎなかったが、こうして見ると妹が出来たようで撫でてピクピクと反応するスピネルを見て少しだけ面白がっていた。

 

 

「だったら苦手意識なんて持たずに普通に話していいわよ。ルビーと違って真面目で優しいし、もうファンだってバレてんだから恥ずかしがらないでいいのに」

「あっ、その……憧れもあるけどちょっと威圧的な部分は少しだけ苦手で」

「それ結局苦手って事じゃない!?」

「先輩のキャラを変えなきゃスピネルはこのままかもね」

 

 

 トラウマは強し。

 10年という時間を失われたスピネルにとって精神的に幼い部分は多い。現在16歳、前世を含めてもまだ子供である。前世のトラウマは中々消えるものではない。虐めの記憶は特にそうだろう。

 

 好きと苦手が両立してる。

 偶像と現実は一致しない事はある。キラキラしているアイドルの裏側がドロドロである事は多々ある。情報元(ソース)は星野アイ。有馬かなという現実を見て性格はやや苦手らしい。テレビに映るかなの演技は好きだけれど。

 

 ファンである事を嬉しく思っていたかなは頭を抱えた。スピネルが苦手を克服する日はまだちょっと先の話になりそうだ。

 

 

 

 

【未来の大女優候補のファン一号】

 

 

 黒川あかねは台風の中、疲弊した様子で歩道橋を歩いていた。『今ガチ』による炎上、ネットからの誹謗中傷に何もかも投げ捨てて死にたいと思ってしまいそうだった。

 

 歩道橋の柵に手をかけた。此処から落ちてしまえば自分が消える。世間はそれを望んでいる。自分が居なければきっと……

 

 

「そんな事したって空は飛べないよ」

 

 

 そんな中、凛とした声が聞こえた。

 幼さがありながら少し力強い言葉の重さがあるその声に手が止まり、振り返る。そこには銀髪の女子が立っていた。

 

 

「太陽が浮かばない雨の中なら飛べるって勘違いはイカロスだけだよ。蝋の翼も無い貴女はただ落ちるだけ」

 

 

 まるで映画のワンシーンを再現しているようだった。

 凛とした声とは裏腹に此方を心配してくれるような優しさを感じた。死にたいと思っているのに足が動かなくなりそうで、それを誤魔化すかのようにあかねは演じた。

 

 

「っ、じゃあさ。落ちた先に楽園があるなら?……飛んでみる価値はあるんじゃない?」

 

  

 飛んだ先に楽園があるなら死にたいと思えるのかもしれない。きっと自分は怖くてもそれを望んでいる。もう、疲れてしまったのだ。もう全部投げ捨てて楽になりたいと思っているから、止めないでほしかった。

 

 目を細めて、彼女は諭すように告げた。

 

 

「……全て捨てて本気で楽園に行きたいなら止めない。でも後悔のままの衝動で向かうなら私は止めるよ」

 

 

 本気なら止めない。

 そう告げられたのに本気になれない。死にたいと思うのにその勇気がない。中途半端な覚悟だった。ただ死にたいと思ったから死にたいのに、やっぱり怖くて死にたくないと思う自分がいる。

 

 

「残された人がどれだけ悲しい思いをするか、知ってるから」

 

 

 手を握られた。もう飛び降りる事は出来ない

 握られた手は自分よりも小さくて、でも少しだけ力強く握られた。その手が何処か望んでいたようで、心の底で止めてほしかった気持ちが溢れて涙が流れた。

 

 

「何があったの?」

 

 

 優しく彼女は尋ねてきた。

 心に溜め込んでいた感情が決壊して情けなく声を上げて泣き続けた。そんなみっともない自分を優しく抱きしめて落ち着かせるように背中を撫でてくれる。雨の中だというのに、声が透き通るように沁みては何処か安心している自分がいる。

 

 情けないのに、彼女は軽く微笑みながら受け止めてくれた。

 

 

「友達や親よりも、何も知らない人間の方が話しやすい事だってあるから。そこで会ったばかりだけど、話くらいは聞くよ」

「どう……して?」

「泣いてる人の味方をしてあげたいのは、誰だって同じでしょ?辛いなら全部吐き出していいから」

 

 

 ポンポン、と背中を優しく撫でられた。

 このまま話を聞いてもいいのだが、状況がよろしくなかった。

 

 

「……でもまあ、ちょっと移動しようか」

 

 

 今は台風で外に居続けるのは危険だった。雨が強くなる中、二人はとりあえず雨宿り出来る場所へと移動した。

 

 

 

 ★★★★★★

 

 

 

「……ありがとう。服乾かしてくれて」

「いいよ。身体は温まった?」

「うん……漫画喫茶なんて初めて来たけど、シャワーあるんだね」

 

 

 完全個室制の漫画喫茶。シャワーも付いていればドリンクバーも飲み放題。漫画を買うよりも此処で読んで覚えた方が安く浮くという貧乏性が染み付いているのかあまり無駄遣いをしない。漫画喫茶は安くて便利である為、休日によく此処に訪れる。

 

 

「えっと、私は星野スピネル。貴女は?」

「私は…黒川あかね」

「黒川?……ああ、もしかして兄さんが出てる番組の」

「えっ?もしかしてアクア君の」

「うん。妹なの。……てことは、悩みって炎上のアレ?」

「……うん」

 

 

 ポツリポツリと話し始めた。

 今の恋愛リアリティーショーである『今ガチ』で黒川あかねは目立たないまま番組に流されてそのまま裏でマネージャーが怒られているのを見て、どうにかしなくてはと思い込み過激な事をするべきなのか分からず、ただ悩みに悩んだ結果感情が爆発してしまったらしい。

 

 

「あかねちゃんが全部悪い訳じゃないよ」

「で、でも私に期待してくれる人がいるから」

「今はそれが辛いでしょ?」

 

 

 言葉を詰まらせていた。

 強いて言えば悪くないとは思う。側から見たら子供の喧嘩と変わらないのにそれに燃料を投下するからタチが悪い。黒川あかねはまだ高校生。大人ではない以上、大人が守らなきゃいけない部分はある。プロ以前の問題でそこの配慮をしていない大人が悪い。

 

 

「頑張ろうとしてたんだね。辛いけど、自分がやらなきゃって思って……悩んで頑張ろうしてて」

 

 

 でも、結果は実らなかった。

 どうしていいか分からずに子供のように感情を剥き出しにして傷付けてしまった。本人達が許してもネットはそれを許さなかった。だからこそ自分が消えたいと思ってしまった。

 

 

「あかねちゃんは……どうしたい?」

 

 

 どうしたのか、逃げてもいいと言ってもきっとその選択を選ばないだろう。責任感が強いからきっと逃げることができない。この番組をやり遂げようとするだろう。

 

 

「お母さんが言ってた話だけどね。誰かが期待してくれるからやらなきゃいけないのと、自分がやりたい事って一致しなかったりするの」

「えっ?」

「他人から決められた答えに縛られない自分がどうしても譲りたくない事ってきっとあると思うの。お母さんは欲張りだったから何でも欲しがったけど」

 

 

 スピネルの母である星野アイは愛を求めていた。スピネルは傷付けられない本物の家族の愛を求めていた。そこだけは譲りたくなかったから、きっと今がある。そんな原点があるから今がある。

 

 

「あかねちゃんが譲りたくない答えは何?」

「わ、たしは……」

 

 

 黒川あかねが譲りたくないもの。

 どうしてやりたいのか。やらなきゃいけないからやるでは長く続かない。悩んだ末にあかねは答えを出した。

 

 

「演技が好きだから…女優になりたい」

 

 

 好きだからなりたい。それが答えだった。

 その答えはきっと間違いなんかじゃない。スピネルは安心したように笑った。

 

 

「そっか…じゃあ、私があかねちゃんのファン一号ね」

「えっ…?」

「未来の大女優を助けられたって自慢出来るでしょ?」

 

 

 助けられてよかった。

 台風の中、怒られるのを覚悟して外に出たけれど、今は出て良かったと思える。スピネルが助けていなくても別の人が助けていたかもしれなくとも、助けられた命の重さが今は少しだけ嬉しく思った。

 

 

「辛いと思ったらまた頼っても構わないから、もう死んじゃいたいって考えないで」

 

 

 命の重さを感じる。

 きっとそれが奇しくも父親と似ていて真逆の道を歩いた価値観。助けた事で命の重みを感じるスピネルと失う事で命の重さを背負うカミキヒカルとは対照的だった。スピネルの純真な想いはあかねに届いた。

 

 

 

「私も、あかねちゃんが死んだら悲しいから」

 

 

 

 死んでほしくないという想いを言葉にした。

 取り残される人の気持ちがどれだけ辛いか、今は理解が出来る。十年も眠っている間、苦しんでいた人達を知っているから。

 

 その言葉を聞いて無言のまま無意識に涙が落ちるあかねにギョッとしてどうすればいいか分からず、スピネルはあたふたしていた。

 

 

「な、泣かないで……!私、何か変な事言った?」

「ううん……もう大丈夫」

 

 

 涙を掬ってあかねは笑った。

 死んでほしくない人がいるだけで心が救われた気がした。翳りを見せた暗い様子を感じさせずに、スピネルを見つめては微笑んだ。

 

 

 

「──ありがとう」

 

 

 

 その微笑みを見て、スピネルもまた笑った。

 もう大丈夫って思えるような笑顔であったから、助けられたんだと自覚して安堵しながら笑みを浮かべていた。

 

 

「そういえば今日台風なのに、スピネルちゃんはどうしてあんな所に居たの?」

「あー、夢の中でね。昔助けてくれた銀髪の小さな女の子から忠告を受けて、なんか正夢になりかねないなぁと思って、危ないけど確認してみたらこんな事に」

 

 

 

 あの時の夢の女の子に踊らされた気もするが、今は踊らされて良かったと思う。あかねが死んでいたかもしれないのを未然に防げたから。ただし、こっそりと外に出たのできっとミヤコやアイには怒られると思うが。

 

 

「後でお母さんに怒られちゃうね」

「私も、お母さんに怒られそう」

「よし、二人で潔く怒られに行こう。それなら怖くない」

「……ふふ、そうだね」

 

 

 その後、二人には雷のように説教が落ちた。

 涙が出るほど怖かったけど、終わった後に二人は顔を合わせて笑い合っていた。

 

 その後、あかねは『今ガチ』の番組出演を一時的に見送って疲弊した心身を回復する事に努めた。スピネルは罰として三日間外出禁止を厳命された。助けられたとは言え台風の中、外に出かけて心配をかけた罰らしくしょんぼりとしながら受け入れていた。

 

 その間、スピネルとよく連絡を取り合っていた。

 意外と有馬かなのファントークなどでめちゃくちゃ盛り上がっていたらしい。

 

 

 





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  • 『今ガチ』転校生、星野スピネル
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